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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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33話 幼女とダンジョン

「お目覚めですか?」

「ああ、どれくらい寝てた?」


 先ほどまで、深い眠りの中にいた。

 それは俺の着ている全体に薄暗い青色をしたローブの呪い。

 特殊魔法道具ギフトアイテムである金蛇ノ寛衣(シャー・カルマル)の効果による睡眠を誘発されたからだ。

 しかしそれはただ体を膠着させ思考能力も完全に遮断された状態から目覚めただけのものであり、非常に寝覚めが悪い。

 まるで新しく乾電池を取り換えられた自動ロボットの感じがしてならなかった。

 それは即ち目的としていた過去の記憶を見ることがなく、そもそも夢すら見ていない。

 すぐ脇に位置するクリスタルから目覚めの挨拶と衝撃的な言葉が告げられる。


「それが五時間ほどです」

「五時間!?最近眷属も増え、疲れが溜まっていたのかな」


 場所は最下層始まりの部屋。

 モンスターハウスのマナーのおかげで家は建てたものの肝心の家具がなかった。

 そのため空き家物件のごとく家の中はがらんどうであり、結局今日も始まりの部屋にある玉座で寝ることにしたのだ。

 実の所ここが一番落ち着くのであった。


 しかし、この空間は眷属の間でも特別視されており誰も近づかない。

 それはここがダンジョンの心臓部であり、自分達の誕生したところであるため本能的に避けていると考えられる。

 ここは眷属にとっての神聖な場所であり、用事や呼ばれもしないと近づ()ない。

 それは俺が玉座なんてものまで用意して見栄を張ったのがいけなかったのである。

 だがこの玉座からはダンジョンコアが温かく身体を包んでくれる感覚と、椅子も自由自在に変形し、座り心地も抜群なので中々に離れられないのだ。


「そのことに就きましては私に一つ考え事がございますが、少しお体に触れてもよろしいでしょうか?」

「触るって体温でも計るのか?生憎風邪なんて引いとおらんぞ」

「いえ、こうするのです」


 するとクリスタルが目の前で膝をつき、ちょうどセカイの胸に頭を預ける。

 突然のクリスタルの行動には眠気も吹っ飛び思考回路が早まるどころかオーバーヒートする。


「お、お、おい!」


 頭を離そうにも背に腕ががっちりとホールドされて、また椅子に座っているので抜け出そうにも抜け出せない。

 クリスタルはダンジョンの中では好きな恰好で実体化できる。

 そのため日によって服装が変わることもあり、それがよりにもよって今日はドレスだ。

 生地の薄い服に浮かぶ凹凸とした柔らかい身体つき、そして何故か香りまであり、目覚めてから驚いていてばかりだ。


「原因が分かりました」

「そうかそうか、だったらもうこれはいいよな」

「はい」


 おもむろにクリスタルはホールドを解き、何もなかったかのようにいつもの定位置に戻る。

 その原因という奴を冷静な顔で解説しようとするも、よくあれで原因が分かるのだなと関心をする。

 しかしクリスタルはもう少し何か反応があってもいいじゃないか、損した気分になる。


「魂の許容量に負荷があったのでしょう」

「それは何とも悍ましそうだな。もっと分かりやすく解説してくれ」

「只今セカイ様の眷属の数は上級以上が私、アカボシ、バルセィーム、リンネルの計四体。中級はアンデッドが三体、ミ=ゴウが五体、モンスターハウスが一体で計九体です」


 大分増えたが計画ではまだ半分という所だ。

 DPが50,000を切るまで眷属を召喚することだって考えている。

 しかしクリスタルの解説を聞くには————。


「つまりもう眷属は増やせないってことか?」

「ご安心して下さい、負荷なだけで限界ではございません」

「では具体的にどれくらいで眷属に限界が来るのだ?」


 不安がる俺を宥めるようにクリスタルは丁寧に慎重に説明をする。


「上級があと二体、中級以下だとまだ数十体はいけます」

「そうか、上級は二体までか……」


 二重する影(ドッペルゲンガー)なども創造してみようかと思っていただけに衝撃は大きい。

 しかし原因がまだ二体の余裕もある状態で分かっただけ幸いだろうか。

 これから魔物召喚や眷属の進化もより計画的に行っていかなければならなくなった。 

 残念だが人間社会に溶け込む作戦は白紙となりドッペルゲンガーは諦めよう。


「想像してみて下さい、魂の容量とは一つの容器です。そして眷属とはその器によって飾られる果物でございます。勿論のこと果物は形も大きさもそれぞれ違い、数が増えすぎると器から果物は落ちてしまいます」

「ごめんよドッペル、俺の器が不甲斐ないばかりに……」

「ただ今回は器に乗る果物の重さが辛いと感じただけです。それに器はこれから大きくしていけばいいのです」


 クリスタルが励ましてくれたお陰で冷静になる。

 よく考えてみれば冥途の館のホラントも上級を数えると六体までしかいなかった。

 さすがに上級魔物の量産化計画には無理があったらしい。

 中級が七十体はいたので、上級と中級では魂に掛かる負荷の大きさも違うのだろう。


「上級の魔物召喚も今日で打ち切りだな。アカボシみたいに外部から仲間に加えることも考えて余裕は空けて置きたいしな」

「きっと次の天災級ダンジョンの核さえ吸収できれば器も大きくなりますよ」

「そのためにもバルみたいな強い魔物を召喚したいな、吸血鬼ヴァンパイアとかいないのか?あれの種族も確かアンデッドだったろう?」


 吸血鬼とは王道中の王道だ。

 強力な再生能力に加え身体能力や魔法の才能にも秀でている。

 弱点は多いもそれを覆すほどの術の多才さもあると聞く。

 地球の伝説ではアンデッドであったため、もしかすると冥途の館に召喚されていなかったかと期待したのだ。


 また俺は魔物目録に全て目を通していない。

 それはクリスタルの功績もあって召喚可能な魔物が千を超えるからだ。

 能力、必要DP、階級、種族などを総合的に判断し、吟味をしたけど魔物は151匹でもないので忘れた。

 だから基本的に希望を言って、クリスタルにピックアップしてもらう流れにしている。


「申し訳ありませんが召喚目録にはございません。しかし吸血鬼に比肩し得る魔物の発見を致しました」

「流石クリスタルさん大好きだよ」

「そういうのは心の中で思っていてください」


 本当クリスタルには敵わない。

 間違いなくこのダンジョンに最も欠かせない人物だ。


「それでどんな魔物なんだ?」

「それが……口では説明しにくいことなので、目録を唱えてください」


 クリスタルに促され、魔物目録を心の中で唱えると映し出されたのは。



【???】???

 召喚可能階級:上級

 必要DP:7500



 のみだった。

 これには反応の仕様もない。いったいこれで何が出てくるんだ?


「……大丈夫なのか?名前や種族がアンノーンなのもそうだが、必要DPが5000超えとは何者なんだ?」

「ですが、不思議と悪い感じはしないのです。階級も上級のみですので、十分吸血鬼に比肩すると思いました」


 しかしクリスタルが悪いものを紹介するはずもなく、また勘ではらしいがそいつは危険でないらしい。

 目録に書かれた???の正体を突き止めたいと思っている。

 実は一番惹かれたのが単なる好奇心である。

 召喚すれば自動的に眷属となるので、その魔物の種族や階級が一目で分かるのだ。


「コストが馬鹿高いが、召喚したい…………いや召喚するぞ!」

「承りました。一応警戒はされた方がいいでしょう。直ちに上級眷属を招集します」

「ああ、そうだな。頼んだ」



◇◆◇◆◇◆


 始まりの部屋へと新たに集まったのが、アカボシ、バル、リンネルの三人だ。

 三人は常々心の奥に眷属が召喚される瞬間を一度見てみたいと思っていたらしい。

 眷属の欲求を満たすのも主の務めであるため、これは調度いい機会だと思った。


「今からこの謎の魔物を召喚したいと思っている。何もないと思うが、もし何かあれば俺が合図を送るから、その時は作戦通りに」

『はいっ!!!』


 この場で最も大事なのがダンジョンの心臓であるダンジョンコアだ。

 そのためもし召喚した魔物が暴れたならば第一にダンジョンコアを保護する必要がある。

 残念だがダンジョンの中ではクリスタルは戦うほどの力はない。

 俺が魔物の相手をしている内は、上級眷属たちだけにダンジョンコアの命運は委ねられるのだ。

 そのため眷属たちも今回は壇上に上がり、ダンジョンコアの側に控える。


「それでは開始する」


 場も落ち着いたので召喚のために立ち上がると、ゴクリと眷属たちが息を呑むのが伝わる。

 こいつらも同じようにこうして誕生したのだがな。まるで弟か妹が産まれるのを不安に駆られながらも待ちわびているようだ。

 ……だからどうか、今から召喚する魔物よ、いい子でいてくれ。


 ダンジョンコアに本来の限界を超える7500DPを送る。

 魔物目録が???であるため想像することも少ない。

 このダンジョンに足りないものを補ってくれる魔物を、そして仲間を大切に想える魔物を。

 あ、あと人型だったら服も着てくれ!



魔物召喚インスドアッ!!』



 すると黒や紫色の魔法陣が数枚重なるように現れると、魔法陣から黒い煙が立ち上がり召喚した魔物が隠れて見えない。

 しばらくして煙が晴れると、見つけたのは横になって倒れている幼女だった。

 幼女だった。

 可愛い幼女だった。

 小学生くらいの可愛い幼女だった。

 今も気持ち良さそうにすやすやと寝ている。

 服もちゃんと黒い衣装を着ている。全裸でなくてよかったよ。


「と、とりあえず害はなさそうだな」

「そのようです、ね。驚きました、見た目は人間種と変わりません。起こしてあげてみては?」

「お、俺がか?」

「もしかして目覚めると問題があるかもしれませんから。それに刷り込み(インプリティング)は大切です」

「おい、鳥じゃないんだしな……」


 俺はその幼女の下へ忍び寄る。触れる距離に近づいても警戒心の欠片もなく眠っている。


「すぅーすぅー」


 呼吸はちゃんとしているな。身体に異変は見当たらない。本当に見た目が人間種と変わらない。

 髪色は子どもらしく艶のあるさらさらの黒髪で、髪の長さもショートである。

 寝癖だろうかアホ毛なのか、一本の髪の束が可愛らしくも立っている。

 幸せそうに眠っている幼女は万国共通して可愛い。

 また眷属の契りはちゃんと結ばれており、気になることが頭に記載されていた。

 しかし危険はないと判断でき、それを確かめるためにも。


「おーい、いい加減起きてくれないか?」


 見ているだけでは埒が明かないので肩も揺らしてみる。

 そう言えばクリスタルの言っていた刷り込みといえば……おい、それじゃ俺が親になるだろが!


「…………んゃ?お、早う……ございます」

「お、おう。おはようございます」


 ついに起きてしまった幼女は、目をこすり欠伸も漏らしながら寝ぼけた様子である。


父様とうさま

「えっ!?」


 それはまさかの刷り込み成功なのかと、幼女は信じられない言葉を呟いた。

 そして、バカッと勢いよく抱き着いてきては押し倒されてしまう。

 おい、今日はホールドされる日だなあ!離したくても上手く離れてくれない。

 また幼女も胸へと頭を倒し、あろうことか吸ってきた。


「お、おい、やめろ!?そこは何も出ないからっ!離れろって!こ、こいつ魔力も吸っている!?ヘルプぅ!お前らも見てないで助けろぉおお!!」

「あ、あたしが行きます!」


 一応眷属でそれも幼女なので魔法で傷つけてまで撃退はできない。

 助けにきたリンネルが腰から蔓を伸ばし、手と合わせて四本で幼女のホールドを解除していく。


「よし、もっとやれリンネル!」

「ちょっと離しなさいよ!ご主人さまを困らせないでっ」

「んーー、んーー」


 魔力が四分の一ほど持ってかれた所で漸く幼女から解除される。

 まったく散々だ。涎で胸の辺りも少し濡れている。

 幼女はもう目がさっぱりと覚めて、しっかり地面の上で立っている。

 身長は130cm中ごろ辺りか、白いシャツに膝の見える黒いスカート、それに紫色のマントまで羽織っている。

 例えるなら魔法学校の制服にありそうな上品で清楚な恰好である。

 また瞳は黄色と赤色と左右で瞳の色が違うオッドアイだ。

 向かい合っても顔の筋肉に少しも変化はなく、まるで精巧にできたお人形を見ているみたいだ。


「父様ありがと、お陰で動けるようになった」

「まったく、魔力を吸収ドレインするなら、先に言ってくれよな。それで父様ってのは何だ?」


 ダンジョンマスターに生殖機能はなく、ご自慢の刀も鈍らだ。

 おかげでハーレムなんて作る気もなく子どもができるはずがない。強いて言うのなら魔物召喚された眷属が子どもだ。


「私、父様に呼ばれた。だから娘」

「それだったら、このリンネルはお前の姉になるぞ」

「…………違う、でも娘」

「んな゛っ」


 リンネルが姉と呼ばれて、したり顔になるも、その後の幼女の言葉に裏切られてショックを見せる。

 確かにリンネルが姉だと言われて首肯しがたいか、選択を誤った。

 リンネルも大人げなく幼女に売り言葉に買い言葉で噛みつく。

 て幼女だといい加減呼びにくいな。


「二人とも喧嘩は止めろ。とりあえず先に名前を決める……お前の名はメアメントだ。これからメアと呼ぶぞ」

「ん、メアは父様の力になる」


 だったらすぐさま聞いて、試してみたいことがある。

 このメアメントに記載された情報には


 種族:ダンジョンクリエイター

 属性:死

 階級:上級中位


 と書かれていたのだ。

 早速第二ラウンドとなった喧騒を前に、つくづく例外だらけのダンジョンだなと感じずにはいられなかった。




 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:73,371

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