打ち明けた思い
放課後。
教室に残ってるのは、俺と由奈だけだった。
日が傾いて、窓際の床に長い影が落ちてる。
誰かに見られたくなくて、
俺は窓の下に腰を下ろした。
由奈は何も言わずに隣に座った。
目立たないし、距離も近い。
その時点で、胸の奥が少し楽になった。
それだけで救われる自分が、情けないけど正直だった。
⸻
澪のことは、会話というより説明だった。
兄貴のこと。
兄貴が澪に嫉妬しないこと。
感情を荒らさず、束縛もせず、ただ受け止めてしまうこと。
それが澪にとっては、
「本当に好きなのか分からない」不安に繋がっていること。
だから澪は、
俺との復縁を口にして、兄貴を試してた。
——くだらない。
最初に澪が現れた放課後、
俺が澪をなだめて、兄貴のところに連れて帰ったのは事実だ。
兄貴なら、澪を落ち着かせられると思った。
でも、現実は違った。
兄貴は穏やかで、
澪を好きすぎるあまり、強く出られない。
澪が幸せなら、
自分は一歩引くことも選びそうな男だ。
実際、俺が澪と付き合っていた頃から、
兄貴は澪を好きだったんだと思う。
澪が俺に不満を募らせていた時、
相談相手に選んだのが兄貴だった。
あの時、兄貴は珍しく俺に怒った。
——中途半端に付き合うなら、俺が奪っていいんだな?
澪も最低だったけど、
あの時は俺も、正直最低だった。
澪をちゃんと大切にできてなかった。
今は立場が逆になっただけだ。
兄貴は澪を許しすぎて、
澪はそんな兄貴に物足りなさを感じて、俺を使った。
それが、
澪と兄貴と俺の、今の関係だ。
⸻
説明し終わって、
俺は一度、息を吐いた。
由奈は黙って聞いてた。
途中で何度か、膝の上の手を握りしめてたのが分かった。
俺「……昨日さ」
声が、少しだけ低くなる。
俺「追いかけたけど、見つからなくて」
俺「連絡も返ってこなくて」
正直に言う。
俺「……結構、焦った」
由奈が、はっとした顔をしてこちらを見る。
由奈「……ごめん……」
すぐに首を振った。
俺「由奈は悪くない」
俺「澪と俺の問題なのに、ちゃんと説明しなかった俺が悪い」
そう言ってから、少しだけ笑う。
俺「それにさ」
冗談めかして続ける。
俺「由奈、ヤキモチとか妬かないタイプだと思ってたから」
俺「ちゃんと俺のところまで気持ちが追いついてきてくれたの、正直嬉しい」
由奈の顔が、一気に赤くなった。
由奈「……それは……」
言葉に詰まって、俯く。
由奈「……私、湊くんのこと好きすぎて」
由奈「たぶん……私の気持ち全部見えたら、引いちゃうよ……」
小さな声。
守るみたいに、自分を縮める仕草。
……その瞬間。
理性より先に、体が動いた。
床に押し倒すほど強くはしない。
でも、逃げられない距離まで一気に近づいて——
キス。
一度じゃ足りなくて、
間を置かずに、もう一度。
由奈が息を整える前に、軽く額を寄せる。
俺「……引くわけないだろ」
小さく、笑って。長めのキス。
俺「本当は襲いたいくらい可愛いけど」
俺「今日は我慢する」
由奈の目が、さらに丸くなる。
俺は由奈を起こして、そっと手を引いた。
俺「帰ろ」
教室を出る時も
由奈の手は離れず繋がれたままで、
それで、十分だった。




