精霊王とは、魔素の正体とは
俺の魔力は精霊王と繋がりがあるということで、まずは精霊王について調べてみることにした。ここでもナイジェル様の館の図書室は力を存分に発揮してくれた。
精霊王とは半陰半陽の存在で、性別はないらしい。その時々で女性の姿を取ったり、男性の姿を取ったり、はたまた子供だったり大人だったりと決まった姿はないそうだ。
そして、精霊王は空気のようにどこにでもいる存在で、しかしどこにも存在しない。ここがよく分からないが、実態のない幻のような存在という意味だろうか?
しかし、精霊王がどこにでもいるというのなら、人間達の一部だけでも存在は感じ取れそうなものだが、分からないものだろうか。
「うーん……」
「あ、リョウスケ、ここにいたんだぁ〜。何を読んでるの?」
ヴィルヘルムが声を掛けてきた。
俺の魔力について調べるに当たり、まず精霊王について知ろうとナイジェル様に図書室に入る許可を貰ったものの、俺はこの世界の字が読めないことを失念していた。
だが、片っ端から読んでみると幾つか読める本があったので開いてみると精霊王についての本だった。随分古い本のようだ。
読みたかった本だけが読めるというのも不思議だが、古い本なのもあってどうやら字からして違うようだ。
日本語じゃないのに俺が読める理由は分からないが。
「あ、ヴィルヘルム。あれ?講義の日だっけ?」
「いや、違うよ〜。僕も調べ物。っていうか、その本読めるの?古代妖精語だよ?」
「は?古代妖精語?」
「そう。精霊王が忘れられて、古代妖精語を読める人も今では殆ど居ないけど、その本は精霊王に忠実な妖精の内、力のある一人が書いたと言われているんだ。どこから来たのか、いつからここにあるのかは分からないけど、この領主館にはそんな珍しい本が沢山あるんだよ」
「精霊王が忘れられたのに、妖精は信じられているのか?」
「いや、今では古代妖精語と言っても読めない人が殆どだし、そう言われているだけでそれ位神話級に古い本、としか認識されていないよ。作者不明のいたずら書きってことになってる。まぁ、古いし数も少ないし、時には現物の存在自体疑われている本だけどね。もし事実だとしても、そんな古い本が未だに形を残してるってのも疑われている要因なんだけど。でも貴重なんだよ」
どうやら俺が読めたのは相当古い本のようだ。しかし、古代妖精語が読めるというのはどういうことだろうか?精霊王だけでなく、俺の魔力には妖精も関係してくるのか?いや、でも妖精は精霊王によって生まれたようだし、似たような存在なんだろうか?
その日、眠る直前に耳元で囁く声がしたが、すぐに聞こえなくなったので空耳の類だと思ってすぐに忘れてしまった。
翌日もヴィルヘルムに実技を習ったが、相変わらずヴィルヘルムの説明は訳が分からない。
でも、精霊王のことを色々調べたせいか精霊王のイメージは作ることが出来た。ヴィルヘルムたちの言う魔素というのは、精霊王の力が源になっているのではないだろうか?精霊王はどこにでもいてどこにもいない存在だとあった。
あれは要するに、精霊王の力はそこらに溢れていて、でも精霊王を見ることが出来る人間はもういないからどこにもいない存在、という意味ではないだろうか?
あの本が、人間が精霊王の信頼を失い精霊王を見ることが出来なくなった後に書かれた本だとすれば辻褄が合う。
この世界の住人は精霊王を信じてはいないし、存在も忘れがちだが無意識に精霊王の力を借りているとしたら。それはとても皮肉なことだと思った。
自分たちが日常的に恩恵を受けている力が、自分たちによって忘れ去られ、信頼を失った精霊王の力が源だったとしたらこんな自分勝手なことはないし、そんな人間達を精霊王はどう思っているのだろう、とふと思いを馳せた。
この考えが当たっているのかは分からないが、強ち間違いでもないんじゃないかと思えてしまった。