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名前のない放課後  作者: えあな


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元カノ

放課後。


教室の空気が、ざわついていた。


女子A「ねえ、見た?」

女子B「校門のとこ、めっちゃ美人いるんだけど」

女子A「他校生っぽくない?」


そんな声が、あちこちから聞こえてくる。


柏木「何?何?美人どこ?」


一際大きい声で言いながら窓際へ向かう柏木くん。


私は最初、気にも留めなかった。

誰がどこに立っていようと、私には関係ない——

そう、思っていたのに。


柏木くんが、急に声のトーンを落とした。


柏木「……あ、篠原……」


その声に、教室が一瞬静まる。


柏木「篠原。ちょっと来い。」


湊くんは、机に肘をついたまま、面倒そうに顔を上げた。


湊「なに。」


柏木「いいから。窓。」


しぶしぶ立ち上がって、窓際に向かう湊くん。

私も、つられて視線を外に向けた。


——そこに、いた。


校門の前。

背筋がまっすぐで、長い髪が風に揺れている。


制服は、うちの学校じゃない。


でも一目で分かる。

「綺麗な人」だって。


その人に目を留めた瞬間、

湊くんの動きが止まった。


驚いたように、

それから、困ったみたいに頭を掻く。


(……え?)


その仕草を見た瞬間、

胸の奥が、ひやっと冷えた。


門の前の彼女が、こちらを見上げた。


そして——

笑って、手を振った。


さらに、はっきりと。

湊くんに向かって、手招きをした。


教室の空気が、一気に色を変える。


湊くんは、大きくため息をついて、

何も言わずに教室を出て行った。


私は、その背中を、ただ見ていることしかできなかった。



柏木「……由奈ちゃん。」


柏木くんの声で、はっとする。


柏木「……あの人さ。」


少し言いづらそうに、でもはっきり言った。


柏木「篠原の、元カノ。」


……元、カノ。


その言葉が、胸に落ちる。


久我くんも、静かに頷いた。


久我「結構、派手に別れてる。」


柏木「うん。篠原、めっちゃ傷ついてた。」


一瞬、言葉が出なかった。


柏木は慌てて続ける。


柏木「でもさ!」

柏木「今はちゃんと由奈ちゃんのこと好きだと思うよ。」


柏木「篠原、変わったし。」

久我「前よりずっと、落ち着いてる。」


元気づけるみたいな笑顔。


……それでも。


視線は、勝手に門の前へ戻っていた。



遠くて、声は聞こえない。


でも、見える。


その人は、湊くんの袖を掴んで、何か言っている。


湊くんは、困ったように頭を掻いて、

視線を逸らして、でも逃げない。


元カノさんが、俯いた。


……泣いてる?


そう思った瞬間、

彼女は一歩踏み出して、湊くんの胸に飛び込んだ。


息が止まる。


でも。


湊くんは、抱きしめなかった。


腕は下ろしたまま。

でも拒絶もしない。

そのままの距離で、何かを話している。


しばらくして——


湊くんは、そっと彼女の両肩に手を置いて、

静かに体を離した。


優しく。

でも、はっきりと。


そして、振り返る。


校舎の方へ、歩いてくる。


……帰ってくる。


胸が、少しだけ痛んだ。



教室に戻ってきた湊くんは、

柏木くんに小声で言った。


湊「……柏木!由奈と距離、近すぎ。」


柏木「は?」


湊「由奈に悪影響。」


その一言に、

胸が、きゅっと鳴った。


でも次の瞬間——

湊くんは、私の前に立った。


湊「ごめん……今日、一緒に帰れなくなった。」


それだけ言って、

私の返事も待たずに、教室を出て行く。


慌てて窓に近づく。


校門の方へ向かう、二人の後ろ姿。


さっきの彼女と、

並んで歩いて、角を曲がって消えていく。


(……なんで……)


分かってる。


何もなかったかもしれない。

湊くんは、私を選んでくれてる。


……それでも。


胸の奥に、

黒い影みたいなものが、静かに広がっていった。


さっきまでの「安心」は、

もう、どこにもなかった。


——これは、きっと。


私が初めてちゃんと感じた、

嫉妬だった。


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