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影の薄いのは生まれつき(仮)  作者: 大和蒼依
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ナイジェル様の頼みとリョウスケの過去

 前例のない分類し辛い魔力を持ったことで、俺の魔術の習得は困難を極めることとなった。ヴィルヘルムは基本や概念など座学を教えることはできても、実技のこととなると完全にあてにはできなかったからだ。

 只でさえ稀な色の魔力だというのに、天才の教え方らしく感覚で「こう、グーッと力を入れて、バーッと外に出す感じ」とか説明されても、こちらはさっぱり訳が分からない。もうちょっと分かりやすく教えて欲しい。

 その上俺とヴィルヘルム達この世界の住人とでは、魔力の使い方が違うのか言われた通りにやってみてもポヒュンッと間の抜けた音がして一瞬小さな光が見えるだけで、一向に魔術が使える気がしない。


「……可愛らしい魔術だね」

「うるせっ」


 何度やっても炎も出なければ氷のかけらすら出ず、ヴィルヘルムに時間停止の魔術を掛けた時なんかにはヴィルヘルムはスタスタと歩いて行ってしまった。何だか、からかわれているのが丸わかりで情けない。

 魔術は追々覚えていくとして、この調子ではいつ習得できるかも分からないし、いつまでも世話になるのも申し訳ないのでナイジェル様に何か仕事をくれるように頼んでみた。

 すると、魔力はあることが分かったので、魔術を習得することを優先すること、と念を押された上で以前ナイジェル様が言っていた頼みたいことと言う話を聞くことが出来た。ナイジェル様が俺に頼みたかったこととは、仕事の斡旋だった。そもそも、俺が拘置所でよく忘れられていたと報告を受けたことから思い付いたようだ。


「リョウスケは影と同じ仕事を頼むのは無理にしても、その気づかれにくさを生かしてコッソリ情報収集は出来るんじゃないかと思うんだけど。どう?」

「どう、と言われましても……」


 スパイの様な仕事を期待されているらしい。


「俺は忘れられやすくはあっても、全然気付かれない訳ではないので。それに、この特性も自分でコントロールして気配を消している訳でもないですし」

「そうなんだよね。でも、魔力の色の話を聞いて、一つ可能性を思い付いたんだ」

「可能性、ですか?」

「そう。リョウスケの魔力は精霊王と繋がっている。そして、精霊王の存在は今とても希薄だ。それが、リョウスケの影が薄い理由の一つじゃないかな、と思うんだよ。そうでなければ、この館に入ってからもリョウスケの存在は忘れられてばかりいるはずだ」


 そう言えば……この館に入ってから、存在を忘れられたり、食事を忘れられたりしてない。俺の影の薄さは、精霊王と繋がる魔力のせいだったのか?


「この領主館では魔術制限を掛けているからね。主に館内の防衛のためなんだが。私が許可した人間以外魔術を使えなくしているんだよ。魔術耐性の間は別にして、だけど」


 俺が魔術の特訓の為に使わせて貰っている部屋は、魔力検査を受けたあの部屋だ。外で周りに何もない所とかがいいんじゃないかとも思ったりしたが、魔術制限が掛かった領主館の範囲というのは建物の周りの庭を含んだ塀までのことのようで、それだと特訓の度に移動距離が地味にかかってしまう。だから実技の特訓は毎回あの部屋なんだな、と納得した。


「でも、影の薄さは生まれつきなんです。幼い頃からで、向こうの世界でもしょっちゅう存在を忘れられたりしていました。親にすら置いて行かれかけたこともある位です」

「ほぅ、そうなのか」


 ナイジェル様は驚いたようだ。


「魔力のせいだというなら、向こうの世界は魔力や魔術なんてそれこそ御伽噺の中の存在で、実際にあるものではなかったんです。それなのに、存在が希薄なのが魔力のせいというのはおかしくありませんか?」

「うーん。それは私にも分からないな。でも、他にも理由があるのかも知れない。まぁ、これが魔力のせいだというのなら、魔術を習得してコントロール出来れば私の仕事に協力して貰えるかな、と思ったんだよ」


 ナイジェル様は困ったように苦笑した。

 確かに、攻撃や情報操作ができなくても情報収集に特化するなら俺の数少ない特技を生かすことが出来るのかも知れない。

 俺はある人物のストーカーをしていたからだ。いや、ストーカーというと語弊がある。健全に影から見守っていただけだ。学校から俺の家への分かれ道までしか追いかけなかったし、隠し撮り写真を取ったり、電話番号やメールアドレスといった個人情報を取得したりはしなかった。

 だから、相手の事は学年が同じ女子ということと顔や名前、よく一緒にいる友達の顔位しか知らない。

 マンモス校である我が高校で、理系と文系ともなれば同じ学年とはいえ校舎は離れてしまう。よって、入学してからずっと存在すら知らなかった。ある日帰り道ボーッとしていると、校庭から飛んできた野球ボールのせいで顔面を強打して鼻血を出しているところに、彼女がやって来てハンカチを手渡してくれたのだ。

 ボーッとしていた俺は、そのまま鼻血を拭いてしまい後から慌てて気付いたが既に後の祭り、ハンカチは俺の鼻血で汚れていた。

 彼女は気にした様子もなく、「お大事に」と言ってそのまま去っていった。借りたハンカチは俺の鼻血で汚れており、返すことも出来なかったのでそのまま見送るしかなかったのだ。

 しかし、それから見掛ける度に漏れ聞こえる彼女と友達との会話から、少しずつ彼女が文系クラスの同学年であることや、帰り道が同じ方向であることを知っていったのだ。

 しかし、今考えてみると彼女はあの出会った日すぐに俺の怪我に気付いていた。それは今思えば不思議なことだった。俺は、声を掛けたり相手に触れたりといったアクションを自分から起こさなければ、例え怪我をしようが気付かれない存在だったはずなのだ。今までの経験上はそうだった。

 彼女は不思議な雰囲気を持っていて、友達が周りにいて会話をしている時でも、どこか浮いた印象の女の子だった。それがなぜかは分からない。でも、どこか周囲から弾き出された存在という印象が俺と重なって気になって行ったのかも知れない。

 時々廊下や校庭で鉢合わせする度に一言二言会話をする位で、特別仲がいいという訳でもない。向こうも鼻血を出してハンカチを貸した男子という以外、俺のことは殆ど知らないだろう。

 それでも、何となく彼女のことを見守ってきた。告白する訳でなく、ただ見守っていたのだ。自分でも何がしたかったのか分からないが、彼女が元気なのを見るとホッとしたし、怪我をしたり風邪を引いたりすれば陰ながら心配した。

 その一環で帰り道、俺の家への分かれ道まで彼女を追いかけていた時にこの世界へ連れて来られたのだ。

 そんな経緯から、プロとは言えずとも、隠れて人を追い掛けた経験は有るわけだ。この特技が日の目を見る時が来たのかも知れない。


「出来るかは分かりませんが、やってみたいです」

「そうか、助かるよ。実は今進めている仕事があるんだが、妨害にあっていてね。相手の思惑が知りたいんだ。もっと大きな陰謀に繋がりそうな気がしてね」


 そう言って、ナイジェル様は溜め息を付いた。


「でもまずは、魔術を習得することが先決かな」

「はい、そうですね」


 目標が見えてきたことで、どうしたらいいか分かった気がする。


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