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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第八章 聖天へ送る新星の勇儀
208/214

198話 補強

 険しい植物が生い茂る山林を進むと、巨大な土壁が眼前に広がる。

 人為的と呼べるその壁は、写真でしか見たことのない万里の長城を彷彿とさせ、果てしなく続き内と外で区分けしている。


「ここが三帝領……の入口か」


 勿論、内側とは三帝領のことであり、外側にいる人類とは況や世界の端っことされる。

 その気になれば誰もが侵入は可能であり、逆に内側から魔物が人界へ襲いに来るそうだ。

 最近知ったことだが、バロメッツ農家で出くわしたミラージュレイヴン。奴も元は三帝領から逃げ出した魔物だったらしい。


「この土壁は、森型ダンジョンの高木、我々の迷宮壁と同じように、どれほどの力を加えても破壊することができません」


 最硬のクリスタルの腕が壊れるほどぶつけても、壁は傷一つだって付かない。ダンジョンの自動再生機能すら使ってくれないほど、クリスタルと三帝領ではダンジョンの差が歴然と広がっているほどだ。


「まさに三帝領は超超超大型ダンジョンだな。世界の支配者(ワールドマスター)に相応しいぜコンニャロウ」


 これでも人類はよく頑張っている。

 冒険者ギルドと自由三ヵ国の働きにより、おおまか世界地図が存在している。

 俺は七ツ星冒険者の特権によって、一度だけ見させてもらったことがある。

 その上で三帝領の領土を人類国家で表すと太陽の統べる帝国(ニケル・ヘイオス)とエルラッハ王国の中間、第二位を誇る。魔物しか生息しない力の理不尽は、ここ異世界にとっての異世界に相応しい。


「素直にバーホーベンの助言を聞いておこうか」

「私も同意します。剣、盾、馬、兵站、数。どれもまだ魔帝に適うとは思えません」


 目指す戦力は最低、天災級。

 エルラッハ王国の率いる西部諸国が、三帝領に戦争を吹っ掛ける期間はあと二年。

 その猶予まで俺は、力を蓄えることが出来る。


「さ、補強するか」

「ですね。今は上級、幹部たちのダンジョン防衛能力を高めましょう。――《アクセス》」


 クリスタルが帰りましょうと、ダンジョンへ帰還するための光の扉を開ける。

 ダンジョンは攻略するだけではなくされるもの。クリスタル本体の警護と移動は星天狼のアカボシに任せ、ダンジョン内部の指揮をメアに任せている。おかげで俺はダンジョンマスターとして、運営に専念出来るのだ。



 ダンジョンを攻略する時は遠征組を始めとした上級幹部の面々も、重要戦力として前線で戦ってもらうことになっている。

 だがその時のダンジョン内部の守備はどうなっているか。それは幹部の片腕たる補佐役が、階層責任者に変わって代理責任者となっている。

 今日は中でも上級へと進化できる補佐役たちに、始まりの部屋へと集まってもらった。


「第1階層墓地エリア担当、ジャックランタンのウリィ」

「ガハハハー! 呼ばれて飛び出てパパパパンプキーン!」

「大魔王様は俺だからな」


 南瓜の二頭身小僧。頭に三角帽子、両手にキャンディケインとランタンを豪快に振り回すアンデッド一、愉快で厄介な魔物ウリィ。


「第2階層迷宮エリア担当、キメラスケルトンのティラノ」

「ぎゃう!(ちゃんと並べ、ウリィ!)」

「よし、ティラノは良い子だな」


 先の森型ダンジョン攻略では大活躍したコモドオオトカゲ型スケルトンのティラノ。


「第3階層雪原エリア担当、霜の小人精霊(ジャックフロスト)のアガパンサス」

「主人よ、ここのところ姐さんが顔を見せないのですが、何かありましたか?」

「ああ、最近友達も出来たり、大森林の魔物の治療で忙しかったからな……しばらくは我慢してくれ」

「しばらく……30年くらいですね、分かりました」

「それは長いよ!」


 スイレンの右腕(パシリ)で青髪猫目ショタジジイのアンサス。だがサウラ王国での討伐隊防衛によって片足を欠損して杖を常時持ち歩いている。


「第6階層居住区担当、女鹿精霊ルオットチョジクのティアル」

「わたし、一度も守護したことはないのですけどね」


 ティアルは回復、魔力贈与と欠かせない役割から、幹部と同じくらい大切な位置におり、俺の同志でもある。


「今日から独立戦力に異動となる、ホワイトウルフのミカ」

「クゥオウ!」


 ミカがやったと歓喜の遠吠えを上げる。

 アカボシ唯一の眷属であり、これでもアカボシに次ぐ走力を持つ。

 雪原エリアは千年大樹アッシュもいることから、この機会に独立戦力として異動してもらう。


「あとはリビングウェポンのローサとリリウムですね」


 深紅のフランベルジュと白銀のロングソードであるローサとリリウムは、ダンジョンで実体化したクリスタルに持たれながら、ガタガタと振動して自己主張する。


「以上七名。お前たちを上級へと進化させる! 今まで本当に待たせたな」


 俺の上級眷属化定員は15。三大天の分も合わせる28に増えた。

 第4階層の大森林と、第5階層の農園はまだ上級進化できる者がいない。

 農園はマカリーポン姉妹と昆虫三剣士と有能な候補がいる分まだいいが、大森林はアルラウネ、オーク、ユニコーン、妖魔と、質よりも数という印象が否めない。だが平時はバル、アカボシに続く戦闘力のグスタフが階層守護責任者なので不安は少ない。最悪、農園のマカリーポン姉妹のどちらかに指揮を任せば済む話。


「あのセカイさん。わたしはまだ上級への進化は……」


 ティアルが怪訝、と呼ぶよりも若干心配そうな眼つきで訴える。


「安心しろ。ティアルだけはこれを食べてくれ」


 俺はしたり顔でローブの内側から、心臓のように真っ赤に染まる果実を取り出す。


「普通、懐から発酵食の臭みのある食べ物を取り出しますか? 正直言って気持ち悪いです」

「むぅ。これでも進化を促す幻の果物なんだぞ!」


 良い感じに熟しているが、気持ち悪いとは酷い言い草だ。

 上級ならば戦果と合わせてやっと位階進化ができるが、中級のティアルならば食べるだけで多分上級下位まで進化できる。


「まぁ食べろ」

「ぅげ」


 ティアルに差し出すも受け取ろうとはしてくれない。

 スンスンと小鼻を動かし、涙目で後ずさる。五感の優れるティアルは、臭いからこれが美味さから程遠いものだと察知したのだろう。まったく、勘のいい奴は嫌いだ。


「せめて火を加えるとか、調味料で臭みを紛らわせるとか……」

「それで効果が落ちたらどうする?」

「待ってください。わたし、戦って成長します!」

「治療班は戦闘機会が少ない上に、絶対に五体満足で帰さなければならない。これがある意味で戦闘だと思ってくれ」

「い、今、すぐにですか?」

「数に限りがある。なるべく新鮮なうちがいいだろう」


 ティアルが一歩退けば、俺が一歩また進むまで。

 壁へ追い詰められて足が止まった瞬間、怪奇現象かビクンと果実が脈を打ち、「ひぃ」とティアルが悲鳴を漏らす。

 それはきっと命の鼓動なのだろう。進化の実が「私を食べてくれ」と謳っているのだ。


「さあ食せ、呑め!!」

「わ、わたし、用事を思い出しました!」


 これでもティアルは齢200を過ぎたババアの分類でもある。子供ならいざ知らず、いい大人が好き嫌いをするものではないと、俺は強硬策に出ることにする。


『シャー!!』

「っ!?」


 二匹の金蛇がローブから飛び出ると、ティアルの身体を『8』の形で拘束する。


「ぁぁん」


 肢体は見事に絞められて逃れる術はなく、平均的な大きさの胸は誘うように盛りあがり、上着がめくれてチラリと見える白いお臍、涙を堪える健気な瞳は、何とも男の血気を高揚させる。


「く、クリスタルさん……」


 ティアルの訴えは、当然クリスタルの方へと向けられる。


「……頑張って、ください」

「そんな!?」


 だがクリスタルは目を背け、片肘を抱いて経過を静かに見守る。懐柔に抜かりはない。今はメアやリンネルといったお子様に見せられない状況でもない。ティアルは始めから、詰んでいたのだ。


「ほらほら飲めや! このピンク色で生暖かい、少し濃いような臭いで、ネットリとした汁を零す、生命の源を有り難く咀嚼しろ!」

「んーんん!? んん!?!?」


 さすがにお触りはエヌジーである。

 風属性魔法でストローのような透明の管を作ると、進化の実を握り潰した液体をティアルの口内へと無理矢理に押し込む。


「んっ、んん…….」


 ごくごくと喉が動くたびに頬は紅色としていくも、ある境に真っ青へと急変する。

 味の方は個人的な感想を述べさせてもらうと、地球一の臭みを誇る塩漬けの鰊(シュールストレミング)だ。俺も恐らく食べたことはある。カレー味のうんこの方が何倍も良かったと後悔しただろう。


「ぅぇぇん、酷い、です……」


 十数分間の格闘の末、ティアルは目を赤くしながら召し上がることができた。

 クリスタルの用意した息清涼で口を濯ぐと同時に、恨み言を吐くことも止まない。

 しかし進化の実の効力は本物らしく、ティアルは無事に上級進化が可能になるまで、魂の格を上げていた。


「おかげで生産職も、これで進化できることが分かった。ありがとうな」


 戦わずして進化が出来る。

 そんな都合の良いものが存在するなんて半信半疑であった。

 だから予め反感や敵愾心、または達成感を抱かせ、擬似的に戦闘の余韻を感じさせる必要があるとクリスタルと話し合った。別にこれは趣味だけでやったわけではない。

 リンネルとスイレンから進化の実を全てDPと交換をさせてもらい、残りあと四つ。

 戦闘のできない生産職からミ=ゴウのミーエくん、サイクロプス兄弟のタイショウ、モンスターハウスのマナーが食べる候補として上げられている。

 だがこの三人を辱めるには絵面が酷いため、ティアルを槍玉に選ばせてもらった。

 まあぶっちゃけると、ティアルの容姿性格が俺の好みで単に遊びたかっただけだ。


「はあ……仕方ない、特別・・ですよ」


 ティアルは微笑み、ようやく立ち上がる。

 これでここにいる眷属が上級へと進化できるようになり、進化のためにDPをコアへ送る。


眷属進化エイヴォル!!」


 全員で占めて13,000DP。

 それは中には上級中位(・・)まで進化できる眷属がいるからだ。



【ウリィ 種族:悪夢の南瓜ナイト・オー・ランタン 階級:上級下位 属性:夢属性】

【ティラノ 種族:キマイラスケルトン 階級:上級中位 属性:闇】

【ミカ 種族:氷大狼フェンリル 階級:上級中位 属性:氷】

【アガパンサス 種族:ダークフロスト 階級:上級中位 属性:氷、闇】

【ローサ 種族:付喪刀リビングソード 階級:上級下位 属性:闇、雷】

【リリウム 種族:付喪刀リビングソード 階級:上級下位 属性:風、氷】

【ティアル=ルオット 種族:ルオットチョジク 階級:上級下位 属性:光】



 ティラノ、ミカ、アンサスの三名は、中級上位を続けながら、多くの戦闘を経験してきた。結果、もう一歩まで進化することができた。

 それは冥途の館では黒妖狼だったアカボシが良い例だ。

 当時のアカボシも中級でありながら、ダンジョン攻略に眷属の中(・・・・)で一番に活躍した。

 その自尊心と功績が、一気に上級上位の獄炎の魔大狼(ヘルハウンド)まで進化する結果に至った。


「ガハハ!! オイラ、神っててスゲー!」

「そこは士な。字が違う。つかアンデッドが神るな」


 ウリィの見た目は衣装だけ変化していた。

 白と黒が特徴のシルクハットにモーニングコートと紳士的な服装をしており、さらにキャンディケインに代わって真っ黒なステッキも握られている。


「確認……夢属性とは、闇属性魔法の幻影系統を一点強化した属性のようですね。この世界でも初めて見る個体ではないでしょうか?」

「はは、これはウザさに磨きがかかるな」


 ウリィにはまだホラントからの特殊魔法道具の贈り物がある。だけどウザさを助長させるので、渡すのは後日にしよう。


「おめでとうティラノ。これからもメアをよろしくな」

「ティラノ、が、守ル!」


 ティラノは冥土の館で退治した時に似た、二足歩行の爬虫類の骨格へと進化した。

 あとで龍種の骨と交換して、変形のバリエーションをメアと愉しもうではないか。


「ミカは先ずアカボシに報告してこい」

「クォン!!」


 白銀に輝く美しい幻獣種の狼。氷大狼は星天狼であるアカボシの影響が出たのだろうか。ヘルハウンド時のアカボシよりは小さいが、馬を超える立派な体格だ。

 クリスタルが外界への転移門を開き、ミカは駆け足でアカボシの下へと向かった。


「……これでナニが入るかな?」

「ごほん」

「冗談だ」


 続いて目付きがやや凶悪になったアンサスを確認する。

 妖精種は基本属性に、善の光か悪の闇のどちらへと別れる場合が多く、アンサスの場合は闇属性となった。


「上位進化しても欠損は治らない仕組みなのか」

「ええ、ワタシはこの通り自在に浮けますが……」


 重力を無視してフワフワと空を舞う。俺の飛行魔法と違って無音のため、色々と索敵に使えそうだ。


「魔法道具は義足でお願いします」

「ああ、すぐに作ってやる」


 魔法道具作製で義足兼武器を作る。

 欠損を補う補助魔法道具は、ダンジョンの撒き餌として人間界でも需要が出そうで、いつか試してみようかと考えていた。


「ローサは新たに雷、リリウムは氷を加えてみた」

「まるでスヴリーとアッシュの短剣杖ですね」

「そうだ。二刀は特殊魔法道具の魔物だからな。武器は装備できないが付加はできた」


 おかげでクリスタルの攻撃力の問題も、解決できた。


「へい、ウリィ! お前の大好きな南瓜のパンケーキだぞ!」

「わーい、南瓜~! 共喰いぃ? でもそんなの関係ねー!!」


 懐から用意していたお菓子を空へ投げると、ウリィがまんまと飛び付いてくれる。

 この隙にクリスタルへ目配せすると、クリスタルは溜息を吐きながら――


「ローサ、雷血鞭!」

「ん? ギャヤヤヤヤ!?!?」


 ローサは闇属性で血を鞭に形状変化させるとウリィを捕え、鞭に雷属性を纏わせる感電させる。やったね、これで激痛が二倍だよ。


「リリウム、氷風剣」

「ポキャヤヤヤ!?!?」


 さらにリリウムは俺の使用している氷風剣を完全に真似ると、ウリィを氷漬けにしながら切断する。

 ウリィの尊い犠牲によって、天災級を相手にしても十分に傷を与えられる威力だと分かった。


「残念、それは分身だ! ガッハハハハー!」

「え?」

「おお!」


 ウリィの方も早速、夢属性魔法で危険を回避する。というか分身ではなく、死んでから本体を新たに再生していなかったか?

 手応えのあったクリスタルですら、驚きを隠せていないでいる。


「ねえ、お菓子は? オイラのお菓子は? お菓子どこー?」

「はいはい、好きなだけ食べていろ」


 ローブの内側……闇属性魔法のゲヘナ・ハーヴェで大量の菓子を取り出すと、ウリィのシルクハットの中へ入れる。これでようやく場は静かになる。


「最後はティアルだが……ティアルのままだな」


 失った鹿角が生えたくらいで、見た目は特に変化がない。どうやら角は、欠損扱いではないらしい。


「むう。わたしは一生、女鹿精霊ですよーだ」


 一人だけ種族の変わる上位進化ではなく、普通の階級進化だ。

 折角ひどい試練に耐えたのにと、いじけている風に見える。


「悪かったって。その鹿角、とっても似合ってるぞ」

「すんだ」


 先に角を褒めればよかったか、頬を膨らませてまだ機嫌が治らない。


「ところでティアルの魔法道具は武器、防具、衣装、装飾品、楽器。どれがいい?」

「ふ……飾……がっ……武具は必要ないです!!」


 ティアルは何度も出かけた言葉を途中で止めるほど考えに暮れ、おかげで注意は既に魔法道具の方へと移ってくれた。


「とりあえず天属性の魔法道具を作ってみようか?」

「はい!」


 属性の方は直ぐに決まる。

 天属性は非常に強い……ことはない。

 十徳ナイフのように便利だが、複雑すぎて作製に時間と労力が何倍も要してしまう。


「ところで私には、何か作っては頂けないでしょうか?」


 珍しくクリスタルが、お願いを申し出てくれる。

 日頃からダンジョンの運営、監視、教育、清掃、移動など、誰よりも働くクリスタルに、感謝の贈り物を渡せる機会は、俺の方が有難く思う。


「喜んで。魔王級記念に、クリスタルの分も何か作らせてはくれないか?」

「はい。属性はもちろん天。髪留めの次は……そうですね、戦闘の支障にならない程度の指輪でお願いします」


 少し悩んだフリを見せると、悩むティアルへ誇示するように言い切る。


「決めました! わ、わたしも、指輪……のネックレスで!」


 ティアルも慌てて真似るように決めたが、指輪のネックレスと要望に少しだけ変化があった。

 俺はそこに女の意地を垣間見えた気がしたが、指摘しないでおこうか。



 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:313,050→297,000 (眷属進化13000、魔法道具3000、その他50)

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