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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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20話 代償

『グギャオオオオオオ!!!』


 巨大な龍へと変貌を遂げたキマイラスケルトンは雄叫びを上げるとクリスタルを狙い走り出す。

 そしてクリスタルは適度な距離を保ちながら深い森の中を目指して逃げる。

 相手が巨大であるならば、遮蔽物を利用するまでだ。

 またキマイラスケルトンの身体ではクリスタルを追いかけるだけで樹々を倒してしまい勝手に遮蔽物を作ってくれる。


「ここですよ、お馬鹿さん」


 高く伸びる雑草、葉を大きく広げる樹々、そしてキマイラスケルトンが動くことで出る土煙とその残骸はクリスタルの味方をした。

 クリスタルはキマイラスケルトンを挑発しながら上手く背後へと回りその長い尾に剣で攻撃する。

 しかし尾ですら密集した骨は硬く、僅かに骨が欠けるだけで切断するまでには至らなかった。

 やはり魔法が必要になる。

 クリスタルはすぐに身を隠してキマイラスケルトンの反撃をやり過ごす。

 そして静かに意識をダンジョンの中へと向ける。


『レオニルさん、確認ですが後どれくらいの魔力が残っていますか?』

「大体上級魔法3回、無理をすれば4回は使えるくらいだ。落ち着いて詠唱が行えたおかげで、魔力の消費を上手く節約することができた」


 今までに使った魔法は中級の光の矢が2回、大蛇を消滅させた極光が1回、キマイラスケルトンに一撃を加えた上級魔法の光線が1回とレオニルにはまだ余裕がありそうだ。


『では残りは中級魔法と上級魔法をそれぞれ2発は使うと思っていてください』

「しかし上級魔法でもあのキマイラには間近で当てないと大した効果はでないぞ」

「それにあの強さは確実に上級上位に位置する魔物よ。弱点の光属性魔法でも上級魔法2発では足りないと思うわ」

『……そのことで、今から私は多少の無理をするつもりです。なのでその時お二人は取り乱さないで下さい』


 今までも十分無茶苦茶していただろ、とのツッコミを抑えたレオニルはクリスタルの真意を問う。


「嬢ちゃんは一体何をするつもりだ?」

『あの呪剣を奪い、私が利用します』

「「・・・・」」


 突然の宣言に二人は唖然とするも、すぐに意識を取り戻してその案を却下する。


「それは危険だ! あれは剣の威力を増す代償に所有者の身体の一部を要求する呪剣だぞ」

「そんなっ!? 駄目よクリスタルさん。そこまで犠牲を払う必要なんてないわ! それにアカボシくんも加わって三人でなら何とかなるでしょ!」


 しかしクリスタルの決意は変わらない。腕や足の一本を失おうがそれで今も危険にいる主の下へと一分一秒でも早く駆け付けられるならそれで構わない。

 またアカボシもアンデッドの軍勢との戦闘で、傷こそ見当たらないが十分に疲弊していた。

 だからウィルムスケルトンの骨を食べて体力の回復をしていたのだ……ただあれは半分以上が好奇心による行為ではある。

 更にアカボシにとって骨の身体で急所もないキマイラスケルトンは相性が悪い。

 それにクリスタルにだって考えがある。


『いえ、今はこれしか打開策はありません。それにですが、呪剣を持っていたキマイラスケルトンを思い出してください。あれは腕を犠牲にしましたが、現在は新しい骨で補強しています』

「つまりなんだ……失った箇所はまた生やせばいいってことか?」

『そうです、レオニルさんの神聖魔法で呪いを浄化さえして下されば、ダンジョンの修復機能によって元の姿に戻ることができると思います』

「あのなぁ嬢ちゃん、呪いを甘くみるな。あれはスケルトンの種族特性で為せる裏技のようなものだ。嬢ちゃんが元通りになる保証なんてないのだぞ!!」

『大丈夫です、私はダンジョンですから何とかしてみせます』

「駄目よ、そんなことされたらセカイくんは必ず悲しむわ!」

『ッ……それでセカイ様が死んでしまってはどうするのですかッ!』


 クリスタルは思わず声を荒げてしまう。そこで想い人の名前を出すのはいくら何でも反則だ。

 クリスタル自身もセカイの悲しむ顔は覚悟している。どれほどの叱責を受けることも理解している。

 ただそれでセカイを護れないこと、そしてシィルススやレオニルをこれ以上の危険な目に晒すことの方がクリスタルにとって苦痛はである。


「二人とも落ち着け……シィルススの気持ちは分かるが、それしか対処法がない以上、本人の意思を尊重しよう。何も最悪な結果になるとも限らないし、俺も解呪に全力を尽くす」


 女性二人の言い争いにレオニルはたじろぎながらも何とかこの場の空気を取り繕う。

 今は戦闘中だ、意見の対立で仲間割れをする方が最も危険であり、冒険者は常に判断は早くそして冷静に行動しなければならない。


「……ごめんなさいクリスタルさん。皆の邪魔をしないって決めてたのに……」

『いえ、こちらこそ無茶を申してすみません』

「と、とりあえず先ずはキマイラのヤツから呪剣を奪取しようぜ。そうすれば危険も随分と減るはずだ」

『はい、そのためにも先ずは————』



 そしてクリスタルはキマイラスケルトンと下へと姿を現す。

 まずはキマイラスケルトンの身体の中に隠れる呪剣を出させる必要がある。


「遊びは終わりにして、そろそろ決着といきましょうか」


 クリスタルは二本の剣をそれぞれの手に持ちキマイラスケルトンへと接近する。

 キマイラスケルトンは脚や尻尾を巧みに使いクリスタルの攻撃を払う。

 元々二人の大きさは歴然であり、キマイラスケルトンにとっては軽快に動き回るクリスタルを捕まえることは難しい。

 また、いくら脚で叩きつけようが、爪で切り付けようがクリスタルには傷一つも通らないので小賢しい限りである。


 しかしそれも時間の問題であり、クリスタルの動きに慣れたキマイラスケルトンは仕掛ける。


『グッグッグッグッグッグルア!』


 キマイラスケルトンは訳も分からない声を上げると、背中に生える百もの骨の腕が突然と伸びてクリスタルに向けて飛び出した。

 ただでさえ大きな脚や尻尾に苦戦しているのに、長い腕まで出さられると流石に形勢は一気に傾く。

 四方八方から迫り来る長い腕は、剣で弾くも数が追いつかない、細い身体を上手く使い何とか躱そうとするも限界があり、一瞬の判断ミスが致命的な結果になる。

 そして長い腕にだけ気を取られていると、キマイラスケルトンの大きな前脚がクリスタルを自身の長い腕ごと押しつぶす。


「っ!?」


 クリスタルは突然視界が暗転とし、身体に伝わる衝撃と大地の感触から自分が捕まっていると知る。

 身体を何とか動かせないかと模索するも、キマイラスケルトンの圧倒的な体重に捕まれば人の身体を持つクリスタルでも抜け出せない。


 すると脚に挟まれ身動きの取れないクリスタルへ地面と前脚の隙間を縫って長い腕がのそのそと迫る。

 そしてその腕はクリスタルの手足や関節へと強靭に絡まると、いよいよ前脚がどかされ骨によって磔にされた状態で、キマイラスケルトンと対面する。


『グゲゲゲゲ、ヤット、ツカマエタァァ』


(狂暴化していたようですが、言葉を話せたのですね)


 手足が完全に骨に捕まり顔と胴体だけが晒される。

 捕まりはしたものの落ち着いているクリスタルには、キマイラスケルトンが骨だけではあるが破顔に満ちているように見えた。


 そして口の中からまるで舌の様な骨の腕が現れ、その腕が持つのはお目当ての漆黒の太刀だった。

 やはりキマイラスケルトンもあれで止めを刺すしか無いようだ。


『キル、コロス、イネ』


 止めとばかりにキマイラスケルトンは掛け声を放ち、呪剣はクリスタルへと真っ直ぐ振りぬかれる。

 呪剣の攻撃はクリスタルにとっても致命傷、避けることもできない絶体絶命の状況である。

 しかし彼女はこの時を待っていた。


『アクセス!』

七色の極光(アヴローラ)ッ」


 呪剣を持つ腕を狙って転移門を開く。

 転移門の位置は上空、それも真下を見下ろす形だ。

 レオニルの発動した魔法の極光は真夜中の森林に太陽の光が差し込んだように辺り一面が明るくなる。

 そして呪剣を持つ腕は一番に溶かされ、呪剣は振りかぶる勢いのまま地面へと突き刺さった。


『グオオッ!?』


 止めの油断で呪剣を手放してしまったキマイラスケルトンは慌てて呪剣を拾いに向かう。

 クリスタルは未だ手足に絡まる骨が浄化されていないため身動きがとれない。

 しかしそれもクリスタルの計算の内である。


「アカボシ、あの剣を奪うのです!」

「グルゥ!!」


 ずっとクリスタルの命令で影を潜めていたアカボシが遂に現れる。

 肉のない骨だけの身体にアカボシが負けるはずがない。

 キマイラスケルトンを追い抜き呪剣の柄の部分を口で挟み奪取する。


『ギォオオオオ!』


 アカボシは敵の怒号を他所にクリスタルの下へと直ちに向かう。

 クリスタルは呪剣を追っている隙に手足の骨が浄化されたので自由の身となる。


「よくやりましたねアカボシ」

「グオン」


 クリスタルはアカボシの頭をそっと撫でて呪剣を受け取る。

 これで凡そキマイラスケルトンの勝利はなくなった。

 すると呪剣がクリスタルの精神に話しかけてきた。


(女よ、貴様は力を欲するか?)


「やったな二人とも……それで嬢ちゃんはどうするんだい?」

『少し待って下さい。今、呪剣から私に話しかけて来ました』


(頂けるのなら欲しいですが、何か対価が必要なのでしょう?)

(然り。何も犠牲なしに分不相応の力を手に入れようとするのが烏滸がましい)

(……でしょうね、なら何を貴方はお望みですか?)

(そうよのう、見るに女は我以上の異質なモノ。その美白な腕にしようか、いや健気な脚にしようか、旗は宝石のように美しき瞳にしようか、悩むわい。)

(いいから早く決めてください!)

(まぁ落ち着けこの精神空間は時間の流れが遅い。そうだの……ならばその麗しい長い髪を頂こうか。何やら女は髪に思い入れがあるらしいしの)


 なるほど、さすが呪剣である。

 魔法道具店でセカイが下さった大切な髪留めの記憶でも除いたのか、その長い髪を失えばクリスタルは精神的な面での負担も大きい。

 しかし今は悩んでいる暇はない。


(どうする女、大切な主が待っているのだろう?)

(そうです、だから私の髪でお願いします)

(よかろう、では我でその髪を切れ。契約はそれにて履行される)


『今交渉が終わりました、呪剣が要求するのは私の髪だそうです』

「髪か……確かに古くから女性の髪はよく呪の代償とされると聞くが、悪くないと思うぞ」

『えぇ、私もそう思います』

「クリスタルさん……闘いが終わったら私が綺麗になるよう手入れするわ」

『ありがとうございますシィルススさん。それでは行ってきます』



 クリスタルは主から贈られた大切な髪留めの魔法道具である色天一乃華を外し白藍色の長い髪を晒す。

 髪留めに触れる度に似合っている、綺麗だと褒めてくれた言葉を思い出しては幸せを噛み締めていた。

 それはとても短い期間であったけど、クリスタルは色天一乃華に感謝を捧げて大切に懐の中へと収容する。

 敵は待ってくれない、今もクリスタルの下へと猛威を奮って走っている。

 だから躊躇うことなく左手で髪を束ね、右手で持つ呪剣で束の根元を切る。


 長い髪を鋏も使わず太刀でひとえに切ったことで、残った短い髪は均整もとれてない。

 そして辺りには長い髪が散在している。

 アカボシが心配そうにこちらを見つめている。

 気持ちを落ち着かせるためにも、アカボシの喉元を撫でて平静を装う。


「いいのですよアカボシ、お陰で少し体が軽くなった気分です」

「……グルゥ」

「さて、早い所終わらせてセカイ様の下へと向かいましょう」


 呪剣からは想像を絶するほどの力を感じる。

 それはキマイラスケルトンが自身の腕を切り落とした以上の程である。

 クリスタルにとっては大きすぎる太刀を何とか両手で持ち、迫り来るキマイラスケルトンへと対峙する。


『カエセェェェェ』


 荒れ狂うキマイラスケルトンの前脚をクリスタルは呪剣で一線する。

 それは刃がすんなりと骨を切り裂き、前脚を両断するほどだ。


『イタイィィィィ』


 更に傷口からは呪いが骨を蝕み変色していく。

 キマイラスケルトンは変色した骨を外して、これ以上の侵食を何とか防ぐもクリスタル達は一気にたたみ掛ける。

 そしてクリスタルは次々と斬りつけその大きな体を削っていく。

 アカボシも炎のブレスや注意を引き付けたりとクリスタルのフォローへと回る。


『今ですレオニルさん————《アクセス》』

霊魂の輝き(イモータルシャイン)っ!」


 間近で発動されたレオニルの五つの輝く大玉は、全てキマイラスケルトンの胴体へと放たれ、触れた箇所は悉く塵となり崩壊する。

 またキマイラスケルトンの回復も呪の侵食の前では追いつかない。

 今ではもう初めの大きさが嘘のようで、半分ほどしかない。


 そしてアカボシが背中に隠れる肥大した魔石を発見し、クリスタルへと知らせる。

 クリスタルはすぐにその背に駆け上り、刃を真下へと向けて魔石を目掛けて差し込む。


「これで終わりです」

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァアア!!』


 核である魔石を破壊されたことでキマイラスケルトンの骨はバラバラに崩壊し、クリスタルの足元には骨の山が築かれる。

 これでクリスタル達の戦闘は終わった。


「おっしゃ!」

「みんなよくやったわ!」


 二人は勝利の歓喜でハイタッチを交わす。

 キマイラスケルトンは上級上位の魔物だった。

 人生で見かけるのも珍しい魔物をたった4人で討伐したのだから、喜ぶのも頷ける。

 しかしクリスタルはすぐに意識を切り替える。


『皆さんの協力のお陰で何とか倒せました。しかしまだ本当の目的を達成していません、今すぐにセカイ様の下へ向かいましょう』

「そうだな、悪い」

「そうよね、今すぐ二人・・を助けにいきましょう」


 すると、近くで大きな爆発音が響く。

 場所はすぐ側だ。アカボシに掴まりクリスタルはセカイの下へと向かう。


「セカイ様、どうかご無事でいて下さい」

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