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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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34話 欲求

 メアメント……メアには特質すべき点がいくつもある。

 それは種族であるダンジョンクリエイター、属性が既に闇属性の上位属性である『死』、階級が上級下位ではなく中位と異例ばかりだ。


 見た目こそ人間と変わらぬ十歳ばかりの幼女であるも、その体に秘めた素質は恐らく眷属一だろう。

 ダンジョンクリエイターとは何なのか。何故そのような魔物が召喚できたのだろうか。

 聞きたいことはいくらでもあるが、これで上級召喚もひとまずの打ち切りなので恒例の能力テストを開始しようと思っている。


「とりあえずメアには色々と聞きたいことがある」

「うん、分かった」

「クリスタルの方はその準備をしてくれ」

「承知しました」


 俺はクリスタルに命令をする。

 だがメアはクリスタルの方を凝視すると、何か頷いてからクリスタルの方へと歩きだす。

 一体メアはクリスタルに何か想うことがあるのだろうか。

 色々と準備に取り掛かっているクリスタルの前へとメアは向き合う。

 左右に色の違う黄色と赤色の瞳が、じぃーっとクリスタルの瞳を見つめている。

 それにはクリスタルも不審を感じて、作業する手を止めてメアに話しかける。


「……メアは私に何かご用ですか?」

母様かあさま!」

「は、はい?」


 メアはクリスタルの体へと抱き着く。

 父親の次は母親かよ……まったくメアの思考回路には着いていけない。

 さすがのクリスタルも抱き着くメアにどうすればいいのか困惑としている。

 しかしクリスタルの様子とは裏腹に、メアの顔は非常に満足とした顔を示している。

 それにはつい本当に、二人は母娘なのかと思ってしまった。


「あ、あのですね。メアは子どもがどうやって——」

「クリスタル!ちょっとこっちに来い。他の奴らはメアの相手をしていてくれ」

「は、はい。只今参ります。ごめんなさいメア、ちょっと手を離してくれますか?」

「う、うん」


 メアに開放されたクリスタルは俺の側に寄る。

 眷属たちがメアの相手をしている隙に、クリスタルと話しをしないといけないことがある。


「メアのことをどう思う?」

「能力を確認しました所、非常に優秀だと思います」

「違う、性格の方だ」

「……召喚された魔物であるのに、私たちの事を親として見ているのは不思議に思いました」


 今まで召喚した魔物の全ては、自分をダンジョンマスターの子どもだと認識していなかった。

 それは種族や見た目も、能力も決定的に違い、そして親への愛情ではなく主人に対する忠誠心が勝っていたからだ。

 眷属とはダンジョンの守護者であり、家族ごっこをするための子どもではない。

 そのため召喚された当初から魔物はダンジョンを守る力が備わっている。

 クリスタルは一体どういった錬金術を使って、メアを召喚目録に呼び込んだのだ。


「それで何を混ぜたら召喚目録に現れたんだ?」

「恐らくですが、ダンジョンマスターの性質と、私のダンジョンコアの性質、それと冥途の館のダンジョンコアの性質を強く受け継いだのでしょう」

「よ、よくそんなことできたな」

「私も召喚するまでは分かりませんでした。あの死属性から察するに、冥途の館のダンジョンコアを媒体に構成されたのでしょう」


 死属性とは闇属性が枝分かれに進化する内の一つ。

 主に死霊系統に特化した魔法であるらしい。


「つまりはクリスタル2号か?」

「いいえ違います。ダンジョンクリエイターという種族から、どう見てもセカイ様2号でしょう」

「すまん、2号というのは止めようか。しかしダンジョンクリエイターか……雰囲気からしてダンジョンマスターの下位互換だな」

「だからセカイ様を父、私を母と感じたのでは?見た目の雰囲気もセカイ様に少し似ていますし」

「あーそれでか、納得した」


 しかし主のことを親として慕う気持ちは嬉しい反面、危険な要因でもある。

 ダンジョンマスターにとっては、ダンジョンであるクリスタルを除いて、眷属は皆平等で掛け替えのない仲間かぞくであるが子どもではない。

 メアだけを娘として特別視することはできない。

 メアを娘と認めるならば、ウリィもミ=ゴウもモンスターハウスも最愛の息子として接していかなければならないのだ。

 そんなのは御免被る、精神的にも負担が大きい。


 しかし眷属の欲求を満たすのも主の務めである。

 メアが家族ごっこをしたいのならば、その願いを極力叶えて上げるのも主の度量だ。


「それでメアについてだが……俺()ダンジョンマスターだから、一人の眷属を特別視できない」

「そうですね、どの眷属も平等に大切です」

「しかしメアが親の愛情を欲しているのなら……クリスタル、お前がメアの母親として接してくれないか?」

「……確かに私なら問題はございません。しかし急に母親と言われましても……」


 それもそうだよな。

 見た目二十代前半の女性がいきなり十歳の母親になれってんだから無理もない。

 それにクリスタルも今まで平等に眷属を愛してきたのだ。

 本当にこのダンジョンにおける彼女の負担は日々増すばかりである。


 しかしこの役目を務められるのは他でもない、クリスタルしかいない。

 またメアにお前の親はいない、と告げるのが少し酷にも思えた。

 恐らくだがメアは強さの反面、まだ見た目通りの性格で、現実も倫理観も何も知らず、情緒の発達していない子どもだ。

 それはいきなり主を押し倒して魔力を勝手に吸収するほどの破天荒ぶりで、早速リンネルに喧嘩を売るため独占欲も強いと考えられる。


 だからメアに、クリスタルが母親として色々と教育してあげれば有り難いことこの上なかった。

 先程クリスタルの言うことをメアはちゃんと聞いていた。

 クリスタルの下でなら、メアもダンジョンで他のみんなと仲良く暮らしていけると思った。


「頼む、メアの母親になってくれ。これはクリスタルにしかできない」

「……分かりました。今からメアは私の大切な娘です」

「ありがとう!」

「いえ、母様と言われて私も悪い気はしていなかったので」

「そ、そうか」


 二人だけの話は終わり、クリスタルはメアを一番に気にかけることになる。

 本当にクリスタルにはいつも面倒な仕事を押し付けてばかりいる。

 それに彼女は何も不満を言わないから、ついつい甘えてしまうのだ。

 彼女の負担を少しでも減らせるように、マスターとして精進していく必要があると感じずにはいられない。



◇◆◇◆◇◆


「それではメアは出された問題に答えてください。どのような結果でも気にしませんので緊張なさらないでくださいね」

「私、頑張る」


 眷属が観衆するなかメアに最初の関門である計算問題が出された。

 実質もう計算問題をする必要性はさほど感じないのだが、これで最後になるので一通りやってみることにした。


「始めます。10+8=?、24−7=?、11×23=?、965÷25=?————」

「18、17、253、38.6————」


 メアは迷いもなく答えるので、クリスタルが計算の問題の難易度を更に上げる。

 しかしメアは平方根や因数分解、数列なども容易く暗算で解くのでこれはもう俺以上だと分かった。


「見た目からは想像ができぬほどメアは俊才だな。頭の回転も悪魔の俺より優れている!」

「ぐぬぬぬぅ」


 バルがメアを称賛し、リンネルが悔しそうに拳を握っている。

 リンネルよ、お前は問題の意味すら理解できてないだろ。

 だがリンネルの気持ちも分からんではない、せっかく一生懸命考えた問題が一瞬で解かれたのだ。

 そのため思わずメアにも答えられない問題を出してみたくなった。


「代われクリスタル、こっからは俺が相手をする。———13508×24562=?」

「3億3178万3496」

「クリスタル!」

「正解しています。はぁ、ご自身が答えられない問題を出さないであげて下さい」


 クリスタルも答えられるのかよ……。

 これはもしかするとメアにはクリスタルの頭脳も受け継いでいるかもしれん。

 メアの瞳の色の片方はクリスタルと同じで赤色であるし。

 因みにもう片方の黄色の瞳と黒髪は俺と同じである。

 メアが俺たちを親として疑いようがないのもそのためかもしれない。


「ご苦労だメア。次のテストに行こうか」

「父様、私偉い?」

「おう、メアは凄いぞ」

「~~っ!」


 メアの小さな頭を撫でて褒めると、とても幸せそうな顔になる。

 やはりメアには承認欲求が凄まじいようだ。自分から褒めてもらえるようにわざわざ促してきた。

 父様と呼ばれることには抵抗があるも、クリスタルに命令した手前だ、呼ばれることくらいは受け入れよう。

 このスキンシップもあくまで主と眷属としての間だ。


「次はこの絵を見て何か答えてくれ。はい」


 そしてこのままクリスタルから出題者の役割を引き継ぐ。

 さっきの計算能力にしろ、メアのポテンシャルを自分の手で確かめたくもなったのだ。


「西洋林檎、ゴブリン、背黄青鸚哥せきせいいんこ、童子切安綱、聖ロレンツ教会、マーガレット、メガドライブ」


 不可能と思えた問題もまさかの完答である。それもメアは固有名までしっかりと答えていた。


「これは」

「スマートフォン」

「次」

「夏の大三角」

「はい」

「オッ○ッピー」


 予備として用意していた絵も悉く答えられた。

「何でしょう、あの可笑しな姿勢は……」「ある島国の禁術に似ているな……」

 などとリンネルとバルが訝しげになっているが、メアの知識に不可解な点ばかりあってこちらは心臓が縮み上がる。


 それはメアが答えられるはずのない問題を解いたからだ。

 例えば最初の方に聖ロレンツ教会とメアが答えたときだった。

 一応俺は聖ロレンツ教会をイメージとして描いたが、知る人間が見ればそれは聖ロレンツ教会でも何でもない。

 知識として残る記憶を下に、ゴシック様式で2本の尖塔のあるオリジナル(・・・・・)の教会を書いただけだ。

 それをメアは見事に俺の意図する教会を言い当てた。


 するとメアが近寄り肩の裾を引っ張る。どうやら何か耳打ちしたいらしい。

 俺は体を傾けてメアの身長でも耳打ちできる高さにする。

 するとメアは背伸びをして、耳元で囁いた。


「私父様の秘密、知っているよ?」

「んなっ!?」

「父様を支えられるのは、母様と私だけ」


 メアの意図する秘密とは、俺が異世界の住人だったということだろう。

 今までそのことを話したのはクリスタルだけだ。

 ありすぎる地球の知識にまさかと思っていたが、一体メアは何者なんだ……。


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