表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない放課後  作者: えあな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/49

眠れない夜


部屋の灯りはもう消しているのに、

スマホの画面だけが柔らかく光っている。


布団に入ってから、たぶん…もう30分以上経ってる。


なのに、心臓の音だけがずっとうるさい。


湊くんと繋いだ手を逆の手で包み込む。

思い返すだけで、顔が熱くなる。


外では落ち着いてた“ふり”をしていたけど、

内側では叫びたいくらい幸せなドキドキでいっぱいだった。


歩いた距離なんてたいしたことないのに——

あの時間だけ、世界から騒音が全部消えてた。


信号、車、人の声。

全部遠くて。


聞こえてたのは、

湊くんの息。

繋いだ手の体温。

自分の心臓の音。


それだけ。


枕に顔を埋めて転がる。


(……もう無理、思い出すだけで死ぬ)


スマホが震える。


|今日はありがとう|

|ちゃんと帰れた?|


落ち着いて返したいのに、

文字を打つ手がうまく動かない。


|帰れたよ|

|こちらこそ……ありがと|


送信。


でもすぐ震える。


|また行こ。

 次は……映画じゃなくてもいい|


その“次”が、

ちゃんと未来として存在してることが嬉しい。

鼓動がまた速くなるのがわかる。


|うん。行こ。|

|……またとなり歩ける?|


送ってから気づく。


(……これ、私から言うのめちゃくちゃ勇気出したやつじゃん……)


返信はすぐ来た。


|あたりまえ。

 もう逃がすつもりないから。|


その一文で、心臓の奥がぎゅっとなる。

スマホを胸の上に置いたまま、天井を見る。


(……湊)


声に出してみる。


最初はぎこちなくて、

慣れてない音の形。


もう一回。


「……湊…くん。」


呼び捨てはやっぱりハードルが高くて、

”くん”をつけた。さっきより自然。


布団に潜り直す。


胸が苦しいのに、幸せすぎて眠れない。


つないだ手の温度がまだ残ってる気がする。


(湊くん…)


名前を呼んだだけで、世界がまた2ミリ近くなる。


ゆっくりまばたきが重くなっていく。


眠りにつく最後の意識の中、


「……好き………」


誰にも聞かれないまま部屋の空気に溶けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ