14話 息抜き
待ち合わせの時間まで割と暇なため買い物で時間をつぶすことにした。
最近ずっと闘うことしかせず、緊張の糸を緩めるためにも気分転換が必要だと感じたのだ。
街中で冒険者の恰好でいるのも目立つことなので、とりあえず一般的な男物の服をあさる。
残念なことに俺はオシャレに関心はない。
と評価するよりもダンジョンマスターになったことでの、生前とは様変わりしたルックスに、未だに慣れていないからだ。
そのため湿地帯で汚れて不足した分、適当に見繕った服を上下二着と下着もいくつか選ぶとすぐに買い物を済ます。すぐだ、本当に入ってすぐ終わらせた。
男物の服屋を後にし、次はクリスタルのための女物の服屋へと向かう。
「いかが……ですか?」
クリスタルの態度が羞恥か緊張かで変わっている気がする。いつものできるお姉さん的な雰囲気もなくなんだか可愛いらしい。
「うん良いよ、すごく綺麗だ」
クリスタルは試着しているロングスカートの裾をつまむ店員に勧められたポーズをとっている。
僅かに膝下の白い肌が見え、瞳を下に泳がせ恥らう彼女の顔と、服の下から浮き出る凹凸した身体の曲線美に固唾を呑んでしまうほどだ。
今までクリスタルに女性らしい恰好をさせてこなかった分、破壊力が抜群だ。こちらの心臓の鼓動が早くなるのが分かる。断言する、クリスタルは世界一可愛いダンジョンだ!……てそりゃそうだろ。
ハイウエストで色の違うスカートが二重に真っ白なブラウスから胸が少し押し出されている。
ここは一般的な店なので、フリルやレースといったものはなく質素な服だ。
しかし元が人形のような美人で着る人が着れば、彼女の白藍色の長い髪と合わさった恰好は清楚で可憐に見えてしまう。
服に関心がそれほど無かったために上手く言葉で整理できないのがもどかしい。
ただこの一瞬を絵画に残して永遠にとどめておきたいと欲望が駆り立たせる。
間違いなく言えるのは、これは童貞を殺す服だ!ということである。
「っ……ありがとうございます」
「お兄さん固まってないで、もっと褒めてあげてください。お値段の方もこれほど似合うなら安いもんでしょ」
店員の女性が買うことを薦めてくる、確かに彼女がコーディネートしてくれたためクリスタルは想像以上の美しさを見せてくれた。
示された金額は結構高かった気もするが、お金に余裕があり女の前で男は判断が鈍くなるのもしょうがない、二つ返事で買うこと告げる。
「まいどありがとうっ!」
後で冷静になって考えると絶対に足元を見られていた。
店を出て二人で街中を並んで歩く。
持っていた荷物は宿とクリスタルの中に片づけ、ついでにアカボシのために露店で焼かれる香ばしいタレがふんだんにかかった肉をいくつか置いてきた。
ちなみにアカボシの好みはゴブリンやオークなどの亜人肉らしいが、十分に美味しそうに頂いているので問題はないそうだ。
しかしさっきから二人の会話が続かない。
何を話せばいいのやら……魔物討伐なら二人の会話はああすれこうすれと思いつくのだが、まるで異性で年齢の近い職場の同僚とたまたまプライベートで出会ってしまった時の感覚だ。
いやそれともこれは初々しいカップルの方が近いのか……?
とりあえずいつもと違った雰囲気で変に意識してしまう。しかし俺とクリスタルはダンジョンマスターとダンジョンで感覚的には一心同体であるため何とも歯がゆい気持ちである。
「セカイ様、あそこなんて見てみるのは如何でしょうか?」
するとクリスタルから話しかけてきた。指さす方向を見ると書肆であった。
書肆といっても露店に近い、それも古本が籠の中に煩雑に並べられているだけだ。それはまるでデバートの特売コーナーに置かれている衣類のようだった。
しかし本は本なので見てみることにした。
「クリスタルは何か役立ちそうなものを適当に探してくれ」
「承知しました、よろしければ私の分にと何冊か探してみてもよいでしょうか?」
「ん? 気になることがあるのなら構わず言ってくれよ」
二人で本を探すも本の種類は少ない。多くは宗教の詩篇やら恋愛小説や冒険譚、日常生活をまとめた文化的なもので、知識や歴史を扱ったものは残念ながら見当たらない。
そこらの物は、財や権力として学校や富裕層が占有しているのだろうか。
とはいえ魔物や植物図鑑などは、冒険者ギルドで自由に閲覧できるので不自由はせず不満は生まれないのだろう。
俺はまだ文字も読めないので、仕方なく文字よりも絵の多い写本をパラパラと見る。
ふむふむ、文字は読めないが何となく話の意味は分かるものだ……。
今手にして読んでいるものは白黒であるが子供に読み聞かせする絵本のような物であり、主人公の男が仲間とダンジョンに潜り、苦労の果てに如何にも悪党顔のダンジョンマスターを倒し、金と名誉を手にするお話だ。
ふっ、たわい無い。
俺(ダンジョンマスター)からしてみれば、その主人公など勝手に住居に侵入してきたただの強盗ではないか。眷属を殺されれば、怒り顔になって侵入者を襲うのは当然だ。
ま、入口に立看で宣言していなかったダンジョンマスターにも負い目はあるか、と馬鹿なことを考えてしまう。
「セカイ様は何を真剣なお顔で読んでおられるのですか?」
「いやなんでもないただの絵本さ、気にするな」
「左様ですか。セカイ様、こんなものを見つけましたが如何でしょうか?」
クリスタルから受け取ったのは、とある冒険家の残した手記だった。
とはいえそれも写本であり、この冒険家――――およそ300年前最初に三大陸など全世界の地域を回り、数々の功績を残してきた伝説の人物の物語だとクリスタルは口頭で説明してくれる。
名をユーシ・グランスルス。さしずめユーシの大冒険ってところか。
面白そうなので購入することにする。
他にクリスタルが文字の書かれていない空白の本に、紙と筆記具を購入することになった。
「何に使うんだ?」
「セカイ様の文字の勉強のためにと思いました」
「そっか、ありがとな」
「いえ、明日の決戦が終われば勉強と致しましょう」
その時の俺は新たに結んだ約束に気を取られたのか、クリスタルが初めて俺に嘘をついていたことを、思いもしなかった。
最後に二人で求めていた魔法道具を取り扱う店を目指す。
魔法道具には大きく分けて三つの部類がある。
まず一つ目は、ダンジョンから掘り出された高レベルの道具とされる特殊魔法道具。
二つ目は、ダンジョンから発掘した素材や魔を含む物質を人間が加工してできた複合魔法道具。
そして三つ目は、人間の魔法のみによって特殊魔法道具を模倣し作られた量産魔法道具である。
優れた能力を持つのはおよそ一、二、三の順番で、そして逆に数は三、二、一の順番に少なくなる。
街中で一般的に使われる魔法道具は無論のこと三番であり、魔術師ギルドや魔法学校の人間によって作られたものである。
今行く店もおそらく量産道具ばかりだろう。
「いらっしゃい」
野太い男性店員の声に促され魔法道具を物色する。
懐中電灯のような明かりを灯す棒や、ライターのように火を起こす石、魔力を出せば水が出てくるコップなどが5,000から10,000エンスとそこそこの値段で売られている。
「何かお目当ての物は見つかりましたか?」
「いいや、何というかどれも地球でありきたりにあった物でぱっとしないな」
「そうですか、特殊魔法道具や複合魔法道具などがあれば良かったですね……」
「だなぁ……ん?あれはなんだろ」
棚に並べられた小物の中から不思議な気配のする一つの髪留めを見つける。それは特に豪華な装飾もなくただ丸い小さな花を模したものが一つの、本当に髪を留めるだけのバレッタのようだった。
小太りのおっちゃん店員にその詳細を尋ねてみると——。
「実はこれ特殊魔法道具なんだね。ただ、言っちゃなんだけど値段の割に性能も優れていなく装飾具にしても高いとして売れ残ってしまっている品さ」
「へぇ、どんな機能なの?」
「『天』の加護さ。といっても運気が上がるとかじゃなくて、ただ『天』の属性が付与されているだけで魔法の類は一切発動しないから眉唾物とされているんだ」
『天』、聞いたこともない属性だ。それに好奇心をくすぐられる。
「『天』ってどんな属性なの?因みにだけどいくら?」
「さぁ恥ずかしながら私にも分からない。ただ鑑定の魔法道具で詳細だけは知ることができたんだ。もう何度も返品されて巡り巡ってこの店まで流れついてしまったのさ。値段はそうだなぁ150,000エンスでどうかね?」
た……高い!まじでそんなにするの!?
こんなものを買ってしまったらレオニルさん達との食事会の予算がギリギリになってしまう。
服屋で結構足物見られたから同じ轍は踏まない。しかし粛々と諦めるのも何か気がかりだ。
「120,000エンスでは?」
「セカイ様っ!?」
クリスタルもまさか俺が髪留めを買おうとしてることに驚いている。それも高価でまともな効力もないとされる魔法道具をだ。
「それはさすがに厳しいよ。145,000エンスだ」
「売れ残っているんでしょ、130,000エンス!彼女にプレゼントさせてくれよ」
「……仕方ないな、135,000エンスでどうだ。これが限界だ」
うーん、相場が分からないから取りあえず値切り交渉したが、この辺りか……。
「分かった、それで頼むよ」
「まいどあり」
懐からお金を渡し、お釣りと髪留めをもらう。
「名は色天一乃華という。まあ名前はついでに紹介されたものだから気にする必要はないさ」
「ありがとう大事にするよ。クリスタル、よかったら貰ってくれないか?」
クリスタルも馬鹿ではない、今までの一連の流れから自分に髪留めが来ることは予想ができていた。
しかし、そうでなかった場合の不安と期待が勘違いで終わる緊張もあって動揺はしていた。
「ほ、本当に私でよろしいのでしょうか? 私の体質のことを、ちゃんと分かっておいでですか?」
「あぁ、分かっている。ただこれがクリスタルに似合うと思ったんだ。それに髪も多少纏めていた方が動きやすいだろ」
クリスタルの身体は魔力を放つことができない。
つまり彼女がこの魔法道具を発動することは絶対にない。
「あ、ありがとう、ござい、ます……つけてみますね」
おずおずといった様子でクリスタルは後ろ髪をバレッタでまとめてみる。
彼女は髪飾りをつけたことでより一層華が生まれ、優美で可憐な雰囲気が際立った気がする。この姿を見て後悔する男はこの世界にいるわけがない。
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます」
「お嬢ちゃん…本当に似合っているよ、彼氏さんも鼻が高いね」
事情も分からない魔法道具屋のおっちゃんが顔に手を当てて祝福してくれる。
何か自分たち以上に外野が盛り上がると非常に冷静になれる……。
「それじゃ、そろそろ広場へ行こうか」
「はい、道具屋さんもありがとうございました」
「また来てくれよ、今度もサービスするから」
そうして俺とクリスタルは待ち合わせの中央広場を目指す。
時間はもう夕暮れを過ぎ、辺りは魔法による街灯が灯り始めていた。
「お、おい!?」
「ふふ、感謝のお気持ちです」
街灯の明かりが映す二人の影は仲睦まじく繋がっていた。
読み返すとこいつら闘ってばかりの気もしたので、日常シーンだけを書いてみました。
あと一話日常が続きます<(_ _)>




