表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の薄いのは生まれつき(仮)  作者: 大和蒼依
5/9

今後の扱い2

「取り敢えず、今日はゆっくり休んでくれ」


 ナイジェル様の言葉で解散となった。


「リョウスケ様、ご案内致します」


 リョウスケ様と呼ぶ所では顔をしかめられたものの、ミハエルさんは俺を部屋まで案内してくれた。

 ダイニングルームを出た所でロバートとヴィルヘルムとは別れたが、どちらも何かあれば頼ってくれと言って貰えたので心強い。

 ロバートは詰め所に戻って業務連絡を終えてから通常業務に戻るとのことだったが、ヴィルヘルムはせっかく領主館に来たのでついでに図書室に行くらしい。俺のことを調べるのに禁書の棚まで漁ったはずだが、まだ調べ足りないことでもあるらしい。何故か少しウキウキしていた。


「こちらで御座います」


 ミハエルさんに付いて歩くと、すれ違う使用人達が一瞬驚いてから御辞儀をされる。俺がミハエルさんに案内して貰うのが、そんなに珍しい事なのだろうか?

 与えられた部屋に入ると、とても中が広いのが分かった。日本での俺の部屋がすっぽり入る。それどころか、俺の部屋いくつ分になるだろうか、という位広い。ベッドも豪華で、机やソファまで置いてある。こんなに豪華な部屋、使っていいのだろうか?

 トイレは流石に現代のような自動水洗ではなかったが、文化程度からしてもそもそも自動という概念自体ないのだろう。洋式だが半分ボットン便所のような形で、便器の中の穴に蓋がしてあり、用が済んでそこへ汲み置きの木製の深型の桶に入った水を流すと、一定以上の重みで蓋が落ちてブツが流れるという仕組みだ。蓋の一部はくっ付いているので物が落ちればバネでまた元通りになるという仕掛けだ。水で押し流すし、蓋があるのでボットン便所程臭わない。よく出来た仕組みである。

 バスルームも、シャワーはないが洋館らしく猫足のバスタブでゆったり浸かれそうだ。

 これらの装飾や家具を見るに、不審人物と思われているだろう俺には破格の待遇である。

 部屋に備え付けのトイレやバスルームの案内を終えると、ミハエルさんは俺に向き直って言った。


「リョウスケ様。何か分からないことや質問等があれば、そちらの紐を引っ張って下さい。そうすれば私や他の使用人達に分かるようになっていますので」


 有り難い。すぐそばに控えられるわけではないようだ。俺が貴族じゃないからそこまで人手は割けない、というだけかも知れないがプライバシーの確保は必要だ。簡単な説明を終えると、では、とミハエルさんはさっさといなくなった。

 することがないので、ベッドに寝転んだ。一人になるとつい考えてしまう。あの後、ナイジェル様は言った。まず、魔力があるか分からない。異世界人だから。魔力があっても魔術が使えるか分からない。魔力がこちらと同じとは限らないから。そして何より、魔術を使うことで俺にどんな影響があるかまでは分からず、責任は持てないこと。それはそうだ。

 しかし、件の文献を調べてみても、異世界人が魔術を使っていたと言う記録はなかったらしい。初めから魔力がなかったのならいいが、魔力があるのに敢えて魔術を使わなかったとしたら、異世界人である俺が魔術を覚えるのは危険なことかも知れない。


「魔術師って面白そうだし、カッコイいんだけどな」


 それらの事を承知した上で、魔術を覚えたいのなら魔力の確認後、協力してくれるらしい。

 どうせいつ帰れるかも、そもそも帰れるかすらも分からない今の状況では、魔術師がダメでも何か手に職を持たなくてはいけない。いつまでもナイジェル様の世話にはなれないし、日本のように呑気な学生ではいられないのだから。

 第二候補の仕事は、魔術師がダメだと分かった時にまた何か考えるとしよう。どんな職業があるかも分からないし、ナイジェル様が相談に乗ってくれるかも知れない。


「そういえば、ナイジェル様が後で頼みたい事があるって言ってたな。職の斡旋だといいな」


 今までのことに考えを馳せながら独り言ちた。


「リョウスケ様、夕食の時間で御座います」


 考え事をしていたら、つい眠りこけていたらしい。ノックの音とミハエルさんの声で目が覚めた。


「ナイジェル様は遅れて来るそうですが、リョウスケ様は如何致しますか?」


 取り敢えず返事をして、壁に備え付けの鏡で涎がないか確認してから扉を開け入って貰った。


「じゃあ俺……じゃない、私……もナイジェル様と一緒にお願いします」

「畏まりました。ナイジェル様の用意が整いました頃にまた伺います」


 慇懃な態度ではあったが、まだ打ち解けられてはいないのだ。俺が無害であることは、少しづつ理解していって貰うしかないのかも知れない。

 暫くして、呼びに来たミハエルさんについていくと、ダイニングルームにはすでにナイジェル様がいて席に着いていた。


「やぁ。少しは眠れたかな?環境も変わって、取り調べを受けていた訳だし疲れもあったかと思うんだが」

「はい。過分な部屋を頂いて、緊張しましたが、ふかふかのベッドに横になったらいつの間にか」

「それは良かった。この館は客室にも拘っていてね。ミハエル達が綺麗に保ってくれているんだよ」

「有り難う御座います。ぐっすり眠ることができました」


 当たり障りのない会話ばかりだったが、俺が向こうでどんな生活をしていたのか、家族構成やどうということはない日常のエピソードを会話して食事を終えた。


「明日は魔力検査技師は朝からやってくることになっている。きちんと起きられるように、早めに寝るといい」

「有り難う御座います。御言葉に甘えてそうします」


 結局、何を頼みたいのか聞きそびれた。俺の話ばかり聞かれるまま話して、今思えば柔らかい尋問のようだとも思った。いや、強制はされなかったんだが。

 取り敢えず、魔力の有無を調べないと今後のことに関わるということで、今日は早めに寝ることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ