表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
3/214

3話 発見

 それから俺たちは、魔物を狩りながら人間の住む場所を探した。

 昨夜感じていた不安を払拭できたため、抵抗を感じることなく、昨日のペースをはるかに超える早さで魔物を屠っていく。

 太陽を頼りに方角を割り出し、大まかに直線で森を進む。森の中を素人が正確に進むのは難しい。しかしそれは人間だったらの話だ。ダンジョンマスターは疲労に強く、水の渇きや空腹で苦しむことはない。ダンジョンのクリスタルから送られる魔力で体力はつねに万全で、クリスタルのサポートと迷わないよう木に目印をつけ、時に魔物を相手にしながら移動する。


 およそ太陽が南中に差し掛かったころ、ついに森を抜け街道を発見する。

 漸く人の生活圏を感じるものを見つけることができ俺は安堵する。うすうす近くにあるはずだと思っていた。なぜなら、この森の魔物は下級クラスばかりで危険が少ないからだ。

 しかしそのため移動中は4.4DPしか獲得できなかったのだが。


「ついに街道を発見できましたね。どちらへ進みますか?」

「そうだな、とりあえず森に遠ざかる方へ進んでみるか」


 それから二人で、町を探しててくてく歩く。

 人を見つければ有り難いのだが、街道を走ることはしない。いつ人と遭遇してもおかしくないからだ。この恰好で軽率に動きもし先に発見された場合、すぐ不審人物に間違われるだろう。

 ただでさえ、男女二人がほぼ裸の状態で道を歩いているのだ。正常な人間なら、身の危険を感じるのは明白である。

 これから人間の情報を得るためにも、友好的な関係をできるだけ築きたいと思っている。

 そのため人間と出会うのに先立って、クリスタルに思っていたことを確認する。


「俺たちの言語は、現地人に通じるのか?」

「大丈夫です。この世界の言語はダンジョンマスター並びその配下の眷属たちにも理解でき、中には会話できる者もおります。そもそもセカイ様が前世でいた地球という世界に比べて、この世界の言語はとても少なく、人間種が3つ、人獣種が1つ、人魔種が2つ、古代龍神語が1つの計7つの言語しか存在しておりません。おそらく大昔に激動した種族間の争いによって、淘汰されたのでしょう」

「そうなのか、それは有り難い。今更言語の勉強なんてやっていられないと思っていたところだ」


 俺の知識では英語は片言レベルでしか話せない。そのため外国語の勉強が苦手なタイプだと分かり、もし言語能力がなかったら、大幅な時間を言語学習に用いることになっていただろう。


「ですが文字の読み書きはDPでも獲得できませんので、必修することになります」

「まじかぁぁぁぁ」


 この世界の文献や歴史資料、魔法の本とかを読んでみたかったのに、それは当分先のことになりそうだ。それどころか読み書きが必要となる機会に出会った場合、どうしようかと思案する。


「ご安心ください。この世界で最も普及している、人間種のエルドシラ大陸語の読み書きは私ができますので、何かあれば遠慮なく私を頼ってください」


 頼りになる台詞を、ウィンクを飛ばして言ってくれた。

 それは人型移動式ダンジョンであるクリスタルに人格が備わっていることの所作なのかもしれない。

 言語の話に一区切りすると、もう一つ確認したいことがあったのを思い出す。


「クリスタルは人間について、どう思っている?」


 これはとても大切なことだ。

 もし何かマイナスな感情を抱いているようなら、これから人間社会に接触するのだ。間違いを犯さないようにと言い聞かせなければならない。

 クリスタルは人間に嫌悪していてもおかしくない。人間は魔物以上の高度な知識と社会性を持ち、ダンジョンの侵入者のなかで、最も警戒すべき相手なのだから。


「人間だろうと魔物だろうと違いはありません。ただ、人が持つ能力や発想には関心をするところが多くあると考えております。ですから不用意に敵対する行動は危険性のあることだとも存じてます」


 返ってきた答えに俺は安堵する。

 クリスタルが聡明な考えの持ち主でほんとにこれがダンジョンなのかと驚きを隠せないが、これなら人間社会に上手く溶け込むこともできそうだ。

 これから町に入ったときのことを色々と頭の中でシミュレートしていると――。


 ヒュッ。


 突然後方から矢が飛んできた。

 街道に入ったことで警戒心も緩めていて、死角からの奇襲だったため完全に躱すことができなかった。

 俺を狙ったのだろう。

 矢は俺の背中の中央へ飛んでいき、とっさに身体を横にずらすことで、なんとか左腕に掠る程度に被害を抑えることができた。


「――――ただ私が嫌うのは、セカイ様を仇なすモノ(・・)です」


 クリスタルの言葉に背筋が冷えるのを感じる。それは、襲ってきた敵を警戒するよりも先にだ。

 さっきまで一緒に優しく、朗らかに会話する顔とは打って変わって、見るからに怒りが伝わる形相で、後ろから奇襲をしてきた人物を、絶対零度の眼差しで睨んでいた。

 そのギャップに思わず身体が一瞬膠着してしまった。恐らくクリスタル自身、敵の攻撃を俺に許してしまったことに忸怩たる思いでいっぱいなのだろう。隣で、拳を握る手が震えているのが見てとれる。


「俺、大丈夫だから、落ち着け?」

「くぅ……はい」


 クリスタルは森にいたときでも、率先して警戒にあたり。俺よりも早く敵を察知するのが多かった。

 またダンジョンの防御能力の特性を生かして、戦闘のときは俺に来る魔物の攻撃を全てその身で防いでくれていた。

 しかし今回、初めて俺に攻撃が与えられたことになる。


 漸く身体を後ろに向けると、そこには大斧を持った大柄の男を筆頭に、剣、ナイフ、槍、弓を持つ5人の武装している男たちがいた。

 ついに発見した人間に思わず、にやけ顔になるが、おっと今は目の前の敵に集中だ。

 恐らく恰好と態度、先の奇襲によると盗賊の部類だろうか。すると5人を代表して大柄な男が嘲笑いながら話しかけてくる。


「おい、そこの兄ちゃん。その恰好さしずめ、追い剥ぎにでもあったんだろうな、へへへ。もしそこの美女を置いてくなら、命まではとらねーでやるぜぇ」


 決まりだ。それもこれは心置きなく狩れる特上な獲物だ。

 クリスタルの方を向き目配せする。そうだ、この際矢をもらった借りに少し芝居をしよう。


「あ、あぁ頼む。女は置いていくから、命だけはどうか助けてくれ!」


 そう言って、女を置いて後ろ足で少しずつ下がる俺を見て。盗賊たちの顔が、より一層醜く笑う。

 俺との距離も十分離れると、盗賊たちはクリスタルを囲んで、彼女の退路を断つ。

 ナイフを持つ男がクリスタルの首に、ナイフを押し付け彼女に動くなと脅迫する。

 今度は盗賊の内の剣と槍を持つ二名が、大柄の盗賊の命令を受け、俺の方へと歩むのが分かった。

 盗賊の言葉は嘘だった。しかしこれは予想通り。

 俺と二人の盗賊、クリスタルと彼女を囲む残りの三人の距離が俺の狙い通りの距離になるのを見計らって、俺は盗賊たちに叫ぶ。


「おい、盗賊ども!」


 盗賊の注意が俺に向く。盗賊は約束を反故にしたことの怒りの罵倒か、負け惜しみだろうと高を括る。

 しかし、続いた言葉は――――。


「気を付けろ」


 それがクリスタルへの合図だった。

 盗賊たちの予想していた言葉とは違っていたことに、戸惑いを覚えた瞬間。

 クリスタルを囲んでいた盗賊の内の、左右にいたナイフと弓の二名の盗賊の首が飛ぶ。

 首は一直線に綺麗に分断された。いや、弓の盗賊には、顔の原型が失うほどの衝撃を与えられ、ザクロのような顔面をぶちまけて無惨に事切れていた。あれは絶対私怨入っているな、うん。



◇◆


「は?」


 突然の惨状に、大柄の男は、呆然と呟く。

 女に武器はない。魔法を唱えた気配もなかった。だったら予想されることは一つしかない。

 見たままのことだ。女は素手・・で仲間の二人を瞬時に殺したのだ。

 そんなことありえない、だが目の前で起きている! 男は咄嗟に雄叫びを上げ、持っている大斧で女の肩に向け思いっきり振る。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 これほどまでに美しい女を殺すのは惜しい、だが盗賊も命あっての物種だ。全力を乗せた力が女の体を真っ二つに、切り裂くことを想像した。

 ガンッ!

 衝撃とともに大きく響いた音が発生した。しかし無情にも女は無傷で、音の発生源は斧からだった。想像を絶するほどに彼女は硬いのだ。攻撃をした方である大柄の男の斧を持つ手にダメージが加わり、手が麻痺している。

 圧倒的な力の差を前に身体が震え、腰が引き、目に涙を浮かべて、命乞いすらできず絶句する。何もかも悟った。獲物は自分で。ここで死ぬのだと。


「ぜひ、美味しくありますように」


 最後に見たのは回転する視界のなか、自分の身体が地面に倒れるところだった。


 大柄の男の雄叫びに、剣と槍を持つ盗賊が反応し、顔を向けるとまさかの惨状に驚愕する。

 今まで形勢は自分達にあったのだと。男を殺し、今夜はあの絶世の美女を仲間で犯す。そして十分に堪能した後、人買いに大金で売り、その金で何日も遊び尽くすはずだった。

 そんな邪念を抱いていた夢が一瞬で崩壊してしまった。それもその女一人にである。

 一転して悪夢に変わった現実に、さらにリーダーである大柄の男も簡単に殺される瞬間を目撃した。

 瞬時に二人は逃走を図るが、しかしもう遅かった。今度は注意が女に向けている隙に、剣を持つ男は頭に衝撃を受け倒れ、槍を持つ男は腹に拳が食い込み悶絶してしまった。

 薄れる意識のなか槍を持つ男は捉えた。その奇襲をした人物は、さっきまで俺たちに震え、逃げようとしていた男であったと。


「ご苦労さん」


◇◆


 現在、捕られた盗賊の二人の身ぐるみを奪い。汚れている方の服を着る。

 脱・原始人! これでどこからどう見ても立派な文明人だ!

 クリスタルの方は盗賊の遺体をダンジョンコアに吸収させている。死体にも鮮度があってダンジョン外で殺したものは、早めに吸収させないと、変換するDPの量に違いがあるらしいのだ。

 未だダンジョンに階層ができてない状態で、生命力マナを保有するもの以外はダンジョンコアのある間に、置くことはできない。つまり勿体無いことだが、持ち運べない量の荷物は放置することとなる。

 無論金は回収する。

 クリスタルは遺体からの装備の回収を終えると、こちらの方に向かってくる。


「ほれ、クリスタル。男ものだが一応は服だ。さすがにずっと裸ローブではまずいし、町に着いたらちゃんとしたものを買うから、今は我慢して着てくれ」

「我慢だなんて、私はむしろセカイ様の心遣いにとても嬉しいです。ありがとうございます」


 そういって、クリスタルは服を受け取り着替える。そして着替えた服の上にさらにローブを着る。

 さて、クリスタルの方も準備が完了したので、気を失っている二人を叩き起こし、お楽しみの尋問タイムに入る。

 目を覚ました二人は自分の状況を確認でき、絶望の色に染まる。


「さて、お前たち二人はこれから俺の質問に答えてもらう。なに、簡単な質問だ。ただし嘘をついていたり、黙っていると……容赦しないからな?」


 二人は戸惑いながらも首を縦に振る。一体何を聞かれるのか緊張しているのが伝わる。


「それと俺の質問に上手く答えた方は解放してやる。答えられなかった方は、言わなくても分かるよな?」




 盗賊二人から聞き出した情報はとても有意義なものだった。

 この世界の一般常識から、この国の通貨単位、世界の情勢、ダンジョンに関する情報などいっぱいだ。

 因みに、盗賊の住処も聞き出して金目の物も回収した。一体どっちが盗賊なのだろうな。勿論全ての情報を聞き出した後、自分の手で二人は殺した。


 驚いたことに盗賊5人をDPに変換すると61DPだった。理由をクリスタルに尋ねると、人間の魂は非常に高レベルで、人間同士でも寿命や能力によって大きく差があるそうだ。

 なるほど、だからダンジョンのなかには人間を呼び寄せるための撒餌として、ダンジョン内に財宝や、マジックアイテムを作る者も現れるのだな。

 当然だが、いくら魔物召喚にDPを払っても人間は召喚できないそうだ。恐らくそれも、DPの高い人間と何か関係があるのだろう。

 ダンジョンの天敵は人間である反面、ダンジョンを強化するために人間の生命力マナを集めることが最も効率のいいやり方らしい。それは今後のことを考える上で、最も役立った情報だ。


「セカイ様、それとあの大柄の男が持っておりました大斧はおそらく魔法道具マジックアイテムです。あの斧からは魔力の波長を感じます。DPに変換することができますが、いかが致しましょうか?」

「そうか、マジックアイテムは貴重品らしいからな。そんなものを持っていたとしても、悪目立ちするだけだから変換してくれ」

「かしこまりました。変換開始します……終了しました。生物ではない分に早く終わるそうです。低級のマジックアイテムですが、23DPを獲得しました」


 低級でこれだけのDPをもらえるのだな。今日一番の収穫量がアイテムとは、さっきから驚いてばかりだ。

 これで今日だけで88DPも獲得したことになる。

 それに初めて人を殺したことでより強い覚悟ができた。また盗賊から情報を聞き出したことで目指す街も発見できた。

 昨日の出来とは大きな違いである。

 目指すはこの街道を歩くこと二日の距離にあるダンジョン都市"ウェンバロン"だ。







 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:86

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ