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名前のない放課後  作者: えあな


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39/49

触れた瞬間

映画館を出た風は、少し冷たかったのに、

歩き始めて数歩で気づいた。


俺、今まともに息吸ってない。


横には由奈。

名前で呼べる距離になったのに、

呼んだ直後から胸の奥がじんわり熱くなる。


歩幅を合わせながら、

由奈の指先が視界の端に入る。


細い手。

触れたら絶対に離せなくなるやつ。


だけど信号待ちで止まった瞬間、

風がゆなの髪を揺らした。


その横顔を見た瞬間、

考えるより先に手が動いた。


そっと、でも迷いなく。


由奈の手に触れて、ゆっくり包むみたいに繋ぐ。


その瞬間。


世界の音が全部遠くなった。

由奈は驚いたみたいに肩を揺らしたけど、

拒まなかった。


むしろ、ほんの少し——指が絡まった。

終わった。


理性とか余裕とか全部吹っ飛んだ。


(……やばい。無理。めっちゃ好き。)


外面は落ち着いた顔で歩いてるけど、

内心はたぶん人生で一番バグってる。


指の温度がじんわり伝わるたびに、

胸の奥がぶわっと膨らむ。


(…そんな顔で歩くな…手、離せねえだろ…)


由奈が小さく息を吸う音が聞こえた。


その音だけで、また心臓が跳ねる。


俺「……手、小さいな。」


由奈「えっ……あ、その……普通、です…」


答えになってない返事が可愛すぎて、

笑いそうになるのを堪える。


俺「俺が繋ぎたい手」


歩きながら、指先を絡め直す。


由奈が歩幅を半歩分だけ近づけた。

その小さな変化が、何より嬉しかった。


(まじか。これ反則だろ……)


駅の階段の前で立ち止まる。


名残惜しい、という言葉の意味を、

今日初めて理解した。


でも離す前に、ひとつだけ。


俺「また来週も、どっか行こう。」


由奈は前を向いたまま、

でも声は迷わず返してきた。


由奈「……う、うん!」


頭が取れそうな勢いで頷いている由奈の姿に、

手を繋いだ時より深く、胸の奥に落ちた。


由奈が階段を降りながら、

振り返って小さく手を振った。


俺も手を上げる。


繋いでないのに、

まだ温度が残ってる。


(……無理。ほんと好きだな。)


帰り道、手のひらがじんわり熱い。

たぶん今日で俺の人生、ひとつ更新された。


「ただ好き」じゃなくて、

“触れてしまったからもう離せない”種類の好きに。

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