表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
37/214

35話 死の姫

「父様を支えられるのは、母様と私だけ」


 言い終えてから向き合うと、メアの表情は幼子の容姿からは考えられないほど、蠱惑的な雰囲気をまとっていた。

 それは自分の放った言葉が正しいと自信に溢れている顔だ。

 ……不味い。

 メアの中ではもう、自分が眷属の中で一番だと位置付け他を見下している。


「メア、クリスタルも合わせて三人きりで話の続きをしようか」

「うん!」


 メアの両肩に手を置き、ささめくように優しい口調で提案してみる。

 するとメアは迷うことなく同意してくれた。

 まるで親戚の集まりから漸く両親と抜けでるかのように、三人だけの時間が訪れることをとても嬉しそうに似合わない大きな声を上げた。


 メアにとって、このダンジョンの中で大切なのは俺とクリスタルの二人だけらしい。

 眷属にもそれぞれ考え方や誇りを持っている。

 そのため意見が合わなくても仲良くしてくれと言う気はない。

 強制される関係など、生死のかかった状況では無意味だからだ。


 しかし、このメアの「母様と私だけ(・・)」という考えだけは、ダンジョンの主としてはっきりと否定しなければならなかった。

 それは異世界の知識有無の関係なしにだ。


「上級眷属たち、わざわざ招集してご苦労だった。悪いがここでお開きとさせてくれ」

「グォン」

「ハッ!何かあればまたすぐにでも集めてくださいっ」

「はったっけ~~、はったっけ~~」


 上級三体は各々の持ち場へと戻る。

 アカボシとバルは一階層の墓場で修業、リンネルは農地の開墾と野菜の経過観察。

 メアのクリエイター能力を試すため、またちゃんとした修練場を与えるためにも、早く新たな階層を用意する必要もあるな。

 またリンネルに修業をさぼる口実を与えないためにも、新たな植物種の魔物召喚をする必要も出た。

 半植半人のマカリーポンなどが適任だろうか……。


 だがその前に、メアにはちゃんと話をしてあげないといけない。

 如何せん説教などはするのも、されるのも嫌いだが、上に立つ身としてそんな甘えたことを言っていられない。

 当たり前だが眷属にも長所と短所がある。

 無暗に魔物召喚するのは、これを機に控えようかなと頭の隅で考えてしまった。



◇◆◇◆◇◆


「それでメアは何故地球のことを知っている?」

「私も驚きました、メアの知識は私以上かもしれません」


 クリスタルがメアを後ろから抱き、よしよしと頭を撫でている。

 それにはメアの精巧の取れた人形顔も、破顔してしまい幸せそうに堪能している。

 メアにとっては親の愛情ほどに、嬉しいご褒美はないのだろう。


 現在は新たに作った階層にいる。

 この際だから墓場と農園の間に階層を作り、そこで話をすることにした。

 階層増築に必要なDPも五階層までが500DPで、六階層からは1000DPとなるらしい。

 いきなり倍になるとは気が滅入ってしまう。

 1000DPもあれば優秀な中級クラスの魔物が創れるのだ。


「私召喚されるまで、ずっと父様の夢見てた」

「俺の夢?」

「ん、生命の源が集う温もりの中、父様がこれまでやってきた事を見ていた」


 話を要約すると、メアは召喚された直後に眠っていた。

 その時に見ていた夢が、俺の記憶であるらしい。

 記憶を覗いていたならば、問題制作者である俺の問題に答えられても不思議ではないし、結構地球の知識がメアに継承されているようだ。


 プライベートを丸裸にされた気分で恥ずかしい。

 クリスタルの裸に見惚れたことや、シィルススさんの白いうなじに目移りしたことや、ロロルの可愛らしい猫耳に感動してしまったなどなど、主として痴態を晒してないか心配になった。


 この前の魔物召喚で眷属の知識が主に依存することに結論が出た。

 では眷属の人格は?

 つまるところ、メアは俺の記憶を覗き見て、あたかも夢で追体験をしてきたらしい。

 メアの人格はセカイの影響によるもの、親の駄目な所は子どもに似ると言われた気がして反論できなかった。

 メアが人一倍に承認欲求も独占欲も強いのもそのためだろう。


 ある意味でメアは『セカイ2号』だ。

 それはダンジョンクリエイターという種族がダンジョンマスターの下位互換だからこそ起きてしまった現象なのだろうか。

 疑問は未だにいっぱいあるけど、メアの知識に関しては一応の結論はでた。


「メアはもしかするとセカイ様の失った記憶を覚えておられますか?」

「ごめんなさい、私が知っているのは、父様が転生してから……」

「そうかぁ」


 メアの答えに微かにも期待していた分落胆してしまった。

 またその顔を見たせいでメアもしゅんとしている。

 さすがにそれではメアが可哀想だと思い、すぐに顔を切り替える。

 それは遂に来たお説教の時間だ。


「メアは俺を支えられるのはクリスタルとメアだけだと言ったな?」

「言った、父様が影で哀しんでいる事も、私と母様だけが知っている。他の眷属には絶対負けない」

「そんなことをメアは言ったのですね……私は悲しいです」

「えっ?」


 俺の代わりにクリスタルがメアを母親として説教しようとする。

 メアはメアで、突然クリスタルが怒った形相になったのを予想にもしていなっかたのか、顔が真っ青になって唇を震わせている。

 親に失望されるのを最も恐れているのだろう、そのため今も懸命に自分がどこで失敗したのか、ぼそぼそと呟き頭を巡らせている。

 その原因が今のメアには分からない。


「眷属は皆、それぞれのやり方で俺を支えてくれている。皆何もしていないわけではない」

「で、でも……私は、父様の秘密知っている、だから——」

「別にこの程度の秘密くらい他の眷属にも教えても構わないぞ」

「……っ」


 恐らく察しのいい眷属には、地球のことまでは分からなくとも、日々俺が何かで苦悩していることは知られている。

 メアにとって最も主を理解していることが優越感に浸らせていた。

 またメアは夢の中で眷属に、自分より先に生まれたことを無意識に嫉妬していたのだろう。


「メアには私だけではない。皆と協力してセカイ様を支えてほしいです。でないと、私はメアのこと嫌いになるかもしれないよ」

「いや!」

「だったら賢いメアにはどうすればいいのか分かるでしょう?」

「ご、ごめん……さいです……うわああああああん!」


 メアは大声を上げて泣いてしまった。

 それには俺とクリスタルも戸惑ってしまう。

 やり過ぎたのか、言い方が間違えていたのか、これが正しい説教なのか、間違っている説教なのか、子育て経験の無い二人には、娘の急変には為す術もなかった。

 しかし俺はこれで眷属を二人も泣かせたことになる。

 案外リンネルとメアは仲のいい姉妹になるかもしれない。



◇◆◇◆◇◆


 メアの気も落ち着いた所で、メアのダンジョンクリエイターの力を検証してみる。

 何事も切り替えは大事だ。

 赤く充血したメアの目も気にしない。


「メアのダンジョンクリエイターの力を見せてくれないか?」

「ん、私の種族特性による能力は、父様ほどじゃないけど、ダンジョンを創れる」


 そしてメアは手を地面に当て魔法を発動した。


迷宮の不壊壁(ダンジョン・ウォール)


 するとメアの前方に厚さ50cm、高さ3mの長方形の壁が地面から出現した。

 メアの言い方からして、この壁は恐らくダンジョンの壁と同じ性質だろう。

 階層の一番端へ行くと固い壁によって遮られている。

 その壁はどんなに力を加えても壊すことはできない。

 それをメアは今、地面から召喚したのだ。


「この能力はダンジョン内に、迷宮を作るためにある。他に穴を掘ったりも、できる」

「なるほど、ダンジョンを改変できるのだな。DPを使わずにできるのは大きいな」

「私の魔力で、自由にできる」

「それは偉いぞメア!」

「っ!?ああ、あ、ぁ……」


 とりあえずメアを褒めておく。やはりさっきのメアの涙には堪えてしまったのだ。

 ついでにメアの体を持ち上げて抱っこしてあげる。これでさっきまで残るわだかまりも解消するつもりだ。

 メアも抱っこには恥ずかしい反面、自分に対する愛情表現が嬉しかったようだ。

 次第に身体が固まって動かなくなってしまった。

 気を失っている……やりすぎはよくないな。



「他に能力はないのか?」

「父様と同じで、魔物召喚、道具作成できる」


 意識を取り戻したメアに会話の続きをする。

 メアは今、自身で作った迷宮壁に背中を預けている。

 抱き着いただけで卒倒してしまったので、メアには不用意に近づかないようにする。

 魔物召喚や道具作成もできるとはダンジョンクリエイターは恐ろしく便利ではないか。


「でも私、ダンジョンコアがないから、500DPまでしか保有できない」


 メアが少し言い辛そうに説明した。

 限界が500DPとは数万DPを持つセカイからして極少だ。

 500DPで召喚できる魔物も下級かせいぜい中級くらい。魔法道具に到っては特殊魔法道具ギフトアイテムと謳われるほどの性能は有せない。

 つまりは小物しか作れないということだ。それには子どもらしくつい可愛らしいと思ってしまった。


「500DPを保有というのも、俺がメアに贈るのか?」

「うん、眷属の吸収した生命力マナは、全て主に持ってかれるから」


 そこはダンジョンクリエイターといえども他の眷属と変わらないらしい。

 眷属契約とはそれほど魔物の間でも重要なものなのだ。


「なるほどな、一先ずメアにはこの階層を迷宮にしてくれ」

「分かった」


 ダンジョンを迷宮にすれば、侵入者の脚も強制的に止まることになる。

 また迷宮の壁と壁の間隔は狭いとされるので、集団戦闘に向かないらしい。

 さらにメアにはこの階層で侵入者を襲うトラップも作ってもらうつもりだ。

 恐らくそのための道具作成と500DP保有の能力だろうと考えている。


「ついでにクリスタルは、この階層の天井も下げて、明かりも侵入者が来たら消してくれ」

「暗闇にするのですね」

「そうだ、侵入者の大半はここで足止めできるようにしたい」

「畏まりました」


 メアの作れる壁の高さと、ダンジョンの天井を合わせるために、クリスタルとメアが協議する。

 メアにもダンジョンを作る本能があるのか、クリスタルの話を真剣に、そして楽しそうに聞いている。

 それとメアにはもう一つの階層を任せたいと思っている。


「あとクリスタルは奴らを呼んでくれ」

「そうなると思い、既に呼んでおりました。入ってください」


 クリスタルに促されアンデッド三人組が現れる。

 メアが死属性の魔法を持っているため、アンデッドとの相性も抜群だと考えられる。

 するとメアの前にアカリヤ達が膝をついた。それは何とウリィまでもだ。


「クリスタル様から既にメアメント様のことは存じ上げております。わたくしは湖沼に誘う鬼火(ウィルオウィプス)のアカリヤと申します。そしてこちらはキメラスケルトンのティラノと提灯を持つ南瓜(ジャックランタン)のウリィと申します。麗しの死姫メアメント様に、わたくしたちは不滅の忠誠を誓います」

「ち、か、う」

「誓うよ~」

「ん、よろしく」


 メアは澄ました顔でアンデッドを受け入れる。セカイもまさか一発でこのようになるとは思ってもいなかった。

 死属性とはそれほどアンデッドにとって貴重なのだろうか。

 そうしてアンデッド三人組はメアの眷属へとなった。

 眷属の下に眷属はつくことが可能であり、またそうした方が主の負担も減るので大助かりだった。


「これからメアとアカリヤ達は協力して1、2階層をアンデッドの軍勢にしてくれ。リーダーをメア、副リーダーにアカリヤだ。二人ならできると期待している」

「頑張る」

「恐れ入ります」


 ダンジョンの中でクリスタルと同様のまともな部類のアカリヤなら、メアのサポートも安心して任せられる。

 またメアの肉体能力は人間と変わらなく、ダンジョンの中では最も低いために今後ともアンデッド三人組の護衛が必要になるだろう。


「それとメアには祝いとして300DPをやろう。といってもメアの魔物召喚の確認をしたいから、それで何か召喚してくれ。余ったのは好きに使っても構わないから」

「いいの?」

「いいぞ、お前の相棒になる。大切するんだ」


 300DPなら例え全てに振り込んでも下級魔物しか召喚されない。

 そのためこの程度のお小遣いなら問題になることもない。

 またメアにはマスターとなる素質もあるため、早い所自身の眷属にも触れ合ってほしいと思ったのだ。

 それがきっと、メアの成長にも繋がる。


 クリスタルはメアにも召喚可能な魔物目録を見せる。

 メアはしばらく目録をじっと見つめて真剣に何を召喚するか悩んでいる。

 その姿を傍らで優しく見つめているクリスタルが、本当に母親のように見えた。


「ん、決めた」


 いよいよメアが魔物も決まり召喚する動作に入った。

 メアの能力では魔物召喚を始まりの部屋で行う必要はないらしい。

 メアが魔物召喚をする場合は、メアの主である俺の許可さえあればできる。

 メアは両手を前に出し、目を閉じて、召喚する魔物をイメージした。



魔物召喚インスドア黒猫の亡霊(シャ・ノワール)!!』



 俺がするよりもいくらも小さい魔法陣から一匹の黒猫が現れた。

 その黒猫の姿は尻尾が二又になっている以外は普通の猫と同じである。


「ミャオ、ミャオ」


 召喚されたシャ・ノワールに攻撃能力は一切ないも、影を渡り、闇に紛れるなど索敵に秀でる魔物だ。

 早速その黒猫はメアの指を舐めて忠誠を示した。


「魔物召喚も無事に出来たな。200DPも貯金したとはいい子だぞ」

「ん、これで罠も作ったりできる」

「そうだな、期待しているぞ。それでこの猫の名前はなんだ?」


 メアは指を顎に当てて黒猫を観察する。


「くつした」

「ぅん?」

「この子の名前は、くつした」

「ミャーオ」


 メアのセンスの無さは俺以上かもしれない。

 しかし件の黒猫がその名を喜んでいるので、悪くはないらしい。

 それならもう、くつしたがメアの友達になってくれることを願うまでだ。





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:72,569

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ