4話 ダンジョン都市
目的地のダンジョン都市"ウェンバロン"にはおよそ半日で辿り着く。
普通では信じがたい速さだが、俺たちは日が暮れたと同時に休むことなく走り続けたのだ。夜の闇が疾走する二人の姿を隠してくれたため、回りの目を気にすることなく全速力で駆け抜ける。たとえ目撃者がいたとしても、決してそれが人間とは思えず何かの魔物を彷彿させただろう。
おかげで早朝には、都市を囲む城壁を見ることができ、開門を待つだけであった。
初めて見る城壁の高さは圧巻とも呼べて、およそ30mくらいだろうか。ビッシリとそびえ立つ城壁におもわず身震いをしてしまう。他の都市も同じなのか、はたまたここだけが特別なのだろうか。これからの冒険に新たな楽しみができたことに興奮する。
これでも男子だ。城に浪漫を感じないわけがないだろう。それも遠くない未来、ダンジョンマスターとして参考にするやもしれない。だからじっくり観察させてもらおう。
「熱心なところ水を差して申し訳ありませんが、開門しましたよ?」
おっと、もう少しで城の真髄とはなんたるかを見究めることができたのに残念だ。
「そうだな。せっかく朝一で着いたのだ。早いとこ都市に入ろうぜ」
軽口で返事をして、さっそく市門へ向かう。
門の形状は立派なアーチの形をしていて、木製の門には青の竜と黄の怪鳥と赤の獅子と三匹の魔物?が三竦みのように向かい合って描かれていた。
開門してすぐ来たというのに、もう検問所に列ができており最後尾へ並ぶことになったが、代りに都市の賑わいをじっくり見ることができた。
暫くして俺たちの順番になる。
門番の衛士が鋭く見つめる視線に少しだけ畏縮してしまう。しかし俺とは対照にクリスタルは平然と佇んでいた。さすが俺のダンジョンちゃんは、そこいらの衛士を相手に臆さない。
決して俺がビビりなわけではない、と支離滅裂なことを考えていると漸く衛士の口が動く。
「身分証と通行許可書を提示してください。許可書がない場合は通行料を払うことになっています。それと、この都市へ来た目的も教えてください」
衛士の台詞は、予め盗賊から聞いていたので、焦らず台本通りに言葉を並べる。
「僕たちは身分証も通行許可書も持ってないです。代りの通行料は二人で小銀貨1枚でお願いします。身分証はこれから冒険者ギルドに登録して得るつもりでした。目的も冒険者として活動するためです」
「そうか、だったらまず検問室に入ってくれ。不審なことがないか一応の確認はさせてもらう」
そうして俺たちは検問室へ迎えられた。
身体検査を十分にとられ、身分や出身などを調査書にまとめられたあと、滞在日数に応じての支払う税の額やこの都市の法律、冒険者ギルドの在処など簡単に教えてくれた。強面だがとても親切な人だった。この世界の教育水準はどうなっているのだろう。実際にこの目でみてみたい気持ちに駆られてしまった。
ついに都市に入ることを許され市門をくぐる。まずは衛士に言われたとおり、冒険者ギルドへ向かうことにした。
世界三大陸の中で最も広大で、人間種の数が圧倒的な割合を占めるエルドシラ大陸の最西に位置するこの国には三つのダンジョン都市が存在する。
その一つがここ、第三ダンジョン都市"ウェンバロン"なのだ。
そもそもダンジョン都市とはなんのか、それを知るためにも、冒険者ギルドの建物を探す。
衛士の話によると、ここは都市の西エリアに位置し、冒険者ギルドの建物は、ダンジョンの近くに建設されている東エリアにあるそうだ。このまま大通りをまっすぐ進むだけで見当たると説明を受けら迷う心配はないのだが移動に長いこと時間がかかる。
道中に都市の景観や、市民の生活様式を観察していると、この世界のおよその文化水準を推測することができる。雰囲気は地球の西洋における中世後期ほどだろうか。しかし、この世界には魔物という人間以上の能力を持つ存在がごろごろいて、また魔法というこの世界の独自の技術が発達している。そのため全部が全部、地球と当てはまることは絶対にないだろう。
例えば、火薬の代わりに火属性魔法が存在していることや、紙とインクも普及しており、魔法による印刷のされた本も見かけることができた。また風の魔法道具を使って荷物を運んでいる人や、下水道も完備されていて、街は清潔に保っていたりとした。
あとから聞くところになるが大昔、街の深刻な汚染により疫病が蔓延し、毒を出すネズミ型の巨大な魔物や腐敗したアンデッドが街で人を襲うことがあったそうだ。それによる被害は瞬く間に広がり、大陸全土を恐怖に到ら占めることとなる。
それらの大災害に学び、衛生の概念や魔法による予防、治療の研究がこの世界では発展していると……この世界にとっての伝染病とは魔物と同義とされているとかなんとか、なかなか興味深い話である。
時々獣姿の人獣種や小人姿の人魔種など、自分とは全く違う容姿をもつ人間に目移りしてしまい、脱線することが何度かあったものの、ついに目的の三階建ての大きな建物を発見する。
見るからに冒険者と分かる鎧や武器を装備する者が、大勢その建物から出入りしていることから、あれが冒険者ギルドのウェンバロン支部に違いない。
建物の表層は簡素としていて、飾り気などが見当たらない。ただ大きな看板に『冒険者ギルド』と書いてあるだけだ。見た目よりも実利を重要視されているだろうか、冒険者の気質なのかもしれない。
クリスタルに顔を向け、二人で確認し頷きあう。そこは敵の本陣なのだ。油断は決して許されない。
「入るぞ」
「はい、遂にこの時が来ましたね」
緊張した面持ちで扉を開ける。
中に入ると、まず目を引いたのは大きな地図だった。
入ってすぐ左側の受付カウンター。
その隣の壁にはこの街を中心に周辺の森や平原、山に生息する魔物のイラストが描かれ、危険度で分かりやすく分類されていた。また地図の隣には、この都市のダンジョンの詳細を5階層まで絵と共に、出てくる魔物や注意すべきことなど事細かに書かれている掲示板があった。
イラストのおかげで、字の読めない俺でもなんとなくだが理解することができた。おそらくこれは新人冒険者を無理に死地へ送らせないためや、冒険者仲間同士の情報を共有しやすくするための、冒険者ギルドの配慮なのだろう。
「ふはぁー、初めて来たけど、冒険者ギルドはみんなそうなのかなぁ」
「そうですね、もっと警戒するところだと思っていましたが、内装も綺麗ですし驚きでいっぱいです」
思わず感嘆の声が漏れる。心なしか、隣にいるクリスタルも興奮しているようだ。
そんな素人二人の会話を傍らで聞いていた、受付カウンターのギルド職員さんから上品な笑い声が聞こえた。
「あっごめんない。あまりに新鮮な反応だったので、ついね。ようこそ、冒険者ギルド"ウェンバロン支部"へ。私は受付をしているシィルススと申します。本日はどういったご用件でいらっしゃいましたか?」
話しかけてきたのは人魔種の森精族の女性だった。金髪の長い髪を一本結びに、隙間から見える白いうなじについ目移りしてしまう。
先ほど笑われたことに嫌みを感じさせないほどの丁寧な口調に、小汚い格好の俺たちでも隔てなく接する態度は多くの冒険者の心射止めてきただろう。
「初めまして、今日は冒険者登録をするためにここに来ました」
「誰かの推薦状はございませんか?」
「ありません」
「でしたら、まずは試験を受験するための契約書に、お名前と出身地をご記入願いします。文字の読み書きができないのでしたら、代わりに私が代筆しますので、質問に口頭でお答えください」
「大丈夫です、連れが読み書きをできますので、その契約書をみせてください」
シィルススさんを疑いはしないが一応警戒をして、受け取った契約書をクリスタルに読ませる。
クリスタルの説明を聞くに、推薦状のない者は冒険者資格を得るための試験を受けることとなる。そしてその試験に合格できたものだけが見事冒険者と呼ばれるのだ。
冒険をしているから冒険者ってわけではなく、資格をもつからこそ一つの職業として社会的に認められるそうだ。
といっても、試験の危険度は低く能力や才能のない者を振るい落とす、もとい無駄に死なせないための措置らしい。
俺とクリスタルは言われた通り契約書に書き込む。まぁ全部クリスタルに書いてもらっているんだけどな。
「セカイさまとクリスタルさまですね。お二人はあのガズルの町出身の方でしたか……」
無論、嘘である。あの盗賊から教えてもらった情報で、この国で最も治安の悪い無法地帯の町を選んだ。
あまりの治安の悪さに、冒険者ギルドの支部すら存在しないとされる。しかし出身地のない俺たちにとって、あそこは戸籍の管理もろくにされていない有り難い町だ。
ま、その分検問の身体検査に多く時間がとられたが。
「はい、といっても町から逃げてきただけですけどね」
「も、申し訳ありません! お二人の態度があまりにも丁寧だったので思わず声に出してしまいましたっ」
「い、いえ、気にしてませんから、早く頭をお上げください。それよりも試験の方の説明をお願いします?」
美人が慌てて頭を下げているため、さっきから周りの視線が痛い。
中にはいかついおっさんどもが、こっちを睨んでいるし。
「はい、試験は明日にも開始できます。専属の係員と共にダンジョンの下層へ二日間ほど潜っていただき、下級の魔物を討伐してもらいます。試験で得た報酬の全てはギルド持ちになりますので、くれぐれもお間違えの無いようにお願い致します。それと……」
シィルススさんは契約書の内容を俺たちがしっかり理解しているのか確認しているようだ。試験で討伐した魔物の報酬を登録費や係員の雇用代に回すらしい。試験は先輩冒険者からのレクチャーつきであるため、むしろ安いほうだとも思える。それに合格できなくても一回目は違約金ゼロらしい……ほんとかよ。
冒険者ギルドは弱肉強食の世界だと思っていたけれど、弱者にとても優しい。それゆえに、冒険者は社会的に認められているのだろうなとホワイトな環境に感心する。
「明日にでも試験をお願いします」
「承りました。それでは明日、朝の9時までに受付にお越しください。準備の方は自己責任ですので、ご注意くださいね。お二人の冒険者生活が輝けるものとなることを、フォルストの神に誓って心よりお祈りいたします」
最後に礼を言って退出する。フォルストの神ってなんだろう? エルフの民俗宗教かな。
その後明日に備えて準備をする。
まずはクリスタルのために服を買い。ダンジョンに潜ってもおかしくないよう装備や食料、日用品を整える。
余った時間は、冒険者ギルドの裏側にある安い宿に荷物をおろし、二人は露店で食べ歩きしながら、観光を大いに楽しんだ。
人型移動式ダンジョン"クリスタル"
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