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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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2話 出会いと絆

「う……うぅ」


 ここはおそらく森のなかだ。

 未だに意識が覚醒していない状態でも、人智を超えた感覚で分かることができた。

 俺は横になっているのだろう。

 温かな太陽の日差しに背中の下敷きになっている草花の冷たさ、周囲から聞こえる優しい鳥のさえずり、清涼な風を肌に一身に浴び、大きく息を吸えば滑らかでほのかに甘い空気が肺をいっぱいに満たしくれる。

 時間の経過と共に徐々に感覚が蘇り、重いまぶたを開いて最初見たモノは、プラチナブロンドに少し蒼を混ぜたような髪を長く伸ばし、紅い瞳で優しく俺を見つめている女性だった。


 あぁ、やっぱり……思ってた通りな、とても綺麗な女性だ


 朧げな記憶だけどはっきりと言える、今まで出会ってきたなかで最も美しい女性だ。

 その女性が、さっきまで共に話していたダンジョンコアのクリスタルであることは、聞くまでもなく本能で知覚する。

 この世界に来て、最初の仲間と呼べる人物だ、異世界のお約束なりに挨拶をすることにした。


「おはよう、俺はセカイだ。これからよろしくな」

「おはようございます。お目覚めになるのを今か今かとしてお待ちしておりました。ご気分は問題ないでしょうか?」


 端正な容姿に透き通るかのような優しい声、いつまでも話をしてみたいなと願望も出てしまう。

 だが今はそんな無駄話をする暇はない、そもそも大切なことをまだ決めてなかったのだから。


「とても調子がいいよ。ところでさ、君の名前は決めてなかっけど、今更だが"クリスタル"でいいか?」


 白い空間にいた頃はずっとそう呼んでいたから、今さら名前を変更するにはわずかながら抵抗が生まれる。

 見たままの姿で、安直な名前に自分でもセンスの欠片もないと知っているが、俺の中ではもう、こいつはクリスタルなのだ。

 嫌なら嫌で、彼女の意見を尊重して新しい名前を考えてもいいが。しかしネーミングセンスに乏しい俺が、新しい名前を考えるのがとても面倒くさいというのも最大の理由である。

 もちろんそれは声に出さず、心の中にとどめて置く。


「構いません、セカイ様に頂いた名前を大切にしていきたいと思います」

「ありがとう。改めてよろしくなクリスタル。お前を世界一のダンジョンに…………んん!?」


 うん、問題ないそうだ。彼女の笑顔がそう語っている。

 そして今更だが、重大なことに、気が付いた。



 クリスタルは全裸だった。そして俺は膝枕をされている。



 そういえば先ほどから視界の端々に、その大きくとも小さくとも思わせない、まさに女神だと評価できる最高の調和を再現した二つの双胸をとらえてたはずなのに、まるっきり意識していなかった。


 これはつまり全裸膝枕。

 なんと甘美な四字熟語だ。

 異世界に来て、そうそうラッキースケベを体験するとは幸先がいい。

 しかし、なんだ。気づくのが遅れたように、何故か性欲がうんともすんともしない……。

 生まれ変わったこの外国人風の若い男性の姿を見て、前世だったらそれはもう飛びつくくらい興奮してしまう血気盛んな年ごろだろうに。


「あ、あのう、何か?」


 もしかしてダンジョンマスターとなって、枯れてしまったのだろうか。

 ここにきて初めて後悔することになろうとは……一度も使えなくて、ごめんよ俺の三日月丸……名刀にするって誓ったのに、鈍刀にしてしまって……って何でそんなどうでもいいこと覚えているんだよ。


「何かございましたでしょうか?」


 いかん、自分の殻に閉じこもってしまった。


「あ、うん、クリスタルはとりあえずこれを着てくれないか」


 俺は立ち上がって自分が着ていた、おんぼろなローブをクリスタルに渡すが、彼女はそれを拒否する。


「これを着るとセカイ様の服が下着だけになられます。それに私はダンジョンです。服を着なくとも活動になんら支障がございません。逆に何かセカイ様に起きることこそが私は心配でたまりません」


 クリスタルの気持ちは十分伝わった。でも俺の思いも決して変わらない。こんな森のなか、女性を裸にするほうが、男としての矜持が許さない。それにいくら性欲が退化していようが、ついつい気になって目の毒でしかない。これからのことを考えるとなるべくリスクは減らしておいたい。


「いや駄目だ、着てくれ。命令だ」


 自分の固い決心を伝えると、ようやくクリスタルは引き下がりローブを纏ってくれる。

 うん、森のなか、下着一枚だけとは、なんと開放的なんだろうな。

 自然と力がみなぎり、笑顔がこぼれていくぞ、ははっ。つーか、ローブの下が下着だけとか、どんなファッションだよ。白い部屋のときの俺は普段着だったというのに。

 まぁ、これで一応の体裁は整った。だからいよいよ確認といくか。


「ごほん、俺たちはこの世界のこと、そして自分自身のこともまだよく分かっていない。まずは人型移動式ダンジョンの具合いを教えてくれ」


 自分たちはどこにいて、どれだけのスペックを有しているのか分からない以上、敵と遭遇した時の対処がぜんぜん違う。早く対策しないと取り返しのつかない事態に陥るため、慎重に真剣にお互いを話し合わなければならない。


「はい、まずはこの人型移動式ダンジョン"クリスタル"の状態ですが、残りのDPは10、およそ3、4日分の活動が可能です。DPが0になると、私たちは消滅しますので、まずはDPの補充が先決かと意見します。そして人型移動式ダンジョンの作成にあたって、魔物召喚に必要な魔物図鑑や世界の知識も大半失われ、魔物召喚は現在できません、またここが何処なのかも見当つきません」


 ダンジョンとしての機能はだいぶ失っているな。DPも残り僅かであるし、それほどこの人型移動式ダンジョンを作るのに苦労をかけたのだな。早く機能を取り戻す必要はあるが、クリスタルのいうように今は……。


「まずはDPの補充だな。となると戦闘になるが、クリスタルは戦えるのか?俺たちは一蓮托生。無理なら無理で構わないのだぞ」


 この身体はやけに軽い、シャドーボクシングをしながら、身体の調子を確かめるが、前世と比べて数倍に力をつけてることが分かる。ダンジョンマスターとして生まれ変わった原因だろうか。

 しかし自分ができることを相手もできると思い、強要することは身勝手な行いだ。

 だが、返ってきた言葉は頼もしいものだった。


「もちろん、私も戦闘にお伴させていただきます。ダンジョンですから、私はやわではありませんよ。あっと、ちょうど良いタイミングですね」 


 先に気づいたのはクリスタルの方だった。

 茂みの奥から、かさかさと木の揺れる音が聞こえ、視線を向けると自分の腰ほどの体長の緑の体表を持つ魔物。

 こちらをまるで獲物を見るような目で近づいてきた。

 あれは、おそらくゴブリンだな。

 確かに良いタイミングだ。内包する魔力を微塵に感じられないほどの雑魚のため、初戦にはうってつけの相手である。


「敵の集団は六匹。クリスタル、一人三匹だ。腕試しとさせてもらうぞ」

「承りました。セカイ様は私の戦闘も見ていてくださいね」


 俺とクリスタルはそれぞれ左右に分かれる。装備も下着一枚、無手の状態、ゴブリンは格好の餌だと思ったのだろうか。

 その判断が命取りになることを死で教えてやる。


「やはり疾い」


 俺はゴブリンまで疾走する。ゴブリンはそれぞれ持つ剣や棍棒で待ち受けるが、俺は駆けるスピードを緩めるどころか、さらに加速する。

 その速度に反応で出来なかった先頭のゴブリンの腰を思い切り蹴る。


「ふん!」


 強力な蹴りによる衝撃は、後ろに控えてたゴブリンをも巻き込み、二匹は木に叩き付けられた。

 流れる動作のまま、すかさず先頭にいたゴブリンが手放した剣を拾い、三匹目のゴブリンの眉間に、ありったけの力で押しつぶす。技術もない、ガードも無視する力技であるが、そもそもゴブリンとの身体能力に大きく開きがあった。

 ノルマの三匹を瞬時に戦闘不能にすると、残りの三匹はクリスタルに任せるため、後退して距離を置く。


「ふふふ」


 クリスタルは俺とは対照的でゆっくりと歩いて近づいていた。

 仲間の三匹を瞬時に葬られて焦りを見せるゴブリン達だったが、クリスタルのことを警戒することはない。

 三匹はクリスタルを囲みそれぞれの武器で、三方から攻撃する。

 クリスタルは防御の姿勢を見せない。

 いや、必要ないのだ。

 ゴブリンの攻撃を三ヵ所に受けても、まったく意に介していない。

 なぜなら彼女はダンジョンだからだ。ダンジョンが作る壁や岩は、侵入者に破壊されないように頑丈にできている。それにもし傷ついたとしても自動修復する機能まである。

 まるで岩でも攻撃してるかと錯覚するゴブリン達の顔に絶望の色が見える。


「おいたはおしまい。次は私の番ですよ」


 すかさずクリスタルは爪を立て、目の前の一匹の腹を貫く。

 残りの二匹は悟る。これには勝てない。殺される、獲物は自分達の方だったと。ゴブリンは逃走を図ろうとするも、クリスタルの方が早かった。二匹は首をそれぞれ掴まれる。

 脱失を試みるもクリスタルは手を離さない。武器でクリスタルの顔や腹に攻撃を試みるも物ともしない。


「逃がしませんよ。ご安心ください、あなた方の生命力マナは無駄なく、セカイ様が使ってくれますから、おやすみなさい」


 クリスタルは両手の握力を強め、二匹のゴブリンの首の骨を折ったのであった。




 戦闘を終え一息つく。

 ゴブリンからDPを還元するために、4体の死体と2体(木にぶつけた方)の生け捕りをクリスタルの前に並べる。


「どうやってDPに変換するんだ?」


 まさか食べるとか言わないよな? 美女がゴブリンの死体をバリバリ喰うところとか、放送……じゃなかった、ダンジョンマスターの精神を持ってしても見ていられないぞ。

 そんな不安な面持ちでクリスタルを見つめてると。


「何か、言われのない誹謗を向けられている気もしますが、DPに変換するためには生物を私の体内に取り組む必要があります」

「ひぇっ!?」


 まじで喰うの? 身体が勝手に震えてしまう。


「ですから、その死体を――――《アクセス》」


 クリスタルの呪文により目の前に、光の空間が生まれた。

 大きさは凡そ3平方メートルだろうか、それが何なのか、ダンジョンマスターだから分かる。


「この人型移動式ダンジョンの入口に放り込むのです。あとは時間経過で変換されます。ちなみにまだ階層ができていませんので、ダンジョンコアの間に捨てる時は絶対に死体でお願いします」


 良かったよ、俺のクリスタルさんがカニバリズムなんかじゃなくて、ほんとに良かったよ。

 生け捕りのゴブリンを殺し、6体の遺体を光の空間に放り込む。


「ん? ダンジョンコアはクリスタルの体表にあるのではないのか?」


 白い部屋で、人型移動式ダンジョンにはダンジョンコアが浮き彫りになって弱点ができると聞いていたんだが……。


「はい、私の胸の谷間の小さなダンジョンコアとは別に、ダンジョンの最奥部屋に大きなダンジョンコアもございます」


 そうやってクリスタルはローブをずらし、胸を開いてダンジョンコアを見せてくる。

 急なことでちょっと、ドキッとしてしまったが、確かに蒼く輝いてるのが見れた。まるで白い部屋のクリスタルのミニチュア番だ。


「つまり、俺らは俺かクリスタルか、そのダンジョンコアのどれか一つでも破壊されると死んでしまうんだな。クリスタルもダンジョンの中に入ることは可能か?」

「それは不可能です。しかしダンジョンコアが私の姿を投影しますので、セカイ様がダンジョン内に入っていても、私と会うことはできますよ」


 後の言葉に安心を覚える。彼女とダンジョン内で会えなくなると聞いていたら、きっと平静ではいられなかっただろう。それほど俺にとって彼女はもう掛け替えのない相棒なんだ。


「しかしダンジョンに魔物を入れるためには、まず階層を作らないといけないのだな。どれくらいのDPが必要なんだ?」

「一階層に500DPが必要になります。また階層の拡張、増築には更にDPが必要となります。あ、ただ今ゴブリンの生命力マナをDPに変換を終えました」

「割と早く終わるのだな、いくらだ?」


 ゴブリン六体でどれだけDPがもらえるのか。

 それによってこれからのダンジョン強化計画に大きく問題が生じる。

 下級の魔物だ、10DPほどもらえれば最高だけども、あまり高望みをするのはやめておこう、せめて希望の半分、いや四分の一でも……!


「はい、では発表します。ゴブリン六体で変換できたDPは――――――0.6DPです!!」

「何……だと……?」


 希望を大きく下回る結果に驚愕する。これは少ない。ゴブリン一体=0.1DPと過程すると今日だけでも、あと最低20体ほどのゴブリンを狩らないとマイナス経費となることになる。

 狩るのは問題ないが、見つけられるのかが少々不安になる。しかも俺たちはまだこの世界の情勢には疎いのだ。

 だからもっと情報を集めることに集中しよう。そうだ、悲観するのはまだ早い。今日はマイナスも覚悟し、焦らないよう落ち着かせる。


「セカイ様、ゴブリンを吸収したことによってゴブリンの召喚が可能となりました。魔物をダンジョンコアに吸収させることで、その魔物の情報を復元することができるそうです」

「おぉ!それは吉報だな。どれくらいで召喚可能か?」


 良い事もあれば、悪い事もある。人間万事塞翁が馬。


「はい、ゴブリン一体を召喚するのに、10DP必要になります」

「百倍じゃねーか!?」


 フラグ回収が早すぎる!

 それにデータがゴブリンしかまだないが、召喚コストがぼったくりの気もしてきたぞ。

 ダンジョンマスターに忠誠を誓う一匹のゴブリンを召喚するために、百匹の野良ゴブリンを生贄にする必要があるとか、どれだけ修羅に生きるゴブリンなんだ。

 魔物召喚はしばらく保留としておこう。


「今日中にできる限り、DPを多く補充しておきたい。この森を散策し、倒せそうな魔物は片っ端からやるぞ。勿論、俺たち以上の能力を持つ危険な魔物もいることを踏まえ、常に集中をするように」


 それから日が暮れるまでの半日ほど時間、魔物をずっと狩り続けた。

 成果はゴブリン12、スライム3、コボルト5、トレント2体を狩ることができ、3.5DPも貯めることができた。初日にして最低限のノルマをこなせたことに満足する一方、効率のいい方法がもっとないかと思案する。

 今日狩った魔物をクリスタルに聞くと、どれも下級であり、二人で苦労することなく倒すことができる反面DPが少ない。二人だけで情報を仕入れるのにも限界がある。


 どこか近くに人間が住む、町はないだろうか?


 人を襲う魔物のいるこの世界で、魔物退治を専門にする仕事があるのは容易に想像できる。

 それこそゲームや小説といった冒険者の集まるギルドなんかを期待している。

 ダンジョンの好敵手たる、人間の侵入者はダンジョンマスターにとっても切っても切れない縁となるはずだから、早いところ接触を試みたい。


 そしてダンジョンマスターとしての肉体は、非常に屈強である。魔力さえあれば食事や睡眠は不要らしい。

 しかし夜目の能力を獲得してない状態では、未知数であるこの世界の夜は危険が地球以上に増す。

 散策中に見つけた、森一番の大樹に腰をかけ、クリスタルと二人で朝を迎えるまで、今日あったことの反省や、とりとめのない雑談する。


「今日はお疲れさまでした、セカイ様。初めて戦闘をなさると言われたのに物怖じせず果敢でしたね」

「あぁ、クリスタルの方もご苦労さま。何度も盾になってくれて助かったよ。ダンジョンマスターだからなのかな。生物を殺傷するのになんとも思えなかったよ」


 むしろDPを獲得することがゲーム感覚に似て楽しんでいた。

 魔物を見つければ殺し糧にする。その高揚感に集中力まで失ってると感じるのに大分時間がかかった。そのため初日からこんなハイペースでは身がもたないと判断し、少し早めに切り上げたくらいだ。

 それは良く言えばこの世界に適応している、悪く言えば人間だったころの感覚が鈍化していると思えた。


 しかし相手が魔物ならばまだいい。もし言葉の通じる人間、それも善人を相手に殺戮しても不安よりもまず幸福感を味わうのだろうか。自分が殺戮マシーンになってしまうことに不安を感じてしまう。

 だがダンジョンマスターとはDPを集めることに重きをおき、肉体と同じく精神も屈強にできている。


 そのためけ俺は恐怖した。不安を感じないことの不安に。己が己を忘れ失っていく感覚に。

 なまじ地球人のころの記憶があるため起きたシステムエラーとも呼べる。魂と精神に不和が生じたのだろうか?

 まだここにきて一日。世界一のダンジョンにすると言ったのに早くもこうだ。

 いやむしろ、初日に気づけたからこそよかったのだろうか。

 今日の主に精神的な疲労で、自分を必要以上に情けなく感じてしまう。


 そんな俺の意気消沈な顔を見かねて、クリスタルは俺の隣に少し距離を置いて座っていたが、肩と肩が触れ合うかのギリギリの距離まで側に近づく。


「……どうした?」


 静かに優しく、俺の緊張を取り除くようにと語りかける。


「セカイ様、お空を見上げてください。星がとても綺麗ですよ。私はダンジョンの奥底に眠るクリスタルでした。外の世界の知識がありますが、実際に目の辺りにするのは今日が初めてです」


 腰かけている大樹が周辺の大地の栄養を、全て横取りしているのか、この大樹の回りには他の木々が見当たらない。おかげで空を見上げると、満点の星々が輝いていた。

 ここは地球より光源の少ない世界、これほどまでの星空を見たこともなく、感動に胸が震え、自然と声が漏れる。


「私はこれから、セカイ様と共に冒険し、たくさんの初めてと出会います。私はそれが楽しみで仕方がありません。また逆にその中で普通の人間だったセカイ様は人一倍に悩み、苦しみ、もがき、葛藤するかもしれません。それでも私はあなたの傍に必ずおります。あなたと一緒に責任も背負うつもりです。だから、あなたは不安を一人で抱え込まず、私にも分けてくれませんか?」


 俺はこれからダンジョンマスターとして、これから多くの生命を奪うだろう。

 それは悪人も善人も女も子供も時として関係なく奪うかもしれない。

 ダンジョンマスターの本能がそうさせるかもしれない。

 ただそれでも自分は決して独りではない。失敗しても、手を離さないでくれる仲間がいる。

 そう分かっただけで、胸の奥に巣くう不安が払拭できた気がする。

 すると自然と一滴の涙が頬を伝うのを感じた。


「あぁ頼む、これからも俺と共に歩み、助けてくれ」


「はい、喜んで」


「ありがとう」


 それから俺は、自分に僅かに残る過去を、自分が異世界から来たことを打ち明けた。

 殆どが地球の知識で、自分の思い出のことまでは話す内容は少なかったけど。それでも、地球のことを真剣に聞くクリスタルの顔を見るのが楽しくて、ついついどうでもいいことまで話した。だけど、全てを打ち明けたころには二人の絆は以前に増して、強力なものになっていた気がする。

 話す内容もなくなったころには長い夜が明けていた。





「へくちゅっ!!」

「あぁ、セカイ様、お風邪でも引きましたか!今すぐこのローブを」


 そういえば、俺は下着一枚の姿で、クリスタルはローブ一枚の姿だったな。

 早くまともな恰好を手に入れることを心に刻んだ。

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