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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第八章 聖天へ送る新星の勇儀
212/214

202話 建国の風景

 黄月9日は待ちに待ったアスロウの建国式であり、サイカの26歳の誕生日である。

 幼君を差し置いて建国日を姉の誕生日にする。如何にサイカが敬われ、これまでの業績に認められているのかが伺える。

 この日のために妖狐族は苦難に耐え、仲間を信じてダンジョンにまで移住を行った。

 建国式は、国民の新たな希望の日となる。

 老若男女、多種多様な外見を持つ妖狐族八〇〇〇人が、第二階層領の荒野へ集い、飲み食う踊りが止まずに行われている。

 さすがの今日はダンジョンが閉鎖され、俺たちも束の間の休息(・・・・・・)を楽しむことにしている。

 もちろんダンジョンはダンジョン、アスロウはアスロウとして、俺はマナー屋敷の執務室隣の客間でクリスタル中継を見ている。

 ダンジョン代表は上級幹部のコハクに任せれば、一応の体面は取れているはずだ。

 そんなコハク(男モード)は直属の配下を連れて、妖狐族の重鎮や建国式に招待された国家の外交官と談話を行っていた。


『ダンジョンマスター殿はご出席なさらないので?』

『フフ、我が主君は多忙の身デス。御用の際はこのコハクめが承ることになっておりマス』

『左様でしたか。これは今日日の祝事とお近づきの印に……』


 この度の建国式にあやかり、ダンジョンに献上品なんて物がコハクの下まで送られる。

 むろん金銭や骨董品といった野暮ったい物ではなく、この日のために造られた絵画や彫刻などの工芸品だ。天に祈る女性の彫刻。魔物を従えた天使の絵画。在りし日のドレス衣装をした美女の人物画。


「カカ、すべての献上品はクリスタルが対象になってあるぞ?」


 武人風味で豪快に髭を生やした白髪の老人が、ぞんざいな姿勢でソファに座って述べた。

 ダンジョンの中で俺にそんな態度を取れる者は、敵か……友人のみだ。

 老人の正体は玉鋼龍バーホーベンである。魔王級の龍だけあって、やはり人化の術は持っていた。


「馬鹿を言うな。俺を描くだけの度胸が奴らになかっただけだ」

「単にいちゃもんを付けられるのが面倒であったのだろう」

「くっ」


 クリスタルをモデルにした絵や彫刻が多い。

 決して俺のナイスガイが、平凡やや上くらいでモデルとして不適切だったわけでも、記憶に残らない在り来たりな主人公顔だったわけでもない。

 誰だってイギリス料理とフランス料理の二択だったら、フランス料理を選ぶに決まっている。

 クリスタルの美貌や気品が、芸術家の魂を刺激していたのだ。


「お主は友人に茶の一杯も出ないのか?」

「親しき中にも礼儀ありって言葉を知っているか?」

「儂は正攻法でやって来たのだぞ?」


 正攻法。つまり一階層の墓地から、迷宮、雪原、森林、農園を突破して、この居住区マナー屋敷まで訪れた。束の間の休息? そうだ、こいつのせいで休息を取らざるを得なくなった。

 突如、第二階層領の陽焉神殿と繋がっているバーホーベンの洞窟から、流星の勢いで閉じられたダンジョンへの門をぶち破り、一人の老人が墓地エリアまで侵入を果たす。

 溢れ出るほどの龍気を纏う人間に仰天したアカリヤが、人生最大の広範囲殲滅魔法で撃退を図るが、龍の咆哮によって蝋燭の灯火のごとく吹き返され撃沈。

 アカリヤの次に待ち構えていたメアに対しては、迷宮の壁を蹴り破って突破するという、ダンジョン攻略の暴挙に走り、敢え無く突破される。

 メアがダンジョンマスターではなく、下位互換のダンジョンクリエイターであり、格を競う上で大敗を期していたことが原因といえよう。

 次に雪原。

 ここまで来ればその老人がバーホーベンだと分かっていても、眷属は面目を守るために全力で殺しに掛かる。

 視界を失くすほどの猛吹雪の中で炸裂したスイレンの創篇魔法に対して、「肌寒い」の一言でスイレンを「ぎゃふん」と言わせ、心に深い傷を負わせる。

 次に大森林の前半で待ち構えていたグスタフに対し、どこで技を覚えたのか柔術を駆使し、熊の巨体を見事な一本背負いで打ちのめす。もう龍の人化は何でもありだった。

 最後は我がダンジョンの最強戦力、アカボシとバルの二人。

 人化での形勢の悪さを悟り、バーホーベンは迷いなく魔王龍の姿に戻る。

 二人は進化したばかりで、まだ天災級の制御が拙かった。

 傍目から見て接戦であったものの、敢え無く同時に退治される。ちなみに森林は半壊したが、大量の鋼が手に入ることになる。

 さすがに農園までは被害を出したくなかったので、その前で俺が降参を告げた。

 農作物を荒らされれば、リンネルがガチ泣きしかねん。

 そしてマナー屋敷で待ち構えていた俺への第一声が「孫の晴れ姿を見せてくれ」である。ダンジョン防衛戦の回想終了。


「ったく……」


 バーホーベンが今日来たのは、サイカの誕生日を陰ながら祝福したかったからだ。

 俺たちは実戦に近い演習ができ、バーホーベンの能力を知れただけ良しとしよう。

 重軽傷者は出たが幸い死者はいない。

 建国式でのサイカの出番はまだ先なので、暫くはバーホーベンと戯れることにする。


「リンネル!」

「はいですっ!」


 リンネルは花柄いっぱいのカチューシャにエプロンドレス、わりとモダンな給仕姿をして現れる。

 忙しい身のクリスタルに、給仕までさせられない。

 リンネルはお遊戯会の演技のように元気溌剌としたで様子で、両手にお盆、触手に茶菓子を携えている。


「ほほう、懐かしのアルラウネ。途上の花木でありながら、奥ゆかしい一輪を咲かすである」

「えへへ~、お爺さんはどこかの誰かさんと違ってお世辞が――あいたっ!?」


 要らんことを言ったので、衝撃波を生み出して後頭部をひっ叩く。

 バーホーベンの放つ龍気が、上級以外の眷属にとって毒になる。

 使用人のレヴンとメラニーは出て行ってもらい、急遽無事なリンネルを代役として召還した。

 最初は農作業に熱心で乗り気ではなかったものの「うんこ貰えるかもしれんぞ?」と発破をかけると、喜んで給仕姿メイドになったわけだ。理由が下品すぎる。


「なあバーホーベン、人化までできるなら、実孫を持つ気はないのか?」


 人化とはつまり、その気になれば人との間で子孫を残すことができる。

 バーホーベンが子煩悩ならぬ孫煩悩であり、勢力の拡大を図りたい。そして何より彼の血が絶えるのは惜しいと感じた。龍に雌がいなくとも、コハクを使えば問題は容易に解決できる。


「は? 仮にセカイがトカゲ化できたとしよう。別嬪な雌トカゲと交尾するか?」

「は? するかボケ」


 愚問を愚問で返し、お互い澄ました顔をする。


「カカ、そうであろう? 龍には龍、人には人の超えられない領分がある。高度な知性を持つ者ほど、どこぞの変態でもない限り、異種族なんぞと交わることもない」


 昔を思い出すような遠い目になる。

 そういえば眷属入りしたオークも加護によって知性が跳ね上がると、数少ないオークの雌(わりと可愛い)か、森林に棲むアルラウネくらいとしか性交しなくなった。

 知能増加による子孫の減退。それは避けられない因果があるのかもしれない。

 俺のアレが勃ってくれないのも、ダンジョンマスターが種として完成形だからに違いない。

 だが俺はバーホーベンの言葉に含みがあることを察すると、そのことについて聞かずにはいられなかった。


「どこぞの変態?」

「ああ、覇炎龍は種族関係なく年中盛りおったぞ、あやつが最も亜龍を生み出していたであるな。真嵐龍は人間に対して両刀だったか? 男を孕ませた時は爆笑ものであったぞ」


 何の話かと思いきや旧世界の同胞、四魔王龍のことについてだった。


「そして我らが長、混沌龍様も――」

「半分以上じゃねーか!!」


 結局、5分の3の龍が人と子を残していた。

 龍種変態すぎるだろ。尤も二万年の時が流れ、その血脈は限りなく薄れているはずだ。

 俺とバーホーベンはサイカの出番を待つ間、昔話と地球談義に花を咲かせるのだった。


◇◆


 時刻は夜の9時になる。

 正午から始まった建国式は、姫サイカによる神事が最後を飾ることになる。

 サイカは政治での発言権が増すことに自重して、表舞台に立つことも少なくなるらしい。

 普段サイカの住居となっている陽焉神殿から、少しだけ離れた小川の側に今日のための祭壇――神楽殿と言っておこう――が設けられていた。

 星明かりのない深い夜の下、神楽殿を囲む篝火が絶妙に神秘的な雰囲気を作り出している。

 小川を挟み、観衆は地面に腰を下ろして神楽殿を眺める。

 最前列に妖狐族の名家の当主や、式に招待された各国の代表が椅子に座り、落ち着かない様子で始まりの時を見守っている。


「陽焉も神事に参加するんだな」


 神楽殿の神座には、ご神体のように祀り上げている黒狐の陽焉が厳かに座している。

 幸か不幸か前列に立つ者ほど、陽焉の尖った重圧を強く感じ、手の汗が渇くことはない。


「あの四尾は祖先の代理人である。あ奴がサイカの舞を見定める。満足のできない踊りを見せでもしたら、神事の失敗を意味する」


 忙しいクリスタルの代わりに、バーホーベンが神事の解説役を買ってくれる。どうやら洞窟でサイカの神事の練習に付き合っていたらしい。


「失敗した場合、陽焉さんはどうなるのでしょうか?」

「……」


 俺の隣で一緒に観戦するリンネルが、お茶くみの途中で疑問を投げるが、バーホーベンは一向に返事がない。


「絶対に陽焉を喰おうとするなよ?」

「カッ、奴が仕事を果たせばよいだけである」

「ちっ、来るぞ」


 場がようやく静まり返ると、この日サイカが初めて姿を見せる。

 普段の和服スカートではない、清廉で煌びやかな神楽衣を着用している。

 カツラによる栗色の長髪は白紙で一つに纏め、化粧もあって少女を「大人」へ変えている。

 両手にお供え物(栗、大根、生きた魚、酒、おはぎ)の膳を持ちながら、歩行は一切ぶれることのない。凛とした顔立ちには威厳が満ち溢れ、気っ風のいい美女という言葉がぴったりだ。

 数歩離れて後ろに侍従のアーティを連れて、共に神楽殿の手前で膝を着いて並ぶ。

 神事は祖先や神様のための儀式らしい。

 川を挟んだ観衆に背を向け、手に抱えたお供え物を神妙に捧げる。

 洗練された一つ一つの立振る舞いに、観衆の中の男性は息を呑むほどに魅入り、女性は深く羨望の眼差しを向ける。

 神子となり増えた二尾が、普段サイカを見ることのない妖狐族に衝撃と感銘を与え、一時場が騒然となるも、進行が滞ることに危惧すると、誰かが注意を入れるまでも無く皆が息を殺す。

 次にサイカはアーティの手にしていた薙刀を受け取ると、たった一人で神楽殿まで上がる。

 瞳を線のように閉じ、呼吸を整え、薙刀の刃先を足下に構えると、舞を奉納するための準備が完了する。

 凛とした表情は瞳を閉じたことで、儚げな乙女の雰囲気を匂わせる。

 すると陽焉神殿の方角から地響きのような重厚な大太鼓、連れ添うような小太鼓、軽やかな鈴の音、冴えた響きの笛の音による演奏が流される。


『……!!』


 世に珍しい神子の槍舞が始まった。

 瞳は閉じたまま音色に合わせ、粛粛と天女のように美しく舞う。

 薙刀は振るのではなく優しく添える。二本の尾もユラユラと、手を広げているように主張する。

 ゆっくりゆっくりと、耳、うなじ、脇、側腹、二尾など純潔な身を、代理人たる陽焉に見せていく。

 地球人には不可能な狐人の全身で表現する舞。回転の拍子に長髪は揺れ、観衆の下まで素顔が向けられる。

 その時皆が「おお」と感嘆の声を漏らす。

 美しい。見る者の平静を奪うほどに美人すぎる。普段の様相を知る俺でも「サイカのお姉さんかな?」と疑ってしまう。


「そういえばサイカはまだ、一言も発していないな」

「カカ、よく見ておる。ついでに言えば瞳も閉じたままだ」


 瞳と声を閉じて薙刀を振り、音楽に合わせて舞う。

 秘するが花と言わんばかりに、見る者の想像力が駆り立たせ、理想の女性を妄想してしまう。


『っ!!』


 瞬間、前奏が終えたように激しい音色が夜闇に響く。

 薙刀は自身の尾を切断しそうなほど豪快に振り回され、舞のテンポも速くなる。

 次第に刃先がユラユラと青い炎に包まれる。

 魔法だ。舞に属性魔法を加えている。

 ここは異世界。魔法を使った神事はあって然るべし。

 身体に引火しないのかと心配になるほど、炎は荒く、熱気が観衆の方まで伝わる。


『ーーーーっ!!』


 青炎に代わり、次は黒い風が神楽殿の周囲に駆け巡る。

 ヒュンヒュンと高音を鳴らし、まるでサイカ自身が一つの楽器のようだ。

 土と火属性の青炎、闇と風属性の黒風、その後の光と水属性の七色の霧など、四季折々のごとく舞は様々な姿に変化する。


「目を瞑り、喉を閉じ、舞を踊りながら、無詠唱で複合魔法を発動する……凄い」

「お主が凄いというのだ。人の世では?」

「神業だ」


 これには諸外国の方々も、身体を震わせて絶句している。

 魔法の才能、舞踊の才能、容姿、性別、年齢など、世界中を探してもこのレベルの舞踊家は五指といない。

 それもサイカは神子だ。箔は世界一と言っても過言ではない。

 すると波が引いたように、再び演奏が落ち着いた物に変わる。


「……涙?」


 曲調に合わせて悲しげな表情を作ると、薄っすらと滴を落とす。

 汗ではない。涙の滴が、宝石の輝きを放って散らばっている。

 サイカは声を上げることなく、誰かに悲痛な想いを訴えているように見える。

 舞を知る観衆の中には、すすり泣く者までいる。俺は解説を求めてバーホーベンへ顔を向ける。


「届け、届け。天の神へ、古き祖先へ、亡き家族へ、感謝の想いを届いてくれと、アスロウの巫女姫は踊り、舞い、祈りを捧げる。――想送ノ儀」

「お願いや、挨拶すらも言えないのか?」

「真なる想いの前に、言葉は無粋である」


 演出的な意味もあるのだろう。

 だが言葉ではなく態度で示す。妖狐族の想いを舞という一つの形にして、一人で届けようとしていた。


「さあ佳境であるぞ!!」


 舞を始めて7分少しが経過する。

 拭うことすら許されない玉の汗に、生々しいほどの疲労を伺える。

 これでも十分に素晴らしい物だが、まだ山場を越えてはいなかった。


『!!?』


 サイカが驚き、一瞬だけ舞が止まる。

 小川の水面がブクブクと泡を吹き、半透明の狐が「コーン」「キュウン」と鳴きながら、次々と水面から姿を見せる。数はゆうに何十匹も登り、観衆のどよめきの中、狐霊は神楽殿へと駆ける。


「こ、狐霊ですっ!? こんなにもいましたっけ?」


 ダンジョンにはいない。リンネルへの返事とばかりに首を横に振る。

 普段見る狐霊はペット同然に飼われているサンロやジロの二匹くらいで、狐霊の数は両手に足らない。

 まるで黄泉の川から泳いで来たように、狐霊がサイカに召喚(よば)れた。

 サイカの放つ霊気に寄せられたのか、狐霊が楽しげな様子で側を走り回ると、狐霊の踊りと鳴き声が加わり、舞は最高潮へと達する。

 周囲を走る狐霊の淡い光が、まるでサイカにスポットライトを当てたように輝いてみえる。


「これは人と魔による舞だったか……」

「儂も初めて見させたもらった時は心が震えたぞ」


 バーホーベンがサイカを見守りたくなるほど、気に入った理由が良く分かった。

 サイカが共に踊る狐霊に微笑み、その笑みが自分に向けられていなくてもドキッと胸を撃つ。

 次に会う時、俺は何と声を掛ければいいのか。そう思うほどに、俺はすっかり魅了されていた。


『っ……っ……』


 そして舞は遂に終え、サイカは薙刀を床に置いて陽焉へ傅く。

 神事はまだ終えていない。陽焉の採決が残っている。

 サイカは荒い息づかいを無理に抑え、休むことも許されていない。

 観衆も拍手喝采を堪え、真摯な視線を陽焉へ向ける。

 孤霊たちはサイカとの踊りに満足したのか、次々と小川へと帰還していく。

 狐霊はかつての妖狐族の人々を記憶している。

 気の利いた狐霊が帰り際に、妖狐族の家族に化けて観衆へと笑顔を見せる。

 この一連の行為に妖狐族の観衆は、無き家族との再会を思い、号泣する者まで現れる。

 無論狐霊は一言も発しない、正確には発せない。狐霊の正体が祖先ではないとバレてしまうから。

 だがサイカですら一言も許されていないのだから、まるで祖先も空気に合わせているのだと考えられる。


『フム、大儀であった』


 陽焉が野太い声を鳴らして立ち上がると、場の空気は期待と不安の熱が拮抗する。

 陽焉は雷と光属性を持つ雷獣である。漆黒の毛並みが逆立たせ、四つの尾を天に向ける。

 するとビリビリと全身から電気が走り、人々の意識を奪うほどの雷鳴と閃光が神楽殿の天井を貫いて降る。

 天地がひっくり返ったようなその行動に、サイカの舞は失敗に終わったかに一同が覚悟した。

 しかしそれは俺たちに向けた(・・・・・・・)合図だった。


「クリスタル、準備はできているな!!」


 俺は立ち上がり、天井へ告げる。

 惚れ惚れするくらい、神事は忘れがたいものであった。

 憧れ、感動し、そんな人物と親しい間柄であることが誇らしいとさえ思った。

 異世界の神事に、俺が一番魅了されたと豪語できる。


「ええ、サイカの奮励に応えましょう!」


 だから今、サイカの努力に応えなくてどうする。

 クリスタルが背後から現れると、胸のダンジョンコアを輝かせ俺の肩に手を添えた。


「「我、願う(ディザイン)!!」」


 第二階層領の改装を行う。森型ダンジョンを攻略する前から決めていたことだ。

 彼らの足元に、失った故郷の光景が一瞬で出来上がる。

 この改装は代理人の陽焉が舞を認め、奇跡を実らせたと、妖狐族には映るだろう。

 肌を撫でる優しい風が葉々を奏で、脳裏に巡る懐かしき香りが現実となって心身を和らげる。

 夢属性の思念共有によって、完全な再現が可能になった。

 朽ちず、奪われない、永遠の原風景を、運命共同者(パートナー)の誕生日に贈る。

 妖狐族の里がダンジョンの中で今日生まれ変わった。


『ぁぁ……』


 震える声が「ただいま」と微かに告げる。

 大人びた女性は涙で化粧が剥がれ、俺の知る少女が舞い戻る。

 神事はこれにて幕を閉じ、少女の号泣を搔き消すように、大歓声に包まれた。

 アスロウ王国の建国日――今日の声涙を、国民は生涯に忘れることはないだろう。




 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:296,534(改装費-1000)

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