44話 それは甘くて美味しい猛毒姉妹 その1
「リンネル、今から俺と最下層まで来い」
「えっ、あたしだけですか!?もしかして何か粗相でも……」
「違う、粗忽な行いならいつもしてるだろ。今からはリンネルの眷属を召喚するつもりだ」
「いつもはしてませんけどねっ!」
していることを認めている辺りリンネルは素直な子だな……先が思いやられるが。
あの後何故か俺も加わり庭の手入れを少しの時間だがしてしまった。
あのままヤツらを放置していると、庭園に噴水や地下水路、モニュメントに銅像やビッグツリーにフラワーアーチと要らぬものまで造ろうとしていた。
無論当初のサッカーグランドほどの芝生の面積も更に縮小した。
ブーイングも激しかったが、その唾は飲んでやるまでだ。
確かに町つくりの責任者をミ=ゴウのリーダーであるミーエくんに任命したが、今度からはクリスタルの許可なしでは行えないことにした。
これは眷属の暴走を許しかけた俺の失敗だった。
しかし俺も色々と忙しいので、クリスタルさんを信頼して任せる。
俺だと色々と言い包められそうだし、そもそも俺はクリスタルほどスペックが高くないのだ。
それは自己紹介の特技蘭に人間観察と書くくらいの駄目人間だ。
「ああっと、レヴンとメラニーは二階の飽き部屋をそれぞれ好きに選んでくれ」
「本当ですかっ!やったぁ」
「兄さん、あんな広いお部屋を私だけでは身に余ります!セカイ様、どうか兄さんと相部屋にする許可を下さいませ」
メラニーが目に涙をためて膝を折って懇願してきた。
いくら兄妹といえども男女が同じ部屋では問題もあるかと思って、それぞれの部屋を与えたがメラニーは一人だと心配らしい。
たしかに個室はVIPルームのように広く、子どもが一人だけでは不安に感じてしまうのも仕方ない。
「レヴンはどうしたい?」
「妹のお願いには断れませんよ、メラニーとの相部屋の許可をお願いします」
「そうか……分かった。兄妹でも不都合があれば遠慮なく言えよ。それと仕事には差し支えのないように」
「「ありがとうございますっ」」
これで飽き部屋の数も残り三つとなった。
とりあえず一つは客室として置いておくべきだろうか。
しかしベッドやカーテンなども未だ完全に揃えていないため、しばらくは苦労の日々が続くだろう。
「それと二人の最初の仕事はもう決まっている」
「なんです?料理、洗濯、掃除、裁縫、育児、介護、お買い物」
「何でも私たちにお任せ下さい」
育児はさすがにさせられないだろうな。
だが眷属にはダンジョンマスターと違って生殖機能もあるので、いずれそいつの育児をお願いする時が来るかもしれない。
そう思うと孫の顔も早く見てみたい気がするな……て爺さんかよ。
しかし今はーー。
「お菓子だ」
「お菓子作りですか?たしかマナーにオーブンもあったよね、材料はちゃんとあります?」
「昨日村で卵や小麦粉、砂糖、バターなど色々と買っておいた。全部使っていいからヤツが満足するまで作ってやれ」
「ヤツ?分かりました、一先ずそのお方の満足するような美味しいお菓子を僕たちで作ってみせます。できたら呼びますね」
「それで頼む」
レヴンが兄らしく俺の相手を率先してくれた。おかげでスムーズに話を終えることができた。
このお菓子作りはウリィとの約束である。
そしてついでに二人の能力テストも兼ねているので、真っ黒や生物兵器のお菓子が出来上がりませんように……。
まぁどうせ最初の一口はウリィに上げるので死ぬことはない。
「それではセカイ様、リンネル、始まりの部屋へと参りましょうか」
「あたしの眷属ですね!メアに負けないくらい凄いのをお願いしますっ」
「こら、張り合うな」
「ふぎゃんっ」
スパンと、リンネルの後頭部を軽く手で叩く。
まだリンネルとメアの間には確執があったのか。
軽く叩いたはずなのに、リンネルが涙ながらに訴える。
「ご主人さまってあたしの扱いだけ酷くないですか!?」
「はぁ?ウリィと同じ扱いだけど?」
「それは良い意味なのっ!?」
◇◆◇◆
ダンジョンマスターがDPを使って発動する能力には、魔物召喚、道具作製、ダンジョン改装に増築、能力強化がある。
その中で、一番優れた能力がやはり魔物召喚だと思う。
召喚主の意のままに、忠誠心を持った魔物が召喚できる。
やっていることは生命創造の神にも等しい。
そのためダンジョンとは、この世界から隔離された別の世界で、己は神のようだと錯覚することが時々ある。
しかしまた魔物召喚には謎も多い。
今まで検証を重ねることで、魔物の持つ知識や性格などがある程度、召喚主の願望や能力に影響されることが分かったが、これは創造ではなく召喚である。
召喚時の魔法陣や、魔物の服装や階級、召喚限界のことで疑問が生まれる。
魔法陣の色や大きさにも、ある程度魔物と関係があるとも分かったが、クリスタルの記憶を頼りに同じ魔法陣を描いて、色々と試してみても当たり前だが反応はなかった。
魔法陣に書かれた文様や文字にどのような意味があるのか、旗はただの飾りなのか気になっている。
そして今回もリンネルの眷属召喚と言ったが、魔物召喚の検証も行う。
今回のテーマは見た目。
自分の想像通りの容姿の魔物を召喚するつもりだ。
そのためには異業種や動物系ではない、人間に近い半人系が実験に最適だ。
「半植半人を二体同時で召喚するぞ」
「階級はどう致します?下級と中級のどちらにしましょうか?」
玉座にて左右にクリスタルとリンネルが控えている。
それは美女と美少女に囲まれ絵面として見栄えもいいので、つい有頂天になってしまうほどだった。
しかし今、リンネルの方はきゅっと体を固くしている。
それは自分の眷属が召喚されることで、楽しみというより緊張していると見て取れる。
(メアに負けないくらいか……)
一応であるが、これもリンネルの願いである。
メアの配下には中級上位が三体に、下級だが黒猫のくつしたもいる。
リンネルはそれを見て羨ましく思ったのだろうか。
農作業をするための労働力としては、バンシーのような下級魔物で事足りる。
しかし趣味で始めた農園も、日頃リンネルのひたむきな働きにこちらも感化された。
ついに俺は親心に近い感情が生まれ、リンネルにも中級クラスの配下を与えてもいいかなと思った。
またリンネル農園まで階層を突破されることも警戒して、多少の防衛能力を上げることも大事である。
それに先日魔物災害による臨時収入もあったのだ。
「中級にしよう。あと属性も付与してそれぞれ限界の1000DPだ」
「承知しました。良かったですねリンネル」
「ありがとうございますっ」
これでメアとは切磋琢磨をするような良きライバル関係を築いてほしいものだ。
「だからって眷属がリンネルを慕うとは限らないのだぞ。いい上司になりなよ」
「はいっ!」
今回のマカリーポンには、土と水属性の素質があった。
本来なら成長や進化を得て、または環境に適応して属性を獲得するのだが、ダンジョンマスターの力ならば素質のある魔物には最初から属性を与えることができる。
それは上級ならば二つまで基本的に可能だ。
だから一体を水属性、もう一体を土属性で召喚をする。
調度二人でリンネルのカバーをできるように願いを込めて。
無論、魔物召喚の実験も忘れない。
マカリーポンは半植半人であるが、性別が全て女の魔物らしい。
どこまで女の体を操作できるか楽しみだ。
しかし髪や目の色や身長まで絵に描いて召喚しようと思っていたが、クリスタルには注文が多いとリスクが大きくなると指摘されたので、なるべく漠然たる様にする。
確かにこれは創造ではなく召喚なので、外見を弄りすぎた結果に奇形になったら謝罪しきれない。
試すにしても段階的に行うことにした。
アルラウネのリンネルでさえ、こんなに可愛らしく召喚できたのだ。
マカリーポンも同じようにはなるだろう。
ダンジョンコアに2000DPを送る。
召喚するのは二人のマカリーポン。
一人には、水属性を付与して容姿はおっぱ……グラマーな女性をイメージする。
もう一人には、土属性を付与して容姿はスレンダーな女性をイメージする。
マカリーポン、マカリーポン、マカリーポン……。
最後に農作業の特に畜産もできるように意識をする。
『魔物召喚・半植半人っ!!』
すると青色と茶色の魔法陣が現れ、眩い光の中から二人の女性が現れる。
「ボクたち姉妹をどうかよろしくお願いします!」
「……」
「ってお姉ちゃんもご主人様に挨拶しなよ!」
「よろしくお願いし……ますぅ」
「召喚された直後に寝るとか、どれだけ自由なの!?」
「すぅー」
なんだか知らないがマカリーポン姉妹が二人(主に妹)で勝手に盛り上がって、声をかけるタイミングを逃してしまった。
ま、召喚眠りは既に幼女が達成したので、インパクトの方は小さいが。
今回は精神面より外見面を優先したため、なんとも奔放な子が召喚されてしまった。
本当にバランスをとるのは難しい。
『起きろ』
「はひぃぃぃぃ、起こしますっ起こしますっ。お姉ちゃん起きてっ!」
「起きたよ」
魔力を使って威圧を放つと、すぐに姉の方は目を覚まして立ち上がる。
それで目が覚めるなら最初から寝るなよ、妹の方が畏縮してしまっただろ。
姉は無気力で、妹は活動的と正反対な印象である。
あれ、これって双子の使用人と同じパターンか?
「俺の名前はセカイだ」
「クリスタルです。そしてそこに控えるのが」
「リンネルです!」
「まずは二人に名を与える。姉がグレイファウナ、妹がアップフローラだ。これからは縮めてファウナ、フローラと呼ぶからな」
「「(よろしく)お願いします」」
自己紹介と名付けをして、再度二人は失敗した挨拶をしたが、ファウナの方が短かかったのは言うまでもない。
このマカリーポン姉妹の姉のファウナ。
外見こそは、ダンジョン一の胸とお尻で男を十分に魅了し、ウエストも見事に細い。
しかしこのままでは駄肉になりそうなのが心配だ。
髪は紫のような黒に少し青みがかった色で、腰の辺りまである長髪だ。
茶色の瞳で少し眠そうな垂れ目に、泣きぼくろもある。
はっきり言うと、とてもとても宝の持ち腐れの美貌である。
「それで私の仕事ってなに?寝ること?」
「お姉ちゃん!これ以上ボクの胃を虐めないでっ」
次に妹のフローラ。
ファウナの豊かな肉体に比べてとても平らで南無。
一人称も僕のため男装させると男の子でも通用しそうだが、ちゃんと女の恰好をしていると十分に可愛くて、クラスで一番人気がでそうなタイプだ。
真っ赤な短髪と丸くパッチリ目が特徴的で、瞳の色以外は、姉妹なのに全然似ていない。
また二人は元が半人だからか、見た目に植物の要素が見当たらない。
「二人の仕事はリンネルのサポートとして農園の手伝いだ。だからリンネルの眷属に先ずなってもらう」
「お願いしますっ」
「了解です!どうぞっ」
「好きにすれば」
そして眷属の契りも無事完了する。
姉妹は16、17歳ほどの見た目で、リンネルの方が見るからに幼いが、すんなりと終えてよかった。
ファウナも言葉は大雑把だが、話の通じる性格なのかもしれない。
二人の衣装は南アジアの民族衣装にありそうな絹の服装だ。
しかも丈の短いアシンメトリーのブラウスが肩とへそを露出していて、フェティシズムが刺激される。
更に下は薄い生地のロングスカートなので、踊り子のようでもある。
ロングスカートはファウナが青色で、フローラが赤色とそれぞれの髪色と合致している。
しかし見た目が良いだけなら、魔物召喚をした意味はない。
大切なのは能力と忠誠心であり、働かざるもの食うべからず。
仕事はリンネルに任せるが、先ず能力の方を確認しようか。
「せっかく中級中位で召喚したのだ。ファウナとフローラの能力を見せてくれ」
「わっかりました!お姉ちゃん、名誉挽回するチャンスだよ!」
「私は大丈夫よ、落ちた名誉も全てフローラと共にあるから」
こいつはなんて駄目な姉なんだ!
妹のフローラが可哀想だぞ。
「ううう……不肖このアップフローラが先ず皆さんに、マカリーポンの特技をお見せします————『樹技』」
何だか宴会芸でもしてくれそうな言い回しだな。
フローラが深呼吸をしてから、技を見せるためか腕を広げた。
キャラも増えて混乱させますが、一先ず彼女らで最後です<(_ _)>




