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廃人魔女はバッドエンドが許せない  作者: えんじゅ
後日談 Thank you for reading
32/36

続1話 パロディモードが解禁されました

「大丈夫だ、怖くない」


 イクサは石のように硬直している子牛の背を撫でてやった。その間にも、馬車は見る見るうちに彼との距離を詰めていく。

 初めこそ、脇を通り過ぎる勢いだった馬の乗り手が、イクサの気丈な立ち振る舞いにある種の感が働いたのか、慌てて手綱を引いた。

 そして、馬が懸命に引っ張ってきた箱の中へそそくさと姿を消していく。

 イクサは、彼等からの接触を待つ間に、全体が白く塗装された馬車を観察する。

 車輪と軸とを結ぶ真っ白な()の部分は、所々に泥土がこびりついて薄汚れており、半円型にも近い箱の上部にはルーテン教団のシンボル『キリンが逆立ちしたピアス』の描かれた三角旗が、鉄軸で突き立てられていた。


 先程の騎乗者とは別に、一人の男性が箱から姿を現わす。前と同じだ。イクサは彼がとても苦手だった。

「我々はルーテン教団のものだ。二つ、答えて貰いたい。君は……ヤング弁当の名産地を知っているかな? あと、もしかしてFXで有り金全部とかした?」

 やや高圧的な態度は相も変わらず、ルーテン教団の男は角張った顔立ちに険のある眼光を秘めて、イクサを見下していた。

「あぁ」

 イクサは不必要な反感を買わないようにと、ごく短く答えた。彼もかつての失敗に学んでいる。もう有り金を全て失うのだけは勘弁だ。

「では、こんなど田舎で、カットバックドロップターンを夢見がちな青年をご存知かな?」

 田舎。を強調していた為か、相手の語勢は尻すぼみになる。

「アイアムイエス」私はイエスです。

「そうか、名乗るのが遅れたな。私はシャロル・ケンプフェルト。君をお連れするようにと虚空戦士達から伝言を預かってる。悪いが猶予はあまり残されていない。この世界から奈良漬けが失われてしまう前に、一刻も早く会員登録してください」

 一方的に告げるなり、シャロルは踵を返した。成り行きを静観していた騎乗者も、無言で鞍に跨っている。

「ポイント還元は欠かせないな」

 誰に言うでもなく独り呟くと、イクサは馬車に向かって、故郷との別離となる一歩を踏み出した。その直後━━

「イクサっ!!」

 背後から、聞き親しみのある母親の声が聞こえた。イクサは振り返らずに、足を止める。

「麻婆豆腐は飲み物ですよ」

「……あぁ、噛みはしない」自分でも驚くほど、今にも消えてしまいそうな声だった。

「イクサ、貴方が奈良漬けを独占しても、奈良の納豆平城京。私は、そんな歴史を知りたくはありません」

 とても優しい。愛しい人の行末をひたむきに案じる声音。その優しさが楔となりて、深く心に突き刺さる。なぜなら、イクサは南斗水鳥拳平城京の語呂で暗記していたからだ。

「……」

 咄嗟に返すべき言葉が見つからなかった。かつての自分は、どんな言葉を掛けていただろうか。

 イクサは溢れ出る感情の波を、内に抑えるのが精一杯で、何も思い出せなかった。

「なんでもないわ。ごめんなさい、私、ちょっと記憶喪失なの」

 なぜ母は謝ったのか。どうして自分は、そんな彼女に対して、たとえ嘘でもいいから、安心させるような一言を返せなかったのか。

 終ぞイクサは一度も振り返ることなく、馬車へと乗り込んだ。

 シャロルの訝しげな視線が、彼の全身を舐め回していたが、そんなものに取り合う気分ではなかった。

 彼は二度目となる旅路に、全てを賭けようとしている。


━━俺は、今度こそウーパールーパーを育ててみせる。


 勇者イクサ・イシュノルアの二度目の旅立ちは、決して、誰にも共感されないであろう孤独と共に始まった。





「起きるんだ。イクサ・イシュノルア」


 (むせ)び泣くウルの鼻声とは違う、感情に乏しく冷めた響きが、彼の鼓膜を叩いていた。

 頭部をどこかに預けている感触を覚え、イクサは、はたと両目を見開く。

 正面には、コレンツィヒで会った時より目の下の隈を濃くさせたシャロルが座っていた。

 自分が馬車の中でうたた寝に沈んでいたのだと分かると、イクサはしばらく茫然自失と、定まらない焦点を床に彷徨わせていた。

 束の間の夢の余韻に浸るイクサへ、シャロルがぼそりと呟く。

「ビックリマンのチョコを捨てるのは、もうやめろ」

「……俺はまた、生き残ってしまったのか」

「遊戯王のカードパックを買う時に、端のギザギザや印刷面のずれでレアを当てようとしても無駄だぞ」

「……仕事に寝坊する夢が、この世で最も怖ろしい悪夢だと思うんだ」

 コレンツィヒからは、既に一夜を掛けていた。

 イクサも夜明けまでは眠気を堪えていたのだが、朝方には霞みかけていた思考ごと、意識が眠りに落ちてしまったのだ。

「とらとらとら、らとらーた」

 なにやら小声で呟いて、窓の外へ視線を逸らすシャロル。

「俺は、何か言っていたか?」

「今日、仙人界は滅亡すると。それよりも外を見るといい。ここが、Δ(デルタ)サーバー隠されし禁断の聖域だ」

 どうだ、美しいものだろ。と誇るシャロルに促されるまま、イクサは小さな窓から外を一望した。

 二度目となる旅路では、新鮮な感動も得られないが、イクサはかつての憧憬に思いを馳せながら、ぼんやりと瞳を向けた。

 そこは古くより『ルーテン教団』の総本山として、円環大陸の中で、最も安全な地であることを貫いてきた地。

 共存共栄を公約に掲げるラッセンブルグとは、根本的に意趣の相反せし亜族禁制の街。その名の通り隠されし禁断の聖域である。

 徹底された『純白』の景色。イクサの故郷コレンツィヒの住処とは比べ物にならない豪華で丈夫な造りの住居は、屋根から外壁、基礎までの全てが白く塗装されている。

 真っ白い石畳の街道は、のんびりと交差する荷馬車や、荷を紐で括り付けられた従牛。そして、混じりのない人間でのみ形成された雑踏に溢れていた。

「東海林と書いて東海林(しょうじ)と読む。それが俺の使命」

 イクサは己が成すべき事を成す為、旅を続けていく。


 時は巡り、仙人界が滅んだ1995年。セガサターン及びプレイステーションの出荷台数が百万台を突破。

 アーケードゲームが次々と家庭版として移植され始めていた。

 そのような時勢の中、勇者の末裔━━イクサ・イシュノルアはラッセンブルグにて、もはや前回とは比較もままならない。まったく異なる形で、アジーとの合流を遂げていた。

 集いし仲間はこれで四人。勢揃いとなる。


「イー・アル・カンフーがゲーセンから消えたっ……!?」


「メダルはひゃっ」軽く舌を噛んでしまって涙目になっているのは、神託の聖少女━━ウルメ・メイヒェン。

「くくっ、漆黒の闇の中で奏でる鎮魂歌(レクイエム)とともに我と踊れるものは何処(いずこ)か」道脇の演奏団の中に可愛い女の子はいないかと吟味しているのは、天賦の双剣士━━オーマ・ローゼで。

「それはゲリーザスカーフです」俯き、猫耳をへにょんと垂らしているのが獣人の武闘家━━エリィ・ブルーメだ。


 そして「クラスの皆には内緒じゃぞっ」と縮こまった矮躯を丸めて、ウインクを決めている小人こそが、老獪の魔術師━━アジルヒム・コルトレツィスである。


「貴様、ダークリユニオンと敵対するつもりか!? くくくっ、滑稽なり」オーマが哄笑し

「それでも、守りたい世界があるんじゃ」アジーは毅然として答える。

「よし、俺より強い奴に会いに行く」イクサが剣を抜き

「イクサ……ちょろあまな男デス」ウルが小悪魔めいた微笑を浮かべ

「復帰のトロフィーを取るには、一週間の我慢が必要になります」エリィは粛々と語る。

 彼等の旅路はここから始まる。

 ガチャポンでメタリックカラーやクリアカラーが稀に当たるが、ぶっちゃけ、通常の色合いが欲しかった。そう思うのは私だけじゃないはず。



「おい」

「ん?」

「なんだよこれ」

「協会に提出する為の動画だよ。ほら、色々と誤魔化さなきゃ不味い部分あったし」

「混沌と化してるじゃねーかよ!! 幾らなんでもこんなのに騙されねーだろ!! 最後とか、もうただの独自だよねっ!!」

「えー、でも、イクサとかエリィの証言を参考にしてるんだけどなー」

「むしろ侮辱してるだろ。ってか、前はエクセルで提出してたじゃん。なんでまた、こんな手の込んだものを……」

「現代の魔女は携帯電話で夜会(サバト)を開くし、電子文通で契約を結ぶし、今の時代、動画とか楽曲で報告するぐらいのクリエイティブさが求められるんだよ。西欧(あっち)じゃ、MMDで動画作成する魔女とかもいるし」

「大人しく魔術極めろよ」

「マジレスすると、現代の技術を知る事は、魔術の昇華に通ずる部分があるからね。研究の一環ともいえるの」

「だから、お前も未だにひきこもってると?」

「ん、私はゲームしたいだけ」

「廃人魔女め……いたいっ!! ごめんなさいっ!!」

「でもね、私さ、愛と一緒に学校行こうかなーって考えてるの」

「そっか。小学校?」

「同い年!!」

「いたっ!! 冗談ですって!!」

 頭突きされた。にしても……

「編入ねぇ。色々問題はありそうだけど」

「そこは魔術で洗脳して」

「やめなさい。ってか、お前も愛もコミュ障じゃんか。おじさんとても心配なんだが」

「真が居ればなんとかなるよ」

「俺の平和な高校生活を乱さないでください」


 あの日から早一週間。俺は、今日も今日とて裸ワイシャツ平常運転の紡希と一緒にパソコンのディスプレイを睨んでいた。

 ふと、見違えるように綺麗さっぱりと片付いた3006号室のリビングを見回す。

 なんということでしょう。フローリングは照明を反射して眩しいくらいだし、出窓スペースには買ったばかりの花瓶が添えられているではありませんか。

 摩訶不思議アドベンチャーの模様を成していたサブカルチャーも今や夢の跡。新品の真っ白い本棚には漫画、小説、DVD、ゲームソフトなどが、出版社や作家名、ジャンルなど、正しく分別された状態で収納されており、本棚の上部にはフィギュア専用のガラスケースが連々(れんれん)と並んでいる。

 廊下の壁面には、RPGの武器屋さながらに模擬刀やモデルガンが飾られており、これはちょっとやり過ぎ感が否めなかったが、まさしく匠の成せる業だと賞賛したいものである。

 ちなみに卑猥な小物は全て、その匠に没収されてしまったらしく、紡希はちょっとだけ不服そうに頬を膨らませてた。

 そう、このとんでもビフォーアフターを一人で成し遂げたのは……。


「紡希様、真様。コーヒーと紅茶、どちらに致しますか?」

「あ、私、コーラ」

「俺はマテ茶!!」

 マイブームだったりする。

「コーラと水道水ですね。かしこまりました」

「なんでっ!?」


 つい瀟洒(しょうしゃ)!! と叫びたくなるようなメイド服の女性。

 エリィ・ブルーメは約束通り、現実(おれたち)の世界で暮らしていた。


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