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十三・現世にかえろう、あの夏の日に。
現の夢に浮かぶ泡は、飛沫をあげて静寂の音を響かしている。
世界が揺れる、揺らぎに覆われていく。
にわかに見える水面には、白い指。揺れている水沫の声音の間に、誰かが叫ぶ音がする。
「早くこの手を!」
かいま見える、水面に揺蕩う真夏の太陽のひかり。
えがきだす波紋の中に、あおく冴えた夏の空は揺れる。
ろうろうと流離う景色に、差しのべられる白い手だけが、そこにある。
うつろいゆく風景の中、精一杯に指をのばす。
あおい水面は揺れている。
のばした指の先、泡の軌跡は水面に落ちていく。動き出した世界は、雫の落ちたように震えている。
「この手をつかむんだ、飛鳥」
夏色に染まった水沫の中で、かつて聞こえた彼の名を、飛鳥は呼ぶ。
「 」
のばした小さな手は、差し出された手を、しっかりと握り締める。
日輪が水紋に揺れる。いつも夢で見ていたその影に、今、はっきりと飛鳥は触れることができた。
「よかった」
にっこり微笑む泳魚は、びしょ濡れの飛鳥を河原に立たす。確か、遠い夏のあの日も、彼はそんな顔でそこにいた。