サンタの悩み
サンタは悩んでいた……。
「どうすれば子供たちにサンタの存在を信じてもらえるのだろうか?」
一時間ほどノートに、サンタの存在を子供たちに信じさせる方法を書いたり消したりしていたが、途中で疲れたのでサンタは一度ベランダに出た。
サンタはベランダから公園に遊びに行く途中の少年と少女を見下ろし、二人たちの会話に耳をすました。
特徴的な帽子をかぶった少女が言った。
「ヨウくん、今年はサンタさんから何もらうのー?」
その問いに対して特徴的なネックウォーマーをつけたヨウという少年は答えた。
「ムラサキはまだ小三にもなってまだサンタ信じてるのか? あれはお父さんがやってるんだよ」
ムラサキという少女は答える。
「サンタはお父さんじゃないよー、ヨウもサンタさんからプレゼントもらったでしょー?」
その会話を聞いていたサンタはつぶやいた。
「どうすればヨウにもサンタの存在を信じてもらえるかを考えなくてはならないな」
部屋に戻ってどうすればいいか考えたが、結局その日は何もいい方法が思い浮かばなかった。
次の日、サンタは再びベランダに出ていた。
すると、昨日と同じようにヨウとムラサキが遊びに行くところだった。
昨日と同じようにムラサキはヨウに話しかける。
「もーどうしてサンタさんがいるって信じてくれないの?」
「じゃあ、サンタはどうやってプレゼントを家の中に届けるの? そんなことできるわけないよー」
「サンタは魔法が使えるんだよ! だから魔法を使って家の中にプレゼントを届けてるんだよ!」
ムラサキは少々興奮気味そう言ったが、ムラサキのその言葉に対してサンタは申し訳なく思った。
サンタには魔法が使えなかったからだ。
サンタは部屋に戻ってつぶやいた。
「ヨウにサンタを信じさせるのと同じくらいムラサキの夢を壊さない必要があるんだな」
サンタは改めて子供たちについて考えた、いままでよりも真剣に。
しばらくすると、インターホンが鳴った。
玄関のドアを開けると、少女と少年が立っていた。
「ただいま」
少年が言う。
「ただいまー」
少女が言う。
「おかえり」
サンタは愛する娘と息子――ムラサキとヨウにそう言って返した。
その年のクリスマス、サンタはあらかじめ二人のほしいものをこっそりと聞き出し買ってきていた。
二人が寝静まった頃、買ってきたプレゼントをこっそりとそれぞれの枕もとにおいた。
次の日の朝ムラサキは「サンタさんだ! サンタさんだ! サンタさんがきたんだ!」とはしゃいでいた。
そして、あれほど「サンタなんていない」と言っていたヨウも「やったー! これほしかったやつだ!」とムラサキに負けないくらいはしゃいでいた。
その様子をこっそりと見ていたサンタはほほえましく思い、つぶやいた。
「わざわざ何か特別なことをしてまでサンタの存在を信じさせる必要はないんだな」
サンタはそう、結論付けた。
サンタの悩みは解決した。