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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
17/214

17話 沼地に潜むうざい奴

 7階層から始まる沼地エリア。

 夜の闇に満月の光が差し込み、沼の水面に禍々しい色が映し出す。

 水草や低草などの雑草が生えているだけで木々が見当たらなく、所々の地面がぬかるみ足の踏み場が非常に悪い。

 泥の重みが侵入者の体力を徐々に奪って歩みを止める。

 さらに厄介なのが襲ってくる魔物の多くは空中に浮かんでいるため、沼の障害をものともしない。

 油断していると後ろから火の玉のような初級クラスの魔物、霊魂スピリットが襲いかけてくる。


「そしてここからは中級の魔物が何種類も出てくる」


 レオニルさんの解説に様々な魔物が紹介される。

 それは二階層で俺たちを襲った湖沼に誘う鬼火(ウィオウィスプ)を始め人喰い化け樹(モンスターツリー)首なし騎士(デュラハン)にその愛馬首なし霊馬(コシュタバワー)、そしてこのエリアで最も厄介とされ冒険者に忌嫌われる提灯を持つ南瓜(ジャックランタン)などだ。


「それにしても中々お父さん出てこないわね」

「すみません、きっとまた俺に逃げられることを警戒して用心深くなっているんです」

「あ、いいのよそんなこと……ただ、早く会いたくてついね」

「シィルスス、分かっているだろうけど、あのゴーストは正常じゃねぇ。出会ったとしても会話もろくに出来ない確率が高い」

「うん、その覚悟も十分にできてる。だから私もなるべく皆の足手まといにはならないように心掛けているから」

「シィルススさんは自分の安全の事だけを考えて下さい、それが俺たちにとっての一番の手助けですから」

「……そうね」


 突き放すような言い方で申し訳ないが、間違いが起きてしまってからでは元も子もない。巻き込んだからには例え俺が死んでしまっても、彼女だけは生きて地上へ帰すつもりだ。


『それではお話も済みました所で攻略を開始します』


 そしてクリスタルはまた駆ける。

 クリスタルにとって襲ってくる魔物の攻撃よりも、泥のぬかるみの方が厄介な扱いらしい。

 足の踏み場を間違えないように、慎重になりながらも冷静に走る。

 それはウィルオウィプスが現れ火の球を身体に直撃しようが、モンスターツリーが現れ乾びた枝で背中を叩こうがお構いなしだ。

 障害にならない者は相手にしない。

 そして冥途の館に入ってからおよそ四時間を経過した所で次の8階層へと続く転移門を潜った。


「にしても、全然挑発に乗ってこないな」

「いや、いつも以上に襲って来る魔物の質も数も全然違うぞ、そう思うのは嬢ちゃんの能力が異常なんだよ」

「だとしても、そろそろ本丸が赴いても悪くないとは思うんだけどなぁ、一度外へと出てみるのもいいかな」

「それもいいかもしれんな、ただ気を抜いてまた不意打ちを食らうなよ」

「分かってるって……レオニルさんは二人でそこにあるもので食事でも何でもして寛いでください」


 クリスタルの中には、水も食糧も十分に備蓄してある。


「おう、何かあれば目の前にいる嬢ちゃんに知らせればいいんだよな?」

「そうだよ、こちらのクリスタルとそちらのクリスタルは感覚を共有してるので」


 といっても見たり聞いたりするだけで、触れることは叶わない。

 いつかここにいるクリスタルとも触れてみたい、立体映像だとやはり寂しく思う。


「クリスタル門を開けてくれ」

『承知しました。————《アクセス》』


 クリスタルの召喚した入口を潜ると、クリスタルは少し不機嫌な顔付きをしていた。

 あれ、どうしたのかな……。


「セカイ様、いくら何でも出てくるのが早すぎます」

「いやでもさ、クリスタルを一人にするのもどうかと思ってさ。それにホラントさんが出てくるのも遅いと思わないか?」

「まだ階層の中層に差し迫った所です。遅いというほどではありません、それに私のことを信じてくださらなかったのですか?」

「そ、そんなわけないよ……ただ少し心配していたのは嘘じゃないけど」

「でももただもありません、それに本音は観戦するのに飽きただけでしょう?」

「うっ……」


 クリスタルの剣幕を前にただ言い訳することしかできない。

 それに彼女の無双ぶりを見ていると、身体の奥底で疼く物もあった。


「こ……この階層だけでもいいのでお願いしゃす!」 


 手を体の横に伸ばし、上体を腰から斜め45°の角度で勢いよく傾けO・JI・GIをする。

 気分も学生時代を彷彿とさせる部活動式だ。

 そして真摯の思いが通じたのか、クリスタルさんは片手で頭を少し抑えながらも一つため息をする。


「はぁ……仕方ありません。この階層だけですよ? もちろん無理は絶対になさらないでくださいね」

「ありがとござーすっ!!」


 クリスタルの許しを得たことで外の空気も新鮮に感じる。

 紫色の沼からぶくぶく溢れ出る有毒ガスの香りなんてとてもフレーバーだ……すみませんそれは嘘です。


 そして二人で沼地の樹海を駆ける。

 ここからは樹木も茂って、まるでフェルホック湿地帯を思わせる。

 襲ってくる魔物に対して魔力を消費せず対処する。

 これはあくまでも準備運動を兼ねた気分転換とダンジョンマスターをおびき寄せるための策であり、極力体力を使うことはしない。またクリスタルに守られるようなことにもならない。


 木の陰から襲ってくるウィルオウィプスやデュラハンの攻撃も何とかして躱す。

 ターゲットが二人に増えた分、敵の動きも散漫になったそうだ。

 すかさずクリスタルが魔物に一撃を加えてくれる。それもノーガードによる鉄壁の特攻なので、さすがの二体に同情してしまう南無。

 そして暫く二人で移動していると、突然後ろの方から男の声が聞こえる。


「誰か、助けてくれ!」


 声の大きさからすぐ近くだと分かる。


「今の声はおそらく別の冒険者でしょうか?」

「だとするとまずいな、二人のいる手前無視するのも悪いし、助けるのも非常にまずい」

「ですが一応向かいましょう。不義理はもっと不味いですよ」

「……そうだな」


 声の聞こえた方角に向かうと、一人の男が木に上半身を倒し座っていた。

 見るからに冒険者の恰好で、全身に何か所も軽傷を負い、右足は無残に負傷している。そして男は俺たちの接近に気づくと安心したような顔になった。

 俺は警戒をしながらも、男に近づき話かける。


「おい、こんな所でどうした。他の仲間は?」

「な、仲間は全員やられた。俺も逃げるのにも精一杯だった。すまないが肩を貸してくれないか? ダンジョンから出たい。謝礼も必ずする」

「あぁ……分かった」


 男が手を差し出してきたので、その手を掴む。

 男はなんとか片足で立ち上がると、俺の肩と触れるほどに接近した。


「セカイさっ!?」


 すると男は小脇に隠していた短剣を抜き、敵意を向けて俺に振り下ろした。

 男の奇行にクリスタルは声を遅れて発してしまう。


 しかし短剣は俺の身体を傷つけることはなかった。

 待ち構えていた魔法で、短剣を持っていた男の腕ごと切り裂いたのだ。


「ぐわぁぁぁっ!?」


 男は腕を斬られたことの苦痛に蠢き、地面を転びまわる。

 そしてその顔には明確に焦りと動揺の色が映る。


「セカイ様、お怪我はないですか!?」

「問題ない。それよりレオニルさん達にも説明するが、コイツは魔物だ」

「魔物ですか! まさか初めからセカイ様はお気づきに?」

「そうだ、気配察知の能力が役に立ったよ」


 多頭蛇ヒュドラを倒したときに得たDPで、自身の強化を行っていた。

 それは気配察知と暗視と魔力増量と肉体強化の4つである。

 といっても魔法のような能力スキルと違っているため、身体能力を僅かに底上げしただけであるため、DPの割に成長したと実感できていない。

 人間で例えるなら目が悪いのでメガネを掛けたくらいだ。


 気配察知も周囲に潜む相手を発見するとかでもなく、直接見て人や魔物の持つ魔力の違いなどを微量に見分ける程度のものだ。

 そして呻く男の背を踏み、持っている剣で直接止めをさす。

 すると男は痙攣を起こしたあと身体が黒い霧へと変化し消えていった。残ったものは使っていた武器の短剣と着ていた服と魔石だけである。


「レオニルさん、何かこの魔物に心当たりはあります?」


 しばらくクリスタルが通訳としてレオニルさんと会話を広げている。


「セカイ様、あれは恐らく二重する影(ドッペルゲンガー)だそうです。しかしこのダンジョンでも初めて見る個体らしく、レオニルさんも返答に逡巡していました」

「すると今まで隠していたのか、知った者は全員殺されていたかの魔物か……考えるのは止そうか、先へ進むぞ」

「はい、と言いましても転移門がもう側に見えます。セカイ様はお戻りになられてくださいね」

「そ、そんなぁ」


 これ以上わがままを言うと本気で彼女を怒らしてしまいそうなので、召喚された光の門へとずるずると退散する。

 ついでにドッペルゲンガーの持っていた短剣くらいは回収しておく。

 中では、レオニルさんとシィルススさんが重い顔で待っていた。


「お二人ともどうしたんですか?」

「いやな、沼地エリアでよく冒険者が犠牲になることが多かったのだが、その原因がコイツだったとはなって……」

「ここって中級までの魔物しか出ないとされているの、でもドッペルゲンガーは上級下位。それも人の言葉を話すくらい高い知能を有している魔物なのよ」

「確かにあの変身能力は危険ですよね、でもこれでもうここでの心配はなくなりましたよね?」

「そうだな、といっても今日でこのダンジョンは終いなんだろ?」

「そのつもりです。だから二人も気持ちを切り替えていきましょう!」

「おう」

「そうね」



 そしてクリスタルはこの沼地エリア最後の9階層へと突入する。

 ここからはレオニルさんも未踏であるため、手探りで進むことになる。

 クリスタルは転移門を抜けると、すぐ目の前に地面に居座る直径90cmくらいの大きさのカボチャを発見する。

 なんだこいつ……明らかに怪しいぞ。

 こちらにいるクリスタルも思わず怪訝な顔をしてしまっている。


「ちっ、ついにコイツが現れたか……嬢ちゃんこっからが正念場だぞ」

「コイツがレオニルさんのいうジャックランタン? そんなに強いのか……」

「ソイツは強いんじゃねぇ、うざいんだよ」

「は?」


 強くないのにうざい? それは一体どういう意味だ。

 すると、カボチャは突然「ポンっ」と音と煙が出して、その中から三角帽子とローブを纏った二頭身くらいのカボチャの頭をした魔物が現れた。


 ロシアの伝統人形みたいな登場の仕方だな、その二頭身のカボチャ魔物はマスコットみたいで意外と可愛らしい。

 そしてクリスタルの回りに飛行しながら小さな腕を振り回してポーズをとっていた。


「ガハハハハハハハハーオイラに出会ったのが運のつきっ!死んでオイラの養分になれ!」


 なんだこいつ、中級と聞いたが喋っているぞ。

 それにずっと笑っている声が不気味というより確かにうざい。

 クリスタルもそれに一瞥すると、瞬時に無視して全速力で転移門を目指す。

 そうだそれでいい、相手をするだけ時間と体力の無駄だ。


「ガハハハハハ、オイラから逃げようとはいい度胸だな。ほれっ!」


 するとジャックランタンの持つ提灯から無数の小さな火の球が放たれる。

 それは蛍火のようでウィルオウィプスの火の球と比べて大きさは小さいがその分数が異様に多い。

 そのため駆けるクリスタルに数十の蛍火が殺到する。


 しかしウィルオウィプスの火球にすらクリスタルに効かない攻撃を、今更その程度の火力でダメージが食らうはずもない。

 腕に肩に足に腰にと蛍火は当たるがまったく意にも介することなく颯爽と走る。

 ジャックランタンはその態度に痺れを切らして、クリスタルの追跡をしながら今度はキャンディケインのような小さなステッキをローブの中から取り出した。


「ガハッやるな女ぁ、だったら次はコイツだっ!」

「きゃ!?」


 すると、突然クリスタルの走る方向にある草が動きだし、彼女の足にその草の蔓が巻き付き、クリスタルは盛大に転んだ。

 かなりの速度で走っていたため、慣性に乗って倒れた彼女に大量の土が被さり汚れてしまった。

 無惨にも顔や体は土や泥だらけ。


 さすがのクリスタルもそれには足を止め、体の汚れをこまめに落とす。

 地面にうつむく彼女の顔はきっと怒っている、こちらのクリスタルの顔が非常に険しい……怖いからやめてその顔。


「ギャハッハッハッハッハ!思い知ったか~」


 ジャックランタンの笑う声が五月蠅くて不愉快極まりない。

 ダンジョン内では、皆が口々にクリスタルを労わる声をかける。


「殺すか」


 こいつの相手をするクリスタルが可哀想に思えたので早々に加勢してヤルつもりでいる。

 俺は勢いよく立ちあがるも、それに対してレオニルがため息を付きながら答えた。


「それが無理なんだ」

「どういう意味だ?」

「俺も何度かこいつの相手をしてきた。突然魔物の戦闘に加わるがやるのは悪戯行為だけ、それに切れた仲間が本気でヤツを討伐しようとしたのさ。そして皆でなんとかしてヤツを捕獲し一刀両断にしたのが、ヤツは死ぬことはなく、どことなく現れやがって、また戦闘の邪魔をしにきた」

「それは不死なのか?」

「いや恐らくだが、あれは依代で本体は別にいるのだろ。ソイツを見つけて叩かない限り延々とカボチャの相手をせなならん」

「うぜぇ」

「だろ? 脅威はないのだが、遭遇したら別の階層に逃げるかしないとずっと追って来る。多くの冒険者はコイツに出会えば厄日として今日はもう帰るっていうほどだ」


 さすがに対処の仕様もなくて討伐は断念するほかない。

 本体を探している余裕もないので、申し訳ないがクリスタルにはこのまま次の階層まで目指してもらうことをお願いする。


「クリスタル、残念だがコイツは倒せないそうだ。悪いがこのまま突っ切ってくれ」

『……畏まりました』


 クリスタルは本来より口数が少ない気もする。

 だけど、何も言わず忠実に命令をこなしてくれた。

 転ぶこと3回、穴に落ちること2回、水を被ること1回、頭にカボチャを投げられること13回。

 どれも殺傷能力は低く完全に子供の悪戯程度だ。しかしその悪戯が起きる度に大笑いするあのカボチャ顔が非常に憎たらしい。


 クリスタルはその悪戯に耐えて耐えて耐えてようやく転移門を発見する。

 いつもより時間のかかったのは間違いなくこいつのせいだ。そして俺も精神的に開放された気がする。ある意味このダンジョンで一番手強い魔物だった。


「女ぁ楽しかったぞ~ここからはボスが待ってる、オイラはここまでだっ!ばぁーい」


 そしてジャックランタンは闇の彼方へと消えていった。

 ほんとコイツにはもう会いたくない、しかし最後にヤツが放った置土産の言葉は有り難い。


『いよいよみたいですね』

「ご苦労だったクリスタル。あのカボチャ……わざとか嘘なのか」

「次は10階層の森林エリアだ。待ち構えていても可笑しくねぇと思うぞ」

「あの魔物、子供っぽいから嘘には見えなかったわ」

『私も同意します、確かめるためにも転移門を潜りましょう。とその前にセカイ様、着替えをさせて下さい』

「あーそうだな。アイツに結構汚されたからな……ほら」


 クリスタルに替えの服とタオルを転移門ごしに渡す。そしてそれを受け取ったクリスタルは着替えを開始する。

 クリスタルの視界がモニターに映し出されているため、なんだこれ……背徳感すごい!

 しかしこちらを見るシィルススさんの視線が非常に痛い。恐れをなしたレオニルさんは背を向け、だが俺はその視線に耐える。ダンジョンマスターとしてこの目に焼きつける必要があるのだ。


 そしてクリスタルさんの生着替えは肝心な部分に差し掛かると、モニターが砂嵐になった。

 ヘ?ソンナキノウアルノ?

 暫くしてモニターの映像が直るとクリスタルは綺麗な恰好に身を包んでいた。

 そして汚れた服はクリスタルの中に捨てられた。



 それから気持ちを落ち着かせた皆が顔を合わせ、クリスタルに進むように言う。

 各々覚悟はとっくの前に出来ている。今更尻込むことはない。

 そしてクリスタルは目の前に佇む転移門へと入る。


 すると眼前にはスケルトンの大群と目的であるダンジョンマスターのホラントが待ち構えていた。

 ついに決戦の時が来たのだ。


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