最初から決まっていた【澪視点のスピンオフ】
別れるって言葉は、
本当は“別れたい”から言ったんじゃない。
——振り向かせたかっただけ。
私「もう無理。別れる」
そう言った瞬間の、
恒一の顔。
困ったように眉を下げて、
でも怒りも、焦りも、引き留める強さもない。
恒一「……澪ちゃん、落ち着こう?」
その声が、決定的だった。
まただ。
また、その顔。
私が誰と仲良くしても、
何を言っても、
感情を荒らさない。
束縛しない。
疑わない。
怒らない。
それって本当に、好きってこと?
胸の奥が、苛立ちでざらつく。
——違う。
私が欲しいのは、
「全部を揺らすほど想われてる」実感だ。
恒一は優しすぎる。
優しさで、私を一人にする。
だから私は、家を出た。
行き先は、決まってた。
⸻
湊と付き合ってた頃のことは、
正直、今でもよく覚えてる。
あの人は、冷たくもなかったし、
雑にも扱わなかった。
でも——
いつも、どこか一線を引いてた。
私が不機嫌になっても、
嫉妬させようとしても、
真正面からぶつかってこない。
湊「そういうの、意味ないだろ」
淡々と、距離を取る。
そのくせ、
私が離れようとすると、
追いかけてはくる。
でも、それは“必死”じゃなかった。
私はずっと思ってた。
——この人、私のこと好きだけど、
人生を賭けるほどじゃない。
だから兄に相談した。
私「湊が、ちゃんと向き合ってくれない」
そう言ったら、
恒一は珍しく怒った。
恒一「それなら、俺が奪っていいのか?」
あの時の恒一は、
初めて“感情を見せた”。
それが、嬉しかった。
……最低だって分かってる。
でも私は、
誰かの感情を揺らさないと、
自分が存在してる気がしなかった。
⸻
だから、
湊の学校の門に立った。
目が合った瞬間、
私は手を振って、手招きした。
——来る。
そう思ってた。
案の定、
湊はすぐに気づいて、出てきた。
(ほら)
流されてくれる。
そう思った、次の瞬間。
違った。
湊「大切にしたい子がいる」
その一言で、
頭が真っ白になった。
湊「手放したくないから、
澪には付き合ってあげられない」
……は?
そんな言い方、
私の時はしなかった。
湊「ちゃんと兄貴と話せ」
突き放すみたいな声。
逃げ場を与えない目。
——負けた。
はっきり、そう思った。
それでも私は、
意地になった。
澪「じゃあ一回だけ、デートしよう」
最後の悪あがき。
なのに、
連れて行かれたのは、
“恒一のところ”だった。
……笑える。
完全に、詰んでた。
⸻
それでも、
私は諦めきれなくて。
何度も学校に行って、
彼女を見て、
わざと揺さぶった。
腕を掴んで、
挑発して。
——あの子、
ほんとに何も知らない顔をしてた。
それが、余計に腹が立った。
でも、
最後に見せられたのは——
湊が、
彼女の前で、
一切迷わず、
愛を言葉にする姿。
私の前でさえ、
そんな必死な顔、
一度も見せなかったのに。
おまけに、
恒一まで現れて。
このゲームは、
完全に終わった。
……悔しい。
負けを認めるしかないくらいには、
あの二人は、
ちゃんと、揃ってた。
最初から、
同じ土俵にすら、立ってなかった。
だから——
この場から降りる。
潔く、じゃないけど。
少なくとも、
もう邪魔はできない。
それくらいは、
分かる程度には、
大人になったつもりだ。
……たぶん。




