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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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37話 出立式

「今からセカイ様が皆さんに武器をお与えになります。それはセカイ様が一人一人を想いお作りになった特殊魔法道具ギフトアイテムです。決して無駄にはしないように」

『はいっ!』


 始まりの部屋にて、俺は仰々しく玉座に座り、ダンジョンのクリスタルはその側で控え、上級四体の眷属は玉座の下へ並んで膝をついている。


 これは全てクリスタルの指示であるらしい。全くクリスタルは演出に余念のない。

 アットホームなダンジョン計画もいつの間にか失敗してしまったようだ。

 だけどダンジョンの主として、眷属に威勢を示すのも一つの仕事である。

 またこれはこの空間だけの儀式めいたもので、重く考えることもないらしい。

 しかしどうもまともなリンネルを見ていると違和感を覚えてしまう。


 アカボシには既に魔法道具を渡していたので、与えるものもないけどついでに今後のことについて話すつもりなので集まってもらった。


 上級四体は、俺がダンジョンの外に出ても大丈夫と認めた眷属、通称クリスタル遠征メンバーである。

 そのためそれぞれに高いDPを支払い、魔法道具を作ってあげた。

 各々に最適な魔法道具なら、いくらDPを消費しても構わないと考えている。

 それはこの世界にはおよそ60の大小様々なダンジョンがあるので、大切なのはDPを貯め込む事より、確実に敵ダンジョンを攻略できる戦力を揃えることだ。


 しかし残念なことに、人間と違い魔物には魔法道具を凡そ一つか二つしか所持できない。

 それは魔物の性質が魔法を身体として扱い、人のように道具として見なさないかららしい。

 そのため魔物にとって魔法道具を所持することは、体に制御の聞かない手足がもう一本生えたと思えばいい。


 いくら魔法適性の高い魔物でも扱うことができるのはせいぜい一つまでで、天災級の俺ですら今のところは二つまでが限界であり、三つ以上を装着して体に魔力を流すと魔法制御が上手くいかなくなる。


 そのため人が魔物を相手に善戦できる理由でもある。

 しかし魔物も魔法道具を使えば、自身が持っていない属性魔法を才能如何で発動することができる。


 魔法道具を使い、己の属性魔法の手助けに使うか、外部の属性を取り込むことで複合魔法に進化させるかが選びどころである。

 因みにアカボシに与えた仁義八行の首輪は、アカボシの持つ火、闇属性とセカイの持つ風属性の三つが備わる魔法道具であるため、両方の性質を持つ贅沢な魔法道具である。

 そのためシンプルな構造であるのに通常以上に高くDPを支払い、またそれが可能だったのはクリスタルの能力とアカボシが二属性持ちで俺との相性も良かったためである。



「先ずはバルに武器を与えるから前に来い」

「ハッ!!」


 呼ばれたバルは一礼して階段をあがり、俺と向い会う。

 真剣な眼差しではあるが、何を貰えるか楽しみなのか口角が上がるのを抑えきれていない。

 安心しろバル、お前には一番DPを使ったから。


「バルにはこれとこれとこれとこいつだ!」


 すると二人のちょうど間の床から穴が出現し、そこから剣の束、槍、大斧、呪剣を取り出す。

 そしてもう眷属に固い態度をするのも窮屈に感じたので、結局好きにすることにした。


「お、俺にこんなにも……多くないですか?一つだけだと思っていたので驚きました」

「あぁうん、何となく増やした。好きな武器を状況に応じて使うがいい」

「有り難き幸せです!」


 魔力を通すだけの剣が五本で250DP

 追加ダメージを与える闇の槍で800DP

 一撃力に最も秀でた風の大斧で800DP

 目玉に呪剣である太刀を与えた。


 複数を同時に魔法道具として装備はできないが、場合に置いて持ち替えることはできる。

 なんといってもバルは格闘術に始まり、剣術、槍術、槌術、投擲術などの得物を扱う技術も一流だったからだ。

 だったら武器を数種類渡して、個人の好きに使えばいい。

 バルの実力と性格なら器用貧乏になる心配もない。本当は鎖鎌や鞭、弓矢や悪魔っぽい鎌や剣も数種類を作ろうと思ったが、一人の眷属に与えすぎるのも贔屓目を感じたので自重した。


 バルは上級下位の悪魔であり、闇属性魔法もできる。

 即ち非生物を闇の中へと収納する暗黒界の禁門(ゲヘナ・ハーヴェ)の魔法を習得したのだ。

 その容量はホラントと作った魔法道具よりも数倍はあるため優秀だ。

 因みにメアも習得していて、更にその数倍の容量が収納可能だった。

 今はホラントに負けるも、メアならいずれ追いつく日もあるかもしれないと感じた。


「バルならばこの呪剣を扱いきれると俺とクリスタルは信じている」

「ご期待に応えますよう日々努力します」


 一応俺は呪剣との会話をしたことがある。

 それは魔物でもないのに意思を持つ魔法道具を作った、ホラントの道具作成の才能が一流だったと感じさせられた。

 その呪剣に名前を聞いてみても、気に入った人間にしか教えないと返されたのだ。

 呪剣が何を考え、そう返事したのか判断できない。

 しかし悪魔で誠実で武器の好きなバルになら呪剣を託せると、その時思ったのだ。


 呪剣は元々巨体のキメラスケルトンが使っていた武器。

 そのため太刀というより大剣に近いも、バルの膂力と技術なら問題もないだろう。

 そしてバルは武器をゲヘナに収納して眷属の列に並ぶ。



「次はリンネルだ」

「はいです!」

「これは戦闘にも農作業にも使える武器だ」

「あ、ありがとうございますっ」


 リンネルに彼女程の背丈の杖と小鎌ファルクスを手渡す。

 リンネルが杖と小鎌をそれぞれの手で持ったので、その両手が塞がった瞬間を見計らってーー。


「あと、これもだ!」

「ふぎゃんっ!?」


 リンネルの口からはアホみたいな声が漏れる。

 それは俺がリンネルの頭へ、遅れて穴から取り出した麦わら帽子を勢いよく被せたからだ。


 この麦わら帽子は魔法道具でもないただの帽子である。

 それはこの前に蜜の回収を無理矢理したお詫びの意味も込めている。

 お詫びなのに作業道具だけでは味気なく感じたのだ。

 実はワンピース姿に麦わら帽子で農作業に興じる可愛らしい少女を、異世界でも見てみたという邪な願いも少しあったりする。


「うんうん似合っているぞ」

「もうちょっと、ご主人さまは、優しくできないのですかあ!」


 リンネルの声には怒気を帯びているも、麦わら帽子をとっても大事そうに両手を使って胸で抱いている。

 腰から生える二本の蔓で杖と小鎌を持っているのだ。

 その触手便利だな、同じ触手使い(俺のローブから触手が生えます)としてはリンネルの方が扱いが上手いと見てとれた。


 実はDPが合計1503DPと性能の割に消費してしまった。

 土と水の魔法能力を高める杖で1000DP

 サブウェポンや農作業にも使える風の小鎌で500DP

 麦わら帽子で3DPである。


 杖の属性は土と水なために、生憎と俺達にとって不得意であった。

 そのため1000DPを支払っても、ただ使用者が土か水の魔法を扱うのをサポートしてくれるだけである。

 特殊魔法道具ではあるが、性能的には人間が魔物の素材から作る武器の複合魔法道具アルケミーアイテムに近い。

 そして小鎌は三日月の刃をして風魔法も備わっているので切れ味が抜群である。

 リンネルは魔法職であるため接近戦はしないが、もしものためにも刃物は持った方がいいと思い作ったのだ。


「言わせんな、照れだよ」

「えっ!!」

「これでチャラだから蜜もとるぞ」

「うぎゃー」


 リンネルは捕まるのを恐れたのか逃げるようにして眷属の列へと並んでいった。

 しかしそんなはつらつとしたリンネルを俺は愛おしく思っているのだ。



「最後はメアだ」

「やっと、出番きた」

「メアには防具もある」


 俺が渡したのは腕輪ブレスレットと本。

 メアの小さな左腕に留め具のないCの形をした革製の腕輪を装備してあげる。

 本当は古代エジプトの黄金の蛇を象った立派な腕輪を構想していたのだが、クリスタルに「子どもにそんな豪華なものを与えると将来が思いやられます」と注意されたので素朴な花模様の腕輪になった。


「メアは俺と同じで二つも魔法道具を装備できるよな?」

「父様と同じで、できる」


 メアは実際に渡された二つの魔法道具に魔力を放出して、大丈夫な様子を見せる。

 さすがダンジョンクリエイターである、素質も眷属一だ。


「この腕輪をつけると俺の不可視の鎧(エアプロテクション)が危険な時に少しだけだが守ってくれる」

「ん、父様に優しく抱かれているの、感じる」

「おおう、危ないと思ったら自動で発動するから魔力切れには注意しなよ」


 メアは人の身体能力と変わらない。

 そのためダンジョンの中では最も低い防御能力である。

 また子どもなので防具を背負うほどの体力もないため、500DPを使いエアプロテクションの能力を付与した風の腕輪にしたのだ。

 もう一つの本が、冥途の館にてホラントから頂いた魔本だ。

 その本を俺が読もうとしたら本が暴れ出して読めなかったが、ホラントは読める人間には危険がないと教えてくれた。


「そいつは死者の目録(ゴーストエディション)といって、俺には初めの目録部分しか読めなかったがメアになら使えるはずだ」

「私になら、読める」


 さっそくメアは魔本のページをパラパラとめくり読んでいる。

 しかし俺には中身がただの白紙にしか見えない。

 因みにメアはクリスタルの影響なのかエルドシラ大陸人間種の文字は読めるそうだ。

 本当にメアは優秀な子である。


「もしも魔本が危険と判断したら遠慮なく言うんだぞ。すぐに別のを用意する」

「ありがとう父様、大好き」


 メアにとって少し大きな本を抱え、左手に装着した腕輪を右手でさすりながらお礼を言った。

 最後の台詞は絶対にクリスタルからの入れ知恵だな。

 メアは小さな足取りで眷属の列へと戻っていった。


◇◆◇◆◇◆


 これで漸く全員に魔法道具を配り終えることができた。

 これからは予定した通りに四人にも外へ出て闘ってもらう。

 その予行演習としても、今日の夕方にクリスタルが村に到着したら眷属にはダンジョンの外へ出向いてもらう。

 クリスタルが人型のダンジョンであるため、自らが敵のダンジョンへ赴いて攻略していける。

 これは自分達にしかできない大きな利点だ。


「お前達には前々から言って来たように、俺を神へとするために役立ってもらう」

「グオン!」


 ダンジョンマスターとして転生した、そしてダンジョンを世界一にしたいという欲望が生まれた。

 しかし段々と自分が魔神に支配されそうな感覚に襲われることがあった。

 俺は自由に生きたい、もっと世界を旅したい、誰も俺の心を汚すな。

 だったら俺が魔神になるまでだ。


「そのためには共に外へと赴き、ダンジョンを攻略してもらう」

「お任せください」


 また魔神が何を思いクリスタルを与えたのか、魔神の考えを知りたくなった。

 だから魔神やこの世界の歴史や宗教について同時に調べていきたいと思っている。

 しかしそのためにも、まず力がいる。

 俺達を阻む敵は排除しなければならない。


「その道中で、仲間が死に絶望に陥るかもしれない」

「あたし達が死んでもお二人をお守りします」


 力を手早く得るためにはダンジョンを攻略していき、DPを奪うのがいい。

 ダンジョンは世界に60もあるそうなので、俺が魔神になるまでに全て無くなることもなかろう。

 またダンジョンとは、世界を管理する機能と言っていた。

 いったい魔神はダンジョンで世界の何を管理しているのだ。気になる謎はいっぱいある。


「これは修羅の道だ。数十年、数百年、それ以上もかかるかもしれない」

「大丈夫、その分強くなる」


 地球とは違う、この世界の秘密。

 ダンジョンマスターと眷属の力があれば、いつか解けると信じている。

 その時俺は何を知って、どう判断するだろうか。

 神がいて、魔法もあって、いろんな人間や魔物もいる。

 俺はそんな摩訶不思議な世界のことを好きになっていた。

 地球ではない、この世界の住人としてずっと生きていきたい。


「だけどどうか、この俺を頂上まで導いてくれ」

「私たちは貴方の眷属かぞくです、遠慮する必要などありませんよ」

「そう、だな……だったらお前ら俺に力を貸しやがれ!!!」

『はいっ!』





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:64,712DP

 支出:眷属魔法道具製作費3853DP

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