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十一・泳ぐ魚と飛ぶ鳥の憧憬。
泳ぐ気力さえ沸いてこない、抵抗のない空気のような水の流れ。
ぐったりと力の入らない手足。
魚になってしまったかのように、水の中にいる心地よさが意識を奪っていく。
とうめいな空気の泡が、口から吐き出され世界を覆う。
(これは夢だろうか? それとも現実だろうか?)
飛鳥の意識は、さらに、青に溶けていく。
ぶつかる気泡の粒に、身をゆだね空を見る。
鳥がその翼を水に透かしている。
のこるのは、いつか聞いた泡沫の囁き唄だけ。
(しろい泡の中に、あかい魚が見える)
憧れる空の風景。その泡沫が、崩壊の音を引き連れて。
憬れる水の情景。その水面が、揺れて、赤い魚の影を落とす。
(あの日、あの夏の日も、金魚を見たような気がする)