28話 ナイトな夜鬼
魔物のランクをおさらいする。
下級<中級<上級<<天災級<魔王級<魔帝級<魔神級となる。
ダンジョンマスターは皆天災級以上であり、今世界で存在が確認されている魔帝級は三体いる。
それらは全て天然ダンジョンの主であり、青の竜、黄の怪鳥、赤の獅子と呼ばれている。
奴らはエルドシラ大陸の真ん中を縦に二分する三帝領とされる人間の支配が完全に及ばない広大な領土に居座っている。
そのため世界最大の面積を誇るエルドシラ大陸も西と東に凡そ同じ大きさで分かれ、東西の交流は三帝領が立ちはだかるため極めてない。
商人や旅人は南に位置するシーランス大陸から船で渡り、エルドシラ、シーランス、エルドシラと東西を移動するそうだ。
また俺のいる西方はそれぞれの国がひしめく群雄割拠となっている。
しかし東は太陽の統べる大帝国ともう一つの大国しか存在しない。
それほど、レオニルさんも言っていた大帝国は世界一の国土を有している。
次に魔王級だが、魔王級はエルドシラ大陸の西方には存在しない。
現在確認されておるのが、東方のニケル・ヘイオスに二つ、後は世界で二番目の大きさの大陸であるビルデ大陸に三つほどあるらしい。
ビルデ大陸は人魔種の割合が最も多く、また人類の未踏地域も多いために正確な情報がわずかしかない。
因みに人間の相手が務まる限界が魔王級までであり、魔帝級となると人類最高峰の七ツ星冒険者のパーティーでも出会えば即撤退の余儀無くされるらしい。
以上がクリスタル談である。え?俺がそんなの知ってるはずないだろ。
「魔物召喚をする前に、今すぐ俺が魔王級へと進化できないのか?」
「出来ません。魔王級への進化は500,000DPが必要でありますから」
「凡そ人類を10万人も殺すことになるのか。そこまでの殺戮をこなせば間違いなく狂化の一途を辿るだろうな」
「恐らくそのようになるでしょう。地道に天災級ダンジョンを攻略していくのが得策だと思います」
「だな、魔帝級となると更なるDPか。先はかなり長いな」
「私が永遠にセカイ様の御傍に仕えますよ」
「うん、ありがと」
クリスタルと共に魔神級へとなって世界一のダンジョンを作る。
それが二人の掲げた将来の夢だ。
そのためにもまずは優秀な眷属が必要となる。魔物召喚をする魔物の階級は下級から上級までの間だそうだ。
早速魔物召喚に取り掛かるためにダンジョンコアの背の高い椅子へと座り、クリスタルはその側へと控える。
如何せん魔物召喚の初めての二人は念入りに準備を施す。
「クリスタル、魔物の一覧表の方は整理してあるな?」
「問題ありません、ダンジョンコアに魔物召喚をするための召喚目録を念じてみてください」
頭の中で召喚目録を念じると、空中にスクリーンとして召喚できる魔物の一覧表が現れた。
クリスタルは今までDPに変換してきた魔物や、冥途の館のダンジョンコアから手に入れた魔物目録など、種族や階級の限界値、必要DPごとに分かりやすく丁寧にリストアップされていた。
「見事だ」
「ありがとうございます」
スクリーンを手でタップするように一つ一つ魔物を調べていく。
それは冥途の館の影響が大きく、殆どがアンデッドの魔物ばかりであった。
やはり召喚するのはアンデッドか……。
アンデッドの利点は既に死人であるため、食糧を与える必要がなく非常にお手軽な点である。
しかし眷属がダンジョンにいる限り、ダンジョンマスターとダンジョンの加護により、空腹を通常の三分の一にまで抑えられるそうだ。
また既に、アカリヤ、ティラノ、ウリィと三体の中級アンデッドがいるため気持ち的にはアンデッドはお腹いっぱいである。
すると一覧を下の方へスライドすると奇妙な魔物を発見した。
「夜鬼……悪魔?それも一体だけか」
「私も驚きましたが、恐らくホラントさんが最後の闘いで中途半端に召喚していた影響と思われます」
「あぁあれか、確かに魔物は召喚されなかったが、召喚の魔法陣だけはほぼ完成していたな」
シィルススさんの精霊魔法により間一髪の所でホラントを正気に戻したために、何とか悪魔召喚を防げた。
しかしその結果がこのような形ででるとは思いもしなかった。
悪魔種の基礎能力は高く、また夜鬼は上級まで召喚可能だった。
これはもしかすると期待する魔物ができるのではないだろうか。
「こいつを上級で召喚してみたいのだけど、どう思う?」
「良いと思います。悪魔は身内には誠実だと聞きますし、注意をしていれば裏切ることもないかと」
「う、裏切り……」
「大丈夫です、私がしっかりと見張ります。それにセカイ様の力を見せればどんな悪魔でも大人しくなりますから」
恐ろしいことを聞いたがクリスタルのお墨付きがもらえたから大丈夫か。
ただ少し心配なので、できるだけ誠実でまともなのが来るようにイメージする。
「分かった、これより魔物召喚を開始する」
ダンジョンコアに魔物召喚の限界値である5,000DPを送り、召喚したい魔物を想像する。
夜鬼、夜鬼、夜鬼、なるべく名前にある騎士のような……多分ナイトの意味はそっちじゃないけど。
ナイト、ナイト、ナイトよ来い!
『魔物召喚・夜鬼ッ!!』
俺の掛け声に呼ばれ、魔法陣から一体の魔物が召喚される。
「我が主よ、召喚して頂き誠に感謝しておりますッ!」
その魔物は片膝と片手を地面につけて、頭を下げながらそう言った。
その恰好は言葉を巧みに話す男性で、耳の尖がった魔人種の姿ではある。
しかし背には黒い小さな翼に、悪魔らしい細長い尻尾もある。
また肌は褐色で、体中に包帯を巻き素肌を隠している。
身長は恐らく自分よりも高く、髪は白色で瞳は黒色だった。そして顔の肌にも包帯は巻かれ、恐らく容姿は優れているであろうが、包帯のせいで少し不気味に見える。
まるで騎士をお願いしたら忍者が来た気分だ。
「お前の名前は……バルセィームだ。今後は俺、セカイと……このクリスタルのために働くように」
「クリスタルです」
「ハッ!」
「あと包帯だけじゃ、ちょっとまずいのでこれを着るように」
「ありがとうございますっ」
地面に向けて手をかざすと、そこに穴が開き以前服屋で買った安物の服が現れる。
ダンジョン内にある欲しいものはだいたいそこから出し入れできる機能だ。
バルセィーム……長いのでこれからはバル、は渡された服を大事そうに着る。
とりあえず見た感じ忠誠心も高く真面目そうだからいいか、見た目が忍者だけど。
「それじゃ、バルはもっと楽にしていい。俺も好きにしているから」
「分かりました」
「先ずバルの能力チェックをさせてもらうぞ」
「俺にできることなら何なりと!」
バルを通して魔物召喚について検証する。
どこまで主人の望む形で召喚されるのか、それは能力、性格、容姿、種族特性と調べることは多岐に渡る。
「第一関門は頭脳チェックだ!バルはクリスタルから質問される問題を答えるように、別に間違いても咎めはしないから緊張せずにな」
「では計算問題を開始します。10+8=?、24−7=?、59+102=?、13×4=?、11×23=?、最初に出された問題の答えは?」
「18、17、161、52、253、18」
バルは用意してあった計算の問題を悉く回答した。
それも全問正解である。
召喚した悪魔が話せるまではいい、しかし教えてもいない計算を既に解けている。
バルは元からいた場所に召喚されたのか、たった今創られたのかどっちなのだ。
「バルは召喚される前の記憶はあるか?」
「いえありません! ただこの世界に召喚してくださったお二人にはとても感謝しています」
「ふむ、次の問題へいこう」
つまりバルは後者であった可能性が高い。計算を解けたのも悪魔による種族特性が影響されたのだろうか。
「バルはこの絵を見て、何か答えてください」
召喚する前の用意として、俺が描いた絵をクリスタルは見せる。
絵を描くというよりダンジョンマスターが魔法道具を作るときと似て、イメージするものを魔法で描いただけだ。
「リンゴ、ゴブリン、鳥、刀、教会、花…………あとは何でしょうか? 分かりません」
「よろしい」
バルの解答ではリンゴの名称は分かっていても、鳥や花の種類までは知っていなかった。
しかしこの世界では未だ俺すら見ていない武器の刀を知っていたのは驚きだった。
バルは武器に詳しいのかもしれない。
そしてバルが答えられなかった絵は、前世にあった家庭用ゲーム機だ。
これはさすがに異世界のどこを探しても見つからない、俺しか知らないものだ。
またバルには一般的な知識くらいは備わっていることが分かった。
「次が最後の問題になる。朗読してくれよクリスタルぅ」
「はい、ええっと……ごほん。ある日セカイ様はバルにお使いを頼みました————」
バルへの最後の問題は簡単な性格診断テストだ。
クリスタルに物語りを読み聞かせさせるのは、単なる自分が聞いて見たかっただけである。
「————そしてバルは見事にお使いを成し遂げ、返る途中に道端で倒れている子どもを見つけました。バルはどうしますか?」
「困っているようなら助けます!」
お、なんか騎士っぽいぞ。
「それではバルのお使いを今か今かと待つセカイ様が困りますよ」
「セカイ様なら少し遅れることより、子どもを無視する方が悲しむと思います!」
うん、実際そのお使いの物は緊急を要するものではない。
子どもを助けるくらいのロスは別に気にしないストーリーだ。
他にもいくつかの心理テストに答えてもらい、バルの性格は、主の想像する性格にある程度近くなると分かった。
まだ検証一回目であるため、それが正解だと断定はできないが、次の魔物召喚の参考には大いになった。
「ご苦労だったぞバルセィーム。お陰で大変役に立った」
「ハッ、お褒め頂き光栄です!」
「あなたは上級下位の魔物です。どうかセカイ様の為にも強くなってください」
「分かりましたクリスタル様!」
バルはクリスタルにも様付けである。眷属の中でも着々と序列ができてそうだな。
そしてバルの能力チェックの最後の項。残るのはつまり戦闘力のチェックだ。
「早速だがバル、お前の戦力を計りたい。バルのダンジョンでの役目は戦闘要員でもあるからな」
「俺がセカイ様と闘うのですか?」
「いいや、違う。バルと同じ上級の魔物が上の階層にいる」
「なんと!? セカイ様に俺の腕を見せるいい機会ですね。別にそいつを倒してしまっても構わないですよね?」
別に倒していいけどバルが死ぬなよマジで。
何だかフラグすぎてそっちの方が心配になってきたぞ。
肌も褐色で髪も白いし。
「それではお二人ともアカボシの下へと向かいましょう」
「相手はアカボシというのか、楽しみですな!」
「絶対に無理だけはするなよ」
三人で転移門を潜るとアカボシが目の前で待ち構えていた。
「グルルルルルルゥゥゥガルッ!」
どうやらクリスタルが声だけを先に飛ばし、アカボシに伝えていたようだ。
大人げなくアカボシはバルへ威嚇をしている。
おい、アカボシやめろ。別にお前のポジション取らないから。
「お、俺にも絶対に負けられない闘いがあるのだァ!」
バルはアカボシの威嚇に少し震えながらも、覇気は衰えていない。
これはあれか、死んでも主は守るっていう騎士道精神か?
「バル、無手では厳しいだろ? 少し待ってろ。アカボシもあまり新人を虐めるなよ」
「ありがとうございます!」
「グワウッ!」
クリスタルに頼み、バルの為の武器を持ってきてもらう。
クリスタルに用意させた武器は、ドッペルゲンガーを倒した時に手に入れた黒い短剣と、どこにでもある普通の剣の二本だ。
貸すのではなく上げるので、バルはとても喜んでいる。
バルの準備が整ったことで、お互い対面する。
「えぇっと、これはバルの実力を測るテストであるので、殺し合いは禁止。アカボシは特に自重するようにな。まぁ危なくなったら俺とクリスタルが全力で止めるから割と盛大にやってくれても構わない。二人は魔物で生命力も高いからな」
「お相手願います!」
「グオン!」
「だからといって、あまり熱くならないで下さいね。それでは————始めっ!!」
クリスタルの号令の下、二人の勝負は開始した。
人型移動式ダンジョン"クリスタル"
DP:94889DP




