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影の薄いのは生まれつき(仮)  作者: 大和蒼依
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魔術耐性の部屋と魔術陣

 よっぽど気になっていたのか、翌日は起こされる前に自然に目が覚めた。魔力検査と言うのがどんな事をするのか分からないが、取り調べを受けて風呂に何日も入っていなかったことだし、身綺麗にする意味でも体を洗っておくことにした。

 現代日本ではないので、勿論捻ればすぐに水が出るという訳にはいかないし、お湯もすぐには手に入らない。汲み置きの水を一度厨房に運んで、かまどで沸かして貰う必要があるのだ。そして、それを運んで貰わなければならない。魔法が使える者は自分で沸かせるし、沸かした水を再度運ぶ必要もないが。

 しかし、居候の上未だ不審者扱いの俺がこんな朝早くにお湯を沸かして貰い、尚且つ運んで貰うという重労働を頼めるはずもない。

 だが、幸いにも昨日の内に入るであろうと気をきかせて置いて貰っていた水があったので、使用人たちの手を煩わせずに済んだ。

 魔法が使えない俺は水を湯にすることはできないが、幸運なことに今の季節は水風呂でも問題のない気温だ。何の成分かは分からないが、石鹸はあることだし、体を洗うには申し分ない。


「何日ぶりかなー」


 取り調べを受けている間は勿論風呂に入ることが許されるはずもなく、渡された濡れタオルで体を拭くだけだった。容疑者とはいえ、余りに汚れるのは好ましくないのだろう。しかし、毎日風呂に入り且つ温泉好きな日本人の血が、風呂に飢えていた。この際、お湯でなくても構わない。浸かれなくても、せめて布で拭う以上の行為ができればそれで!

 置かれたふかふかのタオルを、石鹸で泡立てて体を擦る。濡れタオルで拭いていたとはいえ、毎日ではなかったので多少の垢は出る。何度か繰り返してスッキリすると、今度は水を被る。バスタブ用に用意されたためか、浸かることを考えなければ、体を洗うのには十分な量の水がある。湯を溜めて浸かるのは別の機会に取っておこう。いつか、ここを出る時にどこか温泉があるなら行ってもいいかも知れない。

 気が済むまで体を洗ってから、新しいタオルを取って水気を拭う。服は来たときの制服一着しかなく、洗って干す時間もないことだしと同じ物を身につける。それでも、体を洗ったからか先程よりはずっとマシになった。

 ここを出てからすることリストに洋服を手に入れる、も追加さなくては。いつまでも同じ服では居られない。せめて洗い替え用にもう一着は必要だ。

 着替えを済ませてから、何となく俺の抜け殻なのが丸分かりなベッドを整えてみた。

 そうこうしている内に、ミハエルさんが朝食に呼びに来たのでそのままダイニングルームに着いていく。ミハエルさんの後を着いて歩きながらふと、ここに来てから部屋とダイニングルームの往復しかしていないな、と気付いた。まぁ、俺があちこち勝手に歩くのはマズいんだろうが。

 扉が開いてダイニングルームに入ると、既にナイジェル様は席に着いていて、横に控えた執事服の若い男とやり取りしている。それを見て、執事って一人じゃないんだな、と思った。すると、


「そうだよ〜。領主様には執事が三人いるんだよ。ミハエルさんが筆頭執事で、三人で領主様の仕事と領主館の仕事をやりくりしてるんだ。領主様は領内を回るので館を離れることも多いからね。因みにミハエルさんは殆ど領主様の仕事に付きっきりなんだよ」


どこからかヴィルヘルムの声がする。見回すと、壁際に相変わらずのローブ姿でヴィルヘルムの姿があった。また俺の思考を読んだらしい。コイツに関してはもう諦めている。プライバシーは守りたいが、防ぎ方もよく分からないし。

 しかし、ヴィルヘルムの説明で昨日の使用人達の驚きの意味が何となく分かった気がする。

 要するに、ナイジェル様に付きっきりのはずのミハエルさんが俺の案内をしていたのに驚いたのだろう。多分、垣間見られた限りの気性や筆頭執事であることから考えても、わざわざミハエルさんが部屋の案内等を引き受けるのは身分の高い人なんかに限られるのかも知れない。

 俺の思考とヴィルヘルムとの(一方的な)会話が終わると、丁度ナイジェル様の方のやり取りも済んだようだ。


「あぁ、放っておいてすまないね。そろそろ食事にしようか。食事が済んだら魔力検査技師を呼ぶことになっているから」

「はい」


 朝食の時間は、夕べのような会話弾む食卓という風にはいかなかった。昨日粗方聞き終えたからだろうか?

 食事を済ませて魔力検査をするという部屋に連れて行かれる。ヴィルヘルムがダイニングルームに居たのは、彼も魔力検査に立ち会う為のようだ。


「ここだよ。」


 ナイジェル様が、使用人達が左右から開けた扉の前に立って入室を促す。扉の奥に見える限りでは、なかなか広い部屋のようだ。


「ここは特殊な部屋でね。魔術耐性が高くなっている。この館自体、実は魔術制限が掛かっているんだが、この部屋だけはそれが解除されている代わりにこの部屋から魔力や魔術の影響が漏れないような仕組みになっている」

「魔術制限?」

「あとでリョウスケに頼みたいことがあると言っただろう?そのことに関係するんだが、その話は今は置いておくとして。魔術を行使して、且つその影響を外に漏らさない為の部屋と考えてくれればいいよ」


 なんだか物騒な感じがするが、魔力検査とはかくも大掛かりな儀式を要する物なのだろうか。怪我をしたりしないといいのだが。促されるまま部屋に入ると、マント姿の少女が居た。

 しかし、辛うじて少女と分かる程度で顔は長い前髪で隠れているし、マントは黒、中に着たワンピースも黒、と何だか暗い印象だ。


「彼女は若いがなかなか優秀でね。リョウスケは我々と違ってどんな魔力を持っているかも分からないから、教会の秘蔵っ子を無理を言って借りてきたんだ」


 ナイジェル様がポン、と彼女の肩を叩くと、ビクッと怯えたように震えた。人見知りなんだろうか?


「今日は宜しくお願いします」


 お辞儀をする形で挨拶をする。今後に関わる重大な儀式なんだ。きちんと挨拶はしなくてはな、うん。


「あっ……お願い、します」


 慌てた上、尻つぼみで小さな声だったが一応返事が聞こえた。

 自己紹介を終えたところによれば、彼女の名前はニーナと言うらしい。

 ニーナの言うところによると、魔力検査の儀式とは、まず大きな羊皮紙に陣を描いてその上に対象となる人物が立ち、事前に採取した血を魔力検査技師が呪文を唱えながら自身の魔力を流し込み、それを陣の上に垂らすことによって行うとのことである。

 羊皮紙ではなく地面に直接描いてもいいとのことだが、場所が領主館であるため、今回は羊皮紙が選ばれたようだ。チョーク等の拭き取り可能な素材で描くならともかく、地面に刻まないといけないとのことで、普段なら教会で指定の間に刻まれた陣を利用しているらしい。所が今回領主館の床に傷を付ける訳にも行かず、持ち運び式の羊皮紙方式になったとのこと。ただし、この方法は陣が一度使用されると羊皮紙自体が燃えてしまうので一度しか使えない上、羊皮紙に陣を定着させるための染料が高価なようで、教会に赴いて儀式を受けるより割高になるという。どれだけ掛かることやら。今後返済できるか心配だ。

 説明を聞いて血を採取するということにも驚いたが、ほんの数滴ということで胸をなで下ろした。献血の様に、袋に溜まる程等と言われずに済んだからだ。


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