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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第八章 聖天へ送る新星の勇儀
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197話 懲役500年の英雄へ

「今から俺たちが三帝領へ出向いても大丈夫か?」


 ここバルクバルド共和国にも、三帝領と隣接しているため、半日も飛べば侵入することができる。


「それは……無理であるな。時期尚早、良くて壊滅の生還。あの地へ踏み入れた者は誰もが敗北を知る。そうなっているはず。セカイの魔帝級への進化条件は?」


 つまり魔帝級になってから行けということか。魔王級と成って次の魔帝級への条件は、クリスタルより告げられている。

 この場にはサイカもいるが、隠すことでもないので正直に話す。


「500万DP、と何か(・・)だ」


 それは俺たちですら分からないからだ。

 魔王級へは50万DP。バーホーベンが曰く魔神級へは魔帝級を三体倒すこと。

 中間の魔帝級だけは、俺を俺よりも知るダンジョンのクリスタルですら分からない。だけど六種族の長が魔帝級であったり、魔神級の存在が一体しか許されないことから、格の上では魔帝級が実質の最大といってもいいのだろう。

 だからこそ不可解な条件があっても良いと俺は思い、クリスタルだけが難題に対して知恵熱を出そうなほど参っている。


龍種ワシの場合は龍系の群を成し、魔王級の配下をいくばかり用意すること。ダンジョンマスターとはやり方からして程遠い。一先ずはDPの方だけを集めても遅くは——」

「そんな余裕はないのよ!!」


 サイカが代弁してくれる。


「失礼。今は魔神の遊戯中であったな」


 対戦者がいる。先に三帝領を攻略した者が、魔神ルシナに挑戦できる。

 人間側からすれば、世界の命運を賭けた戦いが知らずの内に開始されており、サイカにとっては母国を滅ぼされた仇でもある。

 今は三帝領の他に、対戦者を知る必要がある。

 魔物の素材集めとしてエルドシラ大陸東部へと向かったアギトとろんどんの二人に、大帝国の動向を調べてもらわなければならない。


「いや、十分だ、ありがとう。ダンジョンの王国でも築くことを、視野に入れとくよ」

「うぬ。達者でな」


 バーホーベンには洞窟の中に転移門の設置の許可と龍の涙を貰って、俺とサイカは立ち去ることにする。

 転移門を通じてバーホーベンとはいつでも会うことはできる。

 俺が冒険者ギルドと交わした契約に、『人の生活に影響を及ぼさない範囲でしか、転移門を開いてはならない』ことになっているが、バーホーベンは龍であり、洞窟まで突破できる強者もそうはいない。


「脱! 脱無職!! これでワタシも天にいる父様と母様に顔向けできるわ!」


 サイカの方も資源確保という国政を左右する大手柄を上げた。

 二又の尻尾がじゃれ合うように踊り、大いに舞い上がっている。

 天子としてサイカは、下々の前に顔を出していい立場ではない。

 そのため隔離されるように普段は部屋に篭り、煎餅を口に、恋愛小説を片手に暇を持て余す生活をしていた。


「ハハ、龍の世話とはまた壮大。お前はつくづく、俺の予想を超えてくれるよ」


 天子の力で身バレされ、ダンジョンに国作りまでして、神子となり、次は龍と来た。

 アスロウ王国はこれから飛躍的な発展を遂げるだろう。

 ダンジョンという狭い空間が人的被害や自然災害を防ぐ上では優れ、食料自給率や資源の問題も徐々に解消されつつある。

 俺たちは物資や知識を与えず、場所だけを貸しているだけだ。アスロウ王国は、これからも妖狐族かれらだけでやっていける。


「にひひ、ついでにアンタの面倒も見てあげるわよ、一生ね」


 そこには今を楽しんでいる満面の笑みが広がっていた。


「お前が男なら、メアの嫁に出してもいいのにな……」

「そういう意味に聞こえてたの!?」


◇◆◇◆


 サイカとは報告もあって別行動となり、俺は如何にも砂漠超えでもするようなマント服で、アスロウ王国第二階層領の更地へと人知れず足を踏み入れる。


「あ、マスターではありませんか、お帰りなさいませ!」


 フワフワとした金髪のロングに、キトンの衣装から見え隠れする掌サイズの純白の翼を生やす女性が、大きく両手を振って俺へと駆け寄る。


「ご苦労だ、アルル。だが今の俺はマスターではない。伝説の旅人ワールドスターだ」


 風でマントを煽り、ヒーローの登場シーンを演出してみせる。


「おお失礼! マスター=ワールドスター様ですね!」


 アルルの感極まった声に、すぐそばにいた姉妹たちもゾロゾロと集まり出す。


「そこはセカイ=ワールドスターすよ!」

「セカイ=ノヴァ=ワーほにゃららの可能性もある」

「ますたーではない? ろーど? あのう、どちらでお呼びしましょうか?」

「おっふ、俺が悪かったからもうその話題は止めてくれ」


 小学生から大学生までと、姿形は似ていても成長の具合が異なる下級天使四姉妹。

 下級の天使でも、聖気という尊い雰囲気はちゃんと備わっている。

 彼女らがいるだけで魔物であっても恐怖や敵意を生むことはなく、自然と調和のとれた環境を作ることができる。


「あまり大声で騒ぐものではない。俺がここに来ていると知られたくもないが……」


 俺とクリスタルは、表立ってアスロウとは関わりを持たない。

 アルルが来てからは、風属性魔法で盗聴されないように音波をある程度は操作していたが、視線をティアルの方へと向ける。


「落ち着いてくださいね。あと二、三日もすれば、家族の下へと帰れますから。今はゆっくり横になってください。――中級黄光回復クリソベリルヒール


 第二階層領は更地であることを機に野戦病院と変わり、負傷者の治療が懸命に行われている。

 冒険者ギルド、アスロウ王国、ダンジョンの眷属からは四姉妹やティアルも精神治療の分野で大いに活躍している。そして本当に酷い者は屋内の方に運ばれ、人目を避けている。


「アルル、これを待機しているスイレンの下まで運んでくれ。クリスタルには説明したが、一応は注意事項などもメモに纏めてあるから、あとは任せた」


 2リットルほどの酒瓶に詰まった龍の涙を、長女のアルルに手渡す。

 ここがダンジョンのためクリスタルに見守られ、間違いが起きることもない。

 全ての治療は、ダンジョン一の回復魔法使いのスイレンの手で終わらせることにする。


「まあ……器越しに伝わる命の温もり、強かな品の香り、天に勝るとも劣らない気質は、まるで生命力(マナ)の宝物、これが伝説の龍のな――」

「おっとストップな! お使い、頼まれてくれよな?」

了解(ラジャ)であります!」


 本当に事故らないか心配になってきたぞ。

 だが俺には他の用事もあるため、ここは天使を信じて治療結果を待つだけだ。


 第二階層領の西には農業区、北には我らノヴァ領の墓場エリアへ続く入り口があり、北東部には影を潜めるように、木造建築の円形神殿がひっそりと構えている。


「目が覚めたようだな」


 中にはアスロウ王国からサイカと護衛のリンセン。バルクバルド共和国からはジョージとイクシオンの二人ずつがいる。


「はい。セカイさん、改めて魔王級への進化、おめでとうございます」


 森型ダンジョンの元ダンジョンマスターのタロスが、薄皮のローブ一枚の格好で、被告人のように中央へ立たされている。

 体長は少年へ、豚を擬人化したような下級オークの姿へと変わっているが、精神支配特有の目の淀みや心の歪みもなく、正常な思考の持ち主だと直ぐに判断できる。


「人間の裁決を、聞かせてもらおうか」


 冒険者ギルドの関係者がこの場にいないのは、これが政治に関することだからだろう。

 今からタロスの処遇について、参加した二ヵ国で協議される。

 タロスの生存を知っているのは、ダンジョン攻略に直接参加した者たちだけ。酷い言い方だが彼らを説得できれば、タロスを生かせる道はある。


「うむ。俺から言わせてもらおう」


 バルクバルド共和国の中央政府より派遣され、今回の森型ダンジョン攻略の最高責任者であるジョージが、俺に睨みを利かせて語り始める。


「簡潔に被害規模を述べるなら、愚者の森近隣の村々や都市からおよそ一〇万人の死傷者、冒険者の方は二度も討伐隊撃破されたほどだ」


 攻略する前から聞かされていたが、タロスたちが玉鋼龍バーホーベンを利用して、討伐隊をも撃破したことから、改めて規模が魔王級災害と認定された。


「それくらいは確実にやっています……眷属の進化、道具の生産、森型ダンジョンの拡張、天空樹の育成などで、僕は50万DP以上を貯めていましたから……」


 一切の反論がなく、深く反省しているのか意気消沈している。


「つまりは即刻、極刑。衆人環視の下で皮を剥ぎ、四肢は引き裂かれ、己の過ちを苦痛のドン底で後悔しながら、少しずつ死ぬだろうな」

「ぅげ、よくそんな残虐な殺し方をできるわね。アスロウなんて斬首よ」

「何も好きでやっているわけではない。大国ともなれば、見せしめ、報復、法の遵守、それに被害を受けた人民が納得しない」

「な、なるほどね! 車輪の刑なんてどうよ、リンセン?」

「姫、処刑の方法で国家の威信にかかわることはありませんよ」


 そこが問題だ。

 タロスを生かしたことは俺の独断であり、被害者であるバルクバルドの意見は最も尊重しなければならない。


「タロス、お前はそれでいいのか?」

「……赦されるためなら、当然のことです。セカイさんは償えと僕に仰ってくれましたが、個人の願望では叶えられないほど、僕は多大な迷惑をお掛けしました」


 だからこそ俺はタロスに生きて、やり直すチャンスを与えたかった。

 ジョージも政治家として虚偽の報告は行うつもりはなく、タロスの方も絶対に生きたいとは願ってもいなかった。


「何ならアスロウに亡命する?」

「アスロウの天子よ。それはさすがに我ら(・・)が許さんぞ」

「じょ、冗談よ。ただ抜け道を紹介しただけ」


 龍の次は豚も仲間入りさせるのかと、俺の方もヒヤヒヤした。

 サイカとて西部大陸一位の国家に喧嘩を売る度胸はない。

 だったら身柄の引き渡しとして、俺が交渉によってバルクバルド共和国に譲歩させる以外の方法は思い当たらなかった。


「人なれば極刑。だがロッテンは魔物だ」


 するとイクシオンが、タロスの両肩に手を置いて宣言する。

 魔物が人を襲うこと。オークの強姦も、生きるための力を奮ったにすぎない。

 快楽を求めて命を弄ぶ所業とは違う。


「責任は、使い魔の主人が負うことになる」

「あ、アイゼン!?」 

「そして今は友だ。今度こそ、私たちが罪を犯さぬよう、共に背負おうではないか」


 つまりタロスは魔物なので罪に問えない。

 この場合はイクシオンがタロスを使い魔として、一生の面倒と責任を負うということか。

 さすがに共和国が誇る七ツ星級単体戦力を死罪にはできない。名誉を放棄する代わりに恩赦が与えられ、二人一緒に国家のために死ねと言われれば喜んで死ぬくらいに尽力すると?


「サイカ姫、貴女の天子の力で、ロッテンがあと何百年ほど生きられるか視れないか?」

「んー、分かるよーで、分からなーい?」


 サイカが天子ではなく神子であること。さらに目の能力までは、妖狐族の中でも知る人間の少ないトップシークレットだ。

 サイカは科を作った態度で、問うたイクシオンではなくジョージの方へ返事をした。


「ええいまどろっこしい。要求を言え!」

「龍の洞窟の件についてゴニョゴニョ」

「分かった。善処しよう」


 サイカからの耳打ちを終えると、ジョージは説教でも垂らすようにタロスと向かい合う。


「タルタロス=ロッテンとイクシオン=アイゼン! お前らは二人で懲役500年だ」

「っ!?」

「500年、お前の木属性でバルクバルドに尽くすと約束しろ。例えアイゼンが先に死しても、お前が代わって祖国を守る英雄となれ!」


 魔物として生きる以上、今後は人として扱われることはない。 

 だがイクシオンが友としてタロスを支える続ける限り、二度と今回の悲劇が繰り返されることはない。と断定できる。


「尽くし、ます……この身が、燃え、尽きるまで、僕は償い続けます゛!」


 泣き崩れたタロスの瞳は、幸せに満たされている人の輝きをしている。

 アスロウ王国は鋼属性を手に入れ、バルクバルド共和国は木属性を手に入れたことになる。


『セカイ様、スイレンによって危篤患者の治療が無事に完了しました』


 クリスタルが音声だけを駆使して、治療の経過も報告してくれた。

 一先ずはこれで森型ダンジョン黒森での一件が落着することになる。


「ジョージ、ありがとうな」


 バルクバルドでの罪が、功へ変わる日が来るといい。


「フン、例え罪人でも、対話の可能な木属性使いの使え道は幾らでもある。一千万を救うためなら、十万の犠牲も目を瞑らせよう」

「……そうかもな。だが背負う業は、少ないに限る」


 今後俺たちはダンジョンマスターを殺さずにダンジョンを攻略できる。

 迷宮の裁定者(ダンジョンロード)の能力がもっと早くからあれば、冥土の館のホラントを、氷河洞窟のベルクハイルを、金字塔の幼き迷宮巨大亀の命まで奪うことはなかったかもしれない。


「尤も安全性のために去勢はさせるがな」

「「「「んん゛!!??」」」」

「へ? へ? なんかまずいの?」


 ジョージの放った言葉は即座に場の空気を冷やし、一人を除いて下半身をひどく震撼させた。


「すまない、ロッテン。そこはどうも……守護れそうにない」

「い、いえ、仕方のない、ことだから……あはは、はあ」


 (タマ)があるだけ良しとしよう。


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