43話 魔の屋敷マナーと使用人
俺はクーシャル村を出てからダンジョンに帰還してすぐに眠った。
それは徹夜してまで作った眷属の武器や、村の魔物災害で雷属性魔法の練習をしたこともあって、珍しく魔力を限界近くまで使ってしまったのだ。
そのため眷属の前では気丈に振る舞っていたが、だいぶ疲労を溜めていた。
そしてお昼頃の玉座にてようやく眠りから覚めると、今日もダンジョンの運営に勤しむ。
クーシャル村を立ち寄ったことで新たに課題とやりたいことが生まれた。
バロメッツ栽培やコカトリスの家畜、リンネルの負担を減らすための新たな魔物召喚、妖精種リャナンシー4人の名付けなどだ。
他にも人員の確保として魔物召喚や、眷属と合同でダンジョンの防衛機能の強化がある。
アカボシやバルなどの戦闘特化なタイプを除いて、他の皆にはダンジョンでの仕事も与えている。
このダンジョンはダンジョンとして、まだまだ完成の域に達していない。
もし強者に侵入されれば、ホームの優位性もなく泥沼の総力戦となるだろう。
今余裕があるのも全て、クリスタルのおかげである。
「リャナンシーの名付けをする前に、使用人の魔物を召喚しておくか。リャナンシーの役割も使用人みたいなものだしな」
旅立って十一日目にして、使用人の魔物召喚を思い立った。
それは今まで使用人を召喚するほどの苦労もなかったので思いつかなかったが、眷属も増えて俺とクリスタルだけでは、そろそろ儘ならないだろうと感じた。
村での買い付けで使用人に作ってもらいたいものもできた。
因みに今まで俺とクリスタルで眷属の料理をマナーの中にある厨房で作っていた。
といっても、植物種共は勝手に水を補給するので、バルとメアだけであった。
アカボシは肉さえ与えれば自分好みに調理してくれる。
「かしこまりました、料理や身の回りのお世話をしてくれるメイドですね?」
「べ、べつにメイドと決まったわけではないだろ!?」
「失礼しました」
まったく……クリスタルは俺が隙あらば女しか召喚しないと思っているのだろうか。
今回は屋敷の使用人として、眷属を二体同時で召喚するつもりだ。
それはクリスタルの持つ武器である、ローサとリリウムによって同時召喚が可能と分かり、またその二体には兄弟のような特別な絆を感じたのだ。
しかしクリスタルに釘を刺された気がしたので、使用人は男女を意識して召喚することにした。
このダンジョンの男女比は意外と野郎の方が多いのだ。
野郎どもの気持ちを汲んでくれるような、執事も必要だ。
「しかしどの魔物を召喚するか悩むな」
「そうですね、簡単な仕事くらいは大抵の魔物でも可能でしょうし……」
それはクリスタルの持つ人属性が影響されると分かっての発言だ。
クリスタルの影響を受けた魔物は、外見が人に似る以外にも、知能も大変優れているのだ。
そのため一般的に知られている低俗なゴブリンだろうと、立派な執事にすることもできる。
「だが食糧事情も未だに解消されていない以上、なるべくアンデッドの方が都合の良い気もするな」
「分かりました。下級のアンデッドの一覧表を作りましたのでご覧下さい」
「仕事が早くて助かる」
使用人まで中級魔物で召喚する必要はない。
それは使用人に戦闘をしてもらうつもりが全くないからだ。
それにDPの消費も抑えたい。
クリスタルの整理した召喚目録を見てみると、下級で召喚可能だけあって膨大な数がいるはずだが、クリスタルが人型の魔物に絞ってくれたので十数体を見るだけでよかった。
しかしゾンビは腐肉が怖いので却下。スケルトンは細かい作業ができなさそうなので却下。ゴーストやレイスは物理接触を苦労するだろし却下。光輝く亡霊も同じ理由で却下、それに明るい。レムルースは中途半端に肉があるので却下。マミーはバルとキャラが被るので却下。
そして残ったのが、食屍鬼と嘆きの妖精の二体になった。
そうなればもう決定だ。
「妖精のアンデッドであるバンシーを召喚しようか」
「リャナンシーと気が合いそうですね」
「そうであってほしいな」
人がゾンビやゴーストとしてアンデッドになるように、妖精だってアンデッドになる。
その内の一つがバンシーで、更にバンシーにはちゃんと肉体もあるので問題もない。
またバンシーとは女妖精の名前で、男妖精の場合はファーシーと呼ぶらしい。
個体としての能力は同じで、ただ性別が違うだけなので同時召喚が可能だ。
「それでは開始する」
属性魔法も付加してないので、DPも一体に尽き150DPと低コストにする。
玉座から立ち上がり、召喚するバンシーとファーシーを想像しながらダンジョンコアに300DPを送る。
二体来てくれ、二体来てくれ、いやこの場合は二人か。
ひた向きで家事技能の高いやつが来い!
『魔物召喚・嘆きの女妖精、嘆きの男妖精!!』
すると紫と白の二色が重なる魔法陣からは、望み通りに男女の妖精が召喚された。
「「この日よりここで働かせていただけることに感謝します!!」」
仲が良いように協調して声を上げたのは、二人とも身長が140㎝ほどの見るからに子どもの双子だった。
バンシーの少女は真っ直ぐで滑らかなショートカットの金髪に青い瞳だ。
恰好は黒いシャツと膝頭を隠すほどの黒のスカートに、使用人らしく白いエプロンドレスも纏っている。
第一印象は清楚で真面目な、ただバンシーなのか今にも泣きそうに見えるほど臆病な顔付きだ。
耳の方をよく見ると僅かにエルフのように尖っている。
それは少年も同じでさすが妖精種だ。
ファーシーの少年の方も、少女と同じな金髪だが男の子なので少女より少し髪は短い。
また瞳の色は少女と違って金色だった。
恰好は白いシャツの上に赤いベストを着て、黒いズボンと使用人というよりホテルマンだ。
おまけに少年の方だけは白い手袋と、円筒のトップに庇の短い赤帽子まで付けている。
かっこいいなおい。そのためか少年はファーシーらしからぬ自信に溢れている様子だ。
しかし召喚される眷属の服装はどういった基準で決めているのだ。
メアのマントや少年の帽子と手袋なんて最低限の衣装でもなく、別に無くてもいいだろうに。
おっと、まじまじと観察していると、少女の方が不安そうにこちらを見てくるので、早いとこ自己紹介をする。
「俺はセカイだ」
「ダンジョンのクリスタルです」
「お前達には俺とクリスタルの住む屋敷の家事と、眷属の食事を作ってほしい」
「「分かりました!!」」
二人はとても活発な様子で、働く意欲も見せてくれる。
これで少女がポンコツメイドでなければ最高のコストパフォーマンスだ。
「先ずはお前達に名を与える。少女の方がメラニー、少年の方がレヴンだ」
「「ありがとうございます」」
何度もハミングされるとさすがに鬱陶しいなと感じてしまう。
なので、早々に思っていた疑問の質問をすることにした。
「メラニーとレヴンの関係は兄妹か?どちらが上だ?」
「僕がメラニーの兄だよ!」
「私が妹ですっ」
ちゃんと二人の間で区別できているらしい。
二人とも兄だ姉だと無駄な喧嘩をしないだけ良かった。
レヴンの方は妹より先に場の空気に慣れたのか、口調が柔らかくなった。
妖精種は割と人懐こい種族なので、口調を無理に矯正すると負担になることがある。
だからわざわざ治させるつもりもない。
そもそもウリィなんて誰にでもタメ口で話し、図々しくおねだりもするので、魔物は人みたいな見栄や格式張ることが少ないのだろう。
「それでは今からダンジョンの居住区へ向かおうか。クリスタルは案内と諸々の説明を頼む」
「承りました。レヴンとメラニーは私の後に着いてきて下さい」
クリスタルを先頭に上の階層へとあがる転移門を潜る。
転移門を潜ると、転移門の光だけが残る真っ暗な部屋に到着する。
ここは地下室だ。
クリスタルは暗い地下室を慣れた手つきで、階段を上り地上に続くドアを開ける。
すると地下室はマナー屋敷の執務室に繋がる。
最下層の始まりの部屋へと向かう転移門は、マナーの地下室に隠している。
最後の転移門を隠蔽するのは当然だ。
それはクリスタルに無理を言って転移門の位置を移動してもらったのだ。
流石のクリスタルも、これほど疲れる作業は生まれて初めてです。というほど転移門の移動作業は困難を極めたらしいが、お陰で居住区における防衛能力が大分よくなった。
因みに執務室のすぐ外には、アカボシ用の犬小屋が建てられており、番犬として役に立ってくれている。
魔の屋敷マナーの大きさはおよそ400平方メートルもある。
しかしその間取りは想像力の限界もあって非常にシンプルな作りである。
そもそも400平方メートルの家を完璧に創造するなんて無理、きっと俺は生前小市民だったに違いない。
屋敷の扉を潜ると、広いエントランスと一階を東西に分断する大きなU字階段がある。
一階の東の部分には客室と執務室と地下室。
西の部分に浴室と洗面所、厨房と配膳室、大広間。
空いたスペースにトイレや物置などがひっそりとある。
二階に上がると目の前には廊下がずらっと横に広がる。
そして階段側に個室四つ、廊下を挟んで居間とバルコニーのある方に個室が二つある。
現在は俺とクリスタルでその二つの部屋を使っているので、階段側に残りの四つ空き部屋がある。
どうせなのでそこにレヴンとメラニーを住み込で働かせるつもりだ。
上級眷属たちもここで住みたいと駄々を捏ねた(とくにメア)が、これから他の上級眷属も増える可能性がある以上、こいつらだけを贔屓にするのはいけないので却下した。
「まぁざっくりとマナーはこんな感じだ」
「掃除がかなり大変そうだね、ははは、はぁ……」
「あわわわわ、兄さん私なんかにできるでしょうか?」
二人に屋敷の中をクリスタルと見て回った。
それで兄は面倒そうに、妹は不安そうな顔をしている。
まぁこの大きさの屋敷に、料理や洗濯などもすると考えると、二人では厳しいよな。
だが、ダンジョンにいる眷属の空腹が三分の一に抑えられるので、一日の料理は夕飯の一回だけでいい。
「住めば分かりますが、マナーは働き者ですから心配することもないですよ」
クリスタルもフォローをしてくれたが、マナーはモンスターハウスの魔物で、かなり役に立つ。
掃除でいえば、埃やゴミを勝手に食べて掃除をしてくれる。
本来はその機能で家に入った生物を襲うのだが、侵入者がここまで来ることは極めて低くするので、マナーの役割は便利な家ってだけである。
マナーに魔力を送れば、浴室からはお湯、厨房からは火が出る。
おかげでお風呂も料理もかなり楽だった。
「そ、そなのですか、いやー良かったあ」
「マナーさんお世話になります」
『ぶおぅ!』
安心したのかレヴンは手を頭の後ろに組んで、メラニーは床を撫でてマナーに感謝している。
こいつら本当に双子か?
見た目は似ているが、性格が真逆だな。
ま、凸凹兄妹の方が相性はいいのかもしれない。
「次は庭を見るぞ、お前らの同僚となるリャナンシーに会ってもらう」
「リャナンシーですか、楽しい歌でも歌ってほしいねえ」
「と、友達になれるかな」
この様子なら、リャナンシーともすぐに仲良くなれるだろう。
庭と言っても、まだ庭にもなっていない更地だ。
屋敷を出ると、リンネルとミ=ゴウのミーエくんとリャナンシー達で会話をしていた。
「あ、ご主人さま、おはようございます!」
「お早うというか、こんにちはだなリンネル。農園の方はどうした?」
「今は時間を見繕って、ご主人さまのお庭会議をしていました」
「”#ㇸ$#R*+‼」
実はこいつらの娯楽が俺の屋敷の魔改造だったりする。
ダンジョンの主らしく、超一流の屋敷を!のコンセプトを皆で掲げ、町造りよりも屋敷作りを躍起になっている節がある。
そのためミ=ゴウも、屋敷の家具や雑貨を優先的に作り、リンネルと大きな庭園まで構想している。
「今日からこの二人が屋敷に住込みで働く、バンシーのメラニーと、ファーシーのレヴンだ。お前達もよろしく頼む」
「「お願いします!」」
眷属同士で挨拶も済ませる。
「それでリンネル達は何を話していた?」
見ると庭の地面には、チョークで設計図が描かれている。
屋敷を囲む庭園の大きさに、俺も思わず戦慄を隠しきれていない。
こいつらは庭でサッカーでもするつもりか?
「今皆でお庭に芝生を貼ることにしましたっ!」
なんと芝生かよ、本気でサッカーできそうだな。
芝生は昔から富の象徴ともされており、手入れや費用に無駄な労力を使う。
確かに緑の床はとても気持ちが良さそうであるが、うちには庭木としてリャナンシーのサンザシの木もあるのだ。
「駄目だ、芝生の手入れなんて大変と聞くぞ。お前達は他にやることもあるだろう」
「そ、それも大丈夫です!」
「「「「わたしたちが、おせわをすることになりました!」」」」
そこでリャナンシーの妖精さん達が話に割り込む。
リャナンシーは翅で可愛らしく空を飛びながら、やる気をみなぎらせている。
「リャナンシー達はもうダンジョンの環境に馴染めたのか?」
「だいじょうだよ」「ここはあんぜん」「たのしそう」「ごはんおいしい」
「そうか、だったら良かった」
リャナンシーの顔は皆同じで、せいぜい髪の色や着ている服の色が違うだけだ。
いい加減に見分けをつけやすくするために名前も決めるか。
また芝生の件も、これで断りづらくなったので承諾する。
「だったらリンネルが責任をもって、リャナンシーに庭師の仕事を教えるのだぞ」
「お任せくださいっ!」
「そしてリャナンシー、今からお前達に名を与える」
「わぁーい!でもわたしたちの、なまえはひとつでいいです」
「ん?そうなのか」
どうもリャナンシーの妖精種はそれぞれ個体として存在しているように見えるが、皆同じ一体の魔物らしい。
それはミドリムシが細胞分裂で増殖した時の感じらしいが、名前を一つでいいとはこちらとしても有難い。
ダンジョンを世界一にするためには、必然的に眷属の数を増やして、労働力を確保しないといけない。
正直言って、一体一体に名前を考えるのは結構苦労しているのだ。
「わたしたちは、個体にして総体です。なまえわけはできません」
「分かったよ、だったら一つだけにする。リャナンシーの名前はメイだ、今は療養に専念してくれ」
「ありがとうですー」
メイのサンザシの木は今ボロボロだ。
芝生の手入れよりも先ず、自身の体調を整えてからだ。
こうして俺とクリスタルの屋敷には、魔の屋敷マナーに、使用人としてレヴンとメラニー、庭師のメイと番犬のアカボシが住むことになったのだ。
こいつらがリンネルやミ=ゴウと協力して、どんな庭園を完成させるのか密かに楽しみとしよう。
人型移動式ダンジョン"クリスタル"
DP:67,675




