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ナカノ・タイムリープ・ブロードウェイ

過去と未来。

昼と夜。

晴れと雨。


はっきりしたものの間には、時たまはっきりしない何かが現れる。

今、夕方、曇り。


そんな狭間には、何かが起こる。

ひっそりと。


それは揺れている。

陽炎のように揺らいでいる。


揺らいで、揺らいで、その間に何かが起こる。


そう、きっと、ここでも。


----------------

----------------


「なんで中野なんだ」


改札を出ると、集人が不思議そうに言った。

駅の屋根が途切れないまま、まっすぐ続く商店街につながっている。


商店街のお手本のように、アーチ状の看板には、

「サンロード」とでかでかと書かれている。


「ちっちゃいころ来た事あるんだけど、なんか懐かしくなって」


私が来たかったのだ。

二人で国分寺に集まったはいいものの、行くところがかった。


小説や漫画だと二人でだべっているだけでいいとか言っているけど、そんなので満足するのは学生時代だけだ。

時間のない社会人として、休みを消費するのであれば何かしたい。

マックのポテトで一日過ごすのはあまりにもったいない。

集人は別にそれでもよさそうだったので、何とか国分寺から連れ出した。


とりあえず電車に乗ろうと言って、適当に東京方面の電車に乗った。

乗りながらどこで降りるか相談した。

吉祥寺……はこの前行ったし、高円寺は……古着って気分でもない。


新宿か、乗り換えて都心のどこかになりそうな時、中野のアナウンスが流れて、私が降りたいと言った。


「中野ねえ。以外に人多いけど何があるんだ」


商店街は奥の方まで人がたくさんいる。

平日だからか、身動きを取るのに不自由はないが、立ち止まったら迷惑になりそうなくらいだ。


「確かこの奥に中野ブロードウェイっていう建物があったはず」


集人は「へぇー」と適当に相槌を打って歩き出す。

なんとなく目的地は中野ブロードウェイに決まったようだ。

お互い合意を取ったわけではないが、なんとなく決まっているんだか決まっていないんだか分からず決まるこの空気がありがたい。

会社ではいろいろはっきり決めないといけないから……適当でよいのがありがたい。


商店街は「古き良き」というよりも、チェーン店などが多く立ち並んでいた。

割と最近できたものと、数十年前からありそうなお店がまばらにあって、そのあべこべ感が面白い。


特に店に入らず5分ほど進んでいくと、新宿駅のアルタのモニターのちっちゃい版があった。

中野ブロードウェイの公式キャラクターが何か言っているが、集人との雑談で良く聞こえなかった。

ここが入口のようだ。


赤背景に白文字で「NAKANO BROADWAY」。

入る前からレトロが香った気がした。


「あーなんかテレビで見たことあるわ。まんだらけとかあるとこだっけ」


「たしかそう。幼稚園くらいの時親と来たんだけど、確かまんだらけ行った記憶」


集人は見てわかるくらいにはさっきより楽しそうだ。

ゲームやアニメなどのオタク趣味なので、そのセンサーがくるくる回っているようだ。

かく言う私もそうなので、走り出しそうになるのを抑えている。


入って右手にすぐまんだらけの出張店舗の様相をしたエリアがあって、その先はゲームセンターや占いの店が続いていた。

どこの町にもない雰囲気の建物に、2人で不思議そうに歩く。簡単に1階のフロアを回ると、張ってあるポスターなどから、どうやら我々向けの店は2階以降にあるようなのがわかった。


2階へ。

少しコアなアメリカのゲームのグッズが置いてある店、アニメフィギュアの店などがあって、2人でその作品の話をしながら回る。レトロなカフェや、和食の店などもあった。

食事系の店を通るたび、二人ともスマホを開いて、「まだ昼には早いか……」となるのがなんだかおかしかった。


3階へ。

いわゆる、「中野ブロードウェイ」。

中央のエリアにまんだらけや、本屋が並んでいる。


「これこれぇ!」


と言いながら見つけた瞬間にまんだらけの漫画コーナーに吸い込まれていった。

私もそれについていく。

古本といっても年代は様々で、ブックオフでも同じように100円で売っていそうな漫画から、手塚治虫の貴重な数万円もするような本まで置いてある。


「俺、昔ブラックジャックになるのが夢だったんだよ。確かな医術の腕と、流されないアウトローな感じがたまんなくてさあ」


数歩歩くと、ドラえもんの背表紙が大量に並んでいるコーナーに差し掛かった。


「俺、そのあとすぐドラえもんになるのが夢になって……」


「道具に頼るな」


どうやらふざけていたようだ。


「なんかアキバ的な楽しさもあるけど、雰囲気違っていいねえ」


確かに、オタクの趣味といえばそうだが、どことなくサブカル系の雰囲気もする。

扱っているものが、古かったり、ニッチなものが多いからだろうか。


そんな風に雑談しつつ、互いに気になるところを別れて見つつしていると、集人とはぐれてしまった。


スマホでメッセージだけ入れておいて、いったん店を出た。

まんだらけが立ち並び、本棚が並ぶ中央通り。


「人が……いない?」


誰も人がいない。

さっきまであんなに歩いていたのに。

というか気配がない。

この階、このフロアだけではない。


きっとこの建物に人がいないんだと、なぜだか確信ができた。


そしてめまいがしてその場にしゃがみこんだ。

ひどく酒に酔ったような感覚。

耳鳴りがひどい。

右も左も上下も分からなくなった。


頭が、脳が揺れる。

それがだんだん大きくなる。

大きくなる。大きくなる。


どれくらいたっただろう。まずめまいが収まってきた。

そして耳鳴りが遠くなっていく。


それと同時に、人のざわめきや足音を感じとれるようになった。


「君、大丈夫?」


答えようとしても、まだ声が出ない。


ゆっくりと呼吸を整える。

まだ上は向けないが、声は出せそうだ。


「だ、だいじょう……ぶ」


自分の声に驚く。自分の声ではない。

明らかに声変りを迎える前の、少年の声だった。

無理やり目を開けると、自分から伸びているのは子供の手。


「な、なにがおきてるんだ」


「君、本当に大丈夫かい?」


私は答えられない。

大丈夫ではないからだ。


慌てる私に、1つ駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。


「すみません!はぐれてしまって」


どうやら心配して私に声をかけてくれた人に対して言っているようだった。

となると、はぐれたのは駆け寄ってきた男性と、私のようだ。


「いや、なんか具合悪そうで……」


最初に声をかけてくれた人が、私の様子を説明してくれている。

何か予感がして、無理やり体をひねって、駆け寄ってきた男性の顔を見ようとする。


「……そうでしたか、ご迷惑をおかけしましてすみません。あとは大丈夫ですので」


そういわれた声をかけてくれた人は「お大事に」と一言残して離れていった。


そして、あとから来た男が目の前でしゃがんで私の顔を覗き込む。


「大丈夫か?悠太」


私の名を呼んだその人と目が合った。

予感は当たった。

15年前に亡くなったはずの父がそこにいた。


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