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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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31話 魔物でのうりん

「リンネルが落ち着いたとこで、早速魔物召喚の検証を始めようか」

「色々と脱線しましたからね」

「だがあの蜜を研究すれば回復薬ポーションなんてできないかと考えているんだが……」


 そう思えるほどリンネル蜜の効果は絶大だった。

 もし回復薬の生産が確立すれば仲間が犠牲になる心配も減る。しかしその度にリンネルを犠牲にするのだと思うと踏み止まってしまう。いっそリンネルがビ○チだったら心置きなく犠牲になってもらうのだが、生憎と純情可憐な乙女であった。


 そのためクリスタルにリンネルを泣かせたお詫びをしろとしつこく言われたが、リンネルはまだ召喚されたばかりで彼女のことは何も知らない。

 恐らくだが召喚主からの贈り物なら何でも喜んでもらえそうだが、好みや性格、能力などを精査した上で一番良いのを渡そうと思う。


 またもう一体のアルラウネを召喚することも考えたが、残念なことに上級のアルラウネは一体で限界だった。

 中級アルラウネの蜜は媚薬であるので必要はない。

 そして魔物が人化する可能性も分かり上級と中級では確執もできると面倒なので、これ以上のアルラウネの召喚は止めることにした。


「クリスタルの影響性も魔物召喚で検証する項目が増えたな」

「そうですね。二回目で分かっただけでも僥倖に恵まれたのではないでしょうか」

「それもこんなに可愛らしい子だ」

「あ、ありがとうございます」


 玉座に俺、その側にクリスタル、二人と対面する形でリンネル。

 今からすることも相まって、さながら面接試験のようだ。

 面白そうなので指をパッチンと鳴らして玉座の前にテーブルを召喚する。

 それは『始まりの部屋』のギミックだ。本来はテーブルの上で魔法道具などを作る作業台のつもりで用意したものだ。


 演出の効果もあってリンネルの緊張する顔が伺える。


「リンネルは緊張することはない。と言ってもこんなことして緊張させた俺が言うのも意地悪だな」


 代わりにクリスタルに検証の進行をしてもらうように催促する。


「今からこのダンジョンのためにいくつか質問に答えてくれるだけで大丈夫です。どのような答えでも、私がリンネルを大切に思う気持ちは変わりませんから安心してください」

「は、はい!」


 割と魔物の扱いについてはクリスタルの方が上手い。

 それは召喚した魔物以外でも、アカボシやティラノの言葉を翻訳できたり、アカリヤと仲良く会話してたり、ウリィの遊び相手になってあげたり…………やべぇダンジョンにマスターの座を奪われそう。

 ま、まさかクリスタルさんが下克上とかしないよね?


「セカイ様は何を動揺なさっておられるのですか?」

「いや別に、ただ魔物に好かれているなって」

「良くも悪くも魔物は鏡です。人間以上に複雑で身勝手な生物ではありません。ただ本心を告げて優しくしてあげればもっと仲良くできますよ。それに皆もセカイ様のことが大好きですから」

「そ、そうか、参考にするよ。それより早く検証を始めないか?」


 大好きとはなんて心が温かくなる言葉であろうか。

 笑顔と共に放たれるその言葉はやばかった、これがクリスタルの人心掌握術か。

 今度お返しに言ってみよう。


「承知しました。それではリンネル、先ずは簡単な計算問題から始めます」

「はい」

「5+6=?、13-7=?」

「じゅ、じゅういち!。え、えっとじゅうが一つに、ちがっそれからっあぁして……ろ、ろく!」

「36+48=?」

「え、えっ!?えと、そんなぁ……………ななじゅうご!」


 おーけーよーーく分かった。

 いいんだよリンネル、は計算ができなくても、俺が教えてあげればいいだけさ。

 それにアルラウネに計算能力が備わっていなくて当たり前だ。

 そもそも教えてもいない十進法や加算減算を理解できている方が凄いよ。

 また原因もきっと俺の方にあるし、配慮も足らなかった。

 絶対にリンネルがこの先計算で苦労しない程度に責任を持って教えると誓う。


「次はこの絵を見て何か答えて下さいね。はい」

「セイヨウリンゴ、ごぶりん、セキセイインコ、剣、教会、マーガレット………………分かりません」


 これで確信が持てた!

 眷属の知識は主に大きく依存する。

 そして何より召喚される種族の特性も強く出るようだ。

 アルラウネのリンネルは動植物の知識に富んでおり代わりに計算能力などは落ちている。

 召喚される魔物が言葉を理解でき、話し、常識も備わり、地球にしかない知識があるのもそれで合点がいく。

 一つの謎が解けたことで何か体が楽になった。


「よくやったぞリンネル」

「は、はい」


 リンネルは突然の称賛に良く分かっていない様子だが、ガッツポーズをして「あたしの計算があってたんだ」と大変喜んでいるからそっとしておこう。

 そして最後はクリスタルの紙芝居による性格判断。


「——リンネルは見事にお使いを成し遂げました。しかし帰る途中に道端で倒れている人間の子どもを発見します。リンネルならどうしますか?」

「畑の肥料にします!」


 アウトーー!

 さすがのクリスタルも動揺を隠せない。


「な、なぜそう思ったのですか?」

「全ての生命は自然へ、大地へと還ります。その子どもきっとそうなる運命だったのでしょう」


 リンネルはしたり顔で早速与えられた役目に沿ったような解答をしている。

 それにしてもリンネルは能天気な性格をしている。

 それは召喚するときにしたお花畑のイメージが、外見以上に頭の方に影響が出てしまったのかもしれない。

 俺はなるべく早い段階で認識の共有をしないといけないと改めて感じた。



◇◆◇◆


「ここがその畑をする階層ですか?」

「そうだ、割と広いだろ。ここはリンネルの階層だ!」


 自分に与えられた階層として、リンネルは責任感もあるのか震えている。

 現在第二階層の荒野に俺とクリスタルとリンネルの三人がいる。

 他の眷属と顔合わせしないのも召喚した目的に着手してからだ。


 リンネルはバルと同じで階級は上級下位。

 しかし戦闘要員として召喚したバルと違ってリンネルはダンジョン内の管理要員だ。

 無論上級であるため外へ出ても戦えるように最低限の能力は与えたが、バルとの戦力差は数段階も違うだろう。


「ここはダンジョンの中だ。自然災害や害虫、細菌などの外敵の攻撃も受けにくく、光量や気温も管理できるため天候不順になることもない。連作障害などの土壌管理は大変だろうが、作物を育てるのに悪い環境ではないと思うぞ」

「それに魔物は人間に比べて病気への抵抗も強いですからね。これは半分以上がセカイ様のご趣味によるものですから、リンネルはそう顔を固くならずに」


 クリスタルの言う通りで人間ではないのでダンジョンの魔物は食べ物に困る心配も少ない。

 また保存食も作れるので飢えることはない。

 そのためダンジョンでの農耕は趣味による部分も大きい。


「しかし植物の力を甘くみることなかれ! 植物が無ければ食物も家も衣服も薬も燃料も空気も作ることができず、道具も記憶媒体もない社会では文明が成り立たない。実は世界で最も覇権を握っているのは人でも魔物でもない植物なんだ!」

「ほあ~~」


 俺が植物に関心が深いことに感激してリンネルは拍手をしている。

 これでリンネルのモチベーションを高めることができた。

 正直これほどの更地を畑にするなんて面倒でやってられない。ダンジョンマスターにはやることがたくさんあるのだ。

 言い方は悪いがリンネルを責任者に仕立てて仕事を押し付ける形だ。

 が、まあ俺とクリスタルが見守るので形くらいはできるだろうと思っている。


「といっても作るのはただの穀物ではない。魔植物だ」


 わざわざダンジョンの中にまで人間と同じ植物を育てる必要はない。

 一般の穀物なんかはいうならば都市で買えばいいだけだ。


「クリスタルと調査してみた結果。この世界は意外と飢餓が少ない。その理由がこれだ」


 懐から出したのは巨大豆の木(ジャイアントビーンズ)の豆だ。

 ジャイアントビーンズは水と魔力さえ与えればすくすくと育ち、一粒から最大人間の頭の大きさまでに成長する。

 それも栄養価は高く、七日で育つために大豆とキャベツの長所を合わせたような夢の植物だ。


「手始めにこんなのを育ててみるのもいいと思っている」

「その代わり味の方は美味しくないですけどね」


 目を輝かして傾聴するリンネルに水を差さないでくれよ、不味いのは事実だけど。


「それとリンネルにはこれからダンジョンの外にも赴き、使える植物を探してもらう。そのために上級までに召喚した」

「わ、分かりました!」

「同じ植物でも土地によって遺伝子情報も違うからな。病気の耐性、環境の適応性、成長具合、収穫量や味に優れたものを作るために、何度も交配し品種改良をするつもりだ。リンネルにはそのための珍しい植物を探してもらったりするぞ」


 昔地球でジャガイモ飢饉という悲劇があった。

 その原因であるジャガイモが同じ遺伝子を持つクローンであり、不幸にも偶然発生した疫病菌に対する感受性も高かったために、殆どのジャガイモが腐敗し餓死者を多く出た。

 それに習えであるが、同じ種類の植物に依存すると危険も高いので、多くの種を確保し遺伝的多様性の持つ植物が必要であると考えている。


「他にも有能な魔植物や実のなる魔物がいれば育てていきたいと思う。分かったかリンネル?」

「はいっ! あたしはもうご主人さまの慧眼に涙を禁じ得ませんっ!」


 何だかすごくリンネルが興奮している。

 元々農業が好きな魔物を想像して創造したから計画通りであるが、熱が入りすぎて空回りしないか心配だ。頭の方も結構緩い子だからな。他にリンネルの補助をするための魔物を召喚しようかと考えてしまう。


「それでは先ず土壌の整理からいきましょうか? リンネルは何か魔法が使えますか?」

「はい! 土と水属性魔法。それとアルラウネの種族特性で作物の成長を早められます」


 クリスタルの仲裁によりリンネルの熱もようやく冷める。

 リンネルには土と水の属性魔法を与えた。

 しかし作物の成長を早められるのは自身の体の植物だけではなかったのか? そうリンネルに質問すると。


「大丈夫です。あたしの魔力を送ることで周囲の植物にも影響できます」

「それは凄いな。期待しているぞ」

「えへへへ~」


 リンネルの頭を撫でると嬉しそうに迎えてくれた。

 おそらく植物への理解が彼女の好感度を大きく上げたのだろう。眷属の欲求を満たすのも主の務めだなと笑顔のリンネルを見てそう感じた。


 植物を育てるのに大切なのは土壌というのは分かる。

 ダンジョンの地下は5mであり、植物にとっての水はけがよくないらしくリンネルの手によって改良される。

 その点土属性魔法はとても便利であり、リンネルの触れた箇所の土は柔らかくなる。

 俺自身専門家ではないのでこの際リンネルの好きなように任せる。

 しかし1km×1kmの土地を一人で耕すのは大変そうだな。

 本格的に他の植物型の魔物を召喚することを考える。


 俺がやるべきなのはリンネルが失敗した時のリスク管理と、彼女が仕事に集中できるための最適な環境を作ることだ。

 そのため眷属たちの心が休める家を建てることも検討してみる。

 ダンジョンの中ではあるが野宿も同然の状況だ。


「無理だけはするなよリンネル。急いでいるわけでもないんだからな」

「あたしは、大丈夫です。それより、楽しみで仕方ないのですっ!」

「そうか。近いうちにお前に部下を与えるつもりだが……今日は俺にも手伝わせてくれ」

「私も何かお手伝いさせてください」

「あり、ありがとう、ございます!」


 懸命に広い大地の土壌を改良する少女に促され、俺とクリスタルも少女の指示の下で大地を耕す。

 俺にはまだまだやることはいっぱいある。

 しかし今日くらいは泥だらけのダンジョンマスターも悪くないなと思わずにはいられなかった。


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