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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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24話 精霊の祝福

「お疲れ様ですセカイ様!」

「クリスタルもお疲れ様。ほんとに命がいくつあっても足りないと何度思ったことか」


 大の字で寝転ぶ俺にクリスタルは駆け寄り、早速膝を枕にして頭を支えてくれる。

 もうお互いに慣れたのか膝枕でくらい緊張することもない。


「あの状態のホラントに止めを刺すのは簡単だけど、どうやって彼を呼び覚ませばいいかな?」


 初めはシィルススさんを使って、ホラントを弱体化させ決戦を有利に運ぶという打算的であったが、今はできることならシィルススさんの願いも叶えたいと思っている。

 ダンジョンマスターは欲張りなんだ。

 それにしても結局、シィルススさんがいなくても倒すことはできた。

 いや、するとホラントさんが着いて来ないから結局クリスタルが配下の魔物に苦戦して駆け付けるのが遅れてしまうのか……。

 やはりシィルススさんが攻略の鍵であったな。


「そのためにも先ずは皆さんと合流しましょう」


 クリスタルが手を指し示す方向に顔を向けると、アカボシとレオニルさんとシィルススさんが走って現れてきた。


「お前ら無事だったか!」

「良かったわっ!」

「グォン!」


 レオニルさんが肩を叩き称賛する、痛いやめて。

 シィルススさんは手で拍手をして喜びを表している、嬉しいけどお父さんの方の心配はしないのかな。

 アカボシは尻尾をぶんぶん振り回しこれ以上ないほどの興奮ぶりだ、すげぇなおい。


「レオニルさんは回復魔法って使えましたっけ?」

「アホ抜かせ、打ち合わせの時に使えねぇと教えただろ。だがその凍傷の応急手当くらいはできる」

「うわっ酷い傷!クリスタルさんダンジョン内に何か手当に調度いいものある?」

「水と包帯と薬草や丸薬があります、シィルススさんは取って来てくれませんか?————《アクセス》」


 目立った怪我をしているのが自分だけだと確認がとれて安心する。

 アカボシにはホラントとその周囲の警戒を任せ。

 各々はまず俺の治療にあたってくれた。


 この世界にゲームのようなHP回復薬やMP回復薬みたいなのってないのかなぁ。

 まあ、飲んですぐ消化され効果が出るって品物がそう簡単に市場で出回ることもないか。

 それに無いなら無いで、いつか挑戦するまでだな。


「セカイ様、水と魔草薬です。回復力を僅かですが促進します」

「ありがとう」


 クリスタルは背中を支えて飲みやすいように介護してくれる。

 またその最中にレオニルさんの魔法と、シィルススさんの応急処置で脚に包帯が巻かれる。

 なんだこの優越感は……気分はまるで王様だ、ダンジョンマスターなんですがな。


 ダンジョンマスターの身体は回復力も早いので治療と一息さえ入れてもらえば動けるようにはなる。

 それは無論のことホラントにも言えることなのだが、俺には体力の余る仲間がいる分立場が違う。

 そしてクリスタルに支えられながらも、これからの方針を述べる。


「これから何とかしてホラントさんを呼び戻したいのだが、何か意見ないですか?」

「こればっかりは本人次第だからな、こちらが出来ることは常に弱らせた状態にさせ、根気よく語りかけることくらいか」

「私もレオニルさんの意見に同意します。ただ最悪の場合は人思いに葬る必要があることも考えております」


 クリスタルの発言に一同が沈黙する。しかしそれは俺たちのことを慮っての言葉であることは誰もが分かっている。


「クリスタル、無理に嫌われ役を買うことないさ。でもその場合の判断は中立の立場であるレオニルさんに任せて貰おうか」

「お、俺か?」

「そです。レオニルさんの戦闘経験と深い知識には何度もお世話になったからな。危険か安全かの境界線も上手く判断できるだろう。というか俺たちの基準で考えると色々と不味いよ?」

「確かにそうだな……分かった、その判断は俺がする」

「それに森の火事だってまだ消えていない、クリスタルなら脱出可能だろうけどさ」

「その際は私にお任せ下さい!」


 とりあえずホラントを倒すか倒さないかの判断はレオニルに任せ、レオニルの護衛はクリスタル、シィルススの護衛はアカボシ、そして俺は一人で何とかするとして三組に分かれることにした。

 お互いの状態とホラントの魔法のことをざっと話し合いしていると、突然アカボシが「グワンッ!」と吠えた。

 それはつまりホラントが目覚めたということだ。



『精霊ヨ、堕天セヨ——悪魔召喚サモン・デビル


 ホラントが魔法を発動すると、周囲に漂う黒い光が現れ、それが地面へと吸い込まれ魔法陣が綴られていく。あの魔法陣が完成されると不味そうだな。

 そしてあの黒いのが精霊なのか?エルフではない俺でも目視することができていた。

 それほど何か不吉な気配が精霊からする。

 シィルススさんもアカボシに警護されながらホラントに言葉をかける。


「お父さん、いい加減に目を覚まして!私がシィルだよ!お母さんはもういないけど、私がここにいるわ!」


 しかし正常ではない彼に、成長した姿のシィルススさんでは肉親でも効果はないのか、構わず魔法を使っている。


「レオニルさん魔法をっ!」

「繋げろ——断罪の光陣ホーリー・ディストラクション!!」


 レオニルさんが予めホラントを囲むように設置していた聖杭の魔法道具のおかげで、結界を早く張ることができた。

 レオニルさんの魔法がホラントの動きと、魔法陣の進行を阻害させている。


「レオニルさん、あの魔法はなんだ?」

「見るからに召喚魔法だろ、しかし奴は何かヤバイものを召喚しようとしている」


 召喚魔法か、初めて見る。

 確かに召喚魔法なら使用者がボロボロでも問題なく理に適ってそうだ。

 しかもヤバイものが召喚されるって、上級上位以上の魔物だと形勢は傾くかもしれんぞ。


「レオニルさん、この魔法はあとどれくらい持ってられる?」

「二分、いや三分は持ってみせる!」

「頼りにしてます、それとあの黒いのは精霊ですか?」

「なんだ黒いのって?俺には何も見えん」


 不思議なことにあれは人間種のレオニルさんには見えないのか、自分が何故見えているのか分からないが、精霊で間違いなさそうだ。


「あれは恐らく堕天した精霊よ。闇属性魔法の素質がある人なら誰でもみることはできるそうよ」


 シィルススさんが会話に交じって説明をしてくれる。


「大丈夫なんですか、お父さんに声をかけなくて!?」

「悔しいけど、堕ちたお父さんを呼び覚ますのに、娘の声だけでは無理そうね。都合よくはいかないわ」

「だったらどうするのですか?」

「時間も惜しいのでしょ、だったらもう力業よ」

「……力業?」


 ビンタでもするのか、それは危険だぞシィルススさん。

 しかし時間もないのに割と冷静な様子であるため、彼女には何か秘策がありそうだ。


『邪魔ヲ、スルナァァァ!!』 


 今もレオニルさんの魔法で拘束されているが、血眼になって魔法をレオニルさんへと放っている。

 だがそれは全てクリスタルの防御の前で阻まれる。

 流石にあの状態のホラントに近づくなんてシィルススさんでは無理だ。

 だったらどうするのだろうか。


「あれは精霊を生贄にして召喚魔法を行っている。いくら父親でも許せない行いよ」

「なるほど、あれは禁術の類なんだな。それもエルフが使うとなれば話が大きく違う」

「だから今から私は精霊魔法を使うわ。精霊魔法は相手の精霊にも干渉することができる。成功すればお父さんの魔法も解除できるわ。それに私の声もきっと届けることができる!」


 なるほど、これなら試す価値は十分にある。

 これはホラントが精霊を使わないと、こちらは行えない策だ。

 それに他に良い案が思いつかないのならば、残りの時間を全てシィルススさんに託すまでだ。


「そしてもし、それが失敗に終わったら貴方たちで……お父さんを……昇天させてあげてね」

「心配するな、あいつがシィルススの父親なら絶対に成功する」


 言い切りやがったよレオニルさん。失敗したら無責任では済まされないぞ。

 いや、ここはもう失敗することを考えるより、彼の漢気に乗っかってシィルススさんを応援するべきだ。


「レオニルさんの言う通りです、ついでに今までのことをガツンと言ってやって下さい」

「必ず私たちがお守りしますから、シィルススさんは安心してください!」

「グォン!」


 皆の思いは一つ。最後は娘の手で父親を助けるべきだ。


「皆ありがとう、それでは始めるわ——————花嫁の清輝(ニンファー・ランヴォ)ッ!!」


 すると空気が一変した。シィルススさんの回りからは魔力の塊が大量に溢れだした。

 あれが本物の精霊なんだろう。数も多いために捉えることができた。

 それには何故か一つ一つの塊に温かみのような熱を感じてしまう。

 すると、シィルススさんが口パクで詠唱を開始しだした。


【貴方の導きにて私たちは出逢う 貴方の祝福にて私たちは歩く】


 初めに魔法名を言っていたため不思議に思っていたが、この魔法はまるで一つの唄で、魔法名はその唄の題名のようだ。

 シィルススさんが目を閉じ体を揺らし腕を広げる姿は、まるで歌手が舞台の上で歌うときの動作表現だ。


【いずれ二つの魂が一つの思いを生みだし 思いは重なり一つの命をつくる】


 凄い……シィルススさんが何かを唱える度に、魔力の波がうねり、空気に彩りを持ったように見えた。

 これにはさすがのホラントも反応を示し、負けじと何かを唱えだした。


【幾瀬を過ぎこの体が朽ち果てても この情は不変であり貴方の下へと私は眠る】


 そしてシィルススさんとホラントの間で精霊が二分し、それぞれに陣営が出来上がる。


【幾歳が経ち連れ合う枝となって 今度は貴方の側で貴方を見守ることを約束しよう】



 干渉した精霊魔法の支配権は、術者の実力、精霊の数、そして精霊の気持ちに左右される。

 シィルススもまた約束の日までの間、レオニルの手を借り森へ精霊を集めに準備してきた。

 術の力ではホラントに圧倒的に負けるも、精霊の数でならシィルススの持つ方が断然に多い。

 そのため状況は互角である。

 あとは精霊の気持ちがより多く傾いた方がこの勝敗を決定する。


「どうか精霊さん!お父さんを呼び覚ますため、私に力を貸してくださーーいッッ!!」

『ヤ、ヤメロォォォオオ!』


 唄い終えたシィルススさんの切実な願いに呼応するかのように一斉に流れが傾きだす。

 それはこの場にある全ての精霊がシィルススさんの周りへと集まりだした。


「あ、ありがとうっ!」

「よしっ!」

「勝ったか!?」


 その量はホラントの精霊を吸収した分、質も量もさっきまでとは全然違う。

 そして精霊をシィルススさんに持っていかれたために、ホラントの魔法は中断された。

 シィルススさんは目に溜まった涙を払い、精霊を使い空に大きな魔法を放つ。


「いいえまだよ、後はこの魔法に私の想いを込めてお父さんに届ける!!」


 これがシィルススさんの精霊魔法か、壮大だな。

 それは夜空に虹のような輝きを放つ七色のベールが現れ、ホラントの頭上へと降り立つ。

 そして七色のベールはホラントを優しく包み込む。


『ヴァアアアアアアアアアア……………………アアア…………アァ……ああ…ぁ』


 包まれたことで、ホラントの絶叫がこだまするも徐々に声の勢いが衰える。

 元々この魔法は攻撃魔法ではなく、会話をするための魔法で殺傷能力はない。

 だけどホラントの魔法を吸収し予想以上の大きさとなったその魔法は、ホラントの持つ邪気までも払っているようだった。

 魔法を食らったホラントは倒れるが、まるでその顔は穏やかに眠っているようであった。

 これはもう本当にホラントが正常なったと判断していいだろう。

 シィルススさんが額に流れる汗を拭って、緊張した顔から一仕事を終えて安心した顔になる。

 その顔に皆がようやく壮絶な戦いに勝てたと確信し歓喜した。


「「「「やっっっっったぁぁぁぁあ!!!!」」」」



◇◆◇◆◇◆


 こんなにも穏やかな気持ちになったのはいつ頃だったろうか。

 暖かな木漏れ日が眠っている顔に差し込み、涼しい風が肌に優しく触れ、側ではリスティイが僕の頭をそっと撫でながら、さえずる小鳥と何かをして遊んでいる。

 結婚して間もない若い頃の記憶を思い出す。


『う゛うぅ……僕は……いったい?』

「おはようお父さん。シィルだよ」


 ついに目を覚ますと、目の前に最愛の娘のシィルがいた。

 しかしそれは、僕が見たことのない、リスティイの面影がたくさん残る姿であった。

 そんな娘の姿を見たことで、今まで見ていた悪夢が全て現実であることを思い出す。

 自分が怒りに任せ、数々の非道を行っていたことに後悔する。

 だけど今は目の前の幸せに触れることを許してほしい。


『シィル、また会えたね』

「お父さんっ!」


 長い年月と苦難の果てに、漸く娘の頭を撫でることができた。

 そして涙で顔を濡らす娘に、娘が大きく成長したと実感する。

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