問題
放課後。
一緒に歩いているだけなのに、
最近ずっと、世界がうるさい。
原因はひとつ。
——湊くん。
たとえば、階段。
先に一段下りて、
何も言わずに、私の進む位置をちょっとだけ変える。
私が気づく前に、
人とぶつからない位置。
視界が安定する場所。
(……今の、偶然?)
と思った次の瞬間。
前から人が来て、
湊くんの腕が、さりげなく私の前に出る。
触れない。
でも、完全に壁。
(……え、気を回しすぎ……?)
そう思うのに、
嫌な感じはまったくなくて、
むしろ胸の奥が、少しだけあたたかい。
コンビニに寄った時もそう。
私が棚を見てると、
いつの間にか湊くんが後ろに立ってる。
近い。
でも触れない。
私が一歩下がると、
同時に一歩下がる。
影が、ずっと一緒。
(……そんなに気にしてくれてるの……?)
意識した瞬間、
急に恥ずかしくなる。
レジで財布を出そうとしたら、
無言でスマホをかざして、
お会計が終わっていた。
私「…え…なんで?」
困惑していると、
湊「このくらいはさせて。」
声、低い。
周り、完全に見てない。
(……見られすぎて、落ち着かない……)
なのに。
嫌じゃない。
むしろ、嬉しい。
でも恥ずかしい。
自分でも困るくらい。
私「…ありがとう」
店を出て歩き出すと、今度は風。
私が髪を押さえた瞬間、
もう湊くんの手が動いてる。
湊「絡まる。」
ただそれだけ言って、
指先で、髪を整える。
丁寧で、
距離が近くて、
優しすぎる。
(……そんなことされたら……)
心臓が、忙しい。
何も言われてないのに、
何も求められてないのに、
「大切にされてる」感じだけが続く。
それが嬉しくて、
でも恥ずかしくて、
これ以上されたら——
(……もっと好きになっちゃうから……)
耐えきれなくなって、聞いた。
私「……湊くんって、前からこんなだった?」
湊「なにが?」
本気でわかってない顔。
私「えっと……距離とか……」
湊「普通でしょ。」
即答。
(……絶対、普通じゃない。)
でも否定できない。
だって、嬉しい。
そのまま歩いてたら、
柏木くんと久我くんが前から来た。
柏木「お、噂の彼氏フィルター全開デート」
久我「今日も半径1メートル警備ですか?」
湊「うるさい。」
でも否定しない。
それどころか、
私を自分の内側に寄せる。
完全無意識。
顔が熱くなる。
柏木「な?」
久我「な?」
二人の視線が、
「自覚ないのが一番ヤバい」って言ってる。
恥ずかしくて、
でも少しだけ誇らしくて、
私は小さく言った。
私「……そんなに気にしなくても、大丈夫だよ。」
湊くんが足を止めた。
一瞬だけ、真面目な顔。
湊「大丈夫かどうかは、俺が決める。」
……心臓に悪い。
すぐに、いつもの落ち着いた声に戻る。
湊「由奈が幸せそうなら、それでいい。」
言い切り。
(……ずるい。)
こんなふうに扱われたら、
嬉しくなるに決まってる。
恥ずかしいのに、
胸がいっぱいになる。
世界がうるさい原因は、
たぶん、彼氏フィルターじゃない。
湊くんの「好き」が、
静かに、でも過剰に、
全部、私に向いてるだけ。
(……これ以上好きになったら、どうすればいいの。)
そんなことを思いながら、
私はまた、湊くんの隣を歩く。
距離ゼロ。
安心感、過剰。
——困るくらい、幸せ




