表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
40/214

38話 災害と羊な植物?

 旅立ってから十日目の夕方にしてクリスタルは漸くユガキル山脈までの中継地点である村に到着した。

 それはクーシャル村といい。クル湖の南に集落を為す湖村であり、人口が400人と村の規模としてはかなり大きな部類に入る。


 その理由を説明するには、先ずこの村の顔でもあるクル湖について知ってもらう必要がある。

 クル湖は北方のラジーニュ山から水源を持つドンラ川によって水が供給され、面積がおよそ60平方キロメートルと湖としても立派である。

 その湖水はラジーニュ山の岩石が削られてできた粉と植物プランクトンが水に溶け込み、とても綺麗な青緑色をしている。

 そのため湖周辺は保養地でもあり、山風が運ぶ大自然の空気とクル湖の豊潤な水を目当てに年々観光客の数を増やしているそうだ。


 クーシャル村は農村工業でもあり、特産品には毛織物がある。

 川の豊富な水量が毛織物産業を支え、また飼育される羊からは品質の良い毛織物が取れ、それを求めて商人や護衛する冒険者も集まる。

 そのため村には活気もあり、多い時では町と言っても過言がなく、収穫祭では他の村を圧倒する一大行事だそうだ。

 その収穫祭が紫月五日にあるらしく、あと数週間の日にちであるのが非常に惜しい。

 一週間なら滞在してもいいなどと思ったのだ。


 しかしそんなクーシャル村にも欠点がある。

 それは湖畔の南に村がある反面、北へ行くほど魔物の生息域が広がり大森林には多くの魔物がいるらしい。そしてクル湖にも小物だが水棲魔物がおり、漁で村人が襲われてしまうことも多々ある。


 時に魔物が縄張り争いで敗れたのか南下していき、村の住民や家畜を襲うそうだ。

 魔物によっては村の兵士では足りなく、そこで定期的に冒険者の力を借りるようだ。

 また村の女が冒険者と結婚することを奨励し、冒険者を村の兵士として生活させる、と強かな面もある。


 以上クリスタル談、そんなの俺が知っているわけない。

 というかいつの間にそんな情報を仕入れたんだよクリスタルさん。




 村の入り口にて、俺、クリスタル、バル、リンネル、メアの五人がいる。

 その恰好は武器に剣、槍、杖などを持つ者、防具に革鎧、ローブ、マントなどと見るからに五人は冒険者のパーティーである。

 しかしアカボシがクリスタルの中でお留守番中である。

 獄炎の魔大狼(ヘルハウンド)のアカボシは大きい、そして恐ろしい。

 大人二人は乗せて走れる巨体に、黒い毛並みと大きな牙と爪、誰が見ても村を襲う側の魔物である。

 森精族エルフのシィルススさんが異常だっただけで、普通の女性なら悲鳴を上げて逃げても可笑しくないほどだ。

 混乱を避けるためにも、アカボシには残ってもらうことにした。


「ほはぁ、これが人間の町ですか。知識と比べて大きいものですね」


 田舎娘のような感嘆を上げたのはリンネルだった。限界集落でも想像していたのだろうか。

 リンネルは普段のワンピースでは魔物の体を隠しきれないので、無地の衣服に上着として紺色の布を羽織り、灰色のロングスカートである。

 腰には剣をぶら下げるように小鎌ファルクスがある。

 背中のお花はくるくると折り畳みしているので、多少の盛り上がりも上着の布で何とかしている。

 背と同じ高さの立派な杖もなければ、五人の中では一番冒険者から程遠い農民の恰好だ。


「一応は村だな、それより少し雑然としていないか?」

「そのようですね、何かあったのでしょう」


 クリスタルも同調してくれる。

 村からは慌ただしい空気を帯びていた。

 それは大勢の村人が早くしろ!だとか、準備は万全か!だとか、何か慌てている様子が伺える。

 祭りの日にちはまだ余裕があるはずだ。

 すると年老いた男性が、俺の前へと歩いてきた。


「おお冒険者様じゃ!こんな時によくぞいらして下さったのう!」


 こんな時は、一体何があったのだ。

 ご老人が年甲斐もなく、大きな反応で俺達の到着に喜びを示している。


「俺たちは旅の途中でここを通っただけだ、一体この騒ぎはなんだ?」

「そうじゃったか、実はこの村に魔物災害が発生しましての……宜しければ冒険者様のお力を貸していただきたいのじゃ」

「……今晩はここで宿をとるつもりだったから、話は聞いておこう」

「ありがとうございます、詳しいお話は村長の宅までお越し下さい、今ご案内するのじゃ」




「実はここ最近、流れの魔物がこの辺りに棲み付き、あろう事か群れを成したのです————」


 老人に村長の宅へと案内され、村長直々にこの村の現状を教えてもらう。

 村長は見た目が五十代の男性であり、さすが大きな村を預かるだけの豪胆さが皺の深さと筋肉質の身体から表れている気がした。


 この場所は村人が集めって会合する所なのか、数十人はそこで食事もできる長椅子とテーブルのある部屋で、村に起きた魔物災害について説明された。

 その話は俺にとって魔物天災ではなく、魔物災害と言っているところに興味が尽きなかった。


「つまり今晩に魔物が村を襲えば、撃退すればいいのですね?」

「はい、できれば都市から冒険者の救援が来るまで皆さんにはこの村に滞在してほしいのですが……勿論その間の食事や宿はこちらが無料で提供させて頂きます」

「分かりました。一先ず今晩はこの話を受けることにしよう」

「ありがとうございます、日が沈むまではお好きに寛ぎ下さい。夕食時には他の冒険者の方とここに集まり、魔物災害についての話し合いをして頂きます」




 村長との話はかなり早くに終わった。

 部下の前で、ダンジョンマスターが村長相手に腰が低いと失望されるかもしれないので、尊大な態度を意識して疲れた。


 現在は本来予定していた通り、食料品やダンジョンに不足している日用品などの買い足しをするために村を見て回っているも、誰も相手をしてくれない。

 村人にとってはそれどころではないのだ。


 金も少ないのでそろそろ本格的に金策を講じなければならないなと考える。

 今の所持金はレオニルさんに、無理を言って買ってもらったヒュドラの頭の金額を合わせても、150,000万エンスしかない。

 それは都市住民の平均給料にも足りない。冥土の館を攻略するために散財していたのだ。


「魔物災害ですか、俺たちはどうやって闘いますか?」


 バルは来るべく魔物との戦闘について張り切っている。

 しかしバルには村を助けたいが、自分の正体を隠さないといけない葛藤に苛まれている。

 リンネルの次に異形なのが悪魔のバルだ。

 今は悪魔の翼や尻尾を殻に篭るように収容しているが、全力を出すには悪魔の体を晒す必要があるらしい。

 また夜鬼ナイトゴーントとは本来影の悪魔で顔も持たないらしい。

 肌も褐色どころか黒い斑がいっぱいある。それは影らしく触れると吸い込まれてしまうので包帯で隠している。

 影の斑が最も多い顔は、口と目と白い髪の毛を残して全て包帯で隠している。

 バルの性格上リンネルのようなドジはしないだろうが、人助けのために正体を晒しそうで心配だ。

 少し真面目に創りすぎてしまったのだ。


「絶対に人前では本気を出すなよ。今回は無難に相手をすればいいだろう。何だったら飛行種の相手は俺がするから」

「セカイ様なら安心ですね!」

「父様なら本気出さなくとも、上級程度イチコロ」


 メアちゃんそれは言い過ぎだ。

 この村を襲ったのは大型鳥種の上級魔物らしい。

 どうも渡り鳥らしく、たまたまこの土地を気に入り、家畜を空から突然掻っ攫う。

 また近辺の魔物までを眷属に引き入れ、この地方で勢力を徐々に拡大していき、あまつさえ村を壊滅させようとする迷惑千万な魔物だ。


 魔物は人と違って、眷属という魂の契約を結ぶことができる。

 眷属となった魔物は、自分が進化に必要な生命力マナを全て主に搾取される。

 そのため眷属は主の許可なしに進化もできない。

 しかし代わりに主からの保護や信頼を約束されるという。


 ダンジョンマスターなど高位の魔物であれば、加護も与えることができる。

 例えば、ダンジョン内で眷属の食事が三分の一にまで抑えられるとか、主の作った魔法道具が体に馴染みやすいだとか、眷属が死んだら主に伝わるとかがある。

 因みに眷属契約の解除は双方自由にできるが、一度切れた縁は下には戻らない。

 もし主の方から契約を切れば、その意味は勘当または死刑を意味することらしい。


 時に魔物が眷属を使って勢力を拡大していくと、その群れが次第にダンジョンへ発展するらしい。

 これが天然ダンジョンの生まれる過程である。

 だから人としても、魔物災害が起きれば早々に魔物の主を退治しないと、人が住めない土地になってしまう。

 天災級魔物の相手をできるのは冒険者でも六ツ星以上、単独で退治できるのは七ツ星だけである。

 以上クリスタル談。



 現在この街で期待される戦力は、商人の護衛の三ツ星冒険者が6人、偶々村を通りかかった四ツ星の冒険者が4人、元四ツ星冒険者の村人が2人、元二ツ星冒険者の村人が3人と俺達だけである。

 セカイ達がいなければ、それは圧倒的に戦力不足である。


 上級魔物の相手に必要な冒険者ランクが五ツ星からとされている。

 不幸にも魔物の群れの発見が遅れたらしく、救助依頼が後手に回ったらしい。

 しかしこれは名前の通り災害なので、予想するのがそもそも難しかったのだろう。

 そのため今夜にも魔物が押し寄せてくるらしいので、村人総出の決死戦だ。


「何ならサクッと寄って、サクッと退治してやろうか……」

「その方が人目も気にすることがなくて、簡単でございますね」

「だよなー。……ん?あれは何だ!?」


 村の牧場を遠い目で見たところ、白い毛をした普通の羊がいる。

 それは「ンメェー」と鳴いていたので、すぐに羊だと分かったが少し様子が変だった。

 その羊をよく見ると、木の実のように植物から生えている!

 何度見てもそれは見間違いでもなく、羊の腹の辺りから木が生え、地面にある大きな草と真っ直ぐに繋がっている。

 それはまるで羊のなる木だ。

 もしかするとこれがこの村の特産品である毛織物の正体だったのか。


「見ろリンネル!あ・れ・は・何だっ!!」

「イタっ!イタイって!ちゃんと見てますって、頭を離して下さいっ」

「お、そうか、すまない」


 つい興奮してしまって無意識にリンネルの頭を捕まえてしまった。

 リンネルのウェーブのかかった黄緑色の髪も若干乱れている。


「これはですね、バロメッツです。魔物ではなく魔植物ですね」

「さすがリンネルだ、偉いぞ!」

「えへへ~そうですか~」

「むぅ」


 リンネルを慣れた動作で褒めて頭を撫でていると、メアから嫉妬の篭った声が聞こえた。

 メアの独占欲は健在らしい。


「で、バロメッツとは具体的にどんなのだ?」

「植物ですが羊と変わりません。毛も肉もお乳も本物と同じです。ただ成長過程が植物なだけです」

「リンネルなら、育てられるか?」

「あたしなら……できます!やって見せます!」

「よしリンネルッ、あれを絶対に手に入れるぞ!」

「おーっ!」


 リンネルと二人で気合いの入ったガッツポーズを上げる。

 バロメッツとは羊であるが植物らしい。だったら是非とも手に入れたい。

 羊とは俺のいた地球でも、家畜として一二を争う人類の歴史に置いて欠かせなかった動物だ。


 羊の肉や乳はタンパク質や脂質を供給する貴重な栄養源であり、また乳からはチーズやヨーグルトが作りやすい。

 しかし何より羊が人類の発展に貢献したのは羊毛だった。

 古来より羊毛で多くの経済活動や文化を後押しし、世界中の神話や宗教にも密接な関係があり、儀式の供養にもよく使われてきた。

 中世では商人は羊毛から作られた毛織物を元手に金融業を発達させ、大都市を築いていったのも有名な話である。

 羊毛が綿にとって代わる時代までは、羊が世界の文化や産業を牽引したともいえる。


 長くなるので話を色々と割愛したが、つまるところ羊凄い羊欲しいである。

 上手くやればダンジョンの食糧事情や生活基盤、金策も解決できるかもしれない。

 こんな夢のような植物があるとは、さすが異世界ビババロメッツ。


「行くぞお前ら、さっそく農家へ交渉だ!これは魔物災害より重要なことだから心してかかれよ!」

「はいですっ!」

「はぁ、ここの村人がその発言を聞いていたら、なんというやら……」


クリスタルの毎日発生する2~3DPの移動費用はこれから省略することもあります。

そのためいつの間にかどばんと減っていたり、日にちが立っても変動してないこともありますが、悪しからず<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ