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名前のない放課後  作者: えあな


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逃げ出したい感情

校門の前に立つ、その人の姿を見た瞬間、

胸の奥がひやりと冷えた。


——また、いる。


昨日と同じ場所。

同じ姿勢。

同じ、迷いのない立ち方。


私はできるだけ視線を落として、

二人の横を足早に通り抜けようとした。


関わりたくなかった。

これ以上、見たくなかった。


……なのに。


元カノ「ねえ」


柔らかくて、よく通る声。


呼び止められたのが自分だと分かるまで、

ほんの一拍、時間がかかった。


振り向いた瞬間、

その人は私を見た。


舐めるみたいに、

頭のてっぺんから、足元まで。


制服。

髪。

立ち方。

表情。


全部を値踏みするみたいに見られて、

心臓が、嫌な音を立てる。


……と思った、次の瞬間。


ぱっと表情が変わった。


完璧な笑顔。

何も悪いことなんて考えていないみたいな顔。


元カノ「ね、仲良くしたくて」


その言葉が、やけに軽く聞こえた。


湊「澪!」


湊くんの声。


少し強くて、焦った響き。


彼女の肩に、湊くんの手が置かれる。


その一瞬が、

やけに鮮明に目に焼き付いた。


(……澪、さんって言うんだ…)


名前。


私を呼ぶ時より、ずっと自然な呼び方。


胸が、ちくっと痛む。


澪「え、なに?止めないでよ」


澪さんは気にする様子もなく、

そのまま私の腕を掴んだ。


澪が「これからヒマ?

ちょっと遊びに行きましょ」


強い力。


驚くより先に、痛みが走る。


私「……っ」


湊「澪、離せ。由奈が痛がってるだろ」


低くて、はっきりした声。


澪が「あ、ごめんなさい」


あっさりと、腕が離される。


反動で、体がよろけた。


次の瞬間、

背中に回された腕。


支えられて、

湊くんの胸に、ぶつかる。


(……あ)


近い。

近すぎる。


でも、その温度が、今は怖かった。


澪「湊、どこまでついてくる気?」


澪さんが、不満そうに言う。


澪「由奈ちゃんと仲良くなりたいの。

二人にさせてよ」


その言葉に、

胸の奥がざわつく。


……二人?


耳元で、小さな声。


湊「……巻き込んでごめん」


囁くみたいに。


湊「嫌なら、帰って大丈夫だよ」

湊「俺が、なんとかしておくから」


優しい声。


優しすぎる言葉。


——なのに。


(……どうして)


どうして、そんなふうに言うの。


もしかしたら私が二人の邪魔をしてるのかもしれない。


嫌な方向に考えが向いてしまう。


本当は、澪さんと一緒にいたくない。


隣に並ぶだけで、

自分がどれだけ劣ってるか、突きつけられるから。


顔も。

スタイルも。

自信のなさも。


全部。


……でも。


湊くんと澪さんを、二人きりにさせたくなかった。


こんな人。

こんなに魅力的な人。


心が、戻ってしまうかもしれない。


それとも——

私を遠ざけたいから、

あんなことを言ったのかもしれない。


何も答えられないまま、

私は黙って、澪さんの後ろを歩いた。


背中が、遠い。


澪「……ねえ」


不意に、澪さんが立ち止まる。


振り返って、

私を見て、微笑んだ。


澪「そんなに自信ないならさ」


声が、少しだけ低くなる。


湊「湊、返してくれてもいいんだよ?」


そう言って、

澪さんは、湊くんの胸に寄りかかった。


(……あ)


息が、止まる。


呆れたような声。


湊「俺は物じゃない」


湊くんの声は、冷静だった。


湊「俺の気持ち、置いてくな」


一拍置いて。


湊「今付き合ってて、一番大事なのは由奈だから」


……なのに。


そのやり取りすら、

二人の距離の近さを、見せつけられてるみたいで。


私は、何も言えなかった。


澪「冗談に決まってるでしょ……ま、いいわ」


澪さんは、急にトーンを落とした。


澪「喉かわいたし。お茶にしましょ」


指差されたカフェ。


逃げ場は、もうなかった。



カフェでは、

澪さんの質問が止まらなかった。


「由奈ちゃんって、どんな子?」

「湊と、どこで知り合ったの?」

「付き合って、どれくらい?」


答えるたびに。


「湊はね」

「前はね」


私の知らない湊くんの話が、重ねられる。


そのたびに、

心が、ちくちくする。


湊「澪、もういいだろ」


湊くんが、止めに入る。


湊「由奈、困ってる」


立ち上がろうとした、その腕に——


ぎゅっと、澪さんがしがみついた。


澪「私を一人で置いていく気?」


湊「……知らない。澪には迎えに来てくれる人、いるだろ」


その会話を、

もう、最後まで見ていられなかった。


私「……私、一人で大丈夫です」


自分でも驚くくらい、

はっきり言えた。


私「これ、私の分」


テーブルにお金を置く。


私「先、帰ります」


立ち上がって、

二人の顔を見ないまま、店を出た。


背中に、呼び止める声が聞こえた気がしたけど、

振り返らなかった。


——これ以上いたら、

壊れてしまいそうだったから。


最後まで、耐えられなかった。


結局私は、

逃げることしかできなかった。


走るみたいに歩きながら、

胸の奥で、何かが静かに崩れていくのを感じていた。


それが嫉妬なのか、

自尊心なのか、

それとも恋なのか。


もう、区別がつかなかった。

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