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第二章  2 捕獲

 まだ朝靄の残るなか……。

 二人の男が、ほかに人けのない路地裏にいた。

 異様なほど長身の男と、均整のとれたもう一人の男――。

 ここは繁華街の片隅にあたる。ただし、にぎわうはずの夜だったとしても、ここまで足を運ぼうとする人間は、ほとんどいない。近辺で営業する店の従業員が利用するか、その店から出されたゴミを漁ろうとする浮浪者たちの通り道でしかない。

 しかし、昨夜から日付の変わった今朝までの間、ここはいつもとはちがう騒がしさをみせていた。

 昨夜――繁華街にとっては、まだ宵の口にあたる時刻に、事件はおこった。少年数人が襲われるという傷害事件だった。つい一時間ほど前まで現場検証が続いていた。

 二人の男たちは、事件のことを知っているのだろうか。もしそうだとしても、野次馬にしては遅すぎる。鑑識や警官の姿はすでになく、汚れたアスファルトにこびりついた赤黒い流血の痕が見て取れるだけだ。

 野次馬でないのなら、ここにいるには奇妙な二人組だった。とても客商売がつとまるような顔つきではないし、また浮浪者にも見えない。しっかり直立しているところをみると、酔っぱらいが迷い込んだ、というわけでもなさそうだ。

「ここ、まちがい、ない」

 長身の男が、片言の声をあげた。

 外国人?

 いや、そういうことではない。日本語に不自由しているのではなく、しゃべること自体に『慣れて』いないようなのだ。

「見え、るか、建御雷之男タケミカヅチノオ?」

 もう一人の男は、首を縦に振った。

「あれだろう」

 相方の風貌がヒョロッと細長い特異なものなので、この男のほうは、とくに普通に見えてしまう。だが、服の上からでもわかる筋肉質の見事な体躯は、常人のものとも思えなかった。格闘技経験でもあるかのようだ。

 二人は、三メートルほど上方を見ていた。

「では、あれを、捕る。月読ツクヨミ、様の、命令、どおり」

「様? べつに俺たちは、あいつの配下になったわけじゃない」

「そんな、こと、いい。風、吹け」

 もう一人の男の不満げな言葉を無視して、長身の男がそう唱えると、強い風が一陣、駆け抜けた。

「捕れ」

 言われたとおりに、もう一人の筋肉質の男は、風にのってきた《なにか》を手につかんだようだ。だが眼には見えない。

「これ、で、すんだ」

「待て、志那都比古シナツヒコ。こんなもので、本当に大丈夫だと信じてるのか?」

「まちがい、ない、月読ツクヨミ、様、考え。それに思金オモイカネも、助言、してるはず」

「《建速たけはやの小僧》が、こんなもので抑えられるわけがなかろう」

「だま、れ! おまえ、荒ぶる、やつと、同じ、匂い、する」

「俺は、そんなに青臭くない」

 長身の男の厳しい警戒の言葉を軽くかわすと、筋肉質の男は手のなかにある《なにか》を凝視した。

「この魂、どうやらこの地を離れたくないようだが……ここに執着しているわけではないのか? 懺悔の念? ここでおこった何事かに詫びているよう――」

「もう、ここ、離れる。用、ない。帰って、眠りたい。この、身体、形いいが、まだ、うまく、動けない。言葉も、だめ」

 すでに歩きだしていた長身の男を追おうともせずに、筋肉質の男は、手のなかを見つづけたままだ。

(おもしろい。怨念となって漂っているものとばかり思っていたが……)

 そして、口許を歪めた。

 どうしてだろう。

 それまで二人の顔形から伝わってきた、どこか邪悪めいた〈黒い〉ものが、その笑みからは微塵も感じられなかった。

 それどこか、〈白い〉……。

「見事、建速の小僧を変えてみせろ。おまえにそれが出来れば、この戦いの行方……わからなくなる」

 手中の《なにか》に、そう告げた。


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