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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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21話 ダンジョンマスターの闘い

 上空に浮かぶホラントを見上げる。

 夜の月明かりと燃え盛る草樹の炎がホラントの姿をはっきりと映すが、その身体は影に覆われ、紅く鋭い二つの眼だけが唯一の本体を晒す。

 それは見る者が見れば、地上に降臨した邪神のようであり、恐怖と羨望の眼差しを一身に受け、信奉する者もでただろう。

 それほどまでに扱う魔力が尋常ならざる気配を醸している。


 クリスタルがいれば守備を任せて攻撃に専念できるがこうも言っていられない。

 今は己一人しかおらず、またそうする様に作戦を企てたのも他ならぬ俺自身だ。

 それに彼女がすぐに来ると言ったのなら、それを信じてこちらは無理をせず、彼女がシィルススを連れてくるまで耐えればいい。


 しかし今までが防戦一方の闘いであったがために、相手の思うような流れに事が進んでいた。

 その攻撃のリズムを崩すためにも今度はこちらから専制攻撃を開始する。

 そして目指すは接近戦だ。


 一本の風槍を具現し、ホラントの下へと放つ。

 風属性魔法は近中距離攻撃や支援魔法の特化であり、術者と距離が遠くなるほど攻撃力が格段に落ちるのが難点である。

 また元々の攻撃力も低い方で火属性魔法の熱や、地属性魔法の岩や鋼の硬度と違って結局は空気を圧縮してぶつけているだけである。


 そのため風槍ではホラントに触れることはなく、容易に影の防御膜によって吸収される。

 見た所あの影は闇属性魔法の特性を含み、魔法対策も完璧にされた厄介な装備である。

 やはり直接攻撃をするしかないようだ。


 しかし会話のない無言での魔法の応酬はなんとも味気ない。

 相手が調子乗って能力説明をしてくれると有り難いのだが、このままではこちらが盛り上がるために能力を説明しそうだ。

 いや能力説明は強者又は優勢者の特権で、挑戦者で劣勢の自分がするのは身の程も弁えていない無粋な行為か。

 そもそも真剣勝負の最中にそんなことはしないし、余裕もない。


空気掌握コントロール


 魔法名を唱えるのも、平常心を保ち、イメージする魔法を発動しやすくもするためのルーティン・ワークである。

 魔法とは無縁の世界の出身であるため言わずにはいられないことが多い。


 それに自分の発明した魔法は適当に名前を付けているだけなので知られてもいない。

 そもそもクリスタル曰く、魔法名を上げる時の言語は地球語に訳され、意味の分からないことが多いそうだ。

 それは出会って間もない頃に道端で「How are you doing?(元気ですか?)」や息抜きの食事中にお戯れで「No music,No life(音楽がないと生きていけないの!)」などと英語で会話すると、「はぁ…歌いましょうか?」と呆れた目をしたクリスタルに言われたほどだ。


 それで通じて欲しい言葉の取捨選択をできることが分かった。

 割とそれはこの異世界の重要な秘密の気がしたのだが、判断材料も少ないので保留にしている……と閑話休題。


 俺はこの場で燃え盛る炎から出る煙を、空気を操ることで集める。

 狙いは煙を使った目隠しだ。

 すると周辺は瞬く間に煙で覆われ、それに乗じて姿を隠す。


 旋風探知レーダーで常にホラントの位置を確認しているので、多少煙たいだけの負担である。これはホラントが森を燃やしてくれたお陰で思いついた策だ。

 当たり前だが一酸化炭素中毒にはならないように新鮮な空気を魔法で吸えている。


 するとホラントは上空から闇雲に煙に向けて魔法を放ち、煙を消そうとするがすぐに別の煙を持っていき修復する。


 ダンジョンだから雨も降らず干ばつの森で、さらに風属性魔法で他の樹へ飛び火するように煽ったのも原因か、火の回りが非常に早い。そのため煙ならどこからでも出てくる。

 そうならばもう風を扱う俺のフィールドだ。


二重風刃ダブル・ウィンドカッター風爆大槍エアロバースト・ビッグランス風爆大砲エアロバースト・カノン!!」


 こちらは身を隠し、相手の位置も分かる優位な状況のため一方的な攻撃だ。

 今までが防御主体であったがため鬱憤も溜まっていた。


 正確無比の狙い済まされた魔法にはホラントも魔法を使い応戦してしまう。

 その衝突でまたも一帯に衝撃と爆発の音が轟き地形は崩壊する。

 しかも今度はその数倍だ。

 

「ふははははははーーーもっと鳴らせぇ!全て壊してみろ!!」


 抑えることをせず、風に乗せた樹々や岩、炎までもホラントへと飛ばす。

 その全てには本気の殺意の篭った威力が有している。


 地球でこれほどまで開放的に暴れることはできるだろうか、異世界に来てこんなに白熱することがあっただろうか。

 体がずっと飢えていた、心がずっと乾いていた。

 身体が思うように動き、魔法が想像通りに実現する。

 今こそ生きていて素晴らしいと思ったことはない。


「……っていやいやいやいや落ち着けよ俺!なに頭のおかしいこと言ってんだ!」


 そもそも煙は接近するための作戦だっただろ、中距離魔法の使い過ぎだ。

 これは生前の衝動か、それともダンジョンマスターになった本能なのかっ!?

 冷静さを失って無駄に魔力も消費したじゃないか。

 それに森も燃やしすぎて後のことを全く考えていないよ俺の馬鹿ぁ。

 クリスタルの方も巻き込まれてないか心配だ。


 精神のコントロールを忘れ、自重の際限もなく魔法をただぶっ放していたことが恥ずかしい。

 それに今も自分のために闘っている仲間を他所に、本能に従い欲求を満たしていたことが何よりの裏切りだ。

 これで負けたら仲間に死んでも顔向けできない。

 俺は一呼吸入れ今一度気を引き締めることにした。


◇◆


 ホラントはセカイが煙に隠れたために見失っていた。

 試しに火と闇の魔法で煙を払うもすぐに修復される。

 しかしこれでは埒が明かないと思ったホラントの対応は早かった。

 セカイが煙を利用したので、ホラントは相手の平常心を奪う精神支配の魔法————狂素翠霧キョウソスイムを使った。

 それは森林全域に撒かれている霧の魔法だ。

 だがホラントが直接撒く霧は即効性も効果も高く、敵が注意せず一点の場に留まる状況ならば極めて有効的な魔法である。


 そして霧が煙の中に紛れると対象を徐々に蝕んでいく。

 するとセカイが無作為に魔法を放ってきたので精神支配の効果が出たと感じた。

 しかし驚くことに、その魔法が正確にホラントの下へと向うので、本当に精神支配されたのか慎重になる。

 魔法は今なお放たれ、辺りの地形を無残に変える。

 このままセカイが無駄に魔法を放てば戦いはすぐに決着する。

 しかしそうはならなかった。

 十をも超える魔法攻防戦が突然と止むと、今度は煙がホラントへ向けて登ってきた。


◇◆


 落ち着けえぇ……落ち着けえぇ……。

 確かに強敵との戦闘は楽しい、気持ちも高ぶってしまう。心身を限界まで凌ぎあい、各上相手をいかに出し抜くかはゲームや小説でも醍醐味だ。


 未だに自分が生前どんな人物だったのかも碌に思いだせないが、そういったものをやっていた知識・・はある。

 しかしこれは現実、一つのミスが生死を分ける。

 俺には帰るべきダンジョンと仲間かぞくがいる、こんな所で死んでたまるか。


 気持ちを落ち着かせ切り替えるためにもクリスタルさんの百面相を想う。

 喜び、怒り、悲しみ、微笑みから始まり、恥らい、驚き、恐怖、悼み、忍び、呆れ、哀れみ、不審、困惑、軽蔑、嫌悪、あれ……嫌われているのかな、負の感情の顔ばかりを思い出すよクリスタルさん……。

 いや最後に慈しみ、真夜中に震える手を握ってくれた優しい顔を思い出す。


 よし、これで冷静になった。先ほどのような暴走はもうしない。

 これから行う作戦に気合を入れるため、魔法を唱える声を大きく上げる。


空気掌握コントロールッ!!」


 もう一度周囲に漂う煙を全てホラントへ送る。

 煙は多く、どこへ逃げようとも全て迎え打つしかない。

 そして煙に覆われたのはホラントであり、俺は姿を見せる。

 すかさず風槍を放ちホラントを牽制する。

 しかしその程度の魔法ではダメージにならないことは分かっている。


「颶風一体!」


 暴風を纏い、ホラントのいる上空へと跳ぶ。

 颶風一体を使えば飛べないが跳ぶことはできる。そして上空へ跳びながらもホラントに向けて風槍、風大玉などで牽制する。

 するとホラントは邪魔な煙を全て消すための大技を使う。


『終焉ノ闇』


 ホラントを中心に広がった闇の波動がすべての煙と風槍や風大玉を喰った。

 まさしくそれは闇の彼方へと消えていったのだ。


 ホラントは下方にいる俺を探すも見当たらない。脳裏にはまたも逃げたのかと浮かび上がり、すぐに森林の方へと目を向ける。

 しかし森を見るも動く影が一つもない。

 ありえない、先ほどまで脆弱な魔法で小細工を弄していたのに、一瞬で目の届かないところまで逃げるなど無理だ、どこへ隠れている!?


 するとホラントのいる空中のさらに上空から風を切る音が聞こえる。

 それはまさか——。


「ここだぁぁぁぁ!!」


 剣に風の刃を乗せて、ホラントのさらに上をいく空から現れたセカイによってホラントの身体は肩から斜めに斬られる。



 俺はホラントを斬った勢いのまま急降下するも地面直前で魔法を使い何とか無事で着地する。

 反面ホラントは斬られた衝撃によって大きく体を回転させながら地面へと落下していく。

 

「よし、これで一撃を加えることができた。それも深い!」


 颶風一体により大きく跳ぶとそのままホラントを素通りしていた。

 そして上空に何とか浮きながら、下級の風魔法を大きく迂回させる形であたかも下から攻撃したように見せた。


 ホラント自身煙に囲まれた瞬間に魔法を唱える態勢に入っていたので、あのまま突っ込んでいたら撃墜されてホラントの身体まで触れることはできなかっただろう。

 それに完全に不意を突いたのが大きい。

 おかげで魔力こそ大きく減って残り四分の一ほどしかないが、ダメージ量はホラントの方が圧倒的に多い。


 ホラントは未だに地面へと倒れている。

 このまま駆け寄り止めといきたいが、先ずは様子を探ることにする。

 正気になったのなら有り難いし、身を震わせ何か言っているホラントが恐ろしくて近づけないのもある。


「ホラントさん、シィルススさんが待ってます。話をしてくれませんか?」

『あ、あ、あ、あ、あ、あ』


 やばい、完全に逝っている。

 やはり赤の他人では彼を呼び覚ますことは無理なのか。

 するとホラントはずるずると立ち上がるも、ダメージの影響でもう飛ぶことができないそうだ。

 しかし俺を凝視する瞳は殺気立つ気配を持っている。


 魔力を睡眠、体力を食事と例えると。

 俺はお腹がいっぱいだが眠たいなか徹夜している状態であり、ホラントは目を覚ましているも空腹で飢えている状態か。

 そう考えると、ホラントの目をギラつかせるのも納得のいけるな。そして俺は体がダルくて目が死んでいる気もする。

 お互いかなり疲弊している。しかし漸くこれで二人は五分と五分の状態になった。


 しかしそれはただの勘違いだったと知る。

 ホラントが腕を掲げて魔法を唱えると、周囲の気温が急激に下がる。

 辺りの炎も鎮火していき、吐息が突然に白くなる。


極寒地獄ヘルヘイム

「は?」


 そして一瞬で周囲一帯を氷の世界へと変えた。

 氷属性魔法ッ!?


 こんな隠し技まで持っていたのか、今まで闇と火の属性魔法しか使わなかったため完全に油断していた。

 おかげで脚に氷がへばりつき、身動きが取れない。

 俺は何度も思い知る。

 自分の挑んでいる相手は絶対的に差がある天災級ダンジョンマスターであることを。


『終焉ノ闇』


 そして強力な闇属性魔法が放たれた。


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