最優先
最近、由奈の様子がおかしい。
理由は分からない。
でも、「何かある」のは、はっきり分かる。
笑ってるのに、目が笑ってない。
俺の前ではちゃんと声も出すし、態度も変じゃない。
むしろ今までにないくらい距離が近い。甘えてる感じ…
俺にとっては嬉しい事なんだけど…
ふとした瞬間に、気配が沈む。
——ああ、これ。
放っておくと、由奈はどんどん内側に落ちていく。
本人は「大丈夫」って言うくせに、
本当は一人で結論を出して、勝手に傷ついて、
勝手に「これが正解だ」って思い込む。
しかもその結論、だいたい最悪の方向だ。
別れるとか。
自分が悪いとか。
俺のためを思って身を引くとか。
……冗談じゃない。
だからといって、由奈が言いたくない事を
無理やり聞き出すのも違う。
「何があった?」
「誰かに何か言われた?」
「俺が原因?」
それを畳みかけたら、
由奈はきっと、さらに黙る。
助けを求める前に、
“迷惑をかけない選択”をしようとする。
それが一番、危ない。
⸻
放課後。
一緒に帰る道。
由奈は、俺の腕に腕を絡めて袖を両手でギュっと握ってる。
距離は近いのに、心は遠い。
何度か口を開きかけて、
結局、閉じた。
……今じゃない。
俺がやるべきなのは、
答えを引き出すことじゃない。
逃げ道を塞がないこと。
⸻
駅前で足を止めた時、
由奈が小さくこちらを見上げた。
いつもの顔。
でも、ほんの少しだけ不安が混じってる。
その表情を見て、
俺はようやく、言葉を選んだ。
核心には、触れない。
ただ——
“気づいてる”ことだけを、残す。
⸻
俺「……あのさ」
声は、できるだけ普通に。
俺「最近なんかしんどい感じ?」
由奈が一瞬だけ、目を伏せる。
俺は続けない。
責めない。
詰めない。
代わりに、軽く言った。
俺「無理すんなよ」
それだけ。
それ以上は言わなかった。
でも、最後に一つだけ。
由奈がまた、自分の殻に閉じこもらないように。
選択肢を、残すために。
⸻
俺「……困ったらさ」
ほんの一瞬、間を置いてから。
俺「頼って…俺、由奈に頼られるの嬉しいから」
理由も、条件も、期限もつけない。
俺「俺には言えないなら、他の誰かでもいい。でも溜め込まないで」
ただそれだけ言って、
由奈の頭を軽く撫でた。
⸻
言わなかった言葉は、山ほどある。
「何があった?」
「俺が悪い?」
「誰かに何かいわれた?」
でも、それは——
由奈が“自分から”来た時に言う言葉だ。
今は、待つ。
沈みきる前に、
ちゃんと戻ってこれるように。
俺は、由奈の隣に立ってる。
それだけは、揺るがない。




