気づいた時には…
昼休みの始まり。
文化祭の飾りがまだ天井に残っていて、
どこか騒がしい空気の中で——
俺は、いつものように女子に囲まれていた。
いや、囲まれてるつもりはない。
由奈を待ってただけだ。
ただ気づいたら、こうなってるだけ。
女子A「ねぇ篠原くん、文化祭お疲れ〜!」
女子B「写真見た?篠原くん載ってたよ〜」
女子C「今日3人に告白されたってマジ?」
俺「そんな話、柏木が盛ってるだけ。」
いつも通りの、軽い受け流し。
深入りしない。
期待させない。
でも空気悪くしない。
それが、俺の“安全運転”。
女子たちは楽しそうに笑いながら、
時々距離を詰めてくる。
肩に触れたり、腕を掴んだり。
正直、やめてほしいけど——
あからさまに避けるのも面倒なことになる。
だから笑ってかわす。
それだけのつもりだった。
(そろそろ由奈、来るころなんだけどな……)
今日も一緒に帰りたかった。
文化祭の3日間、すれ違ってばかりだったから。
ふと、視界の端に
ゆっくり教室の前を通る由奈の姿が映った。
瞬間——胸の奥が熱くなる。
(いた——)
声をかけようとして、女子の相手を軽く切り上げようとした瞬間。
由奈の腕を”誰か”が掴んでいる
黒髪。黒縁眼鏡。
落ち着いた雰囲気で、教師より教師っぽい大学生。
——御影 蓮。
由奈が困った顔をして、
俺の方を見た。
——謝るみたいな目で。
「……ごめん。またあとでね。」
胸がざわっと逆流する。
なんで謝るんだよ。
悪いのは由奈じゃない。
湊「由奈——!」
名前を呼んだ時には、もう遅かった。
御影蓮が由奈の腕を軽く取って、歩き出す。
優しそうに見せて、
やってることは“連れ去り”。
蓮は振り返らない。
堂々と、静かに、由奈だけを連れて行く。
取り残された廊下で、
女子たちの声が遠のいた。
胸の奥が熱くて冷たくて、
落ち着かない。
(……なんなんだ、あいつ。)
由奈を守るっていうより、
“取らせない”っていう色が見えた。
寂しそうに笑って去っていった由奈の顔が、
頭から離れなかった。
(……奪われたくない。
認めさせてやる。)
その感情が、静かに燃えた。




