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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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39話 バロメッツを求めて

 ダレンは代々受け継いできたバロメッツ農業の経営者であり、村で一二の富農でもあった。

 しかしそんな彼が今、人生で最大の窮地に立たされている。

 魔物災害が発生した。

 だがそれはダレンにとって本の一握りの危機でしかなかった。


「ヌゥ婆様、息子は……アレンはもう駄目なのか?」

「ダレン坊よすまぬ、もって体力もあと二日じゃ。治療するにも薬草がない、薬草を探そうにもあの灰色カラスが群を作ってわしらじゃ到底森に入れん。それにこの村はもう……」


 十日ほど前からバロメッツが夜の闇に紛れて盗まれる事件があった。

 それはバロメッツが植物であるため、牧舎へ連れていくこともできず、一日中野外に根付いていて盗まれやすいのだ。

 またバロメッツには光を失うと途端に大人しくなる性質があり、夜はいくら体を突いても反応をしなくなる。それはまるで眠っている内に食べてくれと言わんかのようにである。


 ここの村人は決してバロメッツを盗まない。

 バロメッツはこの村での大切な収入源であり、村が一体となって育てている、王族や領主様にも御用達の誉ある羊だ。


 しかし魔物であるならば、柵が綺麗に残っていることや足跡の形跡が一つもないことがなかった。

 そんな珍事件がどこの農家にも起きていた。

 魔物被害と特定できないために、こんな片田舎に冒険者を直線依頼することも難しい。


 そんなある日に悲劇が起きた。

 夜中に目が覚めた十二歳になるアレンが用を足しに家の外を出ると、一羽の大きな鳥がバロメッツを咥えて飛び立とうとする所を見かけてしまった。

 それにアレンが悲鳴をあげてしまい、その魔物の警戒心を逆撫ですることになった。


 アレンの悲鳴を聞きつけて訪れた見回りと父親のダレンが見たのは、灰色をしたカラスのような大きな魔物に無残に襲われるアレンの姿だった。

 すぐにアレンの救助をできたが、灰色カラスはバロメッツを咥えて、夜の闇へと飛んでいった。

 アレンを殺そうと思えば灰色カラスはすぐに殺せていた、しかしそいつはアレンで弄ぶかのように骨を折り、皮を裂いていた。

 急いでアレンの治療を開始し、一命は取り留めたもののアレンは怪我どころか、病気にも苛まれることとなる。


 村一番の薬師で相談役のヌゥ婆様の治療でも、一向に怪我と病気が回復する気配もなく、今まで薬で命を繋いでいたが、その薬も既に切らせてしまった。

 更に追い打ちを駆けるように、灰色カラスが近辺の魔物をまとめ上げ、村を襲いに行軍していると知る。

 今も懸命に生きようとしているアレンに死神が囁いている。


「奇跡は起きてくれないのか……誰か息子の命を救ってくれ……」


 ダレンは絶望に声が擦れながらも、もう神に祈るしか後がない。

 このまま息子と心中して妻の後を追うのも一つの道であると考える。

 するとダレンの声に引き寄せられたかのように、部屋の扉が開いた。


「その願い、この俺と」

「あたしがっ」

「「聞き届けたっ!!」」


 突然この家に上がり込み叫んだのは、高級そうなローブに身を包む黒髪の男と、どことなく頼りなさそうな雰囲気を持つ可愛らしい少女だった。


◇◆◇◆◇◆


 時間が遡ること数分前。


「盗み聞きですか?」

「ばっかこれは事前調査だ。こういう時のために魔法があるんだろ」


 クリスタルに注意をされながらも風属性魔法を使った詮索は止めない。

 声の音波を風で運び、家の前で待機しながら中の様子を探っている。

 これから交渉に入る以上準備は怠らない。それにこちらの方から申し出る交渉である。

 そもそも羊を買うほどの大金もなく、断られるのは百も承知なのだ。

 また盗聴も天災級の魔法技術を持ってすれば、察知される心配もない。


『息子は……アレンはもう駄目なのか?』

『ダレン坊よすまぬ、もって体力もあと二日じゃ。治療するにも薬草がない、薬草を探そうにもあの灰色カラスが群を作————』


 会話を眷属にも聞こえるようにしてあげる。


「魔物災害そっちのけの様子だな」

「息子さんがご病気で苦しんでいて、このままだとバロメッツ所ではありませんね」

「いや、これは不謹慎で申し訳ないが、俺たちとってはいい交渉材料かもしれんな」


 家の中には父親のダレン、その息子のアレン、そして村の薬師のヌゥ婆の三人しかいないらしい。

 ダレンとヌゥ婆の会話から、おおよその状況は掴めてきた。

 もしそちらの息子さんの一命を助ければ、お礼にバロメッツを少し頂けるかもしれない。

 それは双方にとって好都合ではないだろうか。

 弱みに付け込むようで悪い気はするが、こちらも野望のためである。


「バルは外で待機してくれ、それともし誰か来るようなら教えてくれよ」

「分かりました」


 交渉事に五人全員で赴くのも悪く思い、またバルの見た目では相手に警戒心を与え兼ねない。

 あくまで平和的に行うつもりだ。

 するとダレンから弱い音ではあるが、すがるような声が聞こえた。


「行くぞリンネルッ」

「はいですっ!」


 バルを見張りに残してリンネルと二人で真っ先に家の中へと乗り込む。

 家の間取りは既に旋風探知レーダーで確認済みであり、息子のアレンは二階で寝ている。

 そのためリンネルと遠慮もなしに足も止めずにダレンの下へと向かう。

 扉を勢いよく開けては、生気を失っている男を見つける。

 声だけでは判断できなかったが、ダレンの顔を見るとどうやら相当の窮地に陥っているようだ。


「その願い、この俺と」

「あたしがっ」

「「聞き届けたっ!!」」


 ダンジョンマスターの力を持ってすればこの程度の問題は簡単なものだ。

 ダレンの願いを聞く神がいないなら、この俺がなろうではないか。

 俺はもうアレンを救う気満々でいる。

 全てはそう、バロメッツのために。




「一体君たちは誰なんだ?」

「俺たちは村の人からここの話を聞いて立ち寄った冒険者だ。そして息子さんを救える可能性が俺らにはあるかもしれんぞ」

「っ!それは……本当なのか!?」


 ダレンに勢いよく肩を掴まれる。

 その様子から普段どれだけ息子のことを思っているのかが十分に伝わる。

 だが少し痛いので止めて欲しい。


「しかし俺も善人ではない、然るべき対価を要求するぞ」

「それは……何だ、言ってくれ」

「こらダレン坊や!突然来た怪しい奴の言葉を鵜呑みにするな!」

「う゛っ」


 邪魔しないでくれヌゥ婆よ、今いいところだったのに。

 先ず話をするにはダレンよりヌゥ婆の方が良さそうだな。


「すみませんお婆様、私の主人が少し取り乱してしまいまして……先ずは私たちの自己紹介をさせて頂きます」


 するとクリスタルも会話に割り込みヌゥ婆の相手をいてくれる、ナイスだクリスタル!

 美人で誠実そうな女性からの謝罪には誰だって弱い。

 というか主人って俺たち結婚している設定なのか。

 いやメアが父様と言う以上、そうしないと話がややこしくなるか、良い機転だぞ。

 そして互いの自己紹介も簡単に済ませ、話の続きを開始する。


「心配するな、俺が求めるものは息子さんの命に比べれば安いものだ。ここの農園のバロメッツを一匹でもいいので頂きたい」

「うちのバロメッツか?しかしあれは法律で譲渡が禁止されているぞ」

「んなっ!?」


 この時代がまだまだ規制の厳しい社会であることを失念していた。

 ただの羊ではない魔植物の羊だ。国が法で管理していてもおかしくはない。


「それがどうにかならんのか?こちらはバロメッツの栽培をしたいんだ」

「待て、それよりお主らがアレンを救えるという保証があるのか?」


 ヌゥ婆がすかさず話に割り込む。

 確かにアレンを救える方法も無い限り、この話は無意味だ。

 アレンの症状は骨折と外傷による重傷と、疲労の蓄積による病気の発生。

 そのため両方とも満足に回復していない。

 更に病気を抑えるための薬草もないと聞く。


「まず子どもの怪我についてだが、こちらは冒険者なんでな、とっておきの回復薬がある」


 担いでいる袋から黒い手袋を装着すると、地面に手を付けて魔法を唱える。 


暗黒界の禁門(ゲヘナ・ハーヴェ)、この上級アルラウネの蜜だ」

「それはまさか!?本物かや!」

「何だ婆さんは知っていたのか」


 二人はゲヘナの魔法を見るのは初めてだったらしく驚いていた。

 しかしヌゥ婆がアルラウネの蜜を知っていたらしく、話の理解が早くて非常に助かる。

 これを使えば完璧とまで言わないが怪我も大分回復するはずだ。

 そしてアルラウネの蜜を専門家のヌゥ婆に渡す。


「上級アルラウネの蜜はここ五十年は見なくなったんじゃが……然る所でそれを売るだけで大金貨数枚はするぞ」

「ほほう……」

「ひぃ!?」


 お前の蜜ってさぁ、大金になるんだってさ……。

 大金貨の価値は小金貨の五枚に等しく。小金貨は一枚で二十万エンスである。

 その大金貨が数枚もである。

 守銭奴の顔をしてリンネルを向くと、リンネルは怯えてクリスタルの影に隠れてしまった。

 リンネル蜜の増産計画の着想も拭いきれないが、今は交渉に集中だ。


「これがあれば子どもの怪我も回復するだろ?」

「むむぅ、それが本物ならばじゃがな……」

「そして病気の方は、必要な薬草があれば言ってくれ、今から俺たちが取りに行くから」

「この魔物災害の中でか?」

「俺たちは三ツ星だが実力は六ツ星くらいはあるぞ。だから先ずは必要な薬草を言ってくれ」


 七ツ星のレベルは実際あると思うが、流石にそれは信じてもらえないだろう。

 そのヌゥ婆との会話を黙って聞いているダレンも息子が助かる希望が見えたのか、活気が帯びてきた。

 これでアレンさえ助けれればバロメッツの交渉も上手く行き易くなる。


「必要なのは、カイドオシの根とオオバキ草、万年草じゃ。お主はさっきアルラウネの蜜を召喚したが、葉の方はもっとらんかや?」

「葉?何に使えるんだ?」

「滋養強壮に大変優れ、解熱作用もある。体力の無いアレンには持って来いじゃ。それがあるとオオバキ草だけで構わんぞ」

「そうか、リンネルあるよな?」

「……」

「あ・る・よ・な?」

「……はい」

「婆さんあるらしい。今ちょっと村長の所からとりに戻るから少し待っててくれ」

「うむ」


 すまないリンネル、これも子どもを救うためだ。

 それに子どもの体力も持つか心配だ、時間内に全ての薬草を見つけれる保証もない。


「メア、その間に子どもの方を診といてくれないか?」

「分かった」

「よし、ほらリンネルいくぞ!」

「ふぁい」


 メアには死に陥る相手の寿命を正確に読むことができる。

 そのためタイムリミットが分かるだけ、より計画的に事を運べる。


「ダレンさん、これでもし息子さんが助かればバロメッツをどうにかならないか?」

「分かった……と言いたいがもう一つ条件がある」

「何だ?」

「この村の魔物災害を解決してくれないか?村が壊滅したらどっちにしろ生活所じゃなくなる」


 確かに息子が助かっても、生活するための収入源が失えば元も子もないか。

 どんな無理難題を押し付けられるか覚悟していたが、このくらいお安い御用である。


「いいだろう、これで契約は成立だ。法も何とか掻い潜ってくれ」

「あぁ、その代わり息子と村を頼む」



 リンネルを村人の誰も見ていない閑散とした場所に連れ込み、薬になる葉を頂く。


「それで葉ってどこにあるんだ?」


 リンネルの葉を見たことがあったかもしれないが記憶に覚えがない。

 花の回りにある額を葉として呼んでいいのだろうか。

 リンネルの態度を見るにあまり乗り気ではないらしい。

 それもそうか、今から身体の一部が取られるのだ。また自分が薬の材料だと思われるのはいい気分ではないだろう。


「本当にとるのですか?」

「仕方がないだろ。子どものため、そしてバロメッツのためだ」

「そうですよねぇ……しくしく」


 あれだけ乗り気だった分、リンネルも引き下がることはできない。

 そしてリンネルは背中を向けながら、ロングスカートの丈を緩めると腰を顕わにした。

 すると仙骨の辺りにミニスカートのように何枚も葉っぱが並んで生えていた。


「なるほどそれが葉か」

「見てないでとって下さい!」

「おっと、悪い」


 葉っぱは思った以上にしっかりとくっついていて、結局魔法を使うほどだった。

 ミニスカートも一枚の葉が無くなったために、空いた箇所から可愛いお尻が露出する。


「それ、生えてくるか?」

「半年に一回は生え替えます。なのでそれまでです……」

「いっそのこと全部取る?」

「それは結構ですっ!」



 リンネルの葉をヌゥ婆に渡し、村を出る準備も完了した。

 メアが診たところアレンの体力があと四十時間と、まだ余裕もあるらしい。

 それも全てリンネルのおかげだ。


「オオバキ草は臭いがキツイため、葉を傷つけて臭いを嗅げばすぐに他の物と区別ができる」

「ありがとう、だがこっちにも薬草採取の専門家がいる。間違える心配はない」

「そうか、村長への説明はこちらがしておく」

「ああそうだったな、頼んだよ」


 ヌゥ婆とダレンに見送られ、薬草採取と魔物災害の退治に向かったのだ。


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