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故に存在する世界  作者: 鳴指 十流
10/13

小人の恩返し

 自動販売機でストロー付きのジュースを買う。近くにあったベンチに座って、時々通る人たちを観察しながら、それを飲んだ。イチゴ味だった。おいしくて、なんだか懐かしいような気がした。ベンチの周りは、時々人が通るくらいでとても静かだった。

 だが、ジュースがもうなくなる、という時になって、おれは微かだが声をきいた。

 こんな声だ。

「たすけてくださーい。たすけてー。誰かー、たすけてくださーい」

 どこからきこえるのだろう。

 おれは周りを見回した。しかし誰もいない。不思議に思って、ふとジュースに目を向けると、ストローに挟まった、何か黒い塊が見えた。何だろう、とストローの中を覗くと、中には二センチ程の小さい人がいた。

「おーい、たすけてー。たすけてー」

 さっきからきこえていた声は、どうやらこの小人からのものらしい。おれは、なぜか小人がいることに驚きもせず、小人をストローから出してやろうと思った。ストローをジュースの箱から抜いて、一方をくわえてふーっと息を吹き込んだ。小人は、おれの座っているベンチに落ちてきた。「いてっ」といったが、小人はすぐに立ち上がり、ぺこりとおれに頭を下げた。

「ありがとうございます。おかげで助かりました。このご恩は必ずお返しします。では、私はこれで」

 小人はそう言うと、ベンチから飛び降りてどこかに消えた。おれは小人に向かって、去り際、「どういたしまして」といった。しかし、小人にはきこえなかったようだ。おれはその後、ジュースの箱とストローをゴミ箱に捨て、自宅へと帰っていった。


 次の朝。

 おれはあくびをしながら、新聞をとりにいくため、玄関の扉を開けた。いつもの習慣である。外に出て、郵便受けを開ける。

 しかし、そこには新聞ではなく、全く別のものが入っていた。それも大量に、だ。おれはそれを見た。

 それは、キャンディーのようだった。可愛い袋に包まれている。袋は、全てリボンのような形をしており、真ん中にはキャンディーと思われる、少し大きめの玉が入っていた。

 そうか、これが小人の恩返しかもしれないな、とおれは思った。そう思うと、何だか小人が可愛く思えて、おれは微笑んだ。早速、一つ食べてみることにした。キャンディーを手に取る。包みを開ける。

 しかし、包みを開けて、おれは腰を抜かしてしまった。なんだこりゃ。そこには、キャンディーではなく、思わず悲鳴を上げてしまうようなものが入っていた。

 それは、人間の目玉だった。

 目玉は、その黒い瞳をおれに向けてきた。おれは、「ひっ」と声を上げてしまう。とんだ、恩返しだ、と思った。小人なんか助けるんじゃなかった。

今度小人に出会ったら、迷わず叩き潰してやろう、とおれは心に固く誓った。




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