仔犬拾いました。 参
私にしてはちょっと長めです。
雪巴と名乗った青年は、彼を近くの川原へ連れてきた。
ススキの茂ったその空間は、人工物ばかりのあの交差点と同じ街の中とは思えない程
美しく、静かだった。
「っ、……う」
彼は、ゆっくりと思い出す。
父や母、兄姉達の笑顔とーーー悲鳴。
自分の家族をめちゃくちゃにした、妖のことを。
ずっと抑えつけていたものが ぷつり ときれて
こらえきれずに、あふれだした。
「う、ぇ……ひっく……ふっ」
懸命に目元を拭うが、一度こぼれた涙はなかなか止まってくれない。
その間雪巴は何も言わず、何も見ていないふりをして、静寂を守っていた。
しばらくして。
彼は落ち着きを取り戻し、後ろにいる雪巴に向き直った。
改めて感じる、巨大な妖気。
それに少しだけ怯えながらも、彼は口を開いた。
「……おじさん」
「……おじさんはやめろ」
「頼みが、あるんだ……」
「無視かオイ」
「ぼくを……」
「ぼくを、弟子にしてください!!」
「……は?」
しっかりと意志のこもった目で見つめられて
雪巴は困ったようにため息を吐く。
そして。
「却下」
「えぇ⁉」
ーーー即答だった。
「す、すこしくらい考えてよっ!」
「考えるまでもなく却下」
「ひどい!」
わぁわぁと喚く彼を片手で黙らせ
雪巴は感情のない、低い声で言う。
「……何があった」
「!」
思わず彼が目を伏せると、雪巴は再びため息をこぼす。
「己れに言ったからって、お前が不利になることはないと思うが?」
その言葉を受けて
彼はまるで、何かに耐えるように少しずつ
ぽつりぽつりと話し出した。
「…『叢雲』って、知ってる?」