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名前のない放課後  作者: えあな


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妹の恋人

昼の光が廊下に差し込む。

文化祭の飾りだけがまだ残っていて、

学校中が余韻を引きずっている。


そんな、静かな昼休みの始まりだった。


——そこで、俺は“聞いてしまった”。


女子の声。

明るくて、軽くて、全部本音みたいな無邪気さ。


「え、昨日の文化祭見た!?篠原くん手つないでたよね!?」

「超かっこよくなかった!?まじ惚れたんだけど!」

「それにしてもあの女だれ?篠原くんの彼女にしては地味だよね」

「ほら、文化祭委員の佐伯…由奈?だっけ?」

「てか今日さ、篠原くん、3人に告白されてたって聞いたんだけど……?」

「どんだけモテんだよって話!」

「彼女いてもいいから、彼女にしてくれないかな〜」

「日本語おかしいって〜」

「キャハハ〜!」


足が止まった。


“大切にされている”

…さっきそう言ったのは、由奈の口からだった。


信じていないわけじゃない。

あの子の言葉はいつだって真っ直ぐで優しい。


ただ——この会話は。


(……大丈夫なのか?)


胸の奥に、ひやりと小さい疑念が沈む。


由奈は恋愛に不器用だ。

誰かに甘えることにも慣れていない。

自分が傷つく可能性に鈍いところがある。


だからこそ

「誰かに大切にされてる」

その言葉が正しいことを、確認したかった。


けれど。


篠原湊という男がどういう男なのか、

俺はまだ知らない。


そう思って視線を向けた瞬間——

すぐに“その男”が目に入った。



廊下で、女子たちに囲まれて談笑している。


明るく笑い、目線を合わせ、

相手の話にノリ良く返す。


優しい笑顔。

柔らかい声。

落ち着いた仕草。


——高校生にしては、あまりに人慣れしている。


さらに。


女子たちが湊の肩に触れたり、

冗談めかして腕をつかんだり、

距離が近い。


“誤解を生む距離”。


(……由奈は、こういうのを見てどう思う?)


胸の奥がざわついた。


こういうこなれた男は女を泣かせる?

家庭教師をしていた頃、何度も見てきた光景だ。


——その瞬間だった。


前の方で、由奈を見つけた。


廊下で篠原湊を探すように、何度も周囲を見渡している。

けれど篠原湊は、女子たちに囲まれたまま気づいていない。


由奈は、ほんの少しだけ笑って、

踵を返そうとした。


寂しさをごまかすような笑顔で。


その顔を見た時、

胸の奥で何かが決壊した。


(……ダメだ。

 ゆなは、あんな顔して帰っていい子じゃない。)


気づいたら、足が彼女の方へ動いていた。



由奈の前に立つ


蓮「ゆな。」


由奈「わ、蓮お兄ちゃん……?」


驚いた顔で見上げてくる。


その目に、さっきの寂しさの残り香があった。


蓮「帰る時間だろう?一緒に帰ろう。」


自然な声で言ったつもりだった。

けれど気持ちは少しだけ急いていた。


由奈「え、でも……湊くんと……」


その瞬間、胸が一度きゅっと縮まる。


(……やっぱりそうだ。)


篠原湊と約束していたのか。

それでも気づいてもらえず、

名前すら呼ばれず、

“待つ側”にまわってしまっていた。


苦しくなるのは、過保護だからだろうか。


柔らかく笑って言った。


蓮「大丈夫。湊くんには僕から話すよ。」


由奈「えっ……ちょっと待って、そういうんじゃ——!」


困惑する由奈。

両方を傷つけないようにしようとしている。


そういうところが——

由奈らしくて、愛しくて、脆い。


蓮「ゆな。行こう?」


軽く腕を取る。

力は入れていない。

でも拒む余地も与えない“優しい強さ”。


由奈は湊の方へ目を向けて、

小さく謝るように口を動かした。


「……ごめん。またあとでね。」


寂しさと困惑の入り混じった表情だった。


俺は静かに微笑んで、

由奈をそのまま歩かせる。


女子たちに囲まれたまま、篠原湊がようやく、こちらに気づいた。


湊「由奈!?」


由奈を呼ぶ篠原湊。


蓮(今頃気づいたか……本当に、大切にされているんだろうか?)


胸の奥で呟く。


答えを出すのは、今日じゃない。


けれど——

由奈の心が曇る未来だけは絶対に見たくなかった。


その気持ちだけが、

静かに、強く燃えていた。

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