認めてもらうための条件
翌日の昼。
昨日、由奈が蓮に連れ去られた光景が、まだ胸に刺さっている。
由奈は寂しそうに笑って、俺を見て、謝って。
腕を奪われて連れていかれた、そのあとを追えなかった——
その瞬間の後悔が、胸の奥に張りついて離れなかった。
だから俺は、翌日、御影蓮を呼び出した。
場所は校舎裏のベンチ。
昼間でも人が来ない静かな場所。
御影蓮は思ったより早く来た。
黒髪を整え、黒縁眼鏡をかけ、落ちついた足取りで立つ。
蓮「……話って、僕に?」
湊「はい。」
御影蓮はこちらを一瞥し、
静かに息をつく。
蓮「ゆなの件、だよね?」
その言い方が、まっすぐ刺さる。
湊「正直に言います。
俺は——由奈が、誰より大切です。」
蓮の目が細くなる。
湊「恋人とかそういう枠じゃ収まらなくて。
人生で一番、大事にしたい人です。」
迷いも逃げもない。
初めて誰かに、ここまではっきり伝えた。
御影駅はしばらく何も言わなかった。
ただ観察するように俺の目を見ていた。
蓮「……そう言い切る人は、初めて見たな。」
湊「軽い気持ちじゃないです。」
蓮「昨日は……ゆな、泣きそうな顔だったよ?」
湊「……わかってます。」
蓮「守れてた?」
心臓を掴まれた気がした。
蓮「守りたいと言いながら、
ゆなが寂しく笑うのを見てただけじゃないの?」
湊「……っ」
できるだけ反論しないように、息を整えた。
湊「昨日のあれは、絶対に二度としません。」
御影蓮はゆっくりと息を吐き、
表情を引き締めて言う。
蓮「篠原くん。
本気なら……“条件”を出すよ。」
心臓が跳ねる。
湊「条件……?」
蓮「君の覚悟を見せてもらう。
それだけだよ。」
蓮が指を折ってゆっくり数える。
――1つ目。
蓮「僕の教育実習の最終日に出す“小テスト”。
それで学年トップを取って。」
湊「トップ……ですか?」
蓮「君、成績悪くないんでしょ?
なら簡単だよね?」
煽っているのに、柔らかい声と笑顔。
背筋を正されるような感覚。
(……逃げる気はない。)
湊「わかりました。トップ取ります。」
――2つ目。
蓮「ゆなから距離を置いて。」
湊「……え?」
蓮「離れても揺るがないなら、それを証明してほしい。
“側にいないと不安だから繋がる関係”じゃなくて、
“距離があっても信じ合える関係”なのか確かめたい。」
喉が詰まる。
それがどれだけ苦しいことか、言われなくても理解した。
湊「……できます。」
蓮「本当に?」
湊「由奈を泣かせるくらいなら、
苦しいほうがいいです。」
蓮の目がほんの少し揺れた。
――3つ目。
蓮「女子との距離感を改めて。
昨日みたいに囲まれて笑ってる姿……
ゆな、あれで少し表情が曇ってた。」
湊の胸が鋭く痛む。
湊「……わかってます。
あれはもうやめます。」
蓮「君の態度ひとつで、彼女の心は簡単に不安になる。
それを、忘れないで。」
湊「はい。」
蓮は一歩近づいて、俺を真っすぐ見た。
蓮「……少しでも気に入らないことをしたら、
僕は君を認めない。」
湊「それでいいです。」
蓮「本気なんだね。」
湊「本気じゃなきゃ、ここにいません。」
沈黙。
風が少し揺れて、落ち葉が足元を滑った。
そして——
蓮「……わかった。
だったら、証明してみせて。」
湊「必ず。」
御影蓮は背を向けて歩き出し、
一度だけ振り返った。
蓮「ゆなを泣かせないで。」
湊「泣かせません。」
御影蓮はそれ以上何も言わずに立ち去っていった。
そして俺は、拳をゆっくり握った。
(……やるしかない。)
由奈を守るためなら、
なんだってできる。
だからこそ——
離れる苦しみも受け止める。
(でも、絶対に認めさせる。)
胸の奥の火が、静かに、強く燃えた。




