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第四章  1 神軍

 空が明るい?

 そんなはずはない。すでに、夜九時をまわろうとしている。なのに、この真昼のような陽の光は、なんなのだろう!?

 千鶴、織絵、周防の三人は、やっとのことで目的地付近までたどり着けた。

 都内は、ひどく混乱している。新宿まで、なんとか電車でやって来れたが、いつもの数倍の時間を要した。そこからの鉄道は全線ストップ。道路は渋滞で、バスやタクシーは使い物にならない。三人は新宿から徒歩で、ここまでやって来たのだ。

 そこは、ちょうど被害のあったエリアとの境界線のようだった。渋谷駅の東側――表参道との中間地点あたりだ。

 三人のいる場所は、まだ爆発の痕跡は薄かった。台風が過ぎ去った程度の荒れ方だ。しかし、およそ二〇メートルほど前方を境に、街は激変していた。ビルは崩れ、道路は寸断され、まさしく廃墟となっているではないか。

 境界線には、たくさんの人々が集まっていた。大半は野次馬のようだが、ヘルメットをかぶった男たちの存在が目立っていた。

 この統一された制服姿は、レスキュー隊?

 いや、自衛隊のようだ。

 そういえば、自衛隊の出動を決定したと、来る直前のテレビでやっていた。道路の渋滞状況を考えれば、彼らがここに来たのも、それほど前ではないだろう。

「なんで、ここに集まってるの?」

 千鶴たちは人の群れを押し退けて、最前列に顔を出した。そこからは自衛官たちが広範囲にロープをはり、まるで殺人事件現場のように、一般人をなかに入れさせないようにしている。

「なんなの、これ!?」

 千鶴は、ロープに近づいていった。それについていくように、織絵と周防も続く。

「ここからは、立ち入り禁止です! 戻ってください!」

 硬い表情で、そこに立っていた自衛官が厳命した。

「なに言ってるの!? このなかには生存者だっているでしょう!? なぜ、みんなで助けにいかないの!?」

 千鶴は、自衛官に食ってかかった。一般人だけでなく、彼らもなかに入っていないことが許せなかった。

「いいから、戻りなさい!」

「冗談じゃないわ! このなかには、わたしの友達がいるかもしれないんだから!」

 強引に、侵入しようとした。

 だが自衛官も、それを阻止しようと必死だ。

「ダメだ! 死にたいのか!?」

「なんで邪魔するのよ!」

「やめろ、千鶴」

 さらに強引な突破を試みようとした千鶴だったが、周防に腕をつかまれた。なに呼び捨てにしてるのよ──と、周防を睨む眼が、赤々と怒りに燃えていた。

「なにをそんなにおびえてるんだ?」

 周防は、自衛官に言った。周防の言うとおり、自衛官の身体が小刻みに震えているような……。表情も、恐怖に押しつぶされているように、引きつっていた。

「ギャアアアア」

 断末魔の悲鳴が聞こえてきたのは、そのときだった。

 ロープの向こう側から、人間の声だとは思えない……しかし、人間が死の間際にしぼり出したということがわかる凄絶な悲鳴が、突風のように突き刺さってきた。

「なんだ!?」

「ま、また……」

 自衛官は、泣きそうな顔になっていた。

 倒壊したビルの残骸で詳しく窺い知ることはできないが、どうやら廃墟と化したエリアで、なにかがおこっているらしい。

「悪いことは言わん……さっきから、何人もこのなかに入っていったが……だれ一人、戻ってこないんだ!」

 千鶴は、確信した。

 戦いがはじまったのだ――と。

「おまわりさん、ごめん!」

 そう叫ぶと、千鶴は右掌で自衛官――千鶴は警察官だと勘違いしているようだが――の胸にふれた。ふれたと思った瞬間、自衛官の身体が真後ろに吹っ飛んだ。豪快な倒れ方をしたが、怪我を負うほどではない。

 千鶴は、その自衛官の身体をまたいでから、ロープの内側へ入っていった。

「おい!」

 周防も、自衛官とロープを跳び越えていく。

「ちょっと待ってよ!」

 あわてて、織絵も自衛官をまたいでから、ロープをくぐった。

 三人に連続して上を通過された自衛官は、立ち直るまでに、しばらくの時間を必要とした。



 千鶴の足が止まったのは、三〇メートルほど奥へ入ってからだ。

 夜なのに真昼のような明るさ。夕方のテレビ映像では、煙だが粉塵のようなもので霞んでいたが、すでにそれらは霧散してしまっている。

 残骸の山を越え、わきをすり抜けてきたために、わずか数十メートル進入しただけで、もう野次馬たちの姿を見ることはできなくなっていた。

「どうしたんだ?」

 周防が、千鶴の背中に声をかけた。

 疲れたから止まった、というような雰囲気ではない。その小さな身体が、とても緊張しているのがわかる。

〈ガウウ!〉

 見れば、千鶴のさらに前方で、一匹の獣がなにかを見据え吠えていた。

「なにがあったの!?」

 遅れていた織絵も追いついてきた。

「あら、千鶴ちゃんのネコじゃない」

 威嚇するように吠えている獣の姿を確認して、織絵は言った。

「ネコ? 冗談だろ」

 冷めた視線で、周防は振り返った。

「あんな模様のネコがいるかよ。ありゃ、ヒョウの子供だ」

 そんな周防の言葉に、織絵は信じた様子もない。

「あなたは知らないかもしれないけど、あれは千鶴ちゃんが飼ってるネコなのよ。『ファイアーウォーター』っていう、とっても高級なネコなんですって」

 ちなみにその名は、ネコのカタログを読んで、もっともそれらしい模様のものを千鶴がさがし当てたのだ。

「ネコが、あんな鳴き方するか」

「あ、あの子は特別なのよ!」

 とうの飼い主は無言だ。吠えている獣――ソワソワと同じように警戒の眼差しを前方に向けていた。

「あら、この子も……」

 織絵の足元にも一匹いた。

 兄のムクムクだ。

「どこにいたのかしら?」

 そういえば、爆発騒ぎがおこってから姿が見えなくなっていた。いままで、いったいどこにいたのだろう。

「右手だ。たぶん、自衛隊員を突き飛ばしたときに出たんだ」

「? なに言ってるの?」

 織絵の耳には、正しい日本語として届いていなかった。それぐらい意味のわからない周防のセリフだ。

 だが真に自分の耳を疑うことになったのは、その直後――!

〈気をつけるニャ! 敵ニャ〉

 その声で、織絵は当然のこと、千鶴の右手に獣たちが入っていることに勘づいていた周防でさえ、驚愕せずにはいられなかった。

「しゃ、しゃべった……!?」

 いいや、聞き違いだ。そんなバカなことがあるはずない。

「どうしちゃたのかしら……ありえないわよねえ、ネコがしゃべるなんて……」

 と、織絵は常識を口にすることで、非常識を打ち消そうとした。

 が、聞かなかったことには、できなかった。

〈わがはいは、ネコじゃないニャ。ヒョウの子供ニャ、オバサン〉

「オバ……」

 ネコでもヒョウでも……とにかく動物と話ができる驚きよりも、『オバサン』の一言のほうが、織絵には衝撃だったかもしれない。

「な、なんですって!? わたしはまだ二四よ! 失礼なネコね!!」

〈だから、ネコじゃないニャ、オバサン〉

「まった言った! ネコじゃないなら、ネコみたいなしゃべり方しないでよ!!」

「うるさい! 黙ってて!!」

 ケンカをはじめた一人と一匹は、千鶴のものとは思えない激しい声で、言葉を失った。

 しゃべるヒョウの子供――このさい、ヒョウかネコかはどうでもいい――に驚きを感じながらも、千鶴と同じように、周防も前方の空間を見据えていた。

「なにがいるんだ!?」

「敵! ソワソワちゃんは、そういうのを察知できるの」

〈ガウウ!!〉

 一際、大きく吠えた。

 気配は前方から……いや、右? 左!?

 ちがう……後方からも!

〈囲まれてるニャ!〉

 人影がわいていた。ムクムクの言うとおり、千鶴たちの周囲に、合計一〇人ほどいるだろうか、黒い鎧をまとった死人のような顔色をした男たちが集結していた。手には、鞘と柄に立派な装飾のほどこされた宝刀をたずさえている。

 鎧の胸には、角を生やした動物の絵が白く描かれていた。

「なんなの、この人たち!?」

〈人間じゃないニャ。鹿ニャ!〉

「鹿!?」

〈そうニャ、角がある〉

 千鶴はそこで、ムクムクが胸の絵について語っているのだと気づいた。

「だれも絵の解説をしろなんて頼んでないわよ!」

〈鹿は天帝の使いニャ〉

「それがなに!?」

〈天帝というのは――〉

 ムクムクの知識のひけらかしは、歓喜の声に阻まれた。

「くくく! まだ生き残りがいおったわ!」

 真正面から近づいてきた一人が放った言葉だった。

「だから、なに!?」

 なにかを言いかけてやめたのがよほど気になったのか、『はやく続きを!』という催促の瞳で足元に眼をやった千鶴の耳に、冷たい囁きが流れ込んできた。

「天帝っていうのはな、神のことだ」

〈……そうニャ。つまりこいつらは、神の軍勢というわけニャ!〉

 さきに言われてしまって気分を害したのだろうか、補足したムクムクの口調が、どこかとげとげしかった。

「で、その神の軍勢が、オレたちになんの用がある?」

 あくまでも冷たく、周防は足元の子ヒョウに質問していた。

 動物がしゃべるという超常現象は、すでに彼のなかでは現実として受け入れてしまったようだ。いや、それとも千鶴に訊くよりはマシだと悟り、しかたなく認めているだけなのだろうか。

〈もちろん、殺すためニャ。こいつらは、わがはいたちの敵ニャ〉

「神なのに?」

 ムクムクは、人間のようにうなずいた。

〈キミも気をつけたほうがいいニャ〉

 周防に『キミ』というあたり、ムクムクの意地を見た。

「狩ってやる、狩ってやる」

 男たち――ムクムクが言うところの《神の軍勢》たちは、みな正気をなくしたからくり人形のように、同じ動作で近寄ってくる。

「そうじゃ、そうじゃ。岩屋をこの地に転移するための《天閃テンセン》から生き残った人間と、むやみに近づこうとする人間なら、いくら殺してもかまわんのじゃ」

「そうよのう。本当なら、《葦原あしはら中つ国》に巣くう人間どもを皆殺しにしてやりたいところじゃが、いまは大御神の力が、もとどおりに高まるまで待つことになっておるからのう」

「こやつらを存分に狩って、そのときが来るまで我慢するとしようかのう!」

 口々に物騒な欲望を声にしている。

 ジリッ、ジリッ、と狭められる包囲。

 千鶴に、おびえた様子はなかった。

 周防も表情を強張らせてはいるが、冷静な思考力に変化はないようだ。地面を眼でさぐり、二メートルほど左斜め前方に、おあつらえむきの鉄パイプを発見していた。

「怖くないのか、千鶴?」

「さっきから気になってるんだけど、なに馴れ馴れしく呼び捨てにしてるのよ! わたしは、あなたの彼女かっての!!」

 どうも千鶴には、周防にたいしてだけ、言葉づかいが荒くなってしまう傾向がある。

 周防の口許がゆるんだ。

「なにがおかしいの!?」

「いや」

 ふと、悲しげに瞳を曇らせた。

 恋人ではない……。

 重ね合わせていたのは、妹……。

「ん?」

「どうでもいいか、そんなこと」

 一人納得したように、周防はつぶやいた。

「怖くない」

 遅れて、千鶴は答えた。

「すごいね、尊敬するよ」

「あなたこそ、さすが〈A狩り〉の犯人ね。根っから暴力が好きなんじゃない?」

 千鶴のセリフに、織絵がしっかりと反応してしまった。

「A狩り!?」

 周防の顔をまじまじと見た。

「は、離れなさい!!」

 ヒステリックに叫んだ。

「千鶴ちゃんから離れて! け、警察に連絡してやるわ!!」

「離れる、たって……」

 周防は、四方から迫ってくる鎧姿の男たちを見回した。あと二、三歩踏み込まれれば、手にした宝刀が届く距離だろう。

「いいから離れて!!」

〈そんなこと言ってる場合じゃないニャ! 襲ってくる! オバサンも警戒するニャ〉

「お、お姉さんと呼びなさい!」

 織絵が足元のムクムクに注意を投げかけた刹那、いっせいに男たちが刀身を抜いた。

 周防は、左前方に飛んだ。

 鉄パイプをつかむと、いままさに自分めがけて振り下ろされた刃を、金属音とともに受け止めた。

「先生、刺激が強いかもしれないけど、驚かないでね」

 千鶴は、落ち着きはらった様子で、右手を胸の高さに上げた。

 掌を自分に、甲を迫りくる男たちに向けて――。

「ククク、さっき殺した人間たちのように、おまえの身体も切り刻んでやろう!」

 一人……いや、一神が、刀を振り上げながら、愉快そうに言葉を吐いた。境界線で聞こえてきた悲鳴は、生存者を救助しに向かった自衛隊員を、こいつらが惨殺したときの声だろう。

 怒りがこみあげてきた。

「ふざけんな!」

 女の子にしては下品な言葉。そしてさらに下品にも、掲げている右手の中指だけを突き立てていた。

 その中指が閃光を放つ!

 邪をはらうような、鮮烈な赤。

 輝きが意志をもったように中指から飛び出すと、襲ってくる男たちを次々と射抜いていった。

 燃え上がる。

 射抜かれた男たちは、灼熱の炎に身を包まれた。

 高温の熱。

 炎のなかで、溶けるように消えてゆく。

 数神が、赤い光の一撃だけで、消滅していくではないか。

 光の塊は、地に降り立った。なにかの形をとろうとする。かなり大きなものだ。すぐに形は固定した。

 百獣を統べる獅子の雄姿。

「ライ吉!『火のタテガミ』よ」

 勝利を確信している勇敢な叫びがあがる。

 同時に、ライオン――『ライ吉』と名付けられた雄ライオンのタテガミが、真っ赤に燃えだした。

 炎のタテガミをなびかせるライオンの猛々しい威容に、しゃべるヒョウの子供以上に、織絵はショックをうけた。猛獣が眼の前に出現し、さらにそれが、この世のものとは信じられない火のタテガミをもっているのだ。

 ライオンは、咆哮した。

 宝刀の二撃目により、鉄パイプを真っ二つに折られ、窮地に追い込まれていた周防に向かって跳躍する。

 周防を跳び越え着地すると、ライオンは神々の間をすり抜けるように疾走した。ライオンとすれ違った神々は、タテガミの火が燃え移り、一瞬にして焼き焦がされた。

「来ないでぇ!」

 ライオンは、すぐに向きを変えると、今度は織絵に迫ろうとしていた神々に向けて走りだしていた。しかし、猛スピードで駆けてくる凶暴な獣に、織絵は襲ってくる男たちによりも、ずっと恐怖を感じることとなった。

〈動くと危ないニャ!〉

 逃げようとする織絵の胸めがけて、ムクムクがジャンプ!

 突然の衝撃をうけて、織絵の足が止まった。

 ライオンは、すぐそのわきを通り抜けていく。ムクムクに止められなければ、もっと近づいてしまい、織絵にも火が燃え移っていただろう。

〈なかなか柔らかいニャ。ちづるとちがって、オバサンの胸は豊満だニャ〉

 そのまま織絵に抱かれたムクムクは、織絵にたいしても、千鶴にたいしても失礼なことを不謹慎にも口にしていた。言われた二人はそれどころではない。

 織絵はパニック状態。千鶴は、次なる手を打とうとしていた。

 今度は、親指を立てている。

「テン蔵!」

 親指から、ライオンのときと同じように、光が飛び出した。

 明るい茶色――黄土色といったところか。それが地面で形をとると、また一匹の獣に変じていた。だが巨大なはずのライオンよりも、遙かに大きい。

「ゾウ……」

 織絵は、なんとかそれだけをつぶやくことができた。大きすぎるアフリカゾウの姿に、自分の存在とこの世の常識を、完膚なきまでに押しつぶされたような気がした。

「先生を守って!」

 千鶴は命じた。

 中指のライオンは、おもに攻撃の役目であり、親指のゾウは、おもに防御の役目と決めていた。ちなみに、それぞれの名前の由来は、『ライ吉』は、ライオンだからなんとなく、『テン蔵』は、スワヒリ語の「テンボ」とゾウを掛け合わせて、さらに父の字を当ててみた。

「こいつらにまかせたほうがいいな」

 さすがの周防も、獣たちに圧倒されたようだ。織絵と同じようにゾウの後ろに隠れた。

 一見、背後がガラ空きになっているようだが、この巨大なゾウに死角はない。

〈パオーン!〉

 後ろから周防たちを襲おうとした神々は、その一吠えを聞いたあとに、長い鼻による衝撃が待ち構えていた。ゾウは迅速に方向を変え、完璧な防御を見せたのだ。

 巨体とは思えないほど素早い動き。

 ライオンとゾウ――ライ吉とテン蔵の活躍により、襲ってきた神々を、ことごとく打ち倒すことができた。

「先生、大丈夫!?」

 千鶴は、ゾウの陰に隠れていた織絵たちのもとに駆け寄った。織絵は惚けたように、口をポカンと開けている。A狩りの犯人であるはずの周防にしても、さすがに度肝を抜かれたようだ。

〈いまのは全員、下級の神……下っぱニャ。だから、ちづるの力でも簡単に倒すことができたニャ。でも、上級の神が出てきたら危ないニャ>

「わかるようになったの?」

〈うん、わがはいの優秀な頭脳に知識が浮かんできたニャ〉

《然》の力が発動したのだろう。織絵に抱かれながら、ムクムクは千鶴にそう告げた。

「もう一匹は?」

 周防が思い出したように言った。

〈ガウウ〉

 その鳴き声で、一同は少し離れた瓦礫の山に眼を向ける。

 ソワソワは、そこで倒れている街路樹だったであろう木の幹で、爪研ぎをしていた。敵がいなくなった証拠だ。

「もういないみたいね」

「ねえ……あれはいったいなんなの!?」

 織絵は訊かずにはいられなかった。

 突然、襲ってきた男たち。それを軽々と打ち倒してしまった千鶴のあやつる獣たち。さらに地面を見ると、無数になければならない亡骸は、一体もない。

〈あれは全員、《偽神体ぎしんたい》。たぶん、この爆発で亡くなった人たちの魂の記憶を食べて、神としての形をつくっていたニャ〉

 とムクムクに説明をうけても、織絵に理解できるはずなどない。

〈ガウウ!!〉

 再び、緊張がはしった。

 ソワソワが大好きな爪研ぎを中断し、威嚇をはじめた。

「クククク……」

 中空から笑い声が聞こえた。

 千鶴には聞き覚えのある声だ。

「スピンクス!」

 地上から五メートルほどの空間に、獣の姿――いや、顔だけが人間で、身体が動物という半獣人の化け物が、姿を見せた。

 背中に生えた片翼だけで、空中に浮いている。

 化け物と呼ぶには失礼なほどの美しい女性の顔が、かえって不気味だった。

「決着をつけるときがきたわね、テールのお嬢ちゃん」

 スピンクスは、とてもとても楽しそうな微笑を浮かべていた。


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