思いが尽きない
放課後。
由奈が帰り支度をしているのを、
俺は自分の席から何度も見てしまっていた。
声をかける理由なんて、
正直、なんでもいい。
「一緒に帰ろ」
「今日寒いな」
「忘れ物ない?」
——なのに。
その一歩が、妙に慎重になる。
(……俺、何ビビってんだ)
由奈は、もう逃げない。
そう分かってるのに。
視線が合うと、
由奈は少しだけ笑った。
その笑顔ひとつで、
胸の奥が静かに満たされる。
……これだ。
この感じ。
柏木「なあ、篠原」
いつの間にか、横に立ってた。
柏木「最近さ」
柏木「お前、由奈ちゃんのこと見すぎ」
俺「……見てない」
即答。
久我「いや、見てる」
久我「由奈が瞬きしたら気づくレベル」
柏木「ストーカー一歩手前」
うるさい。
でも否定しきれない。
(……前から、こんなんだったか?)
由奈が誰かと話してるだけで、
空気の揺れみたいなものを感じる。
不安じゃない。
疑ってもない。
ただ——
由奈がいない時間を、
想像できないだけ。
⸻
昇降口。
由奈が靴を履く間、
俺は自然と壁際に立った。
距離は近いけど、
触れない。
由奈「……湊くん」
名前を呼ばれるだけで、
一瞬、思考が止まる。
俺「ん?」
由奈「今日、ちょっと静かだね」
……そう見えてたか。
俺「考え事してた」
由奈「なに?」
聞き返されて、
一瞬だけ迷った。
でも、嘘はつきたくなかった。
俺「……由奈のこと」
由奈が、ぴたりと動きを止める。
俺「別に、不安とかじゃない」
俺「ただ……」
言葉を探して、
自分で自分に呆れる。
俺「離れる想像が、できない」
言った瞬間、
胸の奥が、すとんと落ち着いた。
由奈が、驚いた顔で俺を見る。
由奈「……それって……」
俺「独占欲だと思う?」
首を傾げる由奈。
由奈「……分かんない」
俺は、少し笑った。
俺「俺も」
でも、はっきりしてることがある。
俺「縛りたいわけじゃない」
俺「由奈がどこ行ってもいい」
由奈の方を見る。
俺「……でも、戻ってくる場所は俺がいい」
言い切った。
由奈は、しばらく黙ってから、
小さく息を吐いた。
由奈「……ずるいね」
俺「なにが」
由奈「そんな言い方」
困ったように笑う由奈。
その顔を見て、
確信する。
(……ああ)
俺はもう、
由奈を“選んでる”んじゃない。
最初から、
ここに立ってる。
由奈の隣にいる前提で。




