25話 絶対に守りたいモノ
未だ目を覚まさぬホラントをシィルススさんが介抱している。
彼女は精霊魔法でホラントと会話したらしく、もう安心していいといったので、彼女を残し皆で森の消火活動に躍起した。
驚いたことに、最も活躍したのがアカボシであった。
炎属性を持つ黒妖狼は炎の耐性を持ち、強靭な胃袋と大きな顎で炎や炭など火元を次々と貪り食っていた。
クリスタルは燃える木々をダンジョンへ収容し、レオニルは水属性魔法で鎮火させ、俺は風で火を煽らないようにみんなのサポートに徹して破壊消化に勤しんだ。
すでにホラントとの戦闘中で使われた氷属性魔法の氷地獄と霰で、大部分は鎮火していたためにさほど苦労することなく消火活動は終わった。
やはり魔法というものは便利だ。
科学技術では地球が勝っているが、それも全ては魔法で事足り、必要がないから発展しないのだとしみじみと痛感する。
そしてシィルススさんの下へと合流すると、既に目を覚ましたホラントとシィルススさんが仲睦まじく会話をしていた。
「皆さんお疲れ様です、おかげで無事にお父さんと話をすることができたわ」
『僕からも娘のために、苦労をかけたことをお詫びします。そしてもう一度娘と出会えたことに本当に感謝しています』
二人は並んで俺たちの方へと頭を下げて、礼を述べる。
あの狂人化していたホラントからは考えられないほど利発な印象だ。
本当に元に戻ってよかった。しかし本題を忘れてはいけない。
「いえ俺たちは、俺たちの目的もありましたから……」
『そうでしたね、娘から話は聞きました。君もダンジョンマスターですね?』
「そうだ、そもそも俺たちはここのDPを奪いに来たんだ」
人助けもしたが、俺たちの本質はダンジョンとダンジョンマスターであり、DPを集めるのが生きる意義である。
それは根源に刻まれた本能であり、力を求めてしまうのだ。
もしも今ホラントが娘と出会ったことで生きたいと願うのなら、また戦うことになるだろう。
『安心してほしい、僕の集めたDPは全て君たちに譲るよ。それに僕はもう永くない。ただ一つ、お願いを聞いてくれないかな?』
「……お願いですか。それはなんです?」
『そうだね、落ち着いて話をするためにも、まずは最上層にある僕の部屋に来ないか?』
そして俺たちはホラントに招待され、第13階層へと向かう。
マスターキーを持つホラントは10階層から13階層まで一気に転移門を通じて跳ぶことができる。
そして13階層は神殿だった。
そこは未だ人間が一人も入ったことのない冥途の館の最上層で、この中では冒険者であるレオニルさんが最も感嘆していた。
それもそうだ。
ダンジョンを攻略した冒険者は、歴史に残る名誉と莫大な財産が手に入ると言われるため、ダンジョンには多くの夢と浪漫が溢れている。
神殿の中には何本もの石柱が立ち並び、中央にはクリスタルと似ているダンジョンコアが埋め込まれる石碑があった。
しかしそのコアはクリスタルの持つものよりも、大きく強い光を放っている。
『ここは僕の許可した者しか入れないから、楽にしてほしい。といっても何もないけどね』
それぞれがホラントの回りに適当な距離で囲む。
気の利くことにクリスタルとシィルススさんがダンジョンから暖かい飲み物を出してくれた。
それはレオニルさんが持ち込んだ魔法道具の保温性の高い水筒で、その中身はリンゴのような味がする甘いジュースだった。
『僕はもって5時間ほどしか現界できない。それは僕の最大の願いであったシィルが生きて元気でいる姿を見れたからさ。ゴーストとしてもう生きる必要もなくなった僕はリスティイの所へ行くよ』
「お父さん……」
『まあもう少しくらいはシィルと一緒にいさせてほしいけどね。そしてお願いというのは、どうかこのダンジョンを壊さないでほしい』
DPはくれるがダンジョンは壊さない?
ダンジョンマスターかダンジョンコアが死ぬとダンジョンは自動的に崩壊するはずだ。
DPだけクリスタルに移すことができても、どっちにしろホラントは死ぬためダンジョンが崩壊することは免れない。
「すみません、実は俺たちまだダンジョンマスターになったばかりで、ホラントさんの言っている意味が分からないのです」
『ダンジョンマスターが死に、ダンジョンコアが消えても、形だけはダンジョンとして残せることができる。無論それは管理するものがいないため、成長も魔物召喚がされることはない』
それくらいなら別に叶えてあげてもいいと思う。
レオニルさんの方を見ると頷いてくれた。冒険者からしても問題はないようだ。
「分かった。このダンジョンは崩壊させない」
『ありがとう。狂人化していたとはいえ、このダンジョンに召喚した眷属は僕にとっては仲間だからね。彼らの居場所をできるだけ残しておきたかったんだ。それにもしそちらがよかったら何体か連れていってほしい』
なるほど、ダンジョンを残してほしいというのも、眷属を守るためか。
それにその話は俺からしても有り難い。
一に、ダンジョンを崩壊させると、誰がダンジョンを攻略したか知られることになる。金も名誉も必要ない俺にとっては、注目されるのは面倒事が増えるだけだ。
二に、この冥途の館の魔物を、ダンジョンマスターの合意の下で勧誘ができる。それは高いDPを払ってまで、魔物召喚をする手間が省けるということだ。
「レオニルさんとシィルススさんもそれでいいですか?」
「冒険者の食い扶持が減る心配がなくなるから俺は文句ない。ただこのダンジョンの魔物の詳細だけは教えてほしい。二重する影のような悪質な魔物は看過できない」
「私もできるならレオニルさんの意見に賛成だわ。冒険者ギルドとしても冒険者が死ぬのを黙ってはいられないの」
「だそうです。成長しなくなったダンジョンに残る魔物はいずれ滅びることになるが、ホラントさんはそれでいいのか?」
『ここはアンデッドのダンジョンだ。瘴気も高いためDPが無くても下級魔物は勝手に発生する。そうすぐに全滅することはないよ。でもセカイくんにはできるだけ魔物を勧誘してほしいかな』
こうしてダンジョンの保存計画が進行した。
魔物の情報は後でダンジョンコアを吸収したクリスタルが紙に残し二人に渡すことになった。
そしてホラントの下、魔物の勧誘が始まった。
集められたのは4階層から12階層までの中級の魔物が70体ほどに、上級の魔物が4体。
それはまさしく百鬼夜行の群れ、その全てが敵に回っていたらと恐れてしまう。
とくに上級の魔物はぜひとも仲間にしたい!
「ホラントさんが説明してくれたように、このダンジョンコアの支配権は俺が握った。ダンジョンは残すが、もし俺の下へと付いてくれる者には大いなる力を与えよう!!」
・・・・・・シーン。あ、あれ?
「俺の眷属になるものは、この線を越えてくれ!」
ざわざわ……ざわざわ…………シーン。
あれれぇぇぇ?もしかして誰も来ない!?
なんだこれ、俺の何が不満なんだ!?
「ホラントさん、これはどういうことです!」
『あははは、おそらくこのダンジョンが気に入っているんだよ。それに上級の者は、僕と死を共にするとまで言ってくれてる。中々構ってあげられなくてごめんね、お願いだけど君たちが死ぬことはない』
屍の魔術師や厄病の大鎌人がホラントさんに抱き着いては離れない。
なんだこれ無茶苦茶悪い気がする。魔物ってこんなにも懐くのかよ羨ましいな。
「誰も来てくれないのか……別にいいけど」
『そんなことはないよ、三体こちらに来ている魔物がいる』
「ほんとかっ!」
すると三体ほど他の魔物を押しのけて、俺の下まで来るやつがいる。
一体目は、炎の体で若い女性の姿を持つ魔物、湖沼に誘う鬼火だ。
二体目は、ちぐはぐな骨が合わないためか、ぎこちない動作で歩くコモドオオトカゲみたいの獣型スケルトン。
三体目は、カボチャ…………てお前かよぉ!あれはまさしくクリスタルに散々悪戯しては去っていったクソカボチャの提灯を持つ南瓜。
『おめでとう、このウィルオウィプスは二階層でセカイくんを襲った子だね。そしてこのスケルトンは……キメラスケルトン!?多分クリスタルさんが破壊した魔石から新たに生まれたキメラスケルトンだよ。このジャックランタンは悪戯好きのお調子者だけど、上手く使えばとても役に立つ魔物さ。それにこのダンジョンにも一体しかいない珍しい魔物だよ』
「どれも俺たちと関係のあった魔物だな」
『きっとそれが来るきっかけになったのかな。皆中級中位の魔物だ。どうかよろしく頼む』
「あぁ、今日からお前たちは俺の眷属だ!」
そして三体に眷属の証として名前を決めた。眷属として魂が繋がる魔物は、姿形が似てようがすぐに見分けられるため名前をつける必要はない。ただ俺に眷属がまだ少ないことと、地球人のペット感覚でか魔物にもついつい名前をつけたくなる。
ウィルオウィプスの名はアカリヤ。
キメラスケルトンの名はティラノ。
ジャックランタンの名はウリィと決めたので、一先ず三体をクリスタルのダンジョンの中へ収容し、他の魔物たちは解散した。
そして次はいよいよクリスタルがこの館のダンジョンコアを吸収することになる。
ホラントには死霊魔術でダンジョンコアを失ってもすぐには消えないようにしてもらった。
そのおかげでホラントにダンジョンを崩壊させないための設定を手伝ってもらう。
『では早速クリスタルさん、このダンジョンコアを吸収してね』
ホラントは石碑に触れるとダンジョンコアが収縮し手に握る。
クリスタルが吸収しやすいようにしてくれたのだ……って飲ますの!?
てっきりダンジョンコアのある部屋に置いていくもんだと思っていたよ。
驚いていると、ホラントはそれを見かねて説明してくれた。
『いや僕でもダンジョンがダンジョンを攻略するってのは聞いたことがないからね。逆にこっちのダンジョンコアがクリスタルさんを吸収したら不味いでしょ?』
「それもそうですね。ダンジョンコア同士を近づけると、DPの少ない私の方が吸収される恐れがあるかもしれません。ホラントさんありがとうございます」
クリスタルを人型移動式ダンジョンにするにあたって、多くの機能を喪失してきた。
魔物を狩ることで少しずつ回復した機能もあったが、それも限界が見えていた。
しかしダンジョンコアはDPと情報の宝。
これなら失った機能も取り戻すことができるはずだ。
これからクリスタルと一緒に魔物召喚や魔法道具作り、ダンジョンの改装などのダンジョン運営をすることができると思うとニヤニヤが止まらない。
『それではクリスタルさん飲んでみて』
「……はい」
そしてクリスタルは気を引き締めて受け取ったダンジョンコアを一気に口に入れると飲み込んだ。
ついに一番の目的を果たすことができた。
「う゛うっ!?」
「どうしたクリスタル!」
するとクリスタルが突然胸を抑え、体を地面へと倒した。
声は震え、呼吸は激しく繰り返し、体は痙攣を起こし、顔は苦痛に耐えているようだ。
どういうことだ、こんなにも苦しそうな姿をしたクリスタルは初めてみる。
今ダンジョンコア同士で壮絶な戦いが繰り広げられているのか、それともまさかダンジョンコアは偽物で毒かなにかかっ!?
突然のクリスタルの様子に見ている皆も慌てだす。
「だ、大丈夫かクリスタル!」
「き……き……」
「何だクリスタルっ!言ってみろ!」
「き、気持ち……悪い……吐き、そう……です」
『どうやら大量のDPを呑んで酔っているようだね』
「…………は?」
確かにクリスタルは湿地帯でDP集めをしているとき、100匹を超えるゴブリンを討伐し吸収すると「ゴブリンばかりで飽きてしまいました」て言っていたな。
それは人型ダンジョンの弊害で、同じ魔物ばかりをDPに変換するとDPの変換率が異様に悪くなる。
そしてこれも恐らくホラントのいう通りそうなのだろう。
「クリスタル、駄目ならリバースしてもいいんだぞっ!絶対に無理だけはするな、DPよりもお前の体の方が大切なんだからな!」
「い……いえ、大丈……夫……で、す…………ぅぷっ」
「クリスタルぅぅぅぅぅぅ!!」
その後クリスタルは何とかして乙女の意地は守り通した。
そのため今はげっそりとした顔で横になってはいるが。
またクリスタルが体調不良であるために、何も運営することができない。
なので、俺はクリスタルの介抱、レオニルとアカボシはお互いに暇つぶし兼修業で対戦をしている。
そしてシィルススとホラントは最後の話で盛り上がっている。
二人にはもっと時間を与えるべきだと思っていたので、調度いい機会だった。
因みにダンジョンはクリスタルが苦し紛れにDPを消費し、崩壊を食い止めている。
「セ、セカイ様ぁ……申し訳……ございません」
「いいよいいよ、たまにこっちが看病するのも悪くない」
風属性魔法を使い新鮮な風や涼しい風をクリスタルに団扇のようにパタパタと送ったりしている。
彼女がこんなにも弱っているのが珍しくて、ついついこの時を楽しんでしまう。
そしてだいぶクリスタルの体調が収まった所で気になっていたことを聞いてみる。
「ついにここまで来たな。ようやく俺たちの第一歩ってところか」
「そう、ですね」
「これからたくさん仲間を増やそうな」
「楽しみ、ですね」
「すごい魔法道具も作ろうな」
「上手くできると、いいですね」
「因みにどれくらいのDPが入ったんだ?」
「凄いですよ、170,372DPです」
「……………………17万っ!?」
とてつもない量にしばらく言葉を失った。
次で一章も終わります!




