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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第七章 龍の黒森と悪魔の軍団
203/214

194話 ダンジョンロード

「僕の家族がぁぁああ!! どうして僕から奪うんだよぉぉ!!」

「タルタロス! もう君が生き延びる道は投降しかない!!」


 炎で身を包むイクシオンは、根を華麗に避けては切断をひたすら繰り返す。

 三歩前進すれば、二歩後退する。残り時間を計算しながら、ジリジリとタロスの下まで詰め寄る。

 結局ジョージの説得は、無駄に終わっていた。タイミングが非常に不味かったのだ。


「うるざぃ!! ここで勝たなきゃ僕は一生、弱者のままなんだぁ!!」


 タロスは孤立無援に置かれた中で、緑の将軍の討死を知る。

 頼りにしていた天災級の援護がなくなる。今のタロスでは状況を整理し、先を見通す冷静さが著しく欠いている。

 次々に失う眷属、自らの手で殺した息子、重度の外傷、十数年ぶりのイクシオンとの再会。

 苦戦は苛立ちへ、苦痛は恐怖へ、驚きは不安へと変化し、自暴自棄に陥ってしまう。

 そしてイクシオンは国家を代表する戦士だ。私情を極力捨て、裁くことが残された救いであると信じる他なくて、無慈悲に剣を振ることしかできない。

 タロスも武人であればイクシオンが望む通り、剣で語り合うことができたかもしれない。

 正解のない選択肢の中でイクシオンは火傷を、タロスは切傷を全身に受け、決して交わることのできない二人は、自傷という行為で思いを伝え、殺し合いの道を選択する。


「タルタロス!!」

「イクシオォォォン!!」


 これで決めると、両者の熱気と根気は最高潮に上る。

 イクシオンが両手で剣を構え、剣先に炎を集中させると、タロスも根を剣に見立てて物量で押し潰すこと技を発動する。


「おい、決着を急ぐなアイゼン!」

「せめて共倒れくらいにはなりなさいよ!」


 ジョージとサイカが慌てて仲裁に入ろうにも、火中に踏み込む力は彼らにはない。


「「ハァァァアアアア!!!!」」


 炎剣と木剣がぶつかり合う、その時。


「————《広域接続(ディスタンセス)》」

「「ッ!!」」


 二人の中間に光の門が出現すると攻撃は光へと吸い込まれ、咄嗟に剣を逸そうとした時、二匹の獣が姿を表す。


七天召喚(サモンアイリス)・雷鳥、氷魚」


 雷の大鳥と氷の小魚の群れが、木と炎の攻撃に割って入る。


「がぁぁあ!?」


 雷鳥は木剣に激突すると、木剣に電気が走り、木豚の全身まで焼き尽くす。


「なに!?」


 炎撃が氷魚の集団に激突すると、火力は急激に衰え、氷魚は火を海の如く泳ぐ。

 互いの全力の一撃を簡単に防ぐ。そんなことが可能な人物は一人しか思い当たらない。

 閃光と蒸気で視界が霞む中から、黒髪に黄色の瞳、丸い目はどことなく幼げに見えるが、鋭い唇は毅然とした笑みを浮かべる男が立っていた。

 姿に変化はないが、服装に違いが現れる。

 片翼の金蛇が二匹、まるで男の背中に天使の翼が生えているように、荘厳に巻き付いている。


「なんつーお前好みな魔王演出だよ……」


 光の門に向けて言葉を送ると、返事とばかりにパリーンと門が壊れ、光の粒が男に降る。


「セカイ!」


 場所が場所なら抱きついていたほどに、サイカは喝采を上げて彼の進化を視る。


「俺たちのためにありがとうな。今、全ての問題を片付ける」


 この場にいる誰もが見たことのない、魔王の姿が確かに存在していた。



◇◆◇◆


 俺が目覚めと、先ず同化から始まった。

 ローブと二振りの杖が身体の中へと溶け込み、傷ついた身体を癒し、補強してくれた。

 進化したからと言って全回復するわけがない。今の魔力は天災級だった時の四割しかない。

 天属性とは天使や神様といった神聖なものではなく、天候のことだ。

 風、火、水、氷、雷、熱、闇の七つの属性を操り、天候まで支配を可能にする。

 だが万能であっても器用貧乏に近いところが、実に俺らしい(・・・)と思っている。

 結局、創篇魔法は使えないだろう。それでも気にしない。

 俺は今ある天属性の能力を、最大限まで極めることにする。


「——闇蛍」


 バスケットボールほどの大きさをした薄暗い灯りがフワフワと漂い、俺を淡く照らす。

 小さな明かりに自然と魅入られ、戦場の空気は落ち着きを取り戻す。


「俺を見ろ、タロス」

「言われなくても、すぐに殺しますよ!!」


 タロスに掛けた精神支配魔法が成功する。

 今のタロスは、俺しか眼中にない。

 これで再び部外者が巻き込まれることもなくなるはずだ。

 木豚に騎乗するタロスの足をどうやって止めるか。残りの召喚魔法から、最適な単体殲滅魔法を選択する。


「——火蛸」


 火の輪が出来上がると、異次元空間から炎を纏った褐色の蛸がノソノソと這いあがる。

 火蛸の八本足の吸盤には凶悪な形をした鈎のような返しがあり、捕らえた獲物を焼き殺そうと地面を抉って威嚇する。


「木豚を抑えろ!!」

『プスー!!』


 了承とばかりに火蛸の頭が風船のように丸く膨れ上がると、特大の火球を蛸口から砲撃する。


「喰らえぇぇ!!」


 木豚も迎え撃とうと種を放つ。

 二重三重と絶え間なく衝撃波を引き起こし、飛び交う炎と残骸で、跡形もなく集落を破壊する。


「これが魔王級の力なのか……」

「まるで天災の入ったビックリ箱ね。ワタシでも測れない分、ありゃタチが悪いわ」


 サイカたちが一つに固まり、行方を見守る。

 力と質量の戦いはまるで怪獣バトルだ。

 互いに砲弾を出し尽くすと、それぞれの触手から取っ組み合いを始める。

 召喚魔法は一属性につき一体まで。発動すると暫くの待ち時間を要することが分かる。


「く、く、くそぉぉ!!」


 相性と体力の差が如実に現れ、火蛸は木豚を絡み取り、地面にひれ伏すように捕獲する。

 まだまだ試したい召喚魔法はあったが、生憎と魔力も少ないため終わりにする。


「来るなぁ! 来るなぁ!」

『シャー!!』


 金蛇がタロスを守る根を喰い千切ると、巻き付いてタロス本体の動きを拘束する。

 最後は迷宮の裁定者(ダンジョンロード)の種族特性を試す。

 ダンジョンマスターの全てが、ダンジョンロードになれるわけではない。

 俺にも魔王級のダンジョンマスターや、ダンジョンを放棄する種族の進化先もあった。

 ただ進化条件が複数のダンジョンを攻略したダンジョンマスターと、稀有な例によるため俺は優先的に上位進化の方を選択した。

 そしてこの種族特性の攻撃性は、ダンジョンマスターにしか通用しない。


「タルタロス=ロッテン、モデルは鬼豚元帥マーシャルオーク、天災級、木属性で間違いないな」

「グッ……」


 勝つことで格の差を見せ付け、対象者の素性を明らかにすることで発動条件が整う。

 一呼吸を入れてからタロスの頭に触れると、俺は魔力をタロスへと放出する。


「お前をダンジョンマスターから解任する!!」

「「「!!??」」」


 俺たちを見守る者たちが、その新たな力に言葉を失う。

 ダンジョンロードの能力は、神様ルシナからの優しい贈り物かもしれない。

 ダンジョンマスターは人を恨み、暗い過去を持つ者が多い。

 辛い過去も、精神支配もない。俺が第三の人生を彼らに与えることができる能力だ。


「生きて償え、攻略クリア!!」


 タロスの身体から毒気を抜くように、タロスの精神汚染を浄化していく。


「あがああああ!?」


 タロスと森型ダンジョンのダンジョンコアの間に、七色に輝く生命力マナの懸け橋が出来上がる。

 これまでタロスの貯めたDPを、俺が全て回収する。これさえ手に入れば、タロスの命まで狙う必要がなくなる。

 ダンジョンマスターを殺さず、別の種族として転生させる。

 タルタロス=ロッテンの場合は、上級下位の鬼豚オークとして生まれ変わる。

 もしバルクバルド共和国が死で裁くのであれば、俺が償いの道を用意するために、全力でタロスを守ろう。


「イクシオン、それでもタロスを殺す必要があるか?」


 だがイクシオンは、タロスを見逃そうと考えていた。

 もしかすると彼が再び、このどうしようもない男の支柱になってくれることを願う。

 今のタロスは身長が第二次性徴の始まったばかりの子豚少年の姿となり、脅威はまったく感じられない。


「っ……本当、に……ありが、とう」


 剣を鞘へと仕舞うと静かに頭を下げ、俺の代わりにタロスを抱えた。

 森型ダンジョン黒森とのダンジョン戦はこれで終了した。


◇◆


 俺たちはダンジョン戦から一夜を明ける……暇もなく、急いで戦後処理に取り掛かった。

 被害者の捕虜だけで三〇〇人は超え、鬼豚の残存兵もまだ一〇〇〇体以上もいた。

 とりあえず話の分かるオーク、唯一生き延びた鬼豚四天王、青の中将を叩き起こして、事情を説明すると潔く降伏を認め、テレパシーを使って停戦命令を出してくれた。

 暫くは目を覚まさないけどタロスが生きていること、俺が魔王級であることを鑑みれば、これ以上の戦闘が無意味であり、平和的に物事を進められた。


「手術が必要になります。医者の増援を総本部よりお願いします!!」

「治療術師なら第二階層領で待機しているわ!!」


 次に捕らわれた被害者たちだが、俺の使える回復系の召喚魔法——『熱華』でDPを消費してまで生命力を与え、あとはアスロウ王国に任せた。

 治療、統制、移動などでまるまる一日を使い果たすと、約束の七日目になっていた。


 現時刻は朝の5時半。陽はまだ昇らず、薄暗い森をクリスタルと並んで歩く。

 黒森を攻略したことで、ここはもう黒森ではなくなった。

 ダンジョンで作られた樹々は無くなり、草原が目立つ。

 だけど曇り空のような鬱蒼していた森は、太陽の光を今か今かと待ちわびているように思える。

 この森に恐怖が支配することがなく、森型ダンジョンから送られる養分が途絶えたことで天空樹は傾き掛け、最期の存在感を見せる。


『おはようございます!!』


 やはり俺たちが最後の到着となる。

 アカボシが、バルが、リンネルが、メアが、スイレンが、グスタフが、みんな無事でいてくれた。

 彼らの背後には黒馬や小さな魔女、土蜘蛛やトレントの大群などが控えている。


「はは、見事に全員汚れているな」

「何処もかしこ、激戦の様相を伺えますね」


 俺とクリスタルとは違って、一日を経過しても眷属は泥や血で身体を汚し、体力もまだ回復しきっていない。

 黒く滲んだ包帯の格好から、バルとグスタフは死体にも見える。

 しかしそれは劇的な逆転優勝を果たした後のような、澄み通った瞳に気怠さはなく、心の充実感がありありと伝わる。


「あーごほん、みんなご苦労様。お前たち一人一人の活躍があったからこそ、俺はこうして生きていられた」


 クリスタルの手の感触を思い出しながら、白い空間での出来事を、拙い言葉で何とか説明する。


「おかげで俺は、魔王級のダンジョンロードになりました」

「私は魔王級のダンジョンに成長できました」


 今さら自己紹介をするなんてやはり気恥ずかしい。さらにクリスタルと手を繋いで話していたことがもっと恥ずかしいと気付いて、慌てて手を離す。


「そしてこの機会に俺は、記憶のことであれこれと悩むのは止めた!」


 これが虚勢ではないと、さっぱりとした笑顔で宣言する。


「ご主人さま……」

「父様……」

「うぅ、主様よ……」


 リンネルとメアが涙を堪え、スイレンに至っては感涙するものだから、これまで俺が抱えてきた不満がどれだけ眷属の負担になっていたのか伝わる。


「俺が俺を好きになる。そうなれるように、今日から色々と頑張ろうと思っている……」


 自分でも可笑しな発言だと分かるため、何度も咳払いや頬をかく。

 自分を好きになるにはどうすればいいのか。方法なんて分からないけど、今日からは鏡をよく見て、服装もローブ以外を試みるつもりだ。


「どうか手伝ってくれな……うおっ!」


 発言が終える前に徒競走をするように、メアが一着、リンネルが二着、スイレンが三着の順番で、俺の胸へと飛び込び、地面へダイブする。


「抱っこ! 抱っこ! おめでとうのちゅーしよ!」

「お、親娘でそれはいけませんっ! は、ハグですっ!」

「えらい子じゃ、主様はめんこくてえらい子じゃ! 儂が撫でてやるぞ!」

「おいっ、こらっ、話を最後まで聞け!?」


 俺は少女三人に押し倒され、頭や頬、胸をもみくちゃにされながらも、唇だけはなんとか死守する。


「まったく、オレらが動けねぇからって……」

「……グルゥ」

「だが俺たちが行っても、悔しいが絵にならない……くっ!!」

「ふふ、玉鋼龍とダンジョンマスターの戦闘に魔王級の実力、気になりませんか?」

「「教えてください!!」」「グォン!」


 俺たちは陽が昇り切るまで、勝利と進展を思う存分に喜び合った。





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:235→465,050

土曜日には今章の最終話を投稿します<(_ _)>

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