異変
櫂は日比谷を警察に通報すると、引き渡した。
鼓動は、やや早い。しかしいつかは、この鼓動も慣れる日も来るのだろう・・・・・
櫂はタバコを一本吸うと、自分の家へと帰っていった・・・・・
翌朝、日向櫂は仮眠から目覚めると、報告がてら、事務所に向かった。
徒歩で街を歩くと、いつものようにちらほらと人が通る。いつもよりやや多いか・・・それに気のせいか、天気もきれいに晴れている。
『これで街の人々も安心して寝られるだろう・・・・・・いやしかし・・・・」
その後は考えたくなかった。
ひたすら歩き、雪ヶ谷探偵事務所を目指す櫂。
最寄り駅から降り、いつもの道を歩く。
ふいに、思う。
日比谷は本当は、誰を相手に戦っていたのか?
◇◇◇◇◇◇◇
「それで、あんたは何を思ったの?」
そう話をしていると唯は問うた。
「ああ、疲れたよ。やっぱり徹夜は体に悪い。夜歩きは止めた方がいいのかな」
「そうじゃないわよ。例の犯人の異能よ。手ごわかったでしょ」
「ああ、まあな」
だが、いつものことだ、と言い櫂は所長室のソファに腰を下ろした。
「これは、俺の勘なんだが・・・・」
「はあ・・・・・・また世迷言を・・・・・・なに?」
「日比谷が相手をしていた奴なんだが・・・・」
「それがなに?」
「日比谷はなかなか強かった。しかしその日比谷を相手に戦った他の奴は・・・・いったい・・・」
「そんなの決まってるわ・・・・あんたより弱いやつでしょう。」
唯は冷たくそう返す。
「所長・・・・ずいぶん機嫌が悪いんだな」
「あら、そんなことないわよ。これでも機嫌はいい方だし」
「なんだ、生理か?」
唯はそう言われるとカチンと来たようだった。
「なによ!私だって女の子なの!色々あるの!」
そう言うと、唯は相手などしていられないと言った風に顔を机の上にあるパソコンの方に向けた。
「馬鹿櫂!もうどっか行って!」
「ああ、退散するとしよう」
そう言われると櫂は立ち上がり、部屋を出た。
唯をいじるのは、楽しい・・・・・・・そう一人こころで呟く櫂だった。
かつての自分のような存在と相まみえることを・・・・・・・
まるで鏡のように、かつての自分を見ることを・・・・・
そうして其の日の午後九時過ぎ・・・・・・
日向櫂と雪ヶ谷唯は、八街市の警察署に居た。
通常、犯罪を犯した犯人が捕まると、警察の留置所に入る。そうして四十八時間が経過すると、犯人は拘置所に送られる。
まだ逮捕されてから二十四時間に満たない日比谷は、警察署内の留置所に居た。
日向櫂も雪ヶ谷唯も、マジックミラー越しに日比谷を見る。
唯にとっては初めての日比谷との対面になる。
しかし唯は、日比谷のことをつまらそうに見ていた。
『こいつ。櫂より下かな』とでもいいそうな眼で唯は日比谷を見ている。
「何か、しゃべったか?」
そう櫂は隣にいる刑事に聞く。
刑事は事情を飲み込んでいるときて、色々な話をしてくれた。
「まず、異能の者について奴は話しました。先天的あるいは後天的な超自然的能力だとか・・・・・後お前はなんで異能の者になったのか、と言ったら口をつぐみましてね・・・・・数時間したらしゃべりましたが、いや驚きましたな」
「?というと」
「いや奴は紫色の水晶・・・・アメジストの水を飲んで能力者になったとか言うんですよ。これが公にされればえらいことになります。アメジストはこいつの上の奴がもっているんだとか言うんですが、その人物も拘束されなければなりませんな。後はロキと言う名前も出ました。こいつも異能の者だそうで」
「そうか・・・・・その上の人物の名は?」
「それは・・・・・・・」
「雪ヶ谷探偵事務所の探偵だと言ったな。今回は貸しを作ったが、これくらいの情報提供で勘弁してくれないかな。私としては、これからは警察関係者のみでことに当たりたいのでね」そう櫂の元にやってくる女性警察官が居る。
「あなたは?」
「私の名は前田玲子。新しく異能対策本部の本部長になった」
「そうですかあ・・・・やっと・・・・」
「そう。やっと・・・・」
「ああ。わたしが中心になり作った。唯君は異能ではないんだね。」
「はい?」
「おい、所長に失礼だ。」
「失礼。これでも警察官なので。」
「異能の者に警察のみで対応すると?」
そう櫂が言う。
「ああ、そういうことになるだろうね」
「異能には異能をぶつけるのがセオリーなのに?」
そう唯も言う。
「ああ、私たちの方法でことに当たれるはずだ。万全の対策はする。」
「軽率ですね。そう思うようにことが運びますか?日比谷一人に苦労していたあなたがたじゃないですか」
そう唯が言う。
櫂も眉をひそめて成り行きを見ている。
「とにかく、あなたがた、雪ヶ谷探偵事務所には頼らない」
「たとえ、犠牲が出ても?」
そう櫂が問う。
「仕方のない犠牲だ」
そう冷たく女性は返す。
「異能に対抗するのはいい。なんだかんだでこの国の兵隊だからな。だが俺たちと協力できないのは、なぜなんだ?」
「理由は簡単。この案件に一般人は首を突っ込む必要はないと私が判断したからだ。あなた方は今まで通り、探偵として職務をまっとうすればいい。この国を乱すものを捕まえるのはこの国の司法だ。どこの馬の骨か分からない探偵などではない」
「今までの俺たちの仕事の内容を知らないわけではないんだろう?なぜこうも急に・・・・・・・」
「組織のトップに無能が収まると苦労するのは兵隊ね。かわいそうに・・・・・・」
「とにかく出て行ってもらおう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「分かった、行こう、唯」
そうして日向櫂と雪ヶ谷唯はその場を後にした。
警察署の通路を歩いて帰る二人・・・・・・二人について、先ほど質問に答えていた刑事らしき男がつづく。
「すいませんね。なにしろ前田の奴、キャリア組に属する奴でして。警察庁からわざわざこの八街市の異能対策本部に来たので、私たちも頭が上がらないのですよ。しかし警察にあなた方の理解者が居ることも知っていてください。なにしろ今までこの街の平和を築きあげてきたのは、雪ヶ谷探偵事務所の功績が大きいのですから」
「ああ、ありがとう、刑事さん」
そう櫂が言う。
「はあ、今まで金になってきたのになあ。しばらく仕事はお預けかしら?」
そう警察署を出たところで唯は言う。
「いや、そんなことはないと思うぞ、唯。今後は荒れる。俺たちの出番もあるだろうよ」
「はあ、そうだといいわね」
そう言って二人が帰りかけたときだった。
ズシンと大きな音が警察署内からした。明らかな異変である。
櫂も唯も警察署を見た。
何かが起ころうとしている。




