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ピアニッシモ

「紅茶、空ですね。良かったら・・・・」

 そう事務所で私に話しかけてくるのは神埼時頼かんざきときよりさん。

 もう五十を過ぎた私達より年上の方だ。

 彼女は少ない報酬でときどき、私たちのことをサポートしてくれる。

 そんな彼女の気遣いは嬉しい。

「いいえ、結構です。」

 そう私は返事をする。

「また、良かったら・・・・まだ暖かいので・・・・」


 唯はテレビのニュースを消す。

 櫂は不機嫌そうだった。何故かは私にも分からない。

 

ここ、雪ヶ谷探偵事務所の所長室。 所長用のケヤキのデスクとブラインドのかかった窓。後はテレビ。

 調度品はあまりない。

 殺風景なのは、唯も百も承知だ。

 けれど唯にはこの部屋を飾る必要も欲求よっきゅうかった。

 唯が探偵を始めて三年さんねんつが、この部屋へやだけは、まったくわることはい。

 事務所じむしょを手伝う時頼さんだけが、唯にしつこく、この部屋をかざるように言う。

 しかし頑固がんこゆいは、その忠告ちゅうこくかないでいるのだった。

「冷えるわね。」 

 沈黙を破るように唯が言う。

「・・・・・・」

「あんた、また真琴さんをさみしがらせているでしょう?」

「そうだな・・・・」

「・・・・・・・・もうすぐ十二月ね」

「ああ」

「あんた、相変わらず独り身なの?クリスマスとかはしないんだ?」

「独り身なのは所長もだろう?俺はクリスマスなんて興味はないよ、今のところ」

 そんなことを二人が話していると、突然、人が入ってきた。

 入ってきたのは、まだ溌剌としたいかにも新入社員と言った女性である。

「警察より依頼です!所長変わってもらえますか?」

 そう言うのは池上はるか、ここの探偵事務所の社員である。

 ストレートな黒髪にYシャツ、ネクタイにスーツをしている姿はいかにも初々しい新人社員らしい。

 彼女は去年の四月から入ったばかりだ。

 まだ経験も浅く、ミスも多い。

 それでもけなげに頑張る姿は、所長である唯も認めるところだった。

「そう、電話代わるわ」 

 そう唯が言い、電話のつながっている事務室へと向かう。

「依頼は誰からだ?」

「それが・・・・・・・・どうやら朝の殺しの事件のことで警察からのようです」

「そうか、思ったより早かったな」

「?早かった?」

「いや、なんでもない」

 そう言うと櫂は口を濁した。

「テレビのニュースは見ていたか?」

「はい、どこもそのことで騒いでましたから」

「そうか。こいつは警察にとって難儀だからな。だからウチに依頼してきたんだろう」

「そうですか」

「異能の者だ」

「!異能の・・・・・・」

「ああ」

「それは難儀ですね」

「ああ、そうだな警察にとっては。だからウチみたいな異能専門の俺がいるんだけどな」

 そう日向櫂は言うと、煙草を吹かす。銘柄はメンソールのピアニシッモだ。

 櫂にはこう見えて神経質な所がある。

 それを唯は察せるが、まだ新人のはるかには分からない。

 櫂はイライラした時には煙草を吹かす。

 そうして彼は消えていく煙を黙ってじっと見つめていた。

 


 やがて唯は電話を終えると、所長室に戻ってきた。

「櫂、依頼。例の異能の者を捕まえてくれって。例の殺しの犯人を捕まえてくれって。引き受けられる?報酬も弾むわ」

「ああ・・・・・多分な、いや・・・・・」

「いや・・・・・何?」

「なんでもない」




 その日、櫂達は何事もなく、仕事を終えた。

 櫂にはまだやることが残っている為、彼は家で仮眠を取る。






 現場検証・・・・ それは、探偵にとって必須ひっすとも言える行為だ。

 今回の現場は、この街の片隅の狭い路地裏だ。

 そこで人が殺されたとあって、現場は封じられてあったが、櫂は深夜にここを訪れ、何か手がかりはないかと、探ってみた。

 深夜の街には煙草たばこが似合う。

 櫂はヘビースモーカーではないが、時にはこの嗜好品に中毒的になることがあった。

 深夜の路地裏・・・・・・・・

 そこには誰も居ない。

 よく探してみると、地面には二箇所、何かが焼け焦げた後があった。

 ニュースでは、殺された被害者は焼死したと言っていた。するとここが、彼の体が燃えた場所だろうか?

 だがその場所は少し離れている。

 路地裏の奥には大きな焼け焦げのあとがある。

 火、犯人はおそらく火の異能らしい。

 火の異能は日向櫂もやりあったことがある。しかしどんな異能なのか。


 過去に火の異能と言えば・・・・・大火の原因となる火の異能がいたっけ・・・・

 




 あまい考えは、自らの命に致命傷を負わせる。

 櫂はそのことについて嫌と言うほど経験があった。

 まだ若い頃には櫂は自分の戦闘能力に異常に自信を持っていた。

 しかしその自信ゆえに命が危うかったことも何度かある。

 異常者の櫂を狙う、殺人鬼の時は・・・・・天はなぜか、自分を生かしてくれた。

 『どうして俺は生き抜いてこれたのだろう?あの時に死んでいれば、今の自分はない。けれど俺のような虫けら同然の殺人鬼がどうしてここまで生き残ってこれたのか・・・・・・まるで俺には分からない』

 櫂は一人現場でそんなことを考えていた。

 あれは遠い冬の日、日向櫂が殺人鬼だったころ・・・・・・

 吐く息も白かった。けれど体は少しも凍えてなかった・・・・そこまで思い出して櫂は思いだすのを止めた。

 あの頃のことは出来れば思い出したくない。



 現場を後にする。後は所長にお願いして警官からの証言しょうげん書類しょるい確認かくにんしよう。そう思い櫂は、 深夜の街を歩いていた。

 今夜は風もなく、月明かりがまばゆい。

 いい夜だ。こんな日には、一人家で、瞑想でもしようか・・・・そんな考えが起こった頃だった。

また書いていきますね。

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